2015年8月26日水曜日

毛皮のヴィーナス

至高の女は、恐ろしい。

毛皮のヴィーナス('14)
監督:ロマン・ポランスキー
出演:エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック



極私的ボンドガールベスト然り、ここ数年やってる映画ベストガール然り、華と毒気と強さを備えた女性キャラが大好き傾向の自分。
しかし、こんな女性を「いいなぁ」なんてうっとり観てられるのは、彼女らがスクリーンの中の存在だから。だって、ベストボンドガールはゼニア・オナトップにメイ・デイにエレクトラ・キング、去年のベストガールもアルテミシアにマザー・ロシアにハンマーガール……
このメンバーが目の前に現れたら、そりゃ憧れたり見とれたりするだろうけど、最後には死ぬ気しかしなくなるよ。

パリの劇場。演出家トマは自身の脚色作『毛皮のヴィーナス』のヒロインオーディションを終えるも、どの女優にも満足できず苛立っているところだった。
そこへ一人の女がやってくる。名前はワンダ。奇しくも『毛皮のヴィーナス』のヒロインと同じ名前である。大幅に遅刻してきたうえ、がさつで教養もなさそうなワンダをトマは適当に追い返そうとするが、彼女は強引にオーディションを始める。
しぶしぶ相手役を務めたトマだったが、ワンダは先ほどとは別人のように淑女そのものの立ち振る舞いで、セリフも完璧。彼女との芝居に没頭していくトマは、役柄に倣うように彼女に服従し、支配されていく。

ポランスキーについては『ゴーストライター』で、「自身の人生が映画よりも劇的なせいか、どんな切羽詰まった状況を描いてもどこか平熱」と書いた。
だが本作では、登場人物はワンダとトマの二人だけで、舞台は劇場の中だけという大幅な制約の中、ずっと劇的で情熱的だった。

「どこにいるのか分からなくなってきた」とは作中のトマの一言だが、観ているこっちだって自分がどこにいるのか分からなくなる。ワンダとトマのやり取りと、劇中作のワンダとクシェムスキーのやり取りには当初線引きがあったはずなのだが、次第にその境界線があやふやになっていき、今喋っているのは女優のワンダなのか役柄のワンダなのか分からなくなってくるのだ。

が、その「分からない」というところが、話をややこしくする以上に魅力的なのである。観ている側も、トマあるいはクシェムスキーと同じくワンダにのめり込み、ワンダに振り回されるのを楽しんでいる。これがマゾッホ的感覚というやつなのだろうか……
とも思うが、実は「傲慢にして魅力的な女と、彼女に恍惚として従う男」という構図すら、安直なSM発想として足蹴にされる運命にある。

もう少し下世話な観方をすると、本作がいつになく劇的で情熱的なのは、エマニュエル・セニエの夫たるポランスキー監督自身こそ、一番ワンダに振り回されるのを楽しんでいるからじゃないだろうな?

そして、ワンダの魅力には、怖い代償もついてくる。そもそもなぜワンダが魅力的なのかといえば、淑女と女王様、貞節と淫靡、教養と無知、繊細とガサツさ、男が女に求める両極端な要素を併せ持っているうえに、使い分けが巧みだからである。付け加えるなら、自分のドツボである「華と毒気と強さ」もある。
しかし、すべての要素を持ち自在に操れる女はまずなかなかいない。そんな至高の女がいるとすればそれは……。

結論をたぐりよせるころには、トマも観客も、皆毛皮のヴィーナスに突き放され捨てて行かれる。それは、無意識のうちに醸し出している女性蔑視への、あるいは単純なSM概念への逆襲のようでもある。
女性と結婚にまつわる普遍的な不安と恐怖をあぶり出したのが『ゴーン・ガール』だとたら、本作は理想の女性像を至高の域に高めた結果、とんでもなく恐ろしいものがあぶり出される映画だ。
自分にとってはスクリーン越しの出来事だったから、腰が砕けた心地になった程度で済んだのかもなぁ。

2015年7月27日月曜日

マッドマックス 怒りのデス・ロード

何てマッドなクセにラブリーな映画だ!!!

マッドマックス 怒りのデス・ロード('15)
監督:ジョージ・ミラー
出演:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン



ヒャッハーーーーーー!!!!!!
ウィーアーウォーボーイズ!!! ウォーボーイズ!!!
V8!! V8!! V8!!!
ジョー! ジョー! ジョー!! イモータン・ジョーーーー!!!!
ヴァルハラァァァァァァァァ!!!!!!

感想を言おうとすると頭の中がいつもこうなってしまうため、まとめるのに苦心しました。

荒廃した核戦争後の世界。元警官のマックス・ロカタンスキーは、愛する者たちを失い、今は砂漠を放浪しただ生き延びていた。しかし、武装集団に襲撃され、愛車インターセプターを奪われ、自らも輸血用の血液袋として砦(シタデル)に捕えられてしまう。
砦を牛耳っているのはイモータン・ジョー。自らを救世主と呼び、私設軍隊ウォー・ボーイズに神として崇められている。水資源を抑え、栄養源として植物栽培と母乳製造のシステムを作り、さらに自身の子孫繁栄のために若い女を「子産み女」として囲っていた。
だが、大隊長フュリオサがジョーを裏切り、子産み女たちを連れて脱走を図った。持てる軍隊を総動員してジョーが追撃を始める中、ウォー・ボーイズの一員ニュークスの輸血袋となってしまったマックスも、戦いの渦中に放り込まれる。

『マッドマックス2』のタンクローリーにオマージュを捧げたような出で立ちのウォー・タンク
曲芸師のように高いポールでビョンビョンしながら追ってくる暴走族
アンプにドラム、ギタリスト(ギターはダブルネック火炎放射器)搭載のドゥーフワゴン
予告で観てきたこれらのビジュアルに、この映画はアタマおかしいと称賛を送ったものだ。

が、母乳製造工場、電ノコ付トゲトゲショベルカー、戦車の履帯に車を乗っけた車両=ピースメーカー、乳首いじってばかりの肉襦袢オヤジ(=人喰い男爵)、ヤマハバイクを走らせるヘルズ・バアさんズ空飛ぶモンティ・パイソン第1シリーズ第8話参照)が出てくる本編は、もっと素敵にアタマがおかしかった……!

しかし、ビジュアルはマッドだが、映画自体の作りは実に骨太かつ緻密。
「支配から逃げる」というシンプルなストーリーを基軸に、キャラクターの背景や人となりは仕草や行動や短いセリフのみで表されている。ドラマが透けて見えるゆえ、敵味方を問わず脇役に至るまでキャラクターが愛されているし、いちいち長い/わかりやすいセリフで表さずとも伝わるはずという監督と観客の信頼関係がきちんと成立しているのだ。
近年、たまにその信頼関係が成立してない映画にも出くわすもので……。

子を産み母乳を作るシステムに押し込まれている女性を解放するというポイントで、よくフェミニズムに関連づけられる本作だが、それよりももっと普遍的な復讐(=retaliation)と救済(=redemption)の物語と思われる。

イモータン・ジョーの強権的統治方法は、無法地帯の世界においてまったく間違っているわけではないのだが、当然多くの犠牲を伴う。体制の中でまともに生きてこられなかった者たちは、覚悟を決めて次の世界へと進んでいく。あるいは進むべき者たちを送り出していく。もはや老若男女を超えている。
その物語を彩る……どころかド派手に盛ってくれるカークラッシュやアクションの生々しさからいっても、これからも受け継がれていく映画であってほしいと思わせてくれた。

「マッドマックス」というタイトルを冠せられていながら、マッドなのはマックスよりもその周りであるという構造。これに似ているのが、ぶっ飛んだビジュアルを生み出していながらジョージ・ミラーが本作をとても理知的に作り上げているのに対し、そこに群がったファンのほうがマッドに染まっている現象だ。
暴君に対する復讐や新天地を目指す人々の救済の物語に惹かれたとしても、観終わった人間のメンタリティは限りなく悪役寄りになっていることが多い。
現に、観賞後にV8エンジンを崇めるポーズを真似したり、イモータン・ジョーに忠誠を誓ったり、果てはウォーボーイズを真似て口に吹き付けるため食用銀色スプレーを購入する人が続出した。

