2019年3月4日月曜日

トム・ヨーク/サスペリア

Don't Burn The Witch.













トム・ヨークが映画音楽を担当する? ジョニー・グリーンウッドじゃなくて?
……という驚きはあった。


ついこの間まで "Burn The Witch" って歌ってた人が、超有名な魔女映画のリメイクの音楽をやるの!?(Radiohead『A Moon Shaped Pool』M1参照)
……という、全くもってどうでもいい驚きもあった。


だが何より嬉しい驚きがあった。
劇中のダンスのイメージから、『Kid A』や『The King Of Limbs』のようなポスト・ロック~アヴァンギャルド路線でもやるのではないかという、漠然とした予想とはだいぶ違っていたのだ。むしろ『Kid A』を経たあとの、シンプルで静かでオーガニックな路線だった。
とりわけメインテーマは『In Rainbows』の "Videotape" のように優しくも物哀しい。
個人的には『キャンディマン』のメインテーマを思い出したものである。


暗黒舞踊曲 "Volk" や、"Belongings Thrown In A River" "The Inevitable Pull" に使われるもう1つのメインテーマは、やはり『サスペリア』の旋律であるからして不吉さをはらむ。その不吉の最骨頂が "Sabbath Incantation" だろう。 
それでも、極力装飾を削ぎ落としたサウンドにしているのは、実験精神に富んだオリジナルのゴブリンのサントラから距離を置こうとしているからにもどことなく思える。


そして最後の嬉しい驚きが、トム自身がボーカルを入れている曲が重要な局面で流れていることである。
こうなると、歌詞内容が少なからず映画とリンクしているのではないかと勘ぐりたくなってしまうのが、ルカ版『サスペリア』にハマった人間のサガというものでして。



以下、本編のネタバレに関する記述あり。
また、私が持っているサントラが輸入盤であるため、以下に記述のある歌詞は自力調べ&対訳なので、正確ではありません。








1.Suspirium


まず、メインテーマたる "Suspirium" がボーカル入りという点でも予想外だったが、歌詞を見ると思い切り本作のマザー・サスピリオルムのことである。


「これは我が身(体)を考えるワルツ」
「私たちの救済に何の意味があるのだろうか」

「全ては上手くいく。今ここで、壁の背後で(他を)見捨てて踊り続けていれば」


ベルリンの壁と対峙しながら、ダンススクールの中でマルコスを中心とし舞踊に生き続ける魔女たち。ここまでは彼女らの生き様だが、最後になると急に視点が変わる。


「私がここに着いたら、あなたが見つけてくれる」
「それとも一員として集団に紛れているの」
「彼女の傍らで孤独を感じてる? 平穏な明日なんて来ない」


まるで、現状を憂いながらもマルコスと肩を並べて留まっているマダム・ブランに宛てた言葉のようだ。この時点で、マルコス体制の現状を良しとしないマザーはブランにシンパシーを抱いていたのかもしれない。



2.Has Ended"


ここで繰り返されている「もう同じ失敗はしない」は、そこだけ聞く限り「マルコスの転移の儀式をパトリシアのときのように失敗はしない」ことのように思えた。だが、他の部分を読んでみると、第二次大戦とファシズムの終焉が描かれているようだ。


「兵士たちが帰ってきた」
「エゴは終わり、大口叩きも消えた」

「踊るパペットの王様のもと、ファシスト達は恥じた」


その一方で、劇中で描かれているように時代はバーダー/マインホフ事件のさなかで、「鏡も電話も、炎に包まれる」。「もう同じ失敗はしないと言いながら」が「鏡と電話」に掛かる語句ならば、この言葉はRAFのステイトメントにも転じる。

だが、その前には「魔女たちは笑い、水は灰色に変わる」ともある。ファシズムが終わりながらも新たな混沌に包まれる世界の中、ただ笑い、水を濁らせていくだけ。
ここで思い出したのが、「なぜ人々は、最悪のときは終わったと思うの?」というスージーの言葉だ。最悪のファシズム時代が終わった後も、バーダー/マインホフはナチス政権の失敗を蘇らせるまいと過激な行動に走った。それと同じように、マザー・サスピリオルムは、世の中と同様魔女の世界も「マルコス体制の失敗を繰り返してはならない」と考えてこの地に降りたのだ。



3.Open Again


この曲はマダム・ブランの歌に思える。マザーの思うところにも通ずるものがあるが、もともと "Open Again" のタイトルでダンスの課題を持ってきたのはブランだ。


