2014年8月14日木曜日

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記

人間って本当にスバラシイ……ほどにダメダメ。

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記('90)
監督:トム・サヴィーニ
出演:パトリシア・トールマン、トニー・トッド



「奴らが来るぞ、バーバラ……」
オリジナル『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でもおなじみ、妹を怖がらせてからかう兄ジョニーの名セリフが幕開け。と同時に、「このオリジナルの数十倍存在感がネバっこいジョニーは何者だ?」という引っかかりが、私の新たなB級ホラー街道への幕開けになった。
そう、これが私とビル・モーズリィとのファースト・コンタクトだったのだ。本作に会わなかったら、チョップトップ(『悪魔のいけにえ2』)との出会いも、コーンバグズとの出会いも、オーティス(『マーダー・ライド・ショー』『デビルズ・リジェクト』)との出会いもなかったってわけですよ。今回、退場早かったけど。

死者がよみがえって人間を襲いはじめ、なんとか逃げのびた男女が一軒家に籠城するも、仲間割れを起こして事態はますます悪化……というベースは変わらない。
ただ、時代が変わって特殊メイクの技術も向上し、さらにその道ではレジェンド級の師匠トム・サヴィーニ先生がメガホンを取っているためか、ゾンビのおどろおどろしさはもちろん倍増。形ばかり着せられたスーツ(実は葬儀用)がずるずる脱げてY字の解剖傷が見えるゾンビ、車に撥ねられ下半身が折れ曲がっていながらなお動こうとするゾンビなど、「生ける屍」の「屍」の度合いが強まった。

ホラー映画のリメイクに際して、「グロけりゃいいってもんでもないだろう」という苦言はよく出てくるが、このグロ演出にはアナログ感が満載だし、ゾンビはノロノロしてるし、何より、『ゾンビ』の特殊メイクを手掛けた当人であるサヴィーニ先生の息がかかっているので、そんなに苦言は多くなさそうだ。

最大の違いはヒロインのキャラクター。
オリジナルではほぼ放心状態で、ヒロインと呼べるか疑わしいほど何一つ役に立たなかったバーバラ。本作では、ゾンビの襲撃に遭った当初こそは放心状態だったが、いざ人が集って臨戦態勢になると、スカートからハンティング用のパンツに履き替え、ライフルを構えて一気に女戦士へと変身。
ゾンビを見ながら「なんてノロいの。歩いてでも追い越せるわ」と強気の発言が出るほど。しかも、この強気が口だけじゃなくて、戦力・適応力ともに生存者たちの中でも飛びぬけて優秀なのだった。

思えばオリジナル作から22年。その間『ハロウィン』のローリー、『エイリアン』のリプリー、『エルム街の悪夢』のナンシーと、ホラーヒロインが急激に強さを身に着けていった。オリジナルの続きに当たる『ゾンビ』でも、フランが妊娠中ながら生き残るために健闘を見せていた。
強いヒロインの台頭という時代性が、今回のバーバラにも如実に表れてきたようである。

時代が変わってバーバラが強くなったのに対し、主要な男性陣はオリジナルの時代とあまり変わっていない。それどころか、各キャラクターのエゴが強くなり、ヤな奴はよりヤな奴になっていてタチが悪い。特に、トム・トウルズ演じる新規ハリー・クーパーの自己中ガンコ親父ぶりは、あっぱれなほどイラッとくる。
一方、誠実な黒人青年ベンは、初登場時手に火かき棒を持っていたせいで一瞬キャンディマンに見えてしまったトニー・トッド。気品ある物腰で冷静なので、ハリーよりはるかに頼りがいがあるように見えるのだが、観るほどに実は事態を悪化させていたのは彼の方なのだということが分かってくる。自分だけ助かろうなんてエゴがなく、みんなを助けようとしていた姿勢がよく分かるゆえに、ますますもって皮肉である。

