2012年12月29日土曜日

007 スカイフォール

ダニエル・ボンドはレザレクションするのか。

007 スカイフォール('12)
監督:サム・メンデス
出演:ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム



一度狙った標的は、何に阻まれようと追いかける。
壁があってもぶち壊したり飛び越えたりしてやってくる。
屋根に登っても飛び上がってくる。
車で振り切ろうとしても走って追いついてくる。
列車に飛び乗ったら列車に飛びついてくる。
実は一回心臓停止してるけど復活してる(『カジノ・ロワイヤル』より)。
もはやシュワルツェネッガーを超えるアイル・ビー・バック男。その分、従来のボンドにあったスマートさや余裕や遊び心が少ないという不評もあるが、それがダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドである。

なお、私個人はダニエル・ボンド肯定派。「ボンド=ドヤ顔でいろんなものを破壊しまくり、なおかつモテる人」という程度の認識から、「ドヤ顔」が消えたぐらいのものなので……。
ちなみに、リアルタイムボンドはピアース・ブロスナンでした。

潜入捜査中の諜報部員たちのリストを奪還する任務の最中、ボンドは仲間に誤射され、遥か下の川に転落。Mはリストを奪われた責任を問われ、さらに同じころ、MI6本部が爆破される事件が発生する。
窮地に立たされるMの前に現れたのは、死亡したとみなされていたボンドだった。

『カジノ・ロワイヤル』で007になったばかりのボンドを描くことから始まったダニエル・ボンド。当初歓迎されなかった金髪といい、ジェームズ・ボンドというキャラクターを再構築して、今までとは違うボンドを改めてつくるのか……
と思ったら、『カジノ・ロワイアル』では『女王陛下の007』、『慰めの報酬』では『消されたライセンス』と、ちょいちょい過去の作品への目配せをしている。そして今回は、『ゴールドフィンガー』に目配せしつつ、原点回帰まで果たしていた(具体的にどこがかはネタバレになるので伏せますが)。

原点に戻ったといえば、ロケーション。今回も敵を追って、イスタンブールにはじまり、上海、マカオと飛び回るボンドだが、目玉になるのはロンドンとスコットランドの平原。つまりボンドのホームグラウンド。
地下鉄チェイスが、田舎銃撃戦が、いちいち魅力的なので、久々に思わず舞台となった場所に行きたくなる映画となった。

ダニエル・ボンドの前2作で難だったのは、悪役が小粒なこと。演じてる俳優さんは好きなのだが。
確かに、株操作でテロリストに資金を還元、途上国の資源を押さえるなど、やっている悪事はかなり現実的。しかし、どぎつい資金取り立てに「金は返すから!」と怯えるル・シッフルや、終盤の直接対決であまりの体格差に「ボンドが小動物虐めてる!」感が出てしまったドミニク・グリーンは、インドア系なせいか肉弾戦で勝てそうにない。
頭脳を活かして追い詰める展開も期待したけど、そこまでには至らなかった。

そこへいくと、ハビエル・バルデム演じるシルヴァは、目下対ダニエル・ボンド最高の悪役である。存在感も体格もずっしりなので、ボンドがいくらぶん殴っても大丈夫そうだし(実際はそんなに肉弾戦はなかったが)。
予想から微妙に外れたところを突いてくるひねくれた策略家ぶりも、見ていて次はどうくるか楽しみになる。何より、『ノーカントリー』でも証明された、面積もパーツも大きくてしかも濃口の顔面力は最強である。
粘着質で気色悪い雰囲気を漂わせるのもお手の物。特に意味なくゲイ的アプローチするシーン然り(フィルモグラフィー上で異性にも同性にもモテモテなバルデムなので、もう男女とかどうでもよくなってる気もするのだが)。

ただ、実は一番不気味なのは、「んー?」「あぁ」といった間投詞のイントネーションや、一瞬ドラッグクイーン歩きになるといった細かい言い回しや仕草。そして、どこか壊れていながら、愛憎入り乱れた哀しさも漂う。
ごんぶとの存在感と繊細な感情でインパクト勝ちしかねないという意味でも、ボンドの最高レベル好敵手である。

できる限りリアルな悪人に、できる限りリアルな肉弾戦で、問答無用で美女にモテまくるわけでもオモチャ感覚スレスレなスパイガジェットを操るわけでもない、「人間的ジェームズ・ボンド」がウリのダニエル・ボンド。原点に戻ったのちにどう転ぶのか。

希望としては、せっかくQ(ベン・ウィショーの飄々ぶりが良)が登場したことだし、少しだけ荒唐無稽なガジェットを手にして、ターミネーターな活躍で敵をどこまでも追っかけていってほしいのだが。
それに、せっかくいい着地点だったので、このメンバーでもう1本は作ってほしい。ダニエル・ボンド1作目から言及されてきた、組織クォンタムの中枢に入ってみてはどうだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