2016年3月22日火曜日

未体験ゾーンの映画たち2016

パーティーで……いや劇場で会おうぜ!!

未体験ゾーンの映画たち2016
2016.1.2.~2016.3.11. ヒューマントラストシネマ渋谷

未体験ゾーンの映画たち2014の記事はこちら
未体験ゾーンの映画たち2015の記事はこちら


「この冬はヒュートラ渋谷があったかいんだから~!」にダマされるな!
ヒュートラ渋谷は熱湯風呂だ!!
35回ドボンしたけどな!!

本数が増えると、その分玉石混交(石多め)になっていくんじゃないか……とか思ってたけどそんなことはなかったぜ! というか今年は50本もありながら、玉のほうが多いんじゃないのか? ああ、こんなにイイ映画たちがDVDスルーの憂き目に遭いかけていたのか!! なんてキビしいんだろうな映画配給の世界って……。
そういう意味では、2014年から何度も言っている通りつくづくこの企画に感謝だが、各配給会社が未体験ゾーン参加作品を選ぶ際、ファンタジーやファミリー向けは社内で落選しているらしいとのこと(未体験ゾーンパンフレット収録・配給会社座談会より)。そういえば、劇場ロビーで未体験ゾーンのポスターを見た女子高生たちが「怖そうな映画ばっかりなんでしょ?」と喋っていた。度胸があれば「そんなことねぇよ!」って言いたいけど、実際「各国から集結したあらゆるジャンルの映画」といっても、大半を占めるのはホラーとかサスペンスとか血みどろアクションだから、彼女らもそんなに間違っちゃいなかったんだよなぁ。
もしも来年以降、配給会社さんが思い切ってファンタジー/ファミリー作品を送り込んだとしたら、未体験ゾーンの客層にも変化があるのだろうか? うーん、どう転ぶか分からないけど、そんな試みがあったらまた面白いだろうなぁ。


未体験ゾーンの映画たち2016ベスト


1位 デス・ノート(原題:Let Us Prey/ソフト化後題:デッド・ノート)

「どうせ便乗タイトルだしなぁ」と邦題で軽くみられがちなのだが、邦題のことはいったん忘れて観てみてくれ! 作品自体は小粒でも、オカルトベースでありながら怒涛のゴアゴア祭りへと突入する傑作ホラーなんだ! そして、リーアム・カニンガム演じる謎の男の最後のセリフは、2016年最高クラスの殺し文句にして口説き文句なんだ!!


2位 アメリカン・バーガー

2016年の劇場観賞映画第1号の栄誉を持って行ってしまったバカ。徹頭徹尾バカ。タイトルを『アメリカン・バーカー』と書き間違えても間違いじゃないくらいバカ。正体はアメリカ人バカの皮を被ったスウェーデンのバカバカなアメリカ人&バカなアメリカ映画の概念は国境を越えてほぼ共通なのだ。


3位 バンド・コールド・デス

時代を先取りしすぎた音楽ゆえに、35年も寝かされてきた黒人パンクバンド・デスのドキュメンタリー。あまりにも映画的な現実の物語は、ときに残酷だがときに劇的。初めて聴いた人間誰もが涙ぐんだり鳥肌立ったりしたというデスの音楽は、本当に衝撃的なカッコよさだった。


4位 私はゴースト

古典的でもあり斬新でもあるホラー。実験的映像かと思っていたら、ラスト15分に心底ゾッとさせられ、エンドクレジットの頃には切なささえ覚える。


5位 グッドナイト・マミー

今年の未体験ゾーンの厭な映画No.1。ママが今までのママじゃないという不安、彼女は本物のママなのかと疑う双子が取る最悪の手段、そしてサイズがでかい大量のG……と厭な描写がこれでもかと続く。しかし何より厭なのは、思いの違いから生まれた深い断絶。これがまた厭な結末を招くのである……。よくアカデミー外国語映画賞にノミネートされたなぁ。


6位 ブレイキング・ゴッド

『ブレイキング・バッド』に引っかけたいがあまり血迷った邦題で、共同監督/脚本/主演が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のオーガニック・メカニックことアンガス・サンプソンとあっては一体どんな珍作かと思われるが、これが実にしっかりした構成。素人が麻薬ビジネスに手をだして窮地に追い込まれる映画は多々あれど、本作は飲み込んだ密輸ヘロインが出てきたら逮捕されるからひたすらウ○コを我慢するというド底辺のピンチ。警察も容疑者がウ○コするのをひたすら待つという文字通りヨゴレ仕事。しかもこれがおおむね実話に基づいてるんだからある意味ヤな話。その中でももっともヤな描写をやってくれたのはもちろんアンガス。さすがオーストラリア代表変態怪優