しまいには、最初から全員が協力していればもっと事態はマシだったかもしれないという、さらなる皮肉と空しさがオリジナルより明確に提示されている。これを見ると、人間に対するあきらめが加速しそうだし、「力を合わせて頑張ろう!」みたいなスローガンがつくづく信じられなくなるよ。

本作で、ヒロインのキャラクターに次ぐ大幅な改変は結末だ。「本当に怖いのはゾンビだけか?」というスタンスではあるし、救いようのなさも漂うものの、描き方はオリジナルとはまた異なる。
あの状況下・あの経験のあとでは、たとえ冷静さを保っていられても、善人や正義の味方ではいられないのだろう。

2014年8月13日水曜日

マイティ・ソー ダーク・ワールド

兄弟ともに伸び盛り。

マイティ・ソー ダーク・ワールド('14)
監督:アラン・テイラー
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン



久々に会った人に、外見じゃなく中身について「お前も変わったなぁ」「成長したなぁ」って言われる経験、考えてみたけどほとんど覚えがありません。むしろ「相変わらずだなぁ」「昔から変わらないなぁ」ばっかり言われている。しかも、相手が言う「昔」って、小学生か中学生時代のことだもんなぁ。

『アベンジャーズ』から1年。アスガルドに帰還したソーは、9つの世界の騒乱を収め、父オーディンから王位継承を望まれるまでに至った。しかし、かつて地球で出会い、いつか戻ると約束していた科学者ジェーンのことが忘れられずにいた。
そのころ、ジェーンはロンドンで重力異常の調査中、封印されていたダークエルフの武器「エーテル」に接触し、その力を体内に宿してしまう。エーテルの封印が解けると同時に、ダークエルフたちは長年の眠りから目覚め、ジェーンを追跡しはじめた。ジェーンの危機を知ったソーは、再び地球、および新たな戦いへと向かう。

前作『マイティ・ソー』ではニューメキシコの片田舎、『アベンジャーズではニューヨークが余波の被害に遭った神様兄弟ゲンカ。今回おもに迷惑を被るのはロンドンだが(ついでに、破壊の原因はロキじゃなくてマレキスだし)、星の並びで重力異常が起きているせいでバトルしながらユグドラシルの世界を飛び回る羽目になるので、コンパクトなようでいて舞台は広い。

そんなバトルの合間に、「ソーの周りで勝手に雨宿り」「コート掛けの新しい使い方」「はじめてのロンドンチューブ」など、観客をクスッとさせる小粒スパイスの笑いが挟まれている。
このあたりのお笑いを担っているのは、前作から密かに人気票を集めているダーシーやセルウィグ博士らジェーンの研究仲間たち。ダーシーは可愛さ、セルウィグはなぜか加速した変人ぶりとそれぞれキャラクターの魅力も活き、それでいてただのお笑い要因ではなくきちんと活躍している点も嬉しい。(浅野忠信の扱いは別として)
個人的には好みだけど、笑える人を選ぶようなセンスだと思ったら、アラン・テイラーってかつて『パルーカヴィル』を監督した人なんですね。道理で好きなはずだ。

(『パルーカヴィル』:ヴィンセント・ギャロやウィリアム・フォーサイスがはじめての現金輸送車強盗に挑むも、憎めないアホのおっさんたちゆえいろいろ困ったことになる話。小粒ながら独特なユーモアの良作)

体力勝負系で根は素直というキャラで通ってきたソーだが、彼女ができたせいかグレた弟を止めに走り続けてきたせいか、ここへきて急に大人になった。
つい3年前まで「王になるぞやったー! 戴冠式の邪魔もされたことだし氷の巨人なんかぶっ飛ばせ!!」なノリだったというのに、今やジェーンのことを思い王位継承を躊躇するように。アスガルドの危機かという状況下では、現役王オーディンよりも冷静で優れた判断力を発揮していた。

