2015年3月27日金曜日

PIG/ザ・スワイニング

世界一カッコいい豚野郎。

PIG
THE SWINING('93)

 


レイモンド・ワッツ。
本アルバム発表当時32歳。
イギリス人。長身脚長。
ジャケ写では伝わりにくいが、陰のあるハンサムに部類される顔。
音楽の才能もあり声もイイ(後述)。
ステージではシルバーのロングコートにテンガロンハットという独特すぎるファッションも着こなせる男。
そんな男がワンマンプロジェクト名「豚」って、何のイヤミかと思わずにはいられませんよ。真意は違えど。

80年代末から90年代にかけて台頭してきた、プログラミングやノイズギターを中心としたインダストリアル・ロックの1バンド……
と言っても、インダストリアルというジャンルはそんなに爆発的に広がらなかったし、おそらくもっともメジャーなのはナイン・インチ・ネイルズ(マンソンもここに入ったり入らなかったりだが、少なくとも純然たるインダストリアルではない)。
あとは『マトリックス』のサントラ収録のミニストリーやラムシュタインあたり(初期ロブ・ゾンビもここに入ったり入らなかったり)がまずまず知られているだろうか。

そんなインダストリアルの主流とはいえないが、インディーズで短期間に多作、それも秀作が多いバンドがスキニー・パピーやKMFDMそしてPIGである。レイモンド自身、もとはKMFDMのメンバーだったのだけれど(その後戻ったり出たりをくり返す)。

PIGの音楽性を特徴づけているのは、他のインダストリアルバンドと比べて、他ジャンルの要素を多く取り入れているところ。
特にジャズやラテンミュージックの影響は顕著だが、シンセサイザーでオーケストラ風の荘厳さを出すこともあり、5th『WRECKED』などはインダストリアル・メタル色を濃く押し出していた。
また、日本のバンド・BUCK-TICKとの親交もあり、メンバーとSCHAFTやSCHWEINといったプロジェクトを手掛けてアルバムをリリースしていたこともある。

本作は3rdアルバムで、まだ宅録らしいサウンドの安さとポップさがあるが、M2「The Seven Veils」はオーケストラ風味、M5「Black Mambo」は暗黒ラテンミュージック、M8「Symphony For The Devil」はプログレ風と、すでに引き出しの多さを確立している。M4「Find It Fuck It Forget It」では「山の魔王の宮殿にて」のメロディを引用する遊びも入っている。
音楽的な柔軟性・多様性があり人脈もそれなりに広く持っていながら、活動がどうにもコンパクトなのは、「大きすぎる会場はキライ」と豪語するメジャー志向のなさゆえなのか……。

PIGがまず間違いなくメジャーにはなれない理由であり、音楽性の引き出しの多さ以上にPIGのキャラクターを決定づける最大の理由は、レイモンドの書く歌詞とボーカルである。
これがとにもかくにも、陰湿で猥雑で粘着質で変態性が高く性格が悪い
それを歌うレイモンドの声はドスが効いていて、暴力性よりも粘着性のほうが勝る。プログラミングサウンドの妖しさも相まって、ねっとり感がまるでラードじゃないかというほど。
レイモンドのこうした傾向はKMFDM時代から徹底されていて、曲を聴くより先に歌詞を見たらどれがレイモンドの作品が見当がつけられた。なるほど、この性格悪さとねちっこさは「豚」と名付けられてもおかしくはない。

なお、その他の歌詞の特徴として「頭韻を多用する」(M4『Find It Fuck It Forget It』なんかまさにそれですね)があり、ひとくちに豚といっても大変に知性のある豚であることはお分かりいただけると思います。

短期間に多作……とはいったものの、それは90年代までのことで、実は単独でのオリジナルアルバムは'05年の7th「PIGMATA」以来出されていない。
他のアーティストをプロデュースしたり、コラボレーションしたりすることは多く、さらに'09年以降はコレクションに曲を提供するなどアレクサンダー・マックイーン絡みの仕事をしていることも多いとか。
レイモンド自身が活動を続けていることは彼自身のTwitterで分かるのだが……あのドス声をフルで聴ける機会が減っていることは、やっぱり残念だなぁ。

PVが少ないうえに、アップされていても画像の悪いものしかないので、ライヴ映像を。
2006年のアメリカツアーより、本作のM6「Ojo Por Pjo」~M7「Blades」。
少々長めだが、レイモンドの「粘着性の高いドス声」がお分かりいただければと。

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