7位 ライアー・ハウス

ほぼトレーラーハウス内だけで、大金の行方を巡って腹の探り合い&騙し合い&殺し合いがくり広げられ、金を巡る争いだけでこんなに血肉が……というほどの死体処理ゴアゴア祭りへ。といっても、ディスポーザーが詰まってブツブツ言ったり、ミキサーが壊れてアワアワしたり、煙が立ち込めすぎてゲホゲホしたりと、状況のグロさに反してカラリと能天気な笑いあり。数少ないキャラクターたちが皆ド田舎のヤな奴オーラを醸し出しているのがイイが、特にジーナ・ガーションは齢を経てまたイイ顔になっていた。目元のくすみもほうれい線も、もともと低かったのがさらにしわがれた声も、一般的に女優にはマイナス評価になるところがすべて彼女の強みだったよ。


8位 SPY TIME

冴えない男と思っていた父親は実はベテランスパイで、冴えない息子も実は父親にスーパー殺人技を仕込まれたスパイ予備軍だった!? スペイン産・コミック原作の007パロディ系スパイ映画。スパイの世代交代であり、親子の物語であり、若者の成長劇でもあり……だからある意味『キングスマン』でもある。確かに007やキングスマンに比べたら遥かに低予算だけど、敵は切手に投資失敗して資金難&味方も予算削減で部門縮小という背景アイディアの妙でカバー。コメディではあるけれど、バイオレンスには意外と容赦がないし、決して甘くはない結果も突き付けてくるし、エロはなくても大人の映画だ。


9位 クリミナル・ミッション

『ウォッチメン』のロールシャッハあるいは2代目フレディことジャッキー・アール・ヘイリーの監督デビュー作。「大物から小物まで裏社会の野郎どもが右往左往(ブロマンス要素は皆無で単にムサいだけ)」という初期ガイ・リッチーテイストが個人的に大変好み。ついでに、大どんでん返しというほどではないにしろ、話のツイストも仕込んであったのでお得感も味わえた。もっと言えば、ジャッキーさんの最大チャームポイントたる頭蓋骨後ろの出っ張りを長々と拝めたのもお得だった(たぶん私だけだろうが)。


10位 死の恋人ニーナ

セックスするたびにマットレスやシーツを血みどろにしながら現れる、彼氏の死んだ元カノ・ニーナ。これといって深い恨みも未練もないので、どうすれば成仏できるものなのかニーナ本人にも分からず、ただ現れては人のセックスを邪魔してグダグダ喋るだけ。そしてニーナが現れるたびに血みどろ寝具の後始末をしなければならない恋人たち。おかしさと哀しさと迷惑を振りまく、乾いた笑いのゴーストストーリーだった。



11位 ゾンビマックス! 怒りのデス・ゾンビ

2回も「ゾンビ」が入る「頭痛が痛い」系の邦題になってしまい、また低予算ゾンビ映画にありがちな「ダレやすい人間ドラマパート」という難点も継承してしまっているが、ゾンビが燃料になったり主人公の妹がゾンビ操作能力を手に入れたりという新しいヒャッハー感がテンションを上げてくれる。そして、「世紀末の世界を肩パット武装と改造車でひた走りたい」という願望は普遍なのだな……。


12位 グランド・ジョー

近年のニコラス・ケイジ出演作の中ではトップクラスの傑作が、危うくDVDスルーになりかけていたとは。本作のニコさんは、ド田舎で地味な重労働する人生どんづまり男だが、やさぐれ感の中からどうしても人の好さが滲み出るところがイイ味を出している。その人の好さが悲劇にもなり希望にもなる。ただ、車で流してる音楽がEyes Of Noctum=息子さんウェス・ケイジのブラックメタルバンドであるあたり、ぬかりないなと思ったよ。


13位 タイム・トゥ・ラン

すみません。デ・ニーロの名前が2番手に出ていたあたりで、去年の『コードネーム:プリンス』(ブルース・ウィリスの名前が2番手に出ていた)に該当する午後ロー系アクションだと思ってました。でも実際はイイ話でもある骨太なサスペンスでした(ちょっと出来すぎな展開もあるけど)。デ・ニーロもここ最近のB級映画に見られる省エネ演技じゃなかったし(失礼)。


14位 ラバランチュラ 全員出勤!

