2015年11月14日土曜日

キングスマン レディース&ジェントルメン上映

紳士の皮を被って「パーーティーーーーーーー!!!!!」

キングスマン レディース&ジェントルメン上映
'15.11.8. 角川シネマ新宿

※レポ内には本編の核心に触れる部分があります。
 これから作品を観るにあたって、あまり多くの情報を入れたくない方はご注意下さい。

1月にはコロナシアターで『パシフィック・リム』絶叫上映があり、10月には『マッドマックス 怒りのデス・ロード』絶叫上映があり、『ロッキー・ホラー・ショー』は40周年を迎え、そして『キングスマン』へ……本当、今年は絶叫上映の当たり年になったなぁ。

兵庫県の塚口サンサン劇場に端を発したレディース&ジェントルメン上映。ルールはマッドマックスとほぼ同じ、映画を観ながら叫びクラッカーを鳴らしつつ節度ある上映会にするのだが、最大の違いは1つ。スーツと傘とメガネのドレスコードだ(注:厳守ではない)。「紳士淑女の上映会」と銘打ってはいたが、参加者は女性率が高いものの多くがメンズ(風)スーツ着用だった。少なくとも1名ずつはヴァレンタインとガゼルを確認できたけど。

観賞前にフォロワー仲間さんたちとギネスを一杯。

燃料充填後すぐ劇場へ。エレベーターが開くと、ロビーは思っていた以上にキングスマン仕様になっていた。

エレベーターが開いてすぐコレである。
ラジオからはサントラより"Slave to Love"が流れていたよ。

数バージョンのポスターはもちろんのこと……

劇場へのドアまでキングスマン仕様だ!

この日は会場内でも特別にギネスを販売していたそうだが、売店に並び待ちができるわ売り切れるわの大盛況だったとか。もちろん売店を含めこの日の館員さんたちは、スーツ着用のキングスマン仕様でしたよ。

角川シネマさんが用意してくださったのは、ロビー展示と入場前に配布されたクラッカー&紙吹雪だけではなかった。
シアター内に入ると、スクリーン真正面にDJブースが設置。さらにスクリーン横にはサーチライト。キングスマンたちのわくわく感を高めてくれたのである。特にレイナード・スキナードの「フリーバード」にはまぁいろんな意味でざわつきましたね。

DJ紳士のサントラミックス。

さて、いよいよ上映時間となり、やはりスーツにメガネに傘を揃えた司会さんが注意事項を説明する。当然「席から立ち上がらない」「物を壊さない」「周りに不快な思いをさせない」といった基礎的なことだが、「皆さんが一斉にクラッカーを使用しますと、場内に煙が立ち込めます。その場合、劇場左右の扉を開けることがあります」なんて危険物取扱みたいなアナウンスまで入るとは思わんかったよ。そんなこと言ってるそばからクラッカー鳴ってたよ。
そして、シメにして盛り上げの一言はやっぱりコレですよ。「Eat! Drink! パーーティーーーーー!!」

ちなみに、「ハリーーー!」「エグジーーーー!」「マーリーーーン!」などお気に入りキャラクターに絶叫が上がるのはおなじみの光景だが、今回は特に女性率が高かったせいか絶叫オクターブが一際高かったように思える。また、私見ではもっとも歓声を浴びていたキャラクターはマーリンである。