思えば、本作に限らずマッドマックスシリーズには、観客を悪役側に引き寄せる力がある。1を観れば夜空を見るたびにナイトライダーを思い出し、2を観てはヒューマンガス様に心酔しウェズのように吼える。(『サンダードーム』の除外をご了承ください。ティナ・ターナーはああ見えてルール厳守の比較的マジメな取締役で、警備兵たちはほぼ体当たり芸人です)

こうした傾向は、ミラー監督が悪役をロックスター風に描いているところに起因すると思われる。
ナイトライダーのセリフ "I'm a rocker, I'm a roller, I'm a out of controller!!!!" はAC/DCの歌詞だし、トーカッターはアイメイクがグラムロック風だし、ヒューマンガス様は言わずもがな「ロックンロールのアヤトラ」。先ほど除外しておいてなんだが、ティナ・ターナーは現職ロックシンガー

本作のイモータン・ジョーに至っては、砦の上からマイクで演説をかます姿がまずいきなりステージ上のロックスター。
V8サインを掲げ、目線が合っただけでも狂喜するウォーボーイズは熱狂的なファンのようなもの
。砦の住人たちが「イモータン・ジョー!!」と何度も叫ぶのも、ライブ前のオーディエンスのコールを思わせる。
何より、出陣時には生バンド=ドゥーフワゴンを率いてくれるのだから、もはやライブツアーですよ。

まさか、好きなアーティストのライブに行ったときのヒャッハー感に一番近い感覚を、この映画が引き出してくれちゃうとはなぁ。

2015年7月12日日曜日

マッドマックス・コンベンション2015

何てロックでローラーでアウトオブコントローラーな日だ!!

マッドマックス・コンベンション2015
2015.6.7. 新宿・アントニオ猪木酒場


突然何かに気づいたり驚いたりすることを「ハッとする」と表現することはあるが、驚きのあまり本当に声に出して「はっ!?」と言ってしまったのはおそらくこの時が初めてである。
何せ、会場のアントニオ猪木酒場に到着寸前、ふと気づくと目の前をカンダリーニとジェシーが仲良く並んで歩いていたのだから。そしてアタマが落ち着く暇もなく、ウェズ、ジョニー、ナイトライダー、スタントマンのデイルが会場入りしていったのだから……。
というわけで、初っ端からトーカッター・ギャングのバイクに立て続けに轢かれたような衝撃をくらいつつ、会場受付へずるずると向かうことになったのだった。


会場となったアントニオ猪木酒場は、2006年に行ったアンドリュー・W.K.のライヴ最前ブロック以来の男性比率の高さ。やはりこの中にも、長野コンベンションのようにガチでバイクや車の改造をされいるツワモノがいらっしゃるのだろうか。
ちなみに私は無免許兼ゴーカート操作もままならない文系ファン。まぁ、結果的にそこまでのバイカーさんに遭遇することはなかったものの、同じテーブルを囲んだ参加者さんたち(リアルタイムで観たファンあり、新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』から入ったシリーズ初体験者あり)とマッドマックス話やその他映画話に花を咲かせられたことは非常に嬉しい。

先月のハリコンNo.6に続き、自宅にデジカメを所有してることを完全に忘れ(だからブレブレのスマホ写真しか持っていないのだ)、サインをもらえたらよさそうなコレクターズアイテムもないまま挑むことになってしまった。また、いかんせん申込みが遅かったので、指定席は一番ステージから遠いテーブルに。
と、自分に関しては始まる前からポンコツな事態だったが、それをカバーするほどの幸運にもうっかり恵まれてしまった。私の座ったテーブルは、ゲストの皆様が出入りする控室のドアの真ん前。つまり、ゲストが出入りするたびに、どさくさに紛れて何度も握手・ハイタッチをしていただけたのである。思えばハリコンのときもトークショーの前後にランスと握手できたし……今年は映画の神様が味方してくださったのだろうか。

ジェシー・ロカタンスキー&バッドガイズ!!!


おそらくメンバー1変わらないのが、カンダリーニことポール・ジョンストン。赤いハート型サングラスに真っ赤なバイカーファッションというキャラと同様に、ファッションも帽子やスカーフなどがメンバー1特徴的な洒落者おじさんだった。主催者さんの「手首ついてます?」というボケに対し、自分の右手を見て「奇跡だ!!」とボケ返していた。(※カンダリーニはジェシーの車に飛びつこうとして右手首を失います)

ジョニー・ザ・ボーイことティム・バーンズは、さすがにグレーヘアのジョニー・ジ・オールドマンになっていた。でもオーストラリア訛りのきつい独特の喋り方は、やっぱりまぎれもなくジョニー。といってもステージ外ではそんなに訛ってなかったが。

ジョアンヌ・サミュエルは、あのままジェシーがずっとスプロッグ(マックスの息子)を育てていったら、こんな感じの優しくもたくましいお母さんになっていただろうと思わせる。他のゲストに比べるとあまりたくさん喋るほうではなかったけど楽しそう。

死亡説の流れたスタントライダーのデイル・ベンチは、もはやこうしたイベントのお約束なのか「死んでないよ!」「生きてるよ!」アピール。件のバイク前輪が頭に衝突シーン拝見しましたけど、確かに死んでないにしろダメージが心配なショットでした。

ナイトライダーことヴィンセント・ギルは、本日少々お疲れだった模様。主催者さんはじめみんなが「ナイトライダァァァァ!!!」と叫ぶので、心臓に悪いというジェスチャーをしていた。聞けば、今日は4時間しか寝てないという……お疲れ様です。

そして、唯一『マッドマックス2』より、ウェズことヴァーノン・ウェルズ。モヒカンや肩パッドで増量していた感があったけど、そうでなくとも元がデカいんだな……と遠目に迫力を確認。"You can run, but you can't hide!!" の名言も聴くことができましたが、そちらの迫力もご健在です。

モヒカンや肩パッドがなくとも、ウェズの迫力は最後列にも伝わりました。

ナイトライダーがお疲れなのは、車を飛ばしてきたからではない。

And we know who you are! と言ってそうなジョニー。

そういえばゲストの皆さんは、6月5日の新宿ピカデリーマッドマックス上映会のあとに久しぶりにミラー監督に会ったらしい。
ポール・ジョンストンいわく、1作目のあとジョージ・ミラーとカフェでよく会い、1作目で明確に死亡が描かれていないカンダリーニとジョニーを2に出したらどうかというアイディアを出したとのこと。片足首のないジョニーがハンドルを握り、片手首のないカンダリーニがアクセル/ブレーキ操作する奇妙な車を出してはどうかと。しかし実際は2人は登場することなく、「ヴァーノン・ウェルズが2人のギャラを持って行った(笑)」そうな。
この話ついでにジョアンヌも、「ジェシーだって明確に死んだところが描かれてないんだから、ジェシーもそのうち出してほしい!」と便乗。

でも、極私的には悪くないどころか美味しいアイディアである。何せ、新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の悪役イモータン・ジョーを演じるのはヒュー・キース=バーン。1作目の暴走族ボスのトーカッターがまさかの転生である。
だったら今までのキャラクターの転生だってあってもイイんじゃないですかね!? 先の2人で車を操縦するそれぞれ片手片脚のない謎のドライバーがいてもいいし、全身義手義足だらけでどこかの砂漠コミュニティの女王となったジェシーってのもアリじゃないですかね!? せっかく昔のキャストとミラー監督が再会したのだし、そういうオールドファンへの目配せがあったら嬉しいんだけどなぁ。

サイン会の準備中、店内のTVで初代『マッドマックス』が流れる。ナイトライダーの死をきっかけに暴走族たちが集合し、1人がバイクテクを披露するシーンになると、デイルがバイクに乗ってる真似をしながら当時のスタント再現(仮)。本当はタイヤの後輪の痕で円形を作ったあと、きれいに一本線のタイヤ痕をつけて走行していたそうなのだが、ミラー監督がそれを気に入らなかったらしく、円を描いたあとはタイヤ痕がないカットが使われているらしい。
また、例の名言「ナイトライダー、それが奴の名だ。夜空を見るたびに奴のことを思い出せ」で脅しをかけられる駅員さん役の俳優さんは亡くなったと知りました。

