2014年9月4日木曜日

新橋文化劇場閉館に寄せて

グラインドハウス体験をありがとう。

2014.8.31. 新橋文化劇場、閉館。



ある人にとっては懐かしいと映るだろう(私の母はこちら寄り)。うるさいし落ち着かないしあまり居心地よくない、という人もいるだろう。私の目には、この劇場はとても斬新に映った。

JRの高架下という、通常ならまず考えられない立地条件。

ロビーなんてものは存在しない。入ったら直でスクリーン。

たとえ上映から1時間近く経過していようと入ってもいい、終わりまであと1時間以上残っていようと出て行ってもいいという、入れ替えなしのフリーダムさ。

トイレは……と探してみれば、まさかのスクリーン両脇。上映中に誰かがトイレに立てば、必然的に映画の隣から蛍光灯の光がだだ漏れる(特にメンズ側)。

ひざ掛けの貸し出しはやっているのでこれ幸いと頼んでみれば、相手がメタルT着用であろうとゴス風であろうと、果てはあまりシャキッとしてなさげなおじさんであろうと、容赦なく手渡されるピンクのリラックマブランケット。

さらに容赦のないことに、たとえ緊迫のシーンであろうとキメのシーンであろうと、頭上を通過していくJRの車両の音。

おまけに客席も、居眠り率が高く、ビニール音とコンビニ飯臭は常習的に存在。ヒドければ前方から脂臭が漂ってきたり、イビキが聞こえたり、屁テロ事件さえ発生した。

そんな劇場なのに、あんなにも居心地が良かったのはなぜなんだろう。

↓スクリーンの左右に注目していただきたい。
お分かりいただけただろうか……?

映画オタクが常に映画を全身全霊で、敬意をもって観ているかといえば、決してそんなことはない。ものすごく地雷臭いんだけどあえてスクリーンで……と思って劇場で観賞したものの、途中から「自分が監督だったらああしてこうして……」と脳内編集を始めてしまうこともある。
一方、地上波放映の洋画劇場をダラダラながら観するつもりが、スナックをバクバクしながらつい最後までマジメに観てしまうこともある。マジメにならなくても何となく最後まで観てることもある。

新橋文化劇場はそういう体験ができる劇場だった。一般のシネコンやキレイな劇場とはちがった、どこかダラけた空気だからこそ引き出せる映画の魅力があの高架下にあった。そういう魅力を引き出せる上映作品チョイスも優れていた。
タランティーノ映画で初めて知った「グラインドハウス」とは、こんな感じに近いのではないだろうか。二本立て上映も入れ替えなし出入り自由もリアルタイムで経験したことのない人間なので、いわゆるグラインドハウスに関しては、タランティーノや町山智浩さんの話から想像することしかできない。
だから明言はできないけど、新橋文化はそうした話に聞くグラインドハウスに限りなく近い空気を体験できる劇場だったのかもしれない。あの居心地の良さには、映画オタクとしての憧れ空間に近づけた満足感も含まれていたのだろうな。

↓過去に上映してた作品。観たかったよ。
特に『悪魔のいけにえ2』、密かにリクエストしてただけに……

こうした映画のラインナップは、新文芸坐あたりが継承してくれると思う。というより、新文芸坐は新橋文化と並んで濃ゆい二本立てやオールナイト企画を実践してくれる名画座だ。今は亡きシアターN渋谷のスピリットだって、ヒューマントラストシネマ渋谷が受け継いでくれた。
ただ、高架下という環境と、決して汚くはないが適度に清潔すぎないあの空気は、おそらくもう再現できまい。自分にとってのグラインドハウスは、きっと失われたままだ。それに、あの見世物小屋のハイレベルな呼び込みさんのような、センスあるツイートの数々をもう見ることができないのも寂しい限り。基本、金持ち頼みなこと言うのは気に入らないんだけど、今回ばかりは言ってしまいたい。

あーあ、高架下のスペースを買い取って、映画館をつくって、ピカピカにしない程度に整備して、フィルム取り寄せて、新橋文化のTwitter担当さんを雇ってオープンしてくれるオタクな資産家が出てこないかなぁ!!!

ありがとう、新橋文化劇場。って言葉でも足りないぐらいありがとう、新橋文化劇場。
そして足を踏み入れるチャンスがなくてすみません、新橋ロマン劇場。


ホントにそうだよね、新橋文化劇場。

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