2012年2月29日水曜日

ジューダス・プリースト@Zepp Tokyo

これで終わるって本当ですか?

JUDAS PRIEST
2012.02.16. Zepp Tokyo

「エピタフ(=墓碑)」ってツアー名だけど、あくまでジューダス・プリーストは今回を最後にワールド・ツアーをやめるだけ。だから今後もアルバム出すだろうし、フェスなら出演してくれるだろう。
ただ、単独ツアー終わりということは、セットもセットリストもフル・スケールのプリーストは、これで見おさめということになる。
そのせいだろうか。ステージを覆う「EPITAPH」の黒幕にライトが当たった瞬間、もともと高いファンのボルテージがさらに沸いたのは。幕が落ちてプリーストが出現した瞬間にいたっては、フロアの熱気は一気に沸点に達していた。

幕開けに、2010年に30周年を迎えた『British Steel』から「Rapid Fire」「Metal Gods」。おそらく長年のファンもニヤリとするだろうし、新規ファンも名盤のトップの飾る曲に「おぉ!!」と湧き立つ流れだ。最後の単独ツアーだからといって、単なるグレイテスト・ヒッツ的なセットリストにはしないらしい。早くもシャウトとシンガロングで、オーディエンスがさらに沸く。
グレイテスト・ヒッツな選曲は避けつつ、ロブ・ハルフォード(Vo.)脱退時を除くプリーストの全アルバムから、もれなく名曲を披露してくれる。ときどき、バックスクリーンに映し出されるアルバムジャケットを見ながら、ロブが直々に解説を入れてくれることも。
たとえば、名盤『Painkiller』の「Night Crawler」なんかは、なかなかセットリストでお目にかかれない。ジョーン・バエズのカヴァー「Diamonds And Rust」は、アコースティック・バージョンで繊細に歌いあげたのち、一転して激しくメタルバージョンになるという、二重に美味しい構造。逆に、「もっとメジャーなあの曲が聴きたかったのに!」なんて文句も多々あるけど、そこはもう贅沢な悩みってことで。
一番のサプライズは、「今でもいいリフがある」とのことで、まずライヴでやることのなかったデビューアルバム『Rocka Rolla』から、「Never Satisfied」が演奏されたことだろう。まだハードロックから新たな方向性模索中といったころの曲だが、メタルゴッドの座に登りつめた今のアレンジで聴くと、また違ったカッコよさに出会えるものだ。

残念ながら、このツアーを前にK.K.ダウニング(G)が脱退してしまい、グレン・ティプトン(G)との伝説のツインギターは聴けなかった。
K.K.に代わってギターを務めたのは、31歳のリッチー・フォークナー。1人若手が混ざっていて、変に浮かないだろうかという不安もあったが、これが予想以上にバンドに溶けこんでいる。長年とはいわないまでも、そこそこプリーストでキャリアを積んできたかのように思える。ロブもお気に入りらしく、ときどきリッチーの頭のうしろから指つきだして、密かにツノを作って遊んでおりました。
ツアープログラムでも、「きっとみんな彼が気に入るはず」と豪語されていたリッチー。人懐っこい笑顔で積極的にオーディエンスを煽る姿を、嫌いになれってほうが難しい。

ところで、ロブ・ハルフォードは、ラウドパーク'10にHALFORDとして来日していた。声が衰えたとは少しも思えなかったが、ショボショボした細い目や、ぼてぼて腹でステージを闊歩する姿に、「おじいちゃん大丈夫ですかーーーっ!!?」とハラハラした記憶がある。(隣のカップルが『普通のおっさんやん!!』と唖然としていたことも覚えている)
それから2年。重量感たっぷりの鋲付きレザーコートを羽織って、ステージをのっしのっしと歩くロブを見たときには、「やっぱりしんどさはカバーしきれないのか……」と、かつてのハラハラ感が復活しそうになった。
しかし、キレこそないものの、ロブは終始ステージを動き回り、オーディエンスにシンガロングを要求してみせる。シルバーや黒のジャケット、黄金のローブなど、衣装替えも多い。さらに、ステージが進むにつれて、ロブの目がどんどん活き活きしてくる。2年前は不安要素だった動きの鈍さが、次第に王者の余裕に見えてくるのは、やはりメタルゴッドの風格の成せる業か。
そして、鉄板のハイトーン・シャウトは、音域が苦しくなることもなく、ここぞというときにキメてくれるので、否が応にも盛り上がる。ロブがメタルゴッドであることをもっとも痛感させられるのは、やはりこういう瞬間である。