しかも、今までしてやられっぱなしだったロキ対処法についても、徐々に手口を学習しつつある。わずかながら、ソーがロキを出し抜くという逆転現象にまで持ち込めていた。
大人になったぶん豪快さが減ってきている点はちょっと残念であるが、天然ぶりはどうしてもまだ残っているようなので、これからも適度にボケつつ頑張っていただきたいところである。

急激に成長を遂げた兄に対し、前作と『アベンジャーズ』から一貫して真意がどこにあるのか分からないロキ。唯一真意が明確に映るところといえば、ソーが牢を訪れたときの荒れた室内か。
映画の活劇モードが強まる中、もっとも前作のシェイクスピア劇要素を担う人物という点でもブレない。『アベンジャーズ』で「あれほど悲惨な(そして笑える)目に遭ってなお反省してるのかしてないのかわからない」と記述したが、王子から一介の囚人になっても、ソーと共闘することになっても、まったく反省の色がないことが判明しました(ある一点を除いては)。

しかし、何だかんだでソーやジェーンを助けていることもありつつ、実はヴィランとしてステップアップしていることも判明してくる。本心が分からず動機がミニマルゆえ「ヴィランとしてもグレーゾーン」と以前表したが、そのベースはちゃんとキープしつつ、成長するところは成長している模様。ソーも成長したことだし、そりゃ負けちゃいられないよね。人気はもしかしたら勝ってるかもね。

兄貴はヒーローとして、弟はヴィランとして着実に歩み始めたアスガルド。
というわけで、今回一番頼りにならないダメ親父ぶりを露呈してしまったオーディン、貴方も今後いろいろ頑張れ!!

2014年8月8日金曜日

GODZILLA (2014)

怪獣王×タメ・キメ・ミエの掌握=無敵。

GODZILLA('14)
監督:ギャレス・エドワーズ
出演:アーロン・テイラー・ジョンソン、渡辺謙



「ハリウッド版ゴジラって昔映画化されてなかったっけ?」
「アレの続編やるの?」
「いや、アレ関係ないっすから! なかったことになってるから! 黒歴史だし。っていうかイグアナだし
まさか公開前にエメゴジ('98年のエメリッヒ版ゴジラの意)釈明にあたることになろうとは思わんかったさ。これが映画オタクと世間のズレの一環なのだろうか。

1999年、フィリピンの炭鉱崩落跡の調査に呼ばれた芹沢博士らは、巨大生物の化石とそれに寄生した巨大な卵のようなものを発見する。
同年、日本のジャンジラ市(ジャパン+ゴジラで命名?)で謎の振動と電磁波が発生し、原子力発電所が倒壊。原子炉の調査に当たっていたブロディ夫妻の妻サンドラが亡くなる。
2014年、ブロディ夫妻の息子フォードは、軍の任務を終えてサンフランシスコの家族のもとに戻るが、父ジョーが立ち入り禁止区域のジャンジラ原発跡地に侵入し逮捕されたとの連絡を受け、父の身柄を引き取りに急きょ日本へ向かう。ジョーは、原発事故の背後で隠ぺいされた「何か」を探ろうとしていた。

……といったストーリーを置いといて取り急ぎ言わせてほしい。
ゴジラがマジでゴジラだった!!!!

ギャレス監督はオリジナルのゴジラのファンだと聞いていて、きちんと愛情もってつくってくれるんだったら大丈夫だろうと思っていたら、いやはやそんな大丈夫とか安心といったレベルではありませんでした。全幅の信頼を置きたいレベルでした。下手すると、ゴジラ好きではあるけどものすごいファンってほどではないくらいの日本人観客(私とかな)が忘れかけていた事実を、ギャレス監督が蘇らせてくれたのではとも思う。

