2015年4月4日土曜日

The Devil's Carnival

捨てる神あれば、拾う悪魔あり。

The Devil's Carnival('12)
監督:ダーレン・リン・バウズマン
出演:テレンス・ズダニッチ、エミリー・オータム



遥か昔、保育園に置いてあった紙芝居『蜘蛛の糸』は、その地獄絵図の生々しさゆえに私を含めた園児たちのトラウマになった。
それにひきかえ、成長してから映像作品で観てきた地獄は、キリスト教的価値観に対する反発が強いアーティストのものが多いせいか、活き活きしてて天国よりも楽しそう。
地獄の怖さを教え込むのも道徳教育の一手段ではあったと理解はしているものの、ポップな地獄を知った今となっては、あのときのトラウマ体験を返せこの野郎! との一言も言いたくなりますよ。

作り損じの人形=出来損ないの魂をゴミ箱へ捨てる神。今宵も3つの魂が捨てられた。幼い息子の死を悲しむあまり自ら命を絶ってしまったジョン。悪質なボーイフレンドから逃げようとして殺されたタマラ。警察に包囲され射殺された宝飾品泥棒のメリーウッド。
気が付くと3人は、色鮮やかながら毒々しいカーニバルの会場=地獄にいた。地獄はルシファーが主催するカーニバルであり、堕ちてきた人間たちの罪を童話になぞらえてショーを催していた。メリーウッドは「犬と肉(The Dog and Her Reflection)」、タマラは「サソリとカエル(The Scorpion and The Frog)」、ジョンは「悪魔とその対価(The Devil and His Due)」のショーへ……

本作における地獄とは、神が失敗作の人形=魂をポイするゴミ捨て場
盗癖のあるメリーウッド、キリスト教におけるタブーである自殺を選んだジョンはもとより、深く考えずに悪い相手を信じてついていく悪癖はあるものの罪深いとはいえなさそうなタマラですら地獄行きなのである。
つまり、己の美意識にそぐわない魂を簡単に捨てる神は、堕ちてきた魂をカーニバルの出し物として弄ぶルシファーと同じくらい悪辣な存在として描かれている。「無垢な子どもを殺すのは悪魔の仕事ではない。神の権限だ」とは本作のルシファーの弁。

むしろ、「堕ちた魂を拾い上げてくれる」と解釈すれば、ルシファーのほうが神よりずっと懐が深いのではないだろうか? 
罪を童話になぞらえたショーを見る限り、神よりユーモアを解しているのではないか? 
不気味でありつつ活き活きとして陽気なカーニー(カーニバル構成員)たちを見る限り、天国より地獄のほうがよほど楽しそうなのではないか? 
……と思ってしまったら、それはもうルシファー(を演じスコアも担当しているテレンス・ズダニッチ)の術中にどっぷりハマっている証拠。新たなるカーニーとして一緒に歌ってはどうでしょうか?

Repo! The Genetic Opera』といい本作といい、ダーレン・リン・バウズマンの本領は『SAW』シリーズよりもこうしたホラーミュージカルじゃないかと考えている。バウズマンの描く毒々しい世界観と、グロテスクなテーマを扱いつつ時にポップ時にロックなテレンス・ズダニッチの音楽は、実に相性がいい。
本作はカーニバル音楽らしい明るさと毒を持ち、なおかつショーの中心人物になるカーニーたちのステージには、それぞれの持ち味が活きるソロがある。バリトンがステキなホーボー・クラウンの「A Penny For A Tale」や、ゴシック風味のペインテッド・ドールの「Prick! Goes The Scorpion's Tale」、ルシファー自らもステージに立つ「Grace for Sale」など。
エンド・クレジットに入ることになったルシファーとタマラの「In All My Dreams I Drown」も、本編漏れが惜しいほど。

なお、メインを張らないカーニーたちでも、ウィック役のアレクサ・ヴェガやマジシャン役のビル・モーズリィ(チョップトップ兄さん!)など実に濃いキャラクターが集っているから楽しい。しかも神様はポール・ソルヴィーノだし、だいたいのRepo! メンバーがリユニオンしてます。
ロックファン的にはスリップノットの#6クラウンことショーン・クラハンが出演してるのも嬉しい。喋らないけど……。

ところで本作のランタイムは55分と、映画にしては異常に短い。それは、本作がシリーズとしてスタートしたものの、実はバウズマン監督が自腹で製作費を出しているのでキツキツだから……という世知辛い理由もあるけどそれだけじゃない。アメリカ各地での上映会に監督や出演者たちが登場し、さらに観客は本作やRepo! のキャラクターのコスプレでやってくる、ここまで体験してのデビルズ・カーニバルだからである。まさに移動式カーニバルな形態で本作を楽しめる、アメリカのファンたちが羨ましい限りですよ!!


本編には入らなかったルシファーとタマラのデュエット「In All My Dreams I Drown」。
監督の真意は不明だが、タマラをカーニーに迎える意図があったのでは……と推測されている。
だとしたらやっぱりルシファーのほうが神よりイイ奴じゃないかよ。

何と、続編製作費も確保できたようで、すでにトレーラーが!!
いざ、天国へ殴り込みか!?

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