本編終了2曲前、「Breaking The Law」のリフを発端に、プリースト最強といっても過言ではない流れに突入。
本編ラスト「Painkiller」では割れんばかりのコーラス(というより叫び)が巻き起こり、アンコール1回目の「The Hellion」~「Electric Eye」では自然とみんなが歌詞部分のみならずギターフレーズも歌い、「Hell Bent For Leather」のバイク登場に熱狂。
アンコール2回目の「You've Got Another Thing Coming」もシンガロングで揺れ、ロブもステージ後方の高いところに登ってご満悦。(そのあと、スムーズに降りられなかったのはご愛敬)
最終的にステージを締めくくったのは、アンコール3回目の「Living After Midnight」。
正直、すべてが熱く、すべてがクライマックスになりうる。と同時に、どこもクライマックスにしてほしくない、いつまででも続けてほしいステージだった。それでもやってくる終わりの瞬間は、プリーストの5人全員が手をとって深々とお辞儀してみせるという、絵に描いたような「有終の美」だった。
前述したように、これでジューダス・プリーストが完全に終わるわけではない。そう分かってはいても、フルスケールのツアーの終わりに、一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった。

プリーストの面々が去ったあと、場内に流れたのは、クイーンの「We Are The Champions」。うっかりすると寒々しくなりそうな選曲だが、威厳も神々しさも溢れんばかりのステージのクロージングにはぴったりのように思えた。
この日の夜は雪で、ましてや海の近いお台場は寒さもひとしお。しかし、プリーストのパワーとオーディエンスの熱狂をもってすれば、雪もたちどころに蒸発したのでは……なんて錯覚すら覚えさせてくれた。

開演直前のステージ↓

終演直後↓

2012年2月15日水曜日

ゴッド・アーミー/悪の天使

極道の天使たち。

ゴッド・アーミー/悪の天使('94)
監督:グレゴリー・ワイデン
出演:クリストファー・ウォーケン、イライアス・コティアス



映画における天使の「おっさん率」は意外と高い。
『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツ然り、『マイケル』のジョン・トラボルタ然り、『シティ・オブ・エンジェル』のニコラス・ケイジ然り。誰もが宗教画やファンタジーのイラストに出てくるような美形じゃないし、頭の輪っかも羽根もない奴もいる。
よしんばおっさんでなかったとしても、『ドグマ』のベン・アフレック&マット・デイモンのロキ&バーソロミューを見ると、天使だからって慈悲深いとも限らなかったりする。
ましてやこいつらなんぞ……ねぇ。

聖職者を辞めて刑事になったトーマスが担当することになった事件。現場で発見された遺体は、眼球も視神経もなく、骨や血液の成分は胎児とほぼ同じで、両性具有という奇妙なもの。また、所持品の中には存在しないはずの『ヨハネの黙示録第23章』が記された聖書があり、その聖書の中では天国で天使たちによる戦争が起きることが告げられていた。
戦争を起こしたのは、死の天使ガブリエル。地上に降りたガブリエルは、この世で最も邪悪な魂を求めて、アリゾナ州の町チムニー・ロックへと向かっていた。

一部聖書ネタが用いられているので、そこそこキリスト教の知識がないとよく分からない部分がある。なおかつ「信仰とは?」を問うテーマがあるので、仏教徒という名の無神論者が多い日本では、今一つ納得できない思想もある。
そういった宗教観の違いを差し引いても、多少こじつけっぽく思える展開がいくらかある。ついでに、低予算なので、あまり凝ったエフェクトが使えず味気ないように思えるシーンもある。そもそも、天国での戦争という割には、ロケーションが人間界の田舎町ほぼ一角というあたり、スケールが小さい。
重箱の隅どころか、真ん中らへんをつついてもアラがこぼれそうなこの映画だが、コアな映画ファンからはカルト的人気を博していたりする。
オタクの心臓をぐしゃっと掴んだキモは、羽根も輪っかも慈悲もなく、ロングコートや黒スーツに身を包み、人間(喋るサル)を都合よく利用しまくる、限りなくマフィアに近い天使たちなのである。

邦題の「悪の天使」とは、神の寵愛が人間に向いていることに嫉妬して、戦争を起こしたガブリエルのことなんでしょうが……率直に言って、天使たちみんながみんな、登場した瞬間から要注意人物オーラを出しっ放し。
特に、ガブリエルの僕ウジエルは、ごつい顔面&ガタイで、『仁義なき戦い』のテーマが似合ってしまいそうなぐらい非・カタギなオーラの天使……というよりむしろおっさん。しかも、登場からほどなくして心臓の掴み出し合いバトルを始める、完璧ヤクザのおっさん。
ガブリエルの企みを阻止しようと孤軍奮闘する、まだ良い人っぽいシモンですら、実はその行動のほとんどが人間たちに迷惑をかけっぱなしである。演じるエリック・ストルツは、『パルプ・フィクション』出演時と大して変わらないスタイルだが、『パルプ…』のだらしないドラッグ・ディーラーとは別人の聖性があるのが不思議だ。

