2012年9月21日金曜日

マイティ・ソー

すべては「まぁ、神様だから」ってことで。

マイティ・ソー('11)
監督:ケネス・ブラナー
出演:クリス・ヘムズワーズ、ナタリー・ポートマン



複数の神々がでてくる神話において、神様の仕事とは、人間たちを助けたり見守ったりすることよりも、人間たちに迷惑をかけることらしい。しかも、言い切っちゃえば家庭内不和とか恋愛トラブルとか、限りなく個人的な問題で。その傾向は、舞台が現代に代わってもあまり変わらないらしく……。

神々の国アスガルドで、最強の武器ムジョルニアを操る戦士にして王位継承者として育ったソーは、傲慢な性格から、アスガルドと協定を結んでいた氷の巨人との争いを引き起こしてしまう。父であり主神であるオーディンは、罰としてソーの力を奪い、ミッドガルド=地球へ追放した。
地球に落ちてきたソーは天文学者のジェーンと出会い、彼女との交流から謙虚さと優しさを学んでいく。しかし、その頃アスガルドでは、ソーの弟ロキの企みが進行していた。

力を奪われ追放された傲慢な神……というよりも、調子こいて悪ノリしちゃったせいでお父さんに家追い出された、態度はデカいけど人懐っこくて憎めない兄ちゃんなソー。
単に考えるより行動タイプなだけで、基本的には人が良くて素直なので、怒られたらすんなり聞き入れるし、傷つくとたちまちシュンとしてしまう。そのため、良くいえばストーリーがスムースに進むことになり、悪くいえばちょっとあっさりしすぎじゃないかと思うところも。神様のお家騒動で人間大迷惑ってわりには、被害が及んだのはニューメキシコの小さな町だけだったし(むしろ巨人の国ヨトゥンハイムの被害のほうが甚大)。

ついでに、パワーを失ったとはいっても、人間界のソーは一般人よりはるかに戦闘能力が高い。ムジョルニアを手にできないのは確かに神様たるアイデンティティの危機だが、そのぶんの精神的フォローをしてくれる優しい人々に囲まれている。
境遇のわりに悲壮感がほとんどないのだが、近年悩みをこじらせまくっているヒーローは多いことだし、たまにはそんなに深く悩まないヒーローでもいいよ、と個人的な希望を入れておく。

そんな兄貴の代わりに、悲壮感を一手に背負ってしまったのがロキ。シェイクスピア劇出身のケネス・ブラナーが「古典悲劇的要素は頼んだ!」と全力パスしたボールを、シェイクスピア劇で頭角を現してきた後輩トム・ヒドルストンが「任せてください!」とナイスキャッチしたんじゃないかってぐらい。
一応ソーに対する敵役であり、ストーリーの続きとなる『アベンジャーズ』でもヒーローチームに対する悪役だが、背景がやたらシェイクスピア悲劇的な暗さで覆われてしまったためか、実に人間的なコンプレックスだらけのキャラクター。しかも、ソーと違って理解者や友達に恵まれていなさそう。
ヒーローと対立するにはあまりにもミニマルな動機と悲壮感は、悪としてもかなりグレーゾーンで、うっかりすると親近感の域に入る。

なお、ロキは言葉を操って相手を誘導するのが上手いので、言っていることは常に虚実が入り乱れているのだが、終盤ソーとの直接戦でもれた一言がロキの本音だとしたら、哀しさに拍車がかかる。DVD収録の削除されたあるシーンでの一言も本音だとしたら、なおさら哀しい。

「いやそんな中学生の反抗期みたいな動機でこんだけ被害を出すんかい!!」
「要はアンタの教育がなってないからこういうことになったんじゃないですかっ!?」
とオーディンにクレームを寄せてもいい気もするが、何せアンソニー・ホプキンス。
彼に物申すのは、怖いもの知らずのトニー・スタークか、ニック・フューリーこと説教叔父貴サミュエル・L・ジャクソンにお任せしたい。

ちなみに、この作品も一応『アベンジャーズ』への布石なので、S.H.I.E.L.D.とかエージェントのコールソンとかしまいにはもちろんニック・フューリーが登場する。ノンクレジットながらホークアイことジェレミー・レナーも出ている。さらに「知り合いのガンマ線研究者」「またスタークのか?」など、口頭だけながらほかのヒーローに触れるところも。あと、マーベル映画のお約束「スタン・リーをさがせ!」も……。

2013年末には続編『Thor : The Dark World』が公開予定。本作ではニューメキシコの一部とヨトゥンハイム、『アベンジャーズ』ではS.H.I.E.L.D.本部とニューヨークに甚大な被害をもたらした世界規模の兄弟ゲンカ、果たして第3ラウンドではどこが迷惑を被るのか楽しみ……といってはいけないだろうか。

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