以下、いつもの絶叫上映レポパターン、記憶している限りのレスポンス&リアクションです。

  • 一番最初の中東潜入任務からクラッカーの炸裂が止まらず、あたりに火薬の臭いが立ち込める。
  • 「メダルください!」「電話します!」
  • 颯爽とアクションをキメるランスロットにクラッカーと歓声が上がるも、すぐさま「ランス、後ろ、後ろーーー!!」と悲鳴に変わる。
  • ガゼルに「可愛いーーーー!!!」
  • 冒頭「煙が立ち込めたら劇場左右の扉を開けます」とアナウンスして10分足らず。このあたりで既に扉は開いていた……。
  • アーサーと円卓の騎士たちが追悼の乾杯をする席にて、「パーシーーー!!」と歓声を浴びていたパーシヴァル。マシュー・ヴォーンが呼んできた役者でもない友人で、出番も少ないのに、ここまでの人気を集めてるとはなぁ。
  • 車を暴走させるエグジーのシーンでフォロワーさんがパフパフを鳴らしたおかげで、余計に増す族車感。スクリーン内のエグジーに手を振りかえすお客さんも。
  • 「Manners! Maketh! Man!」それに続くハリーのアクションは燃えどころです。萌えどころとも言います。
  • エグジーがパルクールで逃げるシーン、BGMに合わせてハンドクラップが起きる。
  • 試着室エレベーターに唖然とするエグジーに「口開いてるよ!!」
  • キングスマン候補生たちの中で一番鼻持ちならない奴のはずだけど、なぜか歓声も多かったですね。「チャーリー!!!」って。当然「ロキシー!!」って声も多かったけど。
  • 『パシフィック・リム』のマックスしかり、犬は正義です。子犬ともなればなおさらです。「JB!!!」
  • ガゼルちゃんのアクションはもちろん大歓声。
  • 無料SIMカードのニュースを知らないハリーとマーリンに「おじさーーーん!!」(しょうがないなぁというノリで)
  • 「文句があるなら、耳元で囁け」というマーリンに本日トップクラスの「キャーーー!!!」が上がりました。
  • ハリーがヴァレンタインに接触をはかるも、素性が知れていることを匂わせるやり取りに「バレてるよ!!」「隠して!!」
  • JBがジャック・バウアーの略と気づかないアーサーも「おじさーーん!!」と言われてました。
  • ところで誰だい、フライングしてJBやアーサーを撃っちゃった(クラッカーを鳴らした)方は。
  • 極私的今年最大の名言「私はカトリックの売春男で、中絶医のユダヤ系黒人と婚外セックスを楽しんでいます。ヘイルサタン、ごきげんよう」にももちろん歓声でしたね。
  • 中盤の見どころたるアメリカ南部の教会のシーンは、クラッカーと紙ふぶきの炸裂どころでもあるが、さらにサーチライトまで光り出す。大虐殺がパーティーモードになるとは……さすがキングスマン。
  • そして「一仕事」を終えたハリーに「お疲れ!!」「おはよう!!」「ハリーは悪くない!」ついでに「前髪ありがとう!」
  • そしてさらに起きる「期待を裏切る展開」に「ハリーーー!!」「ノーーーー!!!(エグジーの真似で)」「大丈夫だよ!!!(次回作への期待を込めて)」「マーリーーーン!!」「アーサーお前……!!」「嘘つけ!!」
  • 高所恐怖症には過酷すぎる重要な任務を帯びるロキシーに「頑張れ――!!」
  • 客席のキングスマンたちが最もヴァレンタインのアジテーションに乗った瞬間「Eat! Drink! パーーティーーーーーーーー!!!!」
  • エグジー最大のアクションの見せ場には当然歓声が上がる。
  • マーリン「これは私のだ」にクラッカー。セリフだけでクラッカーが上がるのは「Manners! Maketh! Man!」に並ぶんじゃないのか。
  • で、「Manners! Maketh! Man!」に次いでみんなが同時に絶叫したセリフは、マーリンの「Yes,Please」じゃなかろうか。
  • クライマックス最大の見どころであり最も溜飲が下がる「威風堂々」のシーン。当然のようにクラッカーと紙吹雪が消費されていく……とまでは予想していたが、まさかクライマックスに劇場さんが特大クラッカーをバーーーンと鳴らして銀テープをまき散らしてくれるとは……。ただでさえ爽快なシーンでますます清々しい気持ちになりましたよ。実質血みどろだとしても。
  • 「Give It Up」をBGMに世界中にカオス発動。人類の殺し合いが始まり、エグジーとガゼルちゃんとの戦いが始まる中、観客はBGMに合わせてハンドクラップ。ポップと悪趣味が混在するほど盛り上がる絶叫上映は、マシュー・ヴォーンの不謹慎コメディ精神に合っている気がする。
  • ダニエル・クレイグになって以降今のところボンドがやっていない「最後に美女を手に入れる」のシーン。スウェーデン王室の激怒(しているのかな?)をよそに、我々はひたすら「フゥ~~♪」「ヒューーー♪」(パフパフ)と盛り上がるのだった。
  • 「塚口では最後の『Manners! Maketh! Man!』に合わせてクラッカーを3回鳴らしたらしいですよ」との話だったが、それに倣って最後のクラッカー三連発!
  • ……になるはずだったのだが、劇場さんがエンドクレジット中に風船を大量投入。「Get Ready For It」「Heavy Crown」をBGMに全力をあげての風船トス合戦が始まり、余ったらしいクラッカーがまだ鳴っていた。これが紳士淑女のやることかって? ええ、劇場さんがここまで用意してくださったサプライズを全力で楽しむのが今日のキングスマンの務めですとも!!!