極めつけはガブリエル。爬虫類系の不気味さと、シャープなカッコ良さと(特に横顔)、ズレたユーモア感覚と、一挙一動の優雅さ&スタイリッシュさで、浮世離れ感と威厳とオレ様ぶりをものにしている。ウジエルの遺体に背面投げキスで火をつけたり、トーマスにしか見えないように密かにウィンクしてみせるなど、下手をすれば寒いカッコつけになりかねないシーンも、不思議と様になる。
もともとは美男子なのだが、年をとって顔に影ができるにつれて怖さを増しているクリストファー・ウォーケン。このころちょうどいい感じに、キレイと不気味の境界線上にいたようだ。

なお、天使たちは座るとき、椅子の背のてっぺんや看板のてっぺんなど、不安定な場所にしゃがんでいる(通称・天使座り)。その姿は木にとまった鳥のようで、マフィアもどきたちの背に黒い翼が生えているように思える、シュールな魅力のひとときである。

ちなみに、天使ときたら悪魔もきます。というか、堕天使ルシファーが。後半に登場して美味しい場面をかっさらっていくばかりの奴なのだが、なまじヴィゴ・モーテンセンなだけにやたら妖しくカッコいい。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作のアラゴルン役でファン層を広げたことだし、このルシファーになら喜んで魂売っちゃう人もいるかもなぁ。

2012年2月7日火曜日

SUCK(サック)

人間やめますか、ロックやめますか??

SUCK(サック)('09)
監督:ロブ・ステファニューク
出演:ロブ・ステファニューク、ジェシカ・パレ



ロックとヴァンパイアはなかなか相性がいい。ヴァンパイアをテーマにした曲があったり、バンドがヴァンパイアっぽい出で立ちだったり、自らヴァンパイアを名乗ってたり……。
じゃあもういっそ、ヴァンパイアのロックバンド作っちゃえば? カッコいいし。
……と言いたいところだが、これはこれでトラブルがあったり、ときにダメダメだったりするらしい。

売れないインディーバンド、ザ・ウィナーズ。カナダ~アメリカをまたぐツアーを前に、マネージャーから見放される。紅一点のベーシスト、ジェニファーも、ライヴに来ていた怪しい男と消えてしまった……と思いきや、翌日戻ってきた。
しかし、雰囲気がゴス&妖艶に一変している。実は、前日にジェニファーと消えた男はヴァンパイアで、彼女は噛まれてヴァンパイアに変身していたのだった。
その日以来、ジェニファーの魅力でザ・ウィナーズの人気は徐々に上昇。血を吸わないとフラフラになってしまったり、血を吸ったら吸ったで死体を始末しなければならなかったりといった問題もつきまとうが、やっと開けた成功への道に、自分もヴァンパイアになりたいと思いだすバンドメンバーたち。「このままでいいのか」と悩むリーダー、ジョーイ。
その一方で、ヴァンパイアハンターのヴァン・ヘルシングが彼らを着々と追いつめていた。

一応ヴァンパイアものの形態をとっているが、元祖『ドラキュラ』やアメコミの『ブレイド』と違い、ヴァンパイアの設定はかなり大雑把である。そのためか、ストーリーのご都合主義展開も多いので、ここを笑ってすごせるか見過ごせないかが、楽しめる/楽しめないのポイント。
どちらかというと、この映画のメインはヴァンパイアよりもロックである。音楽チョイスがいいのはもちろん、有名なジャケ写になぞらえたショットあり、某レジェンド級のロケーション(仮)あり、何よりレジェンド級のロックスターの出演あり! 
謎のバーテンダーを演じるアリス・クーパーは、ほとんどステージのキャラと変わらない怪しさ&不気味さ。
レコーディング・エンジニアのイギー・ポップは、破滅型人生だった過去のせいか、忠告にいちいち深みがある。
DJロッキン・ロジャー役のヘンリー・ロリンズも、役作り不要ではと思うほどのオレ様ぶり。
モグワイまで、日頃の音楽性とはズレたヘヴィ・ロック系ボーカリストに。
カメオ出演なんてちょっとしたものではなく、皆さんしっかり出しゃばっているのが嬉しいところ。

なお、ロックスターじゃないけれど、ロック魂に触れる映画『時計じかけのオレンジ』主演だったマルコム・マクダウェルがヴァン・ヘルシングを演じているのにも注目。しかも、回想シーンに登場する若き日のヴァン・ヘルシングは、『時計じかけ』のアレックス君ほぼそのまま。ついでに、彼のフルネームが「エディ・ヴァン・ヘルシング」ってあたり、分かる人はニヤリとするだろう。

限りなく素顔であれ、ド派手なメイクやコスチュームを纏うのであれ、ロックスターは「普通の人とは違う何か」である。等身大の視点&自然体でロックを鳴らすアーティストですら、フロアもしくはスタジアムいっぱいのオーディエンスを沸かせるパワーを持っている。
ただ、ロックスターの領域に踏み込むためにタダの人間を脱却するとなると、失うものも多い。だからイギー・ポップは、手遅れにならないうちに引き返すよう、ジョーイに忠告する。
ロックスターになれる奴は、ここで何かを失うリスクを恐れず、高みに突き進んでしまう一握りのバカ(褒め言葉)なのかもしれない。