夜空を見るたびに思い出すことになるにはまだ早いぜ。

サイン会待機の前、控え室出入り口前で握手を求めたところ、"What's your name?" と聞いてくれた。ティム・バーンズのサインをもらわなくてはと確信したのはこのときでした。「安い決め手」というのは禁句です。それに、いくら全員のサイン&ツーショット欲しいと思ったところで、サイン代金とおよびサイン会の時間の限りとの兼ね合いもあるんです。
ポートレート(1000円)を購入してサインをもらうこともできたのだが、持参のマッドノート(このあと『怒りのデス・ロード』観賞半券をスクラップ予定)にもらうことに。ティムには、できたらポートレートあげたいけど有料だから……と言われちゃいましたが仕方ない。本当できれば欲しいけどね。

ちなみに私の1、2人前のサイン参加者の方が、「あなたは好きだけどジョニーはキライだよ! グースを殺したから(笑)!!」と言っていた。確かにジョニーは身勝手でトーカッター・ギャングの足を引っ張るし、ヘタレのくせに口先だけは立派で、おそらく作中の嫌われ者No.1(だからラストのあの仕打ちに溜飲が下がるのだ)。でももう出てきて欲しくないかといったら……前述の通り、な。

ティムのサイン列に並んでいたころ、隣のポールはツーショット写真の際、カンダリーニのハート形サングラスを参加者とおそろいでかけること多々あり。また、「これって失礼かな?」とティムに見せたマッドマックスBlu-rayジャケットには、サインに加えてメル・ギブソンの顔にカンダリーニサングラスが描かれていた。まぁ本人がいないから大丈夫大丈夫。たぶん。
ジョアンヌさんとのツーショット写真撮影の中には、マックスよろしく髪をタオルでクシャクシャしてもらってるショットをリクエスト&実行した人いたな。

30年経ったってボーイなんだぜ。

ゲスト休憩中、スタントマンの雨宮さんが登壇。2の現場にも行って取材し、さらにはインターセプターに乗ったことがあるらしい。撮影中のレアな写真を多数お持ちのようだったが、最前列の方でなければとてもアルバムが見えない。この現場にきていた映画秘宝さんに掲載が期待されているようだが果たして……?

休憩が明けて、ヴァーノン・ウェルズとのサイン&撮影。さすがにファンの多い『2』からのゲストは並び待ちが多く、実は私はゲスト休憩前から並んでいたのだがしばらく整理番号順に待機していた。
相変わらずまっとうに話しかけられない&サインもらってる最中に写真撮るのを忘れるという失態はついてまわったものの、ツーショット撮影の際には遠慮なく肩組むぞ!! と挑んだところ……。
思えば、2013年のロバート・イングランドにしろ今年のランス・ヘンリクセンにしろ、今までツーショット撮影をお願いした俳優さんは、背丈が私より幾分上なぐらいの比較的小柄な方々だったので、肩の高さは大して変わらなかった。
したがって、ヴァーノンの肩に手をかけると、腕がちょっとした棚の上のものを取るときぐらいの高さに上がっていることに気づいた瞬間、「あれ??」と思わずにはいられなかった。いや、ウェズの体格のデカさはもうコンベンション開催時から重々承知していたのですが、改めて実感しましたよ。


右肩に手をかけたはずなんだけどなぁ。見えてないよ。

サイン会は閉会ギリギリまで続き、特にヴァーノンのサイン待ち列は一番の長蛇。その間主催さんがコンベンション裏話について話してくれた。
今回、会場がアントニオ猪木酒場になったのは、お店の方が「ここにしたら?」と提案してくれたという、素晴らしき偶然とノリで決まったからだそうな。もしここじゃなかったらカラオケの鉄人が会場になっていたかもという驚愕の真相も。

次にコンベンションを開催するとしたらゲストに誰を呼んでほしいかという要望を客席に聞くと、一番多いのはグース役のスティーヴ・ビズレー。バイクのカスタマイズをグース仕様にしている方も多いようだし、ファン人気は高そう。
今回のコンベンションのことを知ってポール・ジョンストンに「何だその面白そうなイベントは! オレも行きたいよ!」と語っていたらしいので、呼べば来てくれる可能性大? 
また、『2』に女戦士役で出ていたヴァージニア・ヘイも、コンタクトが取れるので見込みがありそうだとか。

トーカッターとジャイロキャプテンもリクエストがあったが、前者は『怒りのデス・ロード』、後者は『ロード・オブ・ザ・リング』の出演で役者として格が上がっちゃったので難しいらしい。
みんな大好きヒューマンガス様ことケル・ニルソンは今でもあのボディビル体型を維持しているらしいが、声は違う人がやっているらしいからなのか、あまりイベントに出てこないのだとか。
『2』のフェラル・キッド役エミール・ミンティはすでに俳優を辞めていて、現在は宝石商の仕事が忙しいから無理そうだ……とロックでローラーからはほど遠い残念な話も。

他にも『1』からはババ・ザネッティ、フィフ隊長、チャーリー、ナイトライダーの彼女、『2』からはパッパガーロなどの要望が出たが、一番コアな要望は『1』の「(グースが楽しそうに語った凄惨な交通事故死体の話で)食欲なくした人」……それ本人も何でイベントに呼ばれるのかピンとこないだろうよ。

主催者さんの話の中には、ヴァーノン自身が語った、ウェズと金髪の少年の関係性のことがあった。「ウェズが拾って育ててきた子であって、愛人ではないと思っていた」とのこと。(このたびの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』プログラム巻末のインタビューでも言ってましたね)
ただし主催者さんいわく、「BD画質で見ると(ウェズの)ケツが赤いんですよ……でもそれ以上本人に聞けないし……」
うーん、ヴァーノンの話が正解とすると、ケツの赤さの原因は寒暖差が激しい砂漠の気候じゃないですかね。実際プログラム巻末のトリビアページによると、ケツが青くなっているかどうかで寒さを判断していたそうだし。……ってなぜここでまでウェズのケツについてマジメに語ってるんだ。

アントニオ猪木酒場の貸切終了時間ギリギリながら(これ以上延ばすと猪木さんを呼びますよとの最後通告付)、ゲストが全員サイン会を終え、最後はステージで挨拶。
ジョアンヌはジェシーのやってた「あなたに夢中」の手話をやってくれたし、ティムは "We remember The Nightrider, and we know who you are!" ヴァーノンは "You can run, but you can't hide!" をまた言ってくれた。
ゲストの方々も、同じテーブルを囲んだ皆様も、またコンベンションで集まれるチャンスがあってほしいものだ。今度は三部作に加えて、『怒りのデス・ロード』話でも盛り上がれるはずだもんな!!

会場にいらっしゃったグースとヒューマンガス様。
いわく「50でこのポーズ(中腰)はキツイです……!!」……50いってたんですか。

戦利品。マックスのブレスレット(デスロード仕様)は劇場につけて行きました。

2015年5月13日水曜日

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE‐01~劇場版・序章

戦慄暴走ファイル 工藤がコワすぎ!

戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
監督:白石晃士
出演:大迫茂生、久保山智夏

面白い映画には、だいたい魅力的な悪役がいる。この「魅力的」ってのが厄介で、現実なら近くには絶対に寄せ付けたくないヤな奴のクセして、スクリーンやテレビで観ているとやること成すこと面白くって、たとえ悪行だろうと外道だろうといいぞもっとやれと後押ししている自分がいる。

まぁ、工藤ディレクターは純然たる悪役とは言えないが……上司にこんな奴がいたらメンタルがもたなくて仕事辞めてると思う。
しかし、画面越しである限り、市川ADとカメラマン田代の苦労を無視して思ってしまう。「いいぞ工藤Dもっとやれ!!!」

FILE-01 口裂け女捕獲作戦('12)




投稿者から送られてきた映像に映っていた、大きなマスクをして信じられないスピードで走ってくる長身の女。かつて日本中を噂が駆け巡った「口裂け女」ではないかと推測された。ディレクターの工藤は、「口裂け女を捕獲する」という目的のもと、取材を開始する。

「撮影する」でもなく「真相を確かめる」でもなく、「捕獲する」という飛躍の激しい工藤Dの目標。
一瞬何かが映ったとか暗がりに見えたといった奥ゆかしさ(?)もなく、白昼にも夜間にもカメラに堂々と映り込む怪異(ただし、思わず鳥肌の立つ映り込み方ってのもちゃんとありますよ)。
追う側も追われる側もアグレッシブで、心霊モキュメンタリーを観るつもりでいたはずが、始まったのは見世物小屋という個人的には嬉しい誤算。同じモキュメンタリーなら『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』よりは『食人族』に近いんじゃなかろうか。ただし白石監督いわく、もっとも影響を受けたモキュメンタリー映画は『ありふれた事件』だそうだ。

何よりこのシリーズのイメージを決定づけたのは、工藤Dの暴走だった。謎に迫るためには、恐喝・暴力だいたい何でもやらかす。ホームレスをぶん殴り、何か知っていると思しき呪術師を怒らせ、投稿者にも協力を仰ぐといって危ない橋を渡らせる。
もちろんいつも身近にいるAD市川さんとカメラマン田代は、ちょっと反対意見を言うだけでどやされる。幽霊や妖怪の類に遭遇するよりもよっぽど後味が悪い。しかももっと困ったことに、この横暴男は幽霊より確固たる現実なのだ。

終盤、口裂け女を追う工藤Dは、金属バット片手に夜の住宅街を走り回る。口裂け女はどこに行ったか分からないので、我々の目に見えるアブナイ存在は、バットを持って叫びながら疾走するおっさんのみ。大げさな言い方になるが、狂気が怪異に追いつき追い越した、金字塔的瞬間だった。

FILE-02 震える幽霊('12)




幽霊が出ると噂の廃墟で撮影された映像。そこに記録されていたのは、鈴のような音、謎の足音、そして小刻みに震える人型のようなもの。工藤は投稿者らとともに問題の廃墟に足を踏み入れ、いくつかの怪現象を確認。
しかし、投稿者の中の女性一人が失踪したのを皮切りに、その女性が持つ不可解な能力、スカイツリー上空に浮かぶ物体、「先生」と呼ばれる人物など、謎はさらに広がっていく。

『パラノーマル・アクティビティ』系統の心霊もので来たか? と思いきや、スカイツリーの怪や謎の人物まで現れ、予想外の展開へとなだれ込んでいく。ただ、風呂敷が思わぬ方向に広がったはいいが、今回は収拾のめどがつかないまま幕を閉じてしまう。おそらく後に伏線が回収されるのだろうと予想しつつも、若干の消化不良は残るだろう。

その結果、市川や田代そして投稿者たちを悩ませる工藤Dの暴走が、モヤモヤの多い作中の清涼剤と化すという不思議な逆転現象が生じている。
前回、髪の毛を編み込んだ呪いの道具を気軽に持って帰ってしまうという暴挙に出た工藤だが、それを「実験だよ!」と言っていわくつきの場所で活用するというさらなる暴挙に出た。呪具の力がスゴいのか、工藤Dの暴力がスゴいのか、ここに「工藤D×呪いの編み飾り」という痛快コンボが誕生してしまう……。ついでに、工藤Dのもとに映像を持ち込んだ投稿者は悲惨な目に遭うという法則まで確率してしまうのだが。

脅しありビンタあり投稿者巻き込みありと、今回も不穏な活躍には事欠かない工藤D。彼が呪いの編み飾りを首にかけ、怪現象の真っ只中へ迷いなく突っ走っていく姿を観て、うっかり感動してしまった自分は、きっと幽霊よりもある意味厄介なものに憑かれてます。

FILE-03 人喰い河童伝説('13)




投稿者のカップルが立ち入り禁止の池で撮影した映像には、食い荒らされた動物の死骸とキュウリとともに、謎の生物が映っていた。その池には河童が棲んでいるという噂があった……。
市川と田代は入院中の工藤に変わって現地調査に赴き、その地に古くから伝わる河童の伝説、また河童について何か知っているらしい農家の男の存在も確認。そこへ、無断で病院を抜け出してきた工藤が「河童を捕獲する」と言い張って合流し……。

「普通に考えたら物理攻撃で何とかなりそうにない相手に物理攻撃で挑む」というシチュエーションが大好物の自分にとって、FILE-01のときから金属バットを振りかざす工藤Dの姿勢は大変に望ましいものだった。それが3作目に来て、遂に観たかったものを提示してくれたのだ。
そう、河童の体当たりを食らって転倒&ケガを負う工藤Dに、反撃に河童を殴り倒す工藤D! あととばっちりを喰らって河童に引きずられた市川AD! 宇宙人をグーで殴る『プラン9・フロム・アウタースペース』、火星人とボクシングする『マーズ・アタック!』、魔女をぶん殴る『ヘンゼル&グレーテル』、宇宙人とプロレスする『バトルシップ』……などなど挙げだしたらキリがないが、本作はこの「物理攻撃シリーズ(仮)」に邦画代表として君臨した。
ちなみに河童をぶっ飛ばしたパンチには、例の呪いの編み飾りが一役買っているのだが……そんな形で呪具を使いこなしてしまう工藤D、とうとうヘタすると陰陽師より使えるという域に達してしまった。ただの暴力人間と何が違うんだって奴なのに。

1作目で金字塔になり、2作目では清涼剤になり、3作目に至っては不在だと心もとなく、戻ってくるとようやく安定感が生まれる。……これはマズいぞ。工藤Dに、ひいては白石監督にダマされてる証拠だぞ。ダマされる甲斐もあるけどな。

FILE-04 真相! トイレの花子さん('13)




2人の少女が廃校で撮影したビデオに映っていた、トイレから飛び出してくる少女は「トイレの花子さん」なのか? その翌日のビデオ映像に見えた、投稿者自身の死のビジョンは未来を予言しているのか? 
工藤Dは今回、霊媒師・真壁を伴って現場を訪れた。彼女は「ここは向こうの世界とつながっている」「時間も空間も歪んでいる」と語る。そしてほどなく、投稿者のうち1人が姿を消す……。

いや、とんだ学習不足だった。FILE-02だっていかにも心霊ホラー的なシチュエーションを提示しておきながら、異世界の謎の種をバラまきまくった一本だったじゃないか。だったらテーマがトイレの花子さんだからって、ただの学校の怪談の範疇に収まるわけないと予測もできたじゃないか。実際FILE-02に近いものがある怪現象も起きていたじゃないか。
しかし、まさか、サブタイトルになっている花子さんの影が思ってたより薄く、メインはみんなでレッツ・ドゥ・ザ・タイムワープ・アゲインなんて……!!!