「新たな岸辺で私たちは再び息づく」
「洗い流され、私たちは再び生きる」


今のように外界と断絶せず、またリーダーのために犠牲を強いない新たな生き方もあると、ブランは考えていたのではないだろうか。結果、彼女は理想の世界をその目で見ることはなく、現在の魔女たちの世界はマザー・サスピリオルムが大量の血でもって洗い流すことになるのだが。



4.Unmade


これまた劇中屈指の美しいナンバーが、よりによってこの血の浄化のシーンで流れるという最高の使われ方。そしてこれもまたマザーの歌だ。


「小鳥たちよ、私の庇護のもとにおいで」
「不完全な者たちよ、私は誓って何も企んでいない」
「回帰していくものなどない」


遂に姿を現し、旧体制を維持せんとする者たちを粛清し、人柱にされていた少女たちを死をもって解放する。禍々しくも最高に美しいシーンだが、本当に魔女たちはマザーの庇護のもとに行けば幸せなのだろうか。
マルコス支持者は本当に抹殺されなければならなかったのだろうか。
死ぬことすら許されなかった少女たちを解放するには、(彼女らが自ら口にした望みとはいえ)死しかなかったのだろうか。
クレンペラーの愛した人の記憶は消してはならなかったのではなかろうか。
ナチスの残り火を爆弾で消そうとしたマザー・マインホフのように、マザー・サスピリオルムも今後の世界にとって危険性をはらんだままなのだ。


ただ、それでもマザー・サスピリオルムのしていることに希望を見出してしまうのは、あのベルリンの壁に触れたと思しき謎のラストカットのおかげかもしれない。
何せ2019年の今だって、壁によって世界が分断されかねない時代なのだから。

2019年2月14日木曜日

2018年映画極私的もろもろベスト

バカなことほど書いてて楽しいものさ。


いつもこのもろもろベスト記事の前書きにいろいろエクスキューズを書き込んできたけど、それすら面倒くさくなっちゃったなぁ。末期かなぁ。



2018年ベストガール

  1. ライザ&ヴァイオレット&モニカ(アナイリン・マッコード&アリーシャ・ボー&シェイラ・バンド)(68キル)
  2. アネリス(アウラ・ガリド)(コールド・スキン)
  3. 画家ルース(エレナ・レーヴェンソン)(デス・バレット)
  4. マンディ(アンドレア・ライズボロー)(マンディ 地獄のロード・ウォリアー)
  5. ジェン(マチルダ・ルッツ)(REVENGE リベンジ)
  6. ドーン(アンジェリス・ウー)(マンハント)
  7. ジュスティーヌ(ギャランス・マリエ)(RAW 少女のめざめ)
  8. ゴールデン&シルバー(ミハリナ・オルシャンスカ&マルタ・マズレク)(ゆれる人魚)
  9. トラジディ・ガールズ(ブリアナ・ヒルデブランド&アレクサンドラ・シップ)(トラジディ・ガールズ)
  10. オーシャンズ8の皆様
今年は2位の半魚人と8位の人魚以外わりと普通の人間が多いなー……と思ってしまうので、いろいろ麻痺しているのかもしれない。




2018年ベストガイ

  1. ハリー・ディーン・スタントン(LUCKY ラッキー/ツイン・ピークス ザ・リターン)
  2. レッド・ミラー(ニコラス・ケイジ)(マンディ 地獄のロード・ウォリアー)
  3. ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)(イコライザー2)
  4. 新耳袋Gメンの皆様(怪談新耳袋Gメン冒険編 前編・後編)
  5. アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)(ボーダーライン ソルジャーズ・デイ)
  6. ハーマン・ゴットリーブ(バーン・ゴーマン)(パシフィック・リム アップライジング)
  7. 半魚人(ダグ・ジョーンズ)(シェイプ・オブ・ウォーター)
  8. ローランド&ウォルター(イドリス・エルバ&マシュー・マコノヒー)(ダークタワー)
  9. キム・ビョンス(ソル・ギョング)(殺人者の記憶法)
  10. ドウェイン・ジョンソン(ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル/ランペイジ 巨獣大乱闘/スカイスクレイパー)
俳優としてもミュージシャンとしても最高のラストアクトを魅せてくれたハリー・ディーン・スタントンには、やはり例年スペシャルえこひいきのニコさんといえども勝てませんでした。
……と言ってるそばから映画秘宝ではニコさんがベストガイ1位だったけどな!