映画が始まって早々に火山が噴火して巨大タランチュラが現れ、サクサクとパニックが起きていくという実にテンポのいい展開。この脅威にポンコツたちが一丸となって、しかも自分たちの得意分野で立ち向かうのもベタながら気持ちがいい。これで『ポリス・アカデミー』のネタを知っていたらもっと笑えたのかもなぁとも思うが、今B級(というかZ級)モンスターパニックで有名人となったあの人がまさかのカメオ出演という特化すぎるサービスにありつけたからまぁいいか。


15位 スタング

主人公カップルの人間ドラマがわりとどうでもいいのが難点だが、そこは口が悪くて酒好きだけど若者に優しいランス・ヘンリクセン市長、挙動不審のマザコン男クリフトン・コリンズ・Jr.、そして人体を食い破って出てくる巨大殺人バチがいろいろとやってくれましたよ! ランキングからは漏れたけど『シャークトパスvs狼鯨』もあったし、今年の未体験ゾーンはモンスターパニックがアツかった。


16位 ビッグマッチ

『新しき世界』『観相師』と権謀術数を巡らす世界に生きるところばかり観てきたイ・ジョンジェが、人質にとられた兄貴を助けるため、仕掛けられたデスゲームにひたすら拳の直球勝負で挑む総合格闘家に。ゲーム首謀者に指示されて、やけっぱちでパラパラ踊りながらクリスマスソングをがなり立てるジョンジェは見どころ。なお、ゲーム首謀者を演じるシン・ハギュンのハイテンション演技は、だんだん長谷川博己に見えてくるよ。


17位 血まみれスケバンチェーンソー

今年初めて未体験ゾーンに邦画が殴り込みをかけた。そんな記念すべき年の記念すべき作品は、意外と人望の厚いスケバン女子高生が改造チェーンソーで改造死体と化した同級生たちと戦うという実に潔いバカだった! 技術部さんにマシンガンや伸縮機能までつけてもらったチェーンソーは、デザインにリアリティはないがぶん回してみたくなること請け合い。


18位 ザ・ラスト・ウォーリアー

チラシでは『300』や『ヘラクレス』と並べられていたが、どちらかというと『アポカリプト』の系統な土着性と血を感じさせる映画。とにかく、呪われた土地に一人棲む伝説の戦士がスゴい!! たった1人で、巨大しゃもじのような武器を駆使して敵を何人も倒す最強ぶりもさることながら、一目見ただけで「こいつには勝てねぇ……!」と思わせてくれる顔面力の凄まじさたるや!! しかも食人族でもあるなんて……なんてハイスペックなんだぁぁぁぁぁ!!!


19位 ザ・ハロウ

アイルランドの神聖な森に潜むクリーチャー=ハロウが、赤ん坊を狙って夫婦を襲撃する。「夜の森は怖い」という根源的恐怖を思い出させてくれる一本である。ほとんど暗闇で、何かがいてもこれだけ木々が生い茂っていては分からないものな。暗闇だからといって、ハロウを出し惜しみしすぎず襲撃するところはきっちり見せるのがエラい。


20位 口裂け女 in L.A.

口裂け女、こっくりさんなど、日本の都市伝説にまつわる事件がロサンゼルスで勃発。一体なぜ……という謎は置いといて、カフェのメイドが廃墟でこっくりさんしてたり、陰陽師と悪魔神父が路地裏ストリートファイターしたり、真昼間にヤシの木に藁人形打ち込んだりと、トンデモジャパン炸裂! タイトルでインパクトを与えたロサンゼルスの口裂け女の影が薄くなろうとは……。
ちなみに、ヒュートラ渋谷で本作を観てシアターから出てきたとき、カンシチ・ヒロさん(作中で妹ウメコを溺愛する藁人形使いのケンさんを演じた人)ご本人がいらっしゃったことが、一番のホラー体験でした。


…で、申し訳ないけどこちらのランキングも。


未体験ゾーンの映画たち2016ワースト


1位 カリキュレーター


管理社会の惑星で、死の沼地に追放された囚人たちが生存のために進み続けるディストピアSF。だからといって監督を『ベクマンベトフの再来』なんて言うのはまだまだ早いぞ! 真の中2魂を持っているなら、もっとキャラクターの面白さやキメ画に力を入れなさい! しかも各キャラクターともスタンスがブレブレだし。せっかくヴィニー・ジョーンズがいても、悪役としての面白さも活かしきれていないし、セリフもすべてロシア語に吹替えられていていつもの声&訛りじゃないのも残念。褒められた点といえば……メインの女優さんがキレイなのと、シガー・ロスの曲が入ってることくらい?