今回の工藤Dはおとなしめ……といっても恫喝ぐらいはやらかす。代わりに市川ADが珍しくキレる光景が見られる。そのぶん異世界側からのアプローチと、それに対抗する真壁の能力がアグレッシブで目まぐるしい。何せ、怪異のほうは時間や空間をねじ曲げてしまい、真壁は時間を遡ったり先へ飛んだりできるので、一同昼夜を行ったり来たり、また学校と投稿者宅を行ったり来たり……「あれ、これ『X-MEN』だっけ……?」と勘違いするようなしないような。
そしてしまいには、シリーズ通して示唆されてきた「向こう側の世界」にとうとう触れることになる。ホラーやミステリーよりもギャグ寄りじゃないかというような見せ方ではあるのだが、もうこのシリーズはこれぐらい吹っ切れてもいいよな! と思いきれるだけのパワーを手にしてしまったからなぁ。
それにしても、わずかなショットながら、異次元に飛んでも工藤Dは工藤Dなのだな……。

劇場版・序章 真説・四谷怪談 お岩の呪い('14)




前回の事件よりしばらく『コワすぎ!』シリーズから遠ざかっていた取材班が、ここへきて再び企画始動に乗り出す。「向こう側の世界」の真相を探る、どうやら関わりがあるらしい工藤の過去と「向こう側の世界」の関係性を明らかにする、そして借金返済といった理由のもとに……。

今回の投稿映像は撮影中止になった映画の一部。顔が半分崩れた女の姿と、FILE-04で撮影された異世界の入口のような影が映っていた。また、このシーンに出演していた女優が音信不通だという。「四谷怪談」に関わる映画を撮る際にはお祓いをするのが通例なのだが、1シーンでお岩さんに言及する程度だからと、お祓いをしなかったことが原因ではとされていた。
工藤Dらは音信不通の女優の家を訪ねるが、彼女は片目が腫れ、意味不明な言動をくり返し、果ては包丁で襲いかかってくる始末。さらに取材中のカメラにもお岩さんのような人影が映り出し、とうとうその影響は市川ADにまで及び始める。

口裂け女も花子さんも、実は異世界からの斥候にすぎなかった。ってことは今回のお岩さんも……と思ったら本当に「傀儡にすぎない」(霊能者・宇龍院談)。真の敵は異世界にあり! それに挑むは我らが工藤D!!! 
……あの、よく映画で世界の命運を握って戦うべき人が「コイツに世界を委ねるのか!?」みたいに言われるじゃないですか。コレは……普通に考えておそらく一番世界を委ねちゃいかん奴じゃないですかね。だってあの工藤Dですよ。

前回比較的おとなしかった反動か、工藤Dの暴走は再び加速。その被害を今回ほぼすべて市川ADが受ける羽目になった。取材始めに引っぱたかれたのを皮切りに、よりによってお岩さんの呪いと思しき何かに憑かれてしまい、再び「向こう側の世界」へ。
しかも、市川の除霊のために訪ねた霊能者の宇龍院道玄は、工藤Dとタメを張れるほど態度が悪い。除霊でトランス状態の市川&ときどき映り込むお岩さんの影にビビる田代をよそに、「オレは命かけてんだよ!」「こっちだって命かけてんだよ!」と醜い(?)争いを繰り広げる工藤Dと宇龍院。これほど「似た者同士」を的確に映し出した光景にはめったにお目にかかれない。あと、「こんなときのためにピッキングを習った」なんて人にもめったにお目にかかれない。工藤さんあなたですよ。

そんな無茶苦茶を観ているにもかかわらず、呪いの編み飾り片手に異世界へ(田代を道連れに)飛び込み、うねうねした有象無象を呪具で殴りちらす工藤Dの何とヒロイックなことか。「工藤さーーん!!!」「市川ーーー!!!」と手を伸ばし合う瞬間なんぞ、『クリフハンガー』的な感動すら漂っていたし。迷いなくああいう行動に出ることができる工藤Dには、ヘタすると羨望すら覚える……いや待て待て待て。これは私の背後に金属バット持ったおっさんの生霊が憑いているのかもしれんぞ。


さて、ここへきてFILE-01とも新たなつながりを見せ始めたシリーズはやっと劇場版へ。
映画化企画を「よし決めた!」「ザ・ムービーだよ!」と二次会行こうぜぐらいの軽いノリで進めてしまう工藤Dと愉快ではなさそうな仲間たちの行く末は?
FILE-02でバラまくだけバラまかれて回収されていない謎は収拾をつけられるのか?
FILE-03の河童はこれ以上絡みようがあるのか?
そして、ある意味オバケよりコワい工藤Dはどこまで突っ走るのか……?

2015年5月5日火曜日

ハリウッド・コレクターズ・コンベンション No.6

(超絶アガリ症の)人間にしてはやったと思いたい。

ハリウッド・コレクターズ・コンベンション No.6
2015.5.4. ホテルグランドパレス2F

緊張すると胃がキリキリしたりスピンしたりする人間ですが(『ザ・ロック』のニコラス・ケイジも「胃がフラフープのように回ってる」って言ってましたよね)、今回は胃のぐるぐると心臓のばくばくが相まって、チェストバスターが出てくる心地でしたよ。

今年のハリコンはシュワが出迎えてくれました。

ランスとなじみの深い(?)こんな方もいらっしゃいます。


ハリコン参加は2回目。2013年5月のハリコンNo.2(ゲスト:ロバート・イングランド&ショーン・アスティン)以来だ。そのときに比べると、今年はディーラーブースがずいぶんこじんまりしているし、来場者数も少なめのように思える。
ちょっとお祭り気分には乏しいのが残念だが、ゲストがその辺をふらっと歩いていくという奇跡のような現場を拝めることもありましたよ。

今年のゲストはビショップことランス・ヘンリクセンと、T-1000ことロバート・パトリック。ロバートは娘さん(すごく可愛い)同伴だった。
ロバートは以前の来日時に覚えた日本語が「モウカリマッカ」だったらしく、第一声が「コニチワ、モウカリマッカ!」。その後サインor撮影に来たお客さんへの挨拶が「ヘイ、What's up? モウカリマッカ!」。T-1000も陽気で豪快なおじさんになったなぁ。
ロバートのサイン・撮影会には参加できなかったんだけど、陽性エネルギーがブースを飛び出してくるようなお方だったよ。

先に始まったのはツーショット写真撮影会。出演作をご覧になれば分かる通り、ランスは小柄なので、並んだ時の目線の近さが半端じゃない。
私、何かと頭蓋骨に着目するクセのある人間なので、ランスのチャームポイントにも「デコ骨の左右のでっぱり」を挙げていたりするのだが、振り返ってみればおでこに着目することもド忘れする始末。覚えているのは色素が薄くサイズの大きい眼球だった。日ごろ人の目を見て話すのが苦手なだけに、フェイスハガーでも被りたい心境ではあったけど、さすがに失礼すぎるものなぁ。

そしてもう一つ覚えているのが、肩を組んで撮影に臨んでくださったランスの身体が、めちゃくちゃソフトだったように思えたこと。お年のせいなのか、こっちの脳ミソが舞い上がってふわっふわになってたせいなのかは分からないが。
あまりのことにカメラに表情を作ることを忘れてしまい、出来上がった写真を見てみたら、案の定ぶっ倒れる10秒前みたいな笑顔になってたのだった。

ランスは素敵なショットでしたよ。ランスは。


サイン待ちの最中、撮影待ちのランスのワンショットを偶然収められました。

当初はツーショット写真とトークショーのチケットしか購入していなかったのだが、やはりここまで来たのならと、急遽サインチケットも購入。サインしてもらう用に『ニア・ダーク 月夜の出来事』のポートレートも購入した。ビショップもいいけど、魅力的なならず者(吸血鬼)たるジェシーもカッコいいし、映画自体も好きなのである。本当は『ハード・ターゲット』のエミール・フーションがあれば良かったのだけれども。(いやそれ以前に、自宅から『パンプキンヘッド』の輸入BDを持っていくのが真のベストだったはず。何やっているんだか)

サイン中は机の反対側に行かなければゲストの写真を撮ってもOKだったのだが、何たることかサインをいただいている間ただただランスの手元を凝視してしまい、スマートフォンのカメラを起動させることすら忘れていたのだった。本当にこの日の自分は何から何まで抜け落ちているよ。
ひとつ言い訳させてもらうと、嬉しかったんです。写真の色合いに応じてペンの色を変えてくださったランスの御心遣いが。

左端にご注目いただきたい。背景とペンの色合いが被っちゃってるところは、
ペンを黒から銀に変えて書き直してくださっているのだ!!
ちなみに私の名前のところも修正していただいてます。

ところで、今回のハリコンでもう一つ目玉になっていたのが、スター・ウォーズのバトルポッド。エンドアやホスやデス・スターなどステージを選び、反乱軍パイロットとして帝国軍と戦いミッションを遂行する。しかも、バトルの際の揺れや風や衝撃まで体感できるのだ。
私、自宅にゲームの類を置いたこともなければゲーセンにも数えるほどしか行ってないド級の素人だが、こんなチャンスはあるまいと意を決してポッドに搭乗。
通常ミッション所要時間4分ほどのところを、見当違いの方向に飛び回った挙句2分で撃墜されたのだった。

