2012年6月23日土曜日

エルム街の悪夢3 惨劇の館

夢の中ぐらいフリーダムでもいいじゃない。

エルム街の悪夢3 惨劇の館('87)
監督:チャック・ラッセル
出演:ロバート・イングランド、ヘザー・ランゲンカンプ



フレディ嫌いと思しきマイPC&周辺機器の皆様、あともう少しだけこのプチフレディ祭りにお付き合いください。「プチ」の証拠に、2作目をすっ飛ばして3作目をお勧めに挙げてます。さすがにシリーズが長いと、出来にも波がね。ダメそうなやつも嫌いとは言い切れないんだけどね。

本作は、ホラー映画の続編がやりそうなことを一気にぶちまけてくれている。続編がやりそうなことの詳細は、『エルム街の悪夢』オリジナル監督のウェス・クレイヴンが、のちに『スクリーム』シリーズで語ってくれている。

まず、犠牲者増加。今回は精神病院が舞台なので、悪夢に悩まされる子供たちがフレディと対峙。同じ脅威にさらされている者同士団結はできるものの、親や医者が理解してくれない孤立無援の状況は変わらず。

次に、殺害手口がより残虐に……と言いたいところだけど、フレディの場合残酷さよりもユーモア先行なので、「より面白く」と言ったほうが正しい。冷静に考えたら結構ムゴい手段ですが。

そしてファンには嬉しい、キャラクター再登場。1作目のヒロインだったナンシーが、悪夢を専攻とする医学研究生として、子供たちの味方に。そしてフレディに打ち勝つために、自分たちもまた夢の中で思いのままの特殊能力を活かすことを提案し、犠牲者側も少しパワーアップ。

こうして考えてみると、「夢の中なら最強」なフレディの能力は、「空想の中なら何でも自由」なオタクの夢発想をさらにバージョンアップしたもののような。それもまたフレディ人気の一因なんだろうか?

1作目でその恐怖を知らしめ、2作目でちょっとダレたり道を踏み外したりして、あとはお笑いも交えて自由にどうぞ! というのが、だいたいのホラーアイコンが歩む道。そこへいくと、初っ端からフレディのキャラクターが最大の魅力な『エルム街の悪夢』をシリーズ化するなら、フレディを放し飼いにせずして何とする!? ってなもので。
そんなわけで、フレディはブラックジョークもビビらせ方法も殺害方法も、ここへきて一気に冴えわたり始める。巨大蛇やらセクシーな看護師やらに変幻自在だし、たくさんの鏡の中で大増殖もできる。
殺害方法なんぞ、人形造りが趣味の子を操り人形にしてしまったり、テレビのてっぺんから登場したり、自分の両手を注射器に変えてしまったり、もはや右手の鉤爪を使うことが少ないぐらい。

ちなみに、テレビからの登場時に生まれた名ゼリフ「Welcome to prime time, bitch!」は、ロバート・イングランドのアドリブとのこと。やはり、フレディとの一体化は順調に進行していた模様です。

そうそう、1作目でジョニー・デップがあえなく血柱と化していたのはファンの間で有名な話ですが、3作目にものちのスターが。
本作のヒロイン、クリスティンは、『トゥルー・ロマンス』のアラバマ、または『ヒューマンネイチュア』の毛深い女ライラことパトリシア・アークエット。けばけばしくてバイオレントでありつつピュアだったり、驚愕の体毛とどうにもならない性欲をさらしたりするのちの姿が想像できないほど、影があって少し幼げな美少女で、まず間違いなくフレディ好み。そりゃ結構な頻度でイジメに来ますよね。

さらに、子供たちのケアをする(しきれてないけど)医師の1人は、モーフィアスことローレンス・フィッシュバーン。当然このころは仮想現実世界へ移動する能力もシステムもないので、夢の世界でフレディとご対面することはなかった。

それから、俳優じゃないけど、本作の脚本はフランク・ダラボン。のちに『ショーシャンクの空に』(監督・脚本)、『プライベート・ライアン』(脚本)、『グリーンマイル』(監督・脚本・制作)を生み出している。
映画界の定石だけど、ホラー映画は思わぬ才能発掘の場なのである。(才能に行き当たるまでに、数々のポンコツにも出会うのだけれど)

一応ホラーに分類されてはいるものの、本作以降は怖さがどうこうよりもフレディのやりたい放題がメインと化していく『エルム街』シリーズ。怖くないホラーなんて……という苦言も出てくるのは免れない。
しかし、フレディの優れたユーモアセンス、セルフプロデュース能力、演出力をさらに活用するという意味では大成功。特に本作は、残酷さとユーモアのバランスもちょうどいい。何より、楽しそうなロバート・イングランドを見ていると、ファンとしては殺人鬼なのにうっかり微笑ましくなってしまうのですよ。