2015年4月20日月曜日

ホラー・シネマ・パラダイス

世間よ、これがホラーファンだ。

ホラー・シネマ・パラダイス('10)

監督:ジョシュア・グラネル
出演:ナターシャ・リオン、トーマス・デッカー

  

「世界には僕を見てほしくない/理解してるとは思えないから」(グー・グー・ドールズ『Iris』)という歌詞は好きだけど、実際のところは世間に自分みたいな人間を多少なりとも理解していただきたいからこの記事は見てほしい。特にこの手のジャンルの話に関しては。

愛する父から受け継いだ映画館ヴィクトリア・シアターを運営しているデボラ。深夜のホラー上映だけが売りの劇場は観客もまばらで経営難だが、劇場を敬愛する映写技師トゥイグスは無償で働き続けてくれるし、ホラー映画を愛する高校生スティーヴンも足しげく通い詰めていた。だが、デボラの意地悪な母は勝手に映画館の売却話を進め、罵りまじりに契約書へのサインを要求。
逆上したデボラは、衝動的に映画館のロビーで母を殺してしまった。しかも、その夜の上映作品の映写機をスタートさせるつもりが、パニックのあまり先ほどの殺人を映した監視カメラの映像をスクリーンに流してしまった。だが、その映像はよくできたアマチュアスラッシャー短編と勘違いされ、スティーヴンら観客に大ウケ。
ここに映画館再生の道を見出したデボラとトゥイグスは、サイコで暴力的なメンバーを迎え入れ、本物の殺人ショートフィルムを次々作成し上映。評判はたちまち拡散し、ヴィクトリア・シアターには観客が殺到、デボラは一躍新進気鋭のホラー監督として有名に。スティーヴンもファンとしてデボラの成功を喜ぶが、次第に映画の中の殺人は本物ではないかと気づき始める……。

陽気なスラッシャーを観にきたつもりだった。いや確かに陽気なスラッシャーを存分に楽しんだ。しかし同時に、「ホラー映画(特にスラッシャーもの)を楽しむ人=あなたとは」という姿を、ホラー好きのスティーヴンを鏡として見せてくる映画でもあった。

言うまでもなく私はホラー/スラッシャーが大好きだ。登場人物のエグい死に様が好きだ。殺人鬼の不気味な佇まいや非道な性格が好きだ。
しかしそうやって笑っていられるのは、今スクリーンの中で起きている死は現実じゃないと知っているからこそ。もしスクリーンに映っている殺人が本当だとしたら、この映画のために惨殺された人が本当にいたとしたら、それはきらびやかな悪夢じゃなくてただの悪夢だ。現実の死は基本的に悲劇でしかない。だから、デボラの映画が本物の殺人と知ったとき、スティーヴンの心はたちまち彼女から離れていく。

しかし、世間の目はむしろ逆。ホラー好きってことは何か心の闇でも抱えているんじゃない? ホラー好きは変質者に決まってる! ホラー好きなんだからそのうち事件を起こすに違いない! 
……と、親から同級生から教師から、スティーヴンに対する風当たりは厳しく、デボラの起こした殺人事件(傍目には失踪事件)でスティーヴンが疑われるというとばっちりすら受ける。中でも「マリリン・マンソンだって教師が彼のことをもっと気にかけていればああはならなかったはずよ」というスティーブンの担任の言い分には「ふざけんなぁぁぁ!!!!」と劇場で立ち上がりたい気持ちになりましたね。気持ちだけは。

ホラー好き=異常者なんて安直な発想だなぁ……と悠長なこと言っていたいけど、現在の日本においては前述の「ホラー」を「萌え系アニメ」に置き換えたような論調が存在するだけに、対岸の火事には思えない焦燥感よ。

本作はスクリーン上に本物の殺人が映される悪夢を描いているのだが、そもそもこの作品自体もちろんフィクションなので、極彩色と濃いキャラたちとノリの良さがブレンドされた楽しい悪夢だ。
『All About Eve(イヴの総て)』をパロったタイトルから、昔のホラー映画ポスターをパロディにしたオープニングクレジット、それに「Kill her, mommy」「It's only a movie」みたいなベタベタな引用もイイ。

中でも最高のブラックユーモアは、デボラ作の殺人ショートフィルムの使われ方。携帯で喋りっぱなしのゴス女のおっぱいをギロチンにかける映画=「上映中の携帯はオフに」、お喋りで声もデカイ女の口を縫い合わせる映画=「上映中はお静かに」という劇場マナーCM映画なのだ! マジでマナーCMとして各劇場で上映してほしいぐらいですよ! これ観てドン引かないくらい心臓の強いお客さんしか来なくなっちゃいそうだけどね!!

そういえば、本作のジョシュア・グラネル監督、何と本作に出演しているドラァグクイーンのピーチズ・クライストさんその人であることが判明。もしや、濃いキャラアンサンブルや世間の偏見を描くのが上手いのはここに起因するのでしょうか……?

↓監督さん(映画出演時モード)。


ちなみに、そんな濃いキャラ祭りの本作における極私的MVPは、デボラの映画製作クルーに勧誘された暴力人間エイドリアンを演じるノア・セガンド変態なぐらいが面白いという稀有なイケメンであることが証明された。ノアといえば『LOOPER』のキッド・ブルー君だったが、やること成すこと空回りのブルー君よりエイドリアン君のほうが何百倍も人間としてダメだよ(スラッシャーものの加害者においては褒め言葉だよ)。
あと、登場から退場に至るまで不機嫌顔を崩さない美人殺人鬼双子ちゃんも良かったなぁ。
スティーヴンのお母さんだって実はエルヴァイラの中の人だったし……。

改めて言おう。陽気な極彩色スラッシャー万歳!!!

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