ポンコツパイロットでも乗れるだけありがたかったバトルポッド。

「あーあ」と思いながら出ようとしたら、
↓のストームトルーパーさんが出入口に張り付いていた。
つまりあのひっどい飛行状態が帝国軍にバレていたわけで。
二重に残念なパイロットになってしまったよイウォーク君。

そんな軽いガッカリがありつつ、気を取り直してランス・ヘンリクセントークショーへ。Facebookで事前に集めた質問のQ&Aと、その場でのファンからのQ&A。覚えている限りで、どんなやり取りがあったのか簡単にまとめると……

『ターミネーター』についての話を聞きたいです:
制作会社へのプロモーション時にターミネーターを演じていたのだけど、そのとき凄味を見せようとしてドアを蹴飛ばしたので、会社からの印象が悪くなってターミネーター役から脱落してしまった。それでシュワルツェネッガーに……彼はブルドーザーみたいだからね。(シュワがブルドーザーみたいという例えは、このあとも何度か出ました)

自身のキャリアで一番印象に残っているキャラクターは?:
一番最近撮った映画が一番印象に残っている。昔のことはどこかに行ってしまうから。映画の仕事は暗闇でキスするようなもの。どこで、いつ、誰とキスしたのかも分からない。気が付いたら「あ、仕事がきた」というような。

『殺人魚フライングキラー』の現場で、キャメロン監督と殺人ピラニアの模型を作ったという話は本当?:
本当だよ。(ここでファン一同喜びのざわつき)キャリアの最初の映画は重要だ。キャメロンにとってはまぁ……(やはり黒歴史なんでしょうね)

『ストレイン 沈黙のエクリプス』の声の出演について:
ギレルモ・デル・トロは詩的でもあり暴力的でもある。そこが好きなんだ。

『エイリアン』の新作では3がなかったことにされているらしいが、3に出演した身としてはどう思うか? また新作への出演は?:
今度の南アフリカ出身の監督(ニール・ブロムカンプ)はクリエイティブだから楽しみにしている。まだ脚本はできていないから出演については分からないけど、脚本家が午前4時ぐらいに「どうしようかな……そうだ、ビショップ呼び戻そう」って思いつくかもしれないよ。

『ミレニアム』について:
新作企画はできているけどね。フランクが子どもに対する虐待疑惑をかけられるエピソードのときに、ちょうど自分の子どもが生まれたから、余計自分の子に対する思い入れが強くなったよ。

『エイリアン』と『ターミネーター』どちらが好き?:
『エイリアン』。(回答はわりと早めでした)

もし自身がT-800を演じていたら、"I'll be back"の代わりに何と言ったと思う?:
当時『エイリアン2』はまだ公開されていなかったからアーノルドのほうが有名だったけど、もしエイリアンが先だったら状況はだいぶ違っていたかもしれない。自分だったら爬虫類や蜘蛛みたいな動きを取り入れていたと思う。「目玉に毛がどうこう(うろ覚え)」というカリフォルニア特有のスラングで話すか、もしくは何も言わないかな。

アンドロイドを演じた人間として、アンドロイドは人間にとっていいものと考えるか、悪いと考えるか?:
ビショップには人間を傷つけたい気持ちもどこかにあって、またそうすることを恐れてもいた。キャメロン監督がそういう危うさを出したがっていたんだ。(もとの質問内容を忘れていたらしく)あ、アンドロイドはいいものだと思うよ。

日本に来てからおいしいものは食べましたか?昨日の夜とか……:
新幹線の中で食べたけど、あれが何なのか知らないな。(両指で四角を描いて)お米があったのは覚えてるけど、何ていうものかは分からない。おいしかったけど。(お弁当じゃないでしょうかね? 最初に間があったから、前のQ&Aの内容と相まって「ビショップがバグった!?」とか思ってしまってすみません)

惜しむらくはハリコン主催さんと通訳さんが、あまりランスの映画に明るくないようだったことか。映画のタイトルやキャラクターについての理解が不明瞭だったために、質問と回答に齟齬が生じること多々あり。
せっかく『ハード・ターゲット』の話題になったときも、ピク(・ヴァン・クリーフ。フーションの相棒の名前。アーノルド・ヴォスルー演)のことを通訳さんが動詞のpickと間違えたあたりから話が迷走してしまったもんなぁ。
『Savage Dawn』と『ストーン・コールド』とハカイダーの話もごっちゃになってしまったし(そしてランスが "Fly Me To The Moon"を歌いだし、空気を和ませたのだった)。

ただそれでも、すべてを帳消しにする総員感動の瞬間があったことは間違いない。ファンのリクエストで、ビショップの名ゼリフ「人間にしてはやるね(Not bad for a human)」を言ってくださったときだ。
しかも、「じゃあ言うよ」とペットボトルを開けたので、喉を潤してコンディションを整えるのかと思いきや、口に含んだ水をコポコポ吐きながら「Not bad for a human」と!!! これはまさしく、白い体液を吐きながら喋るビショップというシチュエーションに忠実な再現。まさかそこまでやってくださるとは思わなかった。
今までそうだとは考えてなかったけど、本当にユーモアとサービス精神が図抜けた方なんだなぁとようやく実感したのだった。

なお、このときの最大のラッキーは、自分の座っているところ(通路側)がランスの通り道になってたおかげで、行きと帰りに握手&タッチをしてもらえたことです。

トークショー後、スタッフさんと密談中(に見えた)。

到着早々、ランスもちょっと食いついていたエイリアンクイーンのヘッド。
そこにトークショー終了後……

「Lance Henriksen  Bishop」のサインが入ることに!!
ビショップの30年越しの仕返しに見えなくもない。

個人的今年のハリコンの締めくくりは、『パシフィック・リム』のギレルモ・デル・トロが原作・監督・脚本・製作を手掛けたドラマ『ストレイン 沈黙のエクリプス』1・2話観賞会だった。
今回のデル・トロワールドは、パンデミックサスペンス×『ブレイド2』。
こんな感じのストーリーはスティーヴン・キングもので読んだり観たりしたことがあるはずなのだが、次にどう転ぶか楽しみで楽しみで、引き込まれて仕方ない。登場人物がいちいち魅力的で、リーパーズ以来のエグい解剖シーンを拝めるのもデル・トロ流。

ホラー寄りなのでエグいシーンもあるが、この手の映画にありがちなびっくらかし演出を嫌うデル・トロだけあって、ときにじわじわときにカラリと恐怖を魅せてくれるところが一番好感が持てる。ラミン・ジャワディの適度に不穏さを煽るスコアもいいが、既出曲の使い方も絶妙。「Sweet Caroline」をあんなシーンで流すセンス、個人的に大好物です。

ちなみに、ランスもこの映画に声の出演中。さっきまでの怒涛のランス祭りの直後に、このドラマであの声を聴くと、『ドラキュラ』のレンフィールドよろしく「マスタァァァァァァ」と見えないランスに頭を下げてしまいそうです。ドラマを観た方には「そのままじゃん」と言われそうですが。


それにしても今回は、ちゃんとしたズームができるデジカメを忘れ、気兼ねなくサインしてもらえるアイテムだった『パンプキンヘッド』BDを忘れ、もっともランスのクロースアップを撮れるはずだったサイン中の撮影を忘れ……
トークショー中に「ビショップがバグった?」なんて思ってる場合じゃないよ。一番修正不能なほどバグってるのは私の脳ミソじゃないか!!!