2018年ベストガール兼ベストガイ

  1. ジャック・ブラック(ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル)
  2. ミシェル・ロドリゲス(レディ・ガイ)
  3. ポール・ラッド(アントマン)
あのときのジャック・ブラックは、見た目いつものままなのに本当に可愛い女子高生にしか見えませんでした。
本来ならルビー・ローズもランクインさせるべきなのかもしれないけど、あの御方はもう役柄がなんであれ殿堂入りの域だし。




2018年ベストカップル

  1. ネガソニック&ユキオ(デッドプール2)
  2. マンディ&レッド(マンディ 地獄のロード・ウォリアー)
  3. レイノルズ&アルマ(ファントム・スレッド)
  4. デレク・チョー&メラニー・クロス(Z Inc. ゼット・インク)
  5. ウィル&サラ・ソーヤー(スカイスクレイパー)
物理的に強いカップルが大半だけど、愛の形が強すぎるor変化球すぎる2位と3位も忘れずに!……っていうか自分がいつもベストカップルに選出する基準としては、むしろこっちのほうが多いんだよ。




2018年ベストド外道

  1. 牧師(ガイ・ピアース)(ブリムストーン)
  2. リチャード&スタン&ディミトリ(ケヴィン・ヤンセンス&ヴァンサン・コロンブ&ギョーム・ブシェド)(REVENGE リベンジ)
  3. グルナー(レイ・スティーブンソン)(コールド・スキン)
  4. 登場人物の大半(ローライフ)
  5. ジェレマイア(ライナス・ローチ)(マンディ 地獄のロード・ウォリアー)
「唾を吐きかけられるのは外道、吐きかけられた唾を進んで舐めるのは訓練された外道だ!」と『SAVAGES 野蛮なやつら』以来考えてるのですが、これにバッチリ当てはまったのが2018年のガイ・ピアースでしたよ。




2018年ベスト名言

  1. 「将来について話し合おう」(ボーダーライン ソルジャーズ・デイ)


2018年ベスト迷言

  1. 「シャークネードと戦うときにはあれこれ考えるな。実行あるのみだ」(シャークネード ラスト・チェーンソー)
  2. 「ポンッ!!」(カメラを止めるな!)
  3. 「カンパイ(メロイックサインしながら)」(ザ・アウトロー)
  4. 「孫文パワーだ!」(怪怪怪怪物!)
  5. 「ダクトテープは何でも直せる」(スカイスクレイパー)
今年は名言が少ない……というより、あったような気もするんだけどあとでメモできるほど記憶していなかったんだよな。そんな中、デル・トロ的進路指導の恐怖が……
そして迷言は「ポンッ!!」の一人勝ちかと思ったら、やはりサメ台風はいろんな意味で強かった。



2018年ベストソング

  1. This Is Me(グレイテスト・ショーマン)
  2. Volver, Volver(LUCKY ラッキー)
  3. PBNJ(パティ・ケイク$)
  4. ダー・スメルチーーー!!(霊的ボリシェヴィキ)
  5. Burn(聖なる鹿殺し キリング・オブ・ザ・セイクリッド・ディア)
  6. I Get Overwhelmed(A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー)
  7. 末日鬧鐘(怪怪怪怪物!)
  8. Venom(ヴェノム)
  9. Bye And Bye We're Going To See The King(ザ・ヴォイド)
  10. Monster Mash(ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談)
1位、映画自体はバーナムの人生そのものを紙芝居仕立てのハッタリ劇場にしてたけど、その中心に据えられたこの歌はまぎれもない本物だったよ。





2018年ベストサントラ

  1. ボヘミアン・ラプソディ
  2. パティ・ケイク$
  3. ヘレディタリー 継承
  4. 北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ
  5. グレイテスト・ショーマン
  6. ゆれる人魚
  7. デス・バレット
  8. マンディ 地獄のロード・ウォリアー
  9. キングスマン ゴールデン・サークル
  10. デッドプール2
1位は何と言うかね、もうしょうがないよね。伝説としても極私的好みとしても。と同時に、ライバッハベスト盤みたいな4位も忘れないで欲しいけどな!