2位 処刑女

みんなが戸締りしまくっている間に地下室に潜り込んだり、いつの間にか屋根に上ったり、一撃で手や首を切断できる技術&パワーがあり、さらに狭いところを移動する柔軟性にも長けているという、大変高いポテンシャルを持つ処刑女=ブラッド・ウィドウちゃん。しかし彼女をジェイソンやマイケルと並べるには、まだまだ個性と変態性と一貫性が足りなさすぎる。特に、風紀の乱れの温床だったパーティーのバカ者(若者)たちをほぼスルーしてしまったのはイタいぞ。


3位 フルリベンジ

オリジナルの南米映画『Hidden In The Woods』は、近親相姦、売春、殺人……とあらゆるタブーを描いた、救いの余地のない映画だった。それに惚れ込んだマイケル・ビーンがリメイク権を獲得したのだが……なぜタブーのうち「奇形の子ども」と「カニバリズム」を省いた。それだけが原因ではないのだけれども、ヤバさと救いのなさがマイルドになってしまった感がある。たぶん、マイケルは自らが演じるしぶとい鬼畜親父に力を注いだんじゃなかろうか……?


4位 INFINI

逃げ場のない辺境の惑星で謎の寄生生命体に脅かされるクルーたち。生命体は少量の血液からでも媒介・増殖し、寄生された人間は凶暴化する。『遊星からの物体X』×『28日後……』なSFホラーにもなり得たのに、閉塞感も恐怖もサスペンスも中途半端になってしまった。


5位 マーターズ(リメイク版)

難しいところなのだが、リメイクにあたっての改変は完全に否定できるもんじゃないし、むしろ面白いと思っている。むしろオリジナルでやったことをそのままなぞるだけでは意味がないと思うし、オリジナル版で感じた閉塞感とイライラは昇華(消化?)できるだろう。ただ、その発想が「ああアメリカだなぁ」とも思えてしまうし、やはりあの胸糞悪さを経てからの昇天こそ『マーターズ』だろう……という思いも強いのである。


そしておまけ。


ベスト名言賞


1位 「人々は私のせいにしたがるが、私はただの目撃者だ。私が見たものには天使も涙する。私を否定してもいいが、君の目に宿る炎は私だ。君にこの地上の腐った、邪悪な魂をすべて与えよう。君は復讐し、私は彼らの魂を燃やす。正直に言えば、君なしでは凍えそうだ」(デス・ノート)

2位 「まるで映画だ。俺たちは偶然の主人公。監督はデイヴィッド。天国から演出中だ」(バンド・コールド・デス)



ベスト音楽賞


『バンド・コールド・デス』
2013年に本作のプレミア上映会場で行われた"Keep On Knocking"ライブを貼っておきます。
CD『For The Whole World To See』はホントにカッコいいぞ。





ベストビジュアル賞


1位 伝説の戦士(ローレンス・マコアレ)(ザ・ラスト・ウォーリアー)
百聞は一見に如かずということで、お顔を貼っておきます。勝てる気しますか?


2位 鋸村ギーコ(内田理央)
下駄履き&ふんどし着用の女子高生が改造チェーンソーをぶん回した時点で、勝利は約束されているのだ。

3位 最強のタクシー運転手(ジェス・リアウディン)
中の人は元総合格闘家。料金踏み倒す奴は地獄の果てまで追い詰めるぜ!! 的なセガール系かと思ったら、実はセカイ系だったという……。

次点 裸エプロンのおっさん(bella ベラ)
動いて喋ってタバコ吸ってコカインキメる人形のベラ(=主人公)ではない。映画自身が「どっかのクマのパクリ」と言っちゃってる通り、可愛さと毒舌とのギャップはクマの二番煎じだが、変態性において勝るのはさすがラムシュタイン輩出国ドイツ。その代表が、どこに需要があるのか分からないおっさんの裸エプロンショットだった……


ベストタイトルバック賞

ライアー・ハウス
真っ赤なマニキュアを塗るところに始まり、ベーコンを切ったり焼いたり、ミキサーでジュースを作ったりと朝食を作る過程をグロテスクなほどのどアップで撮る。これらのショットがその後起きることを示唆しているのが、ベタながら上手い。


ベスト映画ドリンク

オーストラリアンビール(ブレイキング・ゴッド)
警察も一般人もみんながグビグビ飲んでるから、観賞後思わずビクトリアビター買っちゃったよ。



ベストびっくり映画

スナッチャーズ・フィーバー 喰われた町
あの一番最初の車の「バン!!!」な。1回あれやったら、何度も連発しなくとも、後ろ向いて立ってる人がいるだけで怖くなるから上手い。それから「人の顔をデフォルメすると怖い」っていう怖さの原点に立ち返ってるところもエラい。ただ、短編ホラーを長編に引き伸ばしたとき特有の、始まりと終わりのダラダラ展開はどうしても出ちゃってたね。


秀作から午後ロー的なものまで、今年もいろいろ出会えて楽しかったよ。また来年も会いたいよ。
そしていつもありがとう、チェアマン西澤さん&配給会社さんたち&ヒュートラ渋谷さん!!!

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