おまけ:今回の戦利品、『SAW』のトーキング栓抜き。
ボトル開けようとするたびに
「ゲームをしよう」「おめでとう、君は生還した」「ゲームオーバー」
等、ジグソウ先生のありがたいお言葉を聞かせてくれる。
ただし持ち主は聞きながらまったりビール飲んじゃってるので何となくアウト。

2015年4月30日木曜日

劇場版 ビーバス&バットヘッド DO AMERICA

ビーバス&バットヘッド あるいは(無知がもたらす思わぬ奇跡)。

劇場版 ビーバス&バットヘッド DO AMERICA('96)
監督:マイク・ジャッジ
出演(声):マイク・ジャッジ、ブルース・ウィリス、デミ・ムーア




『バードマン あるいは(無知がもたらす思わぬ奇跡)』関係者の皆様およびファンの皆様すみません。だって、コイツら本当にバカで無知ゆえに、奇跡的なまでの惨劇と活躍を見せてくれちゃうんだもんよ。

アメリカは架空の町ハイランドで、テレビを観てばかりで過ごしているバカの14歳コンビ、ビーバス&バットヘッド(B&B)。
ある日、眠っている間に大事な大事なテレビを盗まれてしまった。テレビがなければ生きていけない2人は、意地でもテレビを観ようと侵入したモーテルで、勘違いが重なった末にギャングの妻の暗殺を請け負ってしまう。
一路ラスベガスへ送られた2人はターゲットの妻の元へ赴くが、今度は言いくるめられて超小型の細菌兵器を持たされたままアメリカを横断することに。暗殺依頼人のギャングやFBIが追跡する中、そんなヤバい事態になっていようとはひとっっっかけらも理解できていないB&Bの行く末は……?

元のMTVシリーズ未見のまま、本作を初めて観たのが高校生のとき。絶え間なく続くB&Bの「エヘヘヘヘヘ」という締まらない笑いに若干イラッときたものの、その当時の自分にも身に染みて分かるほど強烈な教訓を得た。それは「バカで無知ほど恐ろしく、なおかつ無敵なものはない」ということだ。

熟慮なんてことはもとより、少し考えることすらロクにできないB&Bは、暗殺依頼がいかに危険な要件なのか分かっていない(それどころかセックスの話と勘違いし童貞卒業のチャンス! と盛り上がっている)。
細菌兵器のことは気づかないように持たされたから仕方ないとしても、もっとヤバい話を持ちかけられていることはまったくわかっていない(それどころか金と女が手に入ると勘違いしている)。
人と場合によっては巻き込まれ型サスペンスになりそうな土台でも、バカが中心にいるだけですべて脱力&下ネタと化すのである。

B&Bは徹底して無知でもある。ラスベガスからワシントンまで行けと言われても、どれほど距離があるか知らないゆえに、「ワシントンってこっちの方向? じゃ行くか」と広大な砂漠のど真ん中を歩き出す。走行中の車から飛び降りることがいかに危険かも知らないから、「着地と同時に走れば大丈夫じゃね?」と実行してしまう。
考えようによっては無知だからこそできる思い切った無茶なので、知識によって抑制がかかっているより人生エキサイティングなんじゃないですか? ……と観ているこっちが勘違いすることもあったりなかったり。

個人的に一番恐ろしくも面白いのは、彼らが文字もロクに読めないがために(そしてテレビの成人指定チャンネルが見られると勘違いしたがために)、フーヴァーダム決壊を招くところ。バカは時として大惨事を招く。

しかし何がタチ悪いかって、バカじゃなきゃ大丈夫なのかというと、決してそんなことはないってこと。
B&Bが通う学校のカウンセラーの先生は、ソフトなことばかり言って不良のB&Bに厳しい指導ができない。
逆にB&Bにキビしくあたる校長も、生徒のためを思う指導じゃなくて自分の精神不安定の原因を排除したいからそうしてるだけ。いつも「あぁぁぁあぁ~」と小刻みに震えているし。
頼みの綱のFBIも、実はB&Bがただのバカであることは見抜けなかったわけだし……
本当に「アメリカする(DO AMERICA)」映画だね。この国ヤバいぞという内部告発的な意味で。

ちなみに、もとはMTV放映のアニメーションということで、音楽勢はやたら豪華。オープニングはアイザック・ヘイズだし、挿入曲にオジー・オズボーンもあるし、砂漠で死にかけてるB&Bが見るサイケデリックな幻覚アニメはロブ・ゾンビの作。

音楽以外で贅沢なことには、お互いに殺し合い騙し合いをくり広げるギャングの夫婦の声がブルース・ウィリス&デミ・ムーアと、当時ホンモノの夫婦だった2人。デミ・ムーアはともかく、ダイハードなブロックバスター映画のみならず年に最低1回はB級映画に顔を出すブルース・ウィリスの姿勢は、この当時からブレてないんだな。

2015年4月29日水曜日

Repo! The Genetic Opera

歌って踊ってザックザク(刺殺音)。

Repo! The Genetic Opera('08)
監督:ダーレン・リン・バウズマン
出演:アレクサ・ヴェガ、アンソニー・スチュアート・ヘッド



スラッシャー映画とミュージカル。ヘンな組み合わせに思えるかもしれないが、ある種の人間には大変にテンションの上がる最強コンボである。問題は、一般的に需要が限られていることと、「ある種の人間」というのが自分の周辺で自分しか心当たりがないことだが。

2056年、世界規模で発生した内臓の疫病の蔓延で、人類の多くは死滅していた。ジーン・コーポレーションが開発した臓器移植という対抗策が生まれてからは、病は脅威ではなくなり、整形手術ですらファッション感覚で受けられる時代になっていた。ただし、臓器移植にかかる医療費はローン制であり、返済が滞った移植者は臓器を強制的に没収=殺害される。その殺人を請け負う人間こそ、ジーン社に所属する合法的暗殺者「レポマン」だった。
政府並みの力を持つジーン社だが、社長のロッティ・ラルゴには死期が迫っていた。ラルゴ家の後継者は、短気ですぐ周りの人間をぶっ殺してしまう長男ルイージ、美容整形中毒の長女アンバー、女の顔の皮膚をマスク代わりに被るのが趣味の次男パヴィ。当然ロッティはバカでサイコな我が子らに会社を継がせるつもりはなかった。
ジーン社が牛耳る街には、シャイロという17歳の少女が住んでいた。極めてまれな血液の難病を抱える彼女は、家から一歩も出ることを許されずに生きてきて、孤独と苛立ちを密かに募らせていた。
父ネイサンは、亡き妻の忘れ形見であるシャイロを大切にしていたが、そんな我が子にも打ち明けられない秘密を抱えていた。妻の本当の死因は自分の作った治療薬であったこと。そして、ジーン社のもとでレポマンとして債務者の臓器を回収していること……
シャイロとネイサン、ラルゴ一家の運命は、ジーン社主催のステージ「ジェネティック・オペラ」の夜に交錯していく。

『SAW2~4』のダーレン・リン・バウズマンの監督作……ということよりも、元X-JAPANのYOSHIKIがサントラのプロデューサーを務め、サラ・ブライトマンとパリス・ヒルトンが出演しているということが日本では宣伝になったらしい。
一度劇場公開はされたのだが、権利関係の問題なのかソフト発売はされていない。確かに観る人を非常に選ぶ作品ではあるけれど、日本盤が出ないのはやはりもったいない(輸入盤での購入は可能だが)。

ダーレン・スミス&テレンス・ズダニッチが手掛けるロックミュージックに、血しぶきと内臓溢れる古典的スプラッター色、それに手術台や車椅子などからうかがえる『SAW』風味がなぜか相性抜群。さながら、スタイリッシュとグロテスクを増長させた『ロッキー・ホラー・ショー』となった。
実際、ロッキー・ホラーの流れをくむカルトミュージカルになることは間違いないと思われる。一緒に歌ったり合いの手入れたりする「観客参加型」で観賞しても面白いだろうしね(日本国内で出来るもんならなぁ!!!!)