2018年ベストオープニングショット

  1. 68キル
  2. RAW 少女のめざめ
  3. デッドプール2
2位の衝撃も3位のウルヴァリンいじりも最高だけど、あの1ショットに主人公の置かれる状況をまとめた1位が最高すぎた。あのオープニングが2018年映画生活の幕開けになった自分も幸せだ。



2018年ベストドレッサー

  1. シガニー・ウィーバー(レディ・ガイ)
  2. ルビー・ローズ(ピッチ・パーフェクト ラストステージ)
  3. 第六天魔王ジョーカー(ニンジャバットマン)
  4. レッド&マンディ(マンディ 地獄のロード・ウォリアー)
  5. オーシャンズ8の皆様
シガニー・ウィーバーのスーツ&タイ姿は、ほぼ同時期公開の『キングスマン』メンバーすらひよっ子に映るレベルの強さでしたよ。あと4位の『マンディ』は映画終わると同時に44ラグランTを買ってしまったもので。



2018年ベストここはオレに任せて先に行け

  1. ファン・テスル(ユ・ヘジン)(タクシー運転手 約束は海を越えて)
  2. ジェイク・ローソン(ジェラルド・バトラー)(ジオストーム)
  3. ネブラスカ・ウィリアムズ(トレヴァンテ・ローズ)(ザ・プレデター)
  4. アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)(ボーダーライン ソルジャーズ・デイ)
  5. トシ(マシ・オカ)(MEG ザ・モンスター)
タクシーマッドマックスで、韓国曲者バイプレイヤーで、ここまでグッとくるとはなぁ。
そしてこの面子の中、2位のジェラルド・バトラーだけ「任せといても余裕で大丈夫」度合いが半端ない。



2018年映画に学ぶ間違った教訓

  1. シラットが使えれば宇宙人が攻めてきても勝てる(スカイライン 奪還)
  2. クライマックスにおけるステイサムの有言実行(MEG ザ・モンスター)
  3. 五城は合体する(ニンジャバットマン)
  4. 肋骨は1本折れてもまだ○本ある(ピーター・ラビット)
  5. ピンチのときにこそヴァンダミング開脚はできる(パディントン2)
シラットに関しては、「敵に囲まれまくっても大丈夫」(『ザ・レイド』シリーズ)と、「記憶喪失になってもシラットさえあれば大丈夫」(ヘッドショット)という教訓も得てきました。



2018年映画に学ぶ正しいけど使いどころのない教訓

  1. 坐骨神経に傷をつけてガソリン液をかけると死ぬほど痛い(デス・ウィッシュ)
  2. 頭部に確実にダメージを与えるには硬いものを口に噛ませること(レザーフェイス 悪魔のいけにえ&孤狼の血)
  3. スイカ以外を対象にスイカ割りするとヤバい(SPL 狼たちの処刑台)
  4. ダクトテープ万能説の証明(スカイスクレイパー)
  5. 腹ふり党≒夏フェス(パンク侍、斬られて候)
使いどころのない教訓は痛い話が多いな……




2018年映画夢のガジェット

  1. オルゴール指輪(デス・バレット)
  2. クリーパーさんの魔改造車(リターン・オブ・ジーパーズ・クリーパーズ ジーパーズ・クリーパーズ3)
  3. メモリ11まであるマーシャル・アンプ(スパイナル・タップ)
  4. トレホさん操縦のロボ(アイアン・スクワッド 鋼鉄戦線)
  5. ロボオ(ハード・コア)
カッテ&フォルツァーニは、『The Strange Colours Of Your Body's Tears』の「不協和音の流れる透明なガラス盤のレコード」みたいに絶妙に美しく退廃的なアイテムをよく作り出しますよね。
2位の魔改造車は対盗難・車上荒らしのセキュリティが抜群だけど、運転してる本人が引っかかるリスクもあります。





2018年映画に学ぶ「物理」学

  1. 異常気象を止める(物理)(ジオストーム)
  2. キューピッドの恋矢(物理)(マガディーラ 勇者転生)
  3. アクマカンコウサッポウ(死霊館のシスター)
ちなみに、実際の物理の勉強は、高校で常に赤点ギリギリのレベルでした。

2019年1月13日日曜日

2018年映画極私的ベスト10

2018年=スクリーンが現実を侵食する。

3DやIMAXとはまた違った意味で、スクリーンの中の世界が客席へあふれてくる作品に恵まれた1年でしたよ。もっとも、あふれてくる世界が「恐怖」っていうのが多いんだけど。


1位 霊的ボリシェヴィキ
あの『リング』でさえまだ親切だったと思える。「向こう側」と「こちら側」がブラウン管TVという敷居で区切られていて、さらに向こう側からくる何かが「貞子」という具体的な形を取っていたのだから。「向こう側」「こちら側」の境界が曖昧向こうから何がやってくるのかも曖昧というよく分からない不安感は、瞬く間に客席をも呑み込んでいったのでした。ダーー・スメルチーーーー!!