それは、ゴジラは生物すべての頂点に君臨する「神」であり、ヒーロー視するものでも倒して「やったーー!!」と思うものでもなく、畏怖の対象であるということである。そこに重きを置いたからこそ、実は大々的に映っているカットは少ないにも関わらず、地響きや咆哮1つですべてを持って行ってしまう存在だったのではないだろうか。
さらには、ゴジラにとって人類なぞ敵でもなく守る存在でもなく、まったく何とも思っちゃいないということである。チャイナタウンの戦いでフォードと一瞬目が合うも、意志の疎通を感じさせるわけでもなく瞬く間に煙の中へ消えてしまうゴジラ。あれこそ神との対面である。

しかし、神だ畏怖だという一方、皮膚のタプつき具合や動き方から漂う着ぐるみ感を見ると、何とも嬉しくなってしまうのもまた事実。『パシフィック・リム』のときもそうだったけど、たとえCG製でも着ぐるみっぽさのある怪獣はなぜか愛着が高まるのですよ。
これで日本はアンディ・サーキス(ゴジラのモーションキャプチャー担当。まさかゴジラの現場にこの人がいようとは……)にすっかり頭が上がらなくなってしまったかもしれない。あ、一方タプつきのないムートーも、あれはあれで特撮で動かせそうなデザインが良かったですよ。

ただでさえ最強で、監督が畏怖の念を念頭に置いて作り上げ、そのくせ愛着すら湧くゴジラなのに、今回のゴジラはさらに強力な武器を持ってきた。出現までの「タメ」、現れた瞬間の「ミエ」を切るかのようなショット、そしてここぞというときの「キメ」である。
キメの最たるものはもちろんあの咆哮。それ以上のことはぜひ一度その目で確認してほしい(願わくばスクリーンで)。この瞬間ばかりは畏怖とはまた別の高揚感がやってくる。
まさかここまで魅せ場を分かってらっしゃるゴジラとは思っていませんでしたよ。一緒に観に行った母がゴジラのタメ・キメ・ミエおよび去り際を「時代劇のサムライ」と形容してましたが、確かにそんな感じでしたよ。

ゴジラにとって取るに足らない存在だからなのか、ゴジラよりはるかに長く映っているにも関わらず、人間たちのドラマはゴジラの存在よりも薄め。離れ離れになってしまったフォード一家も、殲滅作戦に乗り出すアメリカ軍も、まるでゴジラとムートーの背景である。うっかりすると「いいよもう人間は! それよりゴジラだ! ムートーだ!」とさえ思えてくるほど。

極めつけは渡辺謙演じる芹沢博士。ゴジラやムートーの生態を研究しているはずなのに、研究者らしい活動をしているところはあまり見当たらず、怪獣について何らかの対処策を練っているわけでもなく、ただゴジラの強さを信じるのみ。
そしてゴジラをこの目で見たくて仕方ない。すでに多くの方がご指摘している通り、単なるゴジラ大好きおじさんである。ただ、追跡の最前線にいながら危険にさらされることもなくゴジラやムートーを見られるというのは、ある意味大変に理想的なポジション。つまり、ゴジラファンにとって夢の役割?

なお、少なからず核や戦争や人類の傲慢を背負うゴジラものに、アメリカ人にヒロシマのことを少しでも訴える瞬間があり、今この時代に日本の原発事故に言及するという点が、人間ドラマとは少々ズレるもののもっともドラマが活きた瞬間ではないだろうか。

デビュー作でモンスターをほとんど見せずしてモンスター映画を撮ったギャレス監督だけに、ゴジラを最低限の登場シーンで最高神にしてみせた手腕にはどこまでも賞賛を贈りたくて仕方ない。ただし、欲をいえばその最低限に削られた怪獣決戦をもっと観ていたかったところ。
となると気になるのが、早々と制作が決まった続編。どうやらキングギドラとモスラとラドンが登場して四つ巴の戦いになるらしい。さすがに4体も出現するとバトルシーンも増えるだろうし、今回のフラストレーションが解消されることになるかもしれない……!!!