個人的には、ガチで痛覚神経に訴えてくる『SAW』シリーズより、内臓引きずり出しながらノリノリで歌ってる本作のほうが見やすくていいですね(それはそれでどうよという意見も一般には多いでしょうが)。

もう一つ『ロッキー・ホラー・ショー』との類似点であり、またこの後のバウズマン&ズダニッチ作ミュージカル『The Devil's Carnival』にも通ずる点が、濃いキャラクター祭りである。
一番曲者ぞろいなのがジーン社のメンバー。ボスのロッティ=マフィアのボスといえばこのお方のポール・ソルヴィーノを筆頭に、チョップトップことビル・モーズリィ&スキニー・パピーのニヴェック・オーガがバカ兄弟、バカ娘に至ってはパリス・ヒルトンだ。
特にパリスは、我がままで金遣いが荒くて、女王様のような恰好で闇マーケットにクスリ(整形手術用の鎮痛剤なのだが依存性が高い)を買いに来るという堕落令嬢。現実のパリスの素行を顧みるにキツいセルフパロディだ。

パリスのほかに出演が宣伝になったサラ・ブライトマンは、視力と引き換えに未来永劫ジーン社に尽くさねばならなくなったオペラ歌手ブラインド・マグ。歌はもちろんのこと、作中随一の良心としても一際光っている。
また、物語の語り部的な役割である墓泥棒を演じているのは、スコア担当のテレンス・ズダニッチ。低い歌声が大変魅力的です。ちなみにもう一人のスコア担当ダーレン・スミスは、ジェネティック・オペラのぶっ飛んだバンドマスターです。

こうも濃いキャラだらけだと主役級がかすむのではという危惧もあるのだが、本作はむしろシャイロ役アレクサ・ヴェガのピュアさと芯の強さが際立つようになっているので安心。歌もイイし。

なお、ネイサン=レポマンのアンソニー・スチュアート・ヘッドは、実は舞台版『ロッキー・ホラー・ショー』でフランクをやったこともあるらしい。確かにあの声はフランクに似合うなぁ。それも観てみたいよ。

予告編。この時点で「カルト・クラシック」と銘打たれているがそれも正しい。
中盤あたりから聴けるのがアンソニーの歌声。この声のフランクか……いいな!


闇市で墓泥棒が違法に精製した鎮痛剤(ザイドレイト)を売りさばく「Zydrate Anatomy」。
美容整形中毒のアンバーもザイドレイト目当てにやってくる。
イメージとはいえ少しだけ流血があるので苦手な方は注意。

警告を伝えるためシャイロのもとを訪れたブラインド・マグが歌う「Chase The Morning」。
実は彼女にとってもシャイロは大切な子なのである。
本作のサラ・ブライトマンは人間離れした魅力に満ちているよ。


しかし個人的に一番お気に入りの曲は「Mark It Up」ですね。
「会社を継ぐのはオレだもん」というバカ兄弟(ビル兄さんとオーガ)の争い。
作中ではまだソフトなほうとはいえ一応流血ありなので注意。

2015年4月20日月曜日

ホラー・シネマ・パラダイス

世間よ、これがホラーファンだ。

ホラー・シネマ・パラダイス('10)

監督:ジョシュア・グラネル
出演:ナターシャ・リオン、トーマス・デッカー

  

「世界には僕を見てほしくない/理解してるとは思えないから」(グー・グー・ドールズ『Iris』)という歌詞は好きだけど、実際のところは世間に自分みたいな人間を多少なりとも理解していただきたいからこの記事は見てほしい。特にこの手のジャンルの話に関しては。

愛する父から受け継いだ映画館ヴィクトリア・シアターを運営しているデボラ。深夜のホラー上映だけが売りの劇場は観客もまばらで経営難だが、劇場を敬愛する映写技師トゥイグスは無償で働き続けてくれるし、ホラー映画を愛する高校生スティーヴンも足しげく通い詰めていた。だが、デボラの意地悪な母は勝手に映画館の売却話を進め、罵りまじりに契約書へのサインを要求。
逆上したデボラは、衝動的に映画館のロビーで母を殺してしまった。しかも、その夜の上映作品の映写機をスタートさせるつもりが、パニックのあまり先ほどの殺人を映した監視カメラの映像をスクリーンに流してしまった。だが、その映像はよくできたアマチュアスラッシャー短編と勘違いされ、スティーヴンら観客に大ウケ。
ここに映画館再生の道を見出したデボラとトゥイグスは、サイコで暴力的なメンバーを迎え入れ、本物の殺人ショートフィルムを次々作成し上映。評判はたちまち拡散し、ヴィクトリア・シアターには観客が殺到、デボラは一躍新進気鋭のホラー監督として有名に。スティーヴンもファンとしてデボラの成功を喜ぶが、次第に映画の中の殺人は本物ではないかと気づき始める……。

陽気なスラッシャーを観にきたつもりだった。いや確かに陽気なスラッシャーを存分に楽しんだ。しかし同時に、「ホラー映画(特にスラッシャーもの)を楽しむ人=あなたとは」という姿を、ホラー好きのスティーヴンを鏡として見せてくる映画でもあった。

言うまでもなく私はホラー/スラッシャーが大好きだ。登場人物のエグい死に様が好きだ。殺人鬼の不気味な佇まいや非道な性格が好きだ。
しかしそうやって笑っていられるのは、今スクリーンの中で起きている死は現実じゃないと知っているからこそ。もしスクリーンに映っている殺人が本当だとしたら、この映画のために惨殺された人が本当にいたとしたら、それはきらびやかな悪夢じゃなくてただの悪夢だ。現実の死は基本的に悲劇でしかない。だから、デボラの映画が本物の殺人と知ったとき、スティーヴンの心はたちまち彼女から離れていく。

しかし、世間の目はむしろ逆。ホラー好きってことは何か心の闇でも抱えているんじゃない? ホラー好きは変質者に決まってる! ホラー好きなんだからそのうち事件を起こすに違いない! 
……と、親から同級生から教師から、スティーヴンに対する風当たりは厳しく、デボラの起こした殺人事件(傍目には失踪事件)でスティーヴンが疑われるというとばっちりすら受ける。中でも「マリリン・マンソンだって教師が彼のことをもっと気にかけていればああはならなかったはずよ」というスティーブンの担任の言い分には「ふざけんなぁぁぁ!!!!」と劇場で立ち上がりたい気持ちになりましたね。気持ちだけは。

ホラー好き=異常者なんて安直な発想だなぁ……と悠長なこと言っていたいけど、現在の日本においては前述の「ホラー」を「萌え系アニメ」に置き換えたような論調が存在するだけに、対岸の火事には思えない焦燥感よ。

本作はスクリーン上に本物の殺人が映される悪夢を描いているのだが、そもそもこの作品自体もちろんフィクションなので、極彩色と濃いキャラたちとノリの良さがブレンドされた楽しい悪夢だ。
『All About Eve(イヴの総て)』をパロったタイトルから、昔のホラー映画ポスターをパロディにしたオープニングクレジット、それに「Kill her, mommy」「It's only a movie」みたいなベタベタな引用もイイ。

中でも最高のブラックユーモアは、デボラ作の殺人ショートフィルムの使われ方。携帯で喋りっぱなしのゴス女のおっぱいをギロチンにかける映画=「上映中の携帯はオフに」、お喋りで声もデカイ女の口を縫い合わせる映画=「上映中はお静かに」という劇場マナーCM映画なのだ! マジでマナーCMとして各劇場で上映してほしいぐらいですよ! これ観てドン引かないくらい心臓の強いお客さんしか来なくなっちゃいそうだけどね!!

そういえば、本作のジョシュア・グラネル監督、何と本作に出演しているドラァグクイーンのピーチズ・クライストさんその人であることが判明。もしや、濃いキャラアンサンブルや世間の偏見を描くのが上手いのはここに起因するのでしょうか……?

↓監督さん(映画出演時モード)。


ちなみに、そんな濃いキャラ祭りの本作における極私的MVPは、デボラの映画製作クルーに勧誘された暴力人間エイドリアンを演じるノア・セガンド変態なぐらいが面白いという稀有なイケメンであることが証明された。ノアといえば『LOOPER』のキッド・ブルー君だったが、やること成すこと空回りのブルー君よりエイドリアン君のほうが何百倍も人間としてダメだよ(スラッシャーものの加害者においては褒め言葉だよ)。
あと、登場から退場に至るまで不機嫌顔を崩さない美人殺人鬼双子ちゃんも良かったなぁ。
スティーヴンのお母さんだって実はエルヴァイラの中の人だったし……。

改めて言おう。陽気な極彩色スラッシャー万歳!!!