2位 恐怖の報酬 完全版(ウィリアム・フリードキン)
果たして日本初公開だからって新作扱いでいいのだろうかと迷ったが、上半期の時点で同じく日本劇場初公開の『スパイナル・タップ』をベスト10に入れていたから今更だよな……と新作ベスト扱いに。
映画が終わって退席するころには「疲れた……」の声が客席のあちこちから聞こえてきたものだが、悪路でニトログリセリンを運搬するプレッシャーを観客がスクリーン内と共有するのだから無理もない。それだけでもいっぱいいっぱいなのに、爆弾テロの生々しさ、突然の自殺、幸せじゃない結婚式など「厭」が所かまわず敷き詰められている。フリードキンの鬼スピリットを浴び続ける2時間だよ。


3位 カメラを止めるな!
数多あるポンコツゾンビ映画をキライになれない理由はこういうことかもしれない……と思わされる。当事者には災厄と混乱のオンパレードだが、その中で生まれた映画作りの理想的ともいえる姿には爽やかさと感動すら残るのである。しかしまさかここまで世界を席巻する「ポンデミック」になろうとは……。


4位 怪談新耳袋Gメン冒険編 前編・後編
今回のミッションは本当に体力ゲージの上でもハードモードで、日ごろ運動不足マンには心底しんどい。走り屋の車がビュンビュン通る山道を歩き、岬で心霊リレートンネル1kmウォーキングガチ登山……そのストイックさが笑いと紙一重という新Gメンのスタイルが今回で確立されたように思える。
そんな中、崖下から這い上がってきた田野辺さん「ぶるんぶるん」に続く名調子を生み出した今宮さんの帰還など名シーンには事欠かないが、恐怖より缶チューハイを優先し霊安室で爆睡した西村監督がやはりMVP。


5位 ブリグズビー・ベア
『カメラを止めるな!』とは違った形の映画作りの理想形であり、『ヘイトフル・エイト』とは異なる魅せ方のフィクションの力を信じたくなる作品。何より作品づくりの楽しさの一番純粋なところを抽出しているから幸せだ。たとえ歪んだ形で作られた映画であっても、それが心に響き血肉に染み込んでいる人間のことまでも否定することはできない。そしてマーク・ハミルの貢献を称える映画


6位 ヘレディタリー 継承
完璧にして甘美な地獄。今までこうだと思っていた家族の姿や自分の世界にヒビが入っていく様子や、最悪な出来事が降りかかる瞬間は、考えうる限り一番厭な形で描かれる。着地点は実はさほど目新しいものではないのだけれど、そこまでに積み重ねた「厭」の勝利です。あと、崩壊していくトニ・コレットや、そこに佇むだけで不思議な空気を醸し出すミリー・シャピロなど、顔の力の勝利でもある。


7位 RAW 少女のめざめ
人肉食という異様で病んだ形で描かれてはいるが、実は真髄はピュアで普遍的な思春期もの。また、カニバリズムを介して姉妹愛や性愛が結びつく様子が、「愛する人に生きたまま食べられることは究極の愛の形態」というマンソン師匠の言葉を体現しているよう。そして、『変態村』『地獄愛』で暴投すぎる愛を受け止め続けてきたローラン・リュカが父親役であることにも大きな意味がありました。


8位 ゆれる人魚
こちらも体の変化を迎えた少女=人間になりたい人魚とした、思春期をファンタジーホラーとして描いたもの。王子ってアホな上にヒドいよな、人魚姫は優しすぎるよな、何かこう溜飲を下げる道が欲しいよな……と思った大人のための『人魚姫』でもある。それらを監督自身が経験したポーランドのナイトクラブ・カルチャーやミュージカルでくるんだ不思議テイスト。


9位 スパイナル・タップ
本当は88年の映画だけど、日本初劇場公開なので新作扱いにしてしまった。その昔DVDで観たときには、日本語字幕がポンコツすぎるあまり内容が全くアタマに入ってこなかった。その悲劇を乗り越え、どっかで観た覚えありすぎるロックバンドあるあるに数年ぶりに笑うことができた! ストーンヘンジ! マーシャルアンプ! ありがとうキングレコードさん!


10位 マンディ 地獄のロード・ウォリアー
パノス・コスマトス監督のスローで「静」の狂気を放つ極彩色トリップ空間に、一人血まみれでブチ切れる「動」の狂気ニコラス・ケイジという組み合わせが何故か異様に相性良し! マンディのためのレッドの復讐譚でありつつ、監督の前作『Beyond The Black Rainbow』のぶんの復讐も成し遂げられたように思える




次点(たくさん):
『68キル』(ヤバい女とアホまたはサイコな男しか出てこないド底辺バイオレンス!)

『Z Inc. ゼット・インク』(今なら最低な上司をぶっ殺しても正当防衛! こんなウィルスなら感染したいかもしれない爽快な不謹慎!)

『ボヘミアン・ラプソディ』(フレディ・マーキュリーの "伝記" ではなく "伝説" なのです)

『殺人者の記憶法』(アルツハイマーの元殺人鬼vs現役殺人鬼! 安定の韓国特濃暴力)

『ニンジャバットマン』(無茶苦茶をやるなら徹底的にやれという見本です)

『デス・バレット』(青い海と陽光が美しいのに荒涼としている、ネオ・ジャーロとウエスタンの合体)

『怪怪怪怪物!』(監禁されるのがいたいけな少女ではなく人食いの怪物でも人間は怪物と化してしまうという、スクールカースト交えの『隣の家の少女』)

『パディントン2』(可愛いクマさんの絵本物語を難民の物語に置き換えて描くなど、誰が想像できただろうか……)

『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』(北朝鮮でライバッハという何が生まれるか分からない劇薬化学反応かと思いきや、社会主義を生き延びたライバッハの柔軟さを見せられました。あと北朝鮮の通訳さんが苦労性)

『ファミリー☆ウォーズ』(口やかましい家族至上主義を筆頭に登場人物全員クズ! クズ同士のぶつかり合いつぶし合いがアブない&痛快!)



2018年裏ベスト

1位 シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2018予告編

直接動画を貼れなかったのでリンクはこちら
千葉繁さんのハイテンションナレーションにすごく元気もらえるので、ヒューマントラスト渋谷のロビーで流れてたらメンタル充電のために観にいったぐらい。




2018年リバイバル映画ベスト10


1位 エルム街の悪夢(in TOHOシネマズ六本木ヒルズ/東京国際映画祭オールナイト 金曜洋画劇場)
2位 ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ(in 立川シネマシティ)
3位 爆裂都市 BURST CITY(in Zepp Divercity&キネカ大森)
4位 ロボコップ(in TOHOシネマズ六本木ヒルズ/東京国際映画祭オールナイト 金曜洋画劇場)
5位 ブルース・ブラザーズ2000(in 立川シネマシティ)
6位 リターン・オブ・ザ・キラートマト(in シネマカリテ/カリコレ2018)
7位 バタリアン(in 国立映画アーカイブ/現代アメリカ映画選集)
8位 ラスト・アクション・ヒーロー(in 新文芸座)
9位 キャプテン・スーパーマーケット 死霊のはらわたⅢ(in 国立映画アーカイブ/現代アメリカ映画選集)
10位 ミッドナイトクロス(in シネマート新宿/のむコレ)

私、その昔『エルム街の悪夢』を劇場で観賞するを見たことがあるのですが、そこで上映されてた素材はなぜかあちこちカットされまくっていて、フレディの見せ場まで減っているという最悪なシロモノでした。今回はまぎれもない現実に、完全な状態&オールナイトの一番眠くなるはずの時間帯という完璧なシチュエーションでホンモノを観る事ができて、まさに夢のような体験ですよ。


2018年未公開映画ベスト5
1位 ミッドナイト・スペシャル
2位 マザー!
3位 ヒットマンズ・ボディガード
4位 軽い男じゃないのよ
5位 XX

もしかすると一昨年配信の作品も含まれているかもしれませんが。『ミッドナイト・スペシャル』は『テイク・シェルター』と二本立てで上映してもいいんじゃないかと思うよ。



2018年ドラマベスト3
1位 ツイン・ピークス ザ・リターン
2位 ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス
3位 マインドハンター
4位 ストレンジャー・シングス
5位 SICK NOTE

せっかく加入しているし(値上げもしたし)Netflix料金をムダにしたくないので色々観るようにしました。と言いつつ1位は(今のところ)配信でないドラマなんだけど……コレはもう仕方ないよ! リンチが本気出したんだもの!!