注:こちら↓は上映終了後の映画館のフロアです。
くり返し申し上げます。ここは映画館です。
撒いたクラッカーや紙吹雪はできる限り拾いましたが、
それでも終わりが見えませんでした……!

オレたち庶民は手癖が悪くてね。
紙吹雪の中のこういう↓貴重な写真は撒かずに持って帰っちゃったんだよ。
それで映画半券用のスクラップブックに貼ってるんだよ。

最後にまた司会さんが締めの挨拶に登壇。「劇場としてはこうした上映形態がまたできるかは分かりませんが、DVDとBlu-rayは12月23日に発売されます。そのときソニー・ピクチャーズさんにかけあったらできるかもしれません」と次への希望を残す。
今回だって思っていた以上に劇場さんが頑張ってくださって嬉しいことこの上ないけど、絶叫上映ファンとしては次があったらもっと嬉しいよね。
でも「クリスマスはキングスマンを観て教会に行きましょう!」って……生きて出てこれるのかな?

なお、上映終了後にも注意事項はあった。「皆さんお気づきでないと思いますが、服が大変火薬臭くなっております。お帰りの際はご注意ください」とのこと。漠然と「あーそうなのかなー」と何となく劇場を出て駅に向かう地下通路に入ったあたりで……やっと気づきました。
帰りの電車で私の隣に座ってしまった方、火薬臭いサラリーマンみたいなのがいてすみません。


ネットの映画ニュースにもピックアップされ、少なくとも映画ファンの間では浸透しつつある「絶叫上映」。参加者が増えてきたぶん、終了後のツイートを観る限り、次の課題も見えてきた。「マニアな発言(とりわけいわゆる腐女子的なもの)はどこまで可か」「ネタバレにつながる発言はNGでは?」など。
個人的には「よほど不快な発言でない限り、絶叫に制約はかけすぎないほうがいい」「絶叫やツッコミに『お約束ごと』の意味合いが含まれる以上、気を付けているつもりでも完全にネタバレを防ぐのは難しい」という意見だが、こういう議論が出るようになったことは、絶叫上映が次のフェーズに進みつつあるからかもと思えて嬉しくもあるんだよね。

ロビーにて、肩当て付セーターまで再現のマーリン!

今、マーリンvsマーリンの戦いが始まる……ような気がする。

2015年11月6日金曜日

キングスマン

マイ・フェア・ジェントルマンになんかなるものか。

キングスマン('15)
監督:マシュー・ヴォーン
出演:コリン・ファース、タロン・エガートン




えっ、秘密基地作って世界征服をたくらむ悪のボスとガジェット持ったスーパースパイが戦う映画はもはや現実味がない? 
その割に、スーパースパイがちょっとだけ死んですぐ甦ってきたり、超高層ビルを登ったり、飛行機にしがみついたまま離陸しちゃう現実味のなさは、比較的許容されてますよ。
トム・クルーズパワーともいうけど。

サヴィル・ロウの高級テイラー「キングスマン」。その裏の顔は国から独立した秘密諜報組織だった。
諜報員ハリーは、ロンドンで暮らす労働者階級の青年エグジーを、殉職したメンバーの欠員を埋める新たな候補生としてスカウトする。エグジーの父はかつてキングスマン候補生であり、活動中にハリーたちを助け命を落としていたのだった。
その頃、世界各国で科学者や著名人が行方不明になる事件が発生していた。調査に当たっていたキングスマンは、黒幕がアメリカのIT大富豪リッチモンド・ヴァレンタインであることを突き止める。環境保護活動に端を発し「人間こそ地球を蝕むウイルスだ」と結論づけたヴァレンタインは、慈善活動と称し、人類の大半を抹殺する計画を練っていた……。

武器が内蔵されたライターや靴、通信・記録機能付き眼鏡、店の奥に秘密のエレベーター、アーサー王と円卓の騎士を模したコードネーム、エコを盾に人類抹殺を目論む悪のボス、身体欠損があり義手義足が武器になっている悪の殺し屋、氷の地の巨大洞窟に悪の本拠地……
と、ロジャー・ムーア期以前(ピアース・ブロスナン期もちょっと入ってるけど)の007映画でみかけた要素が満載。つまり、現在のダニエル・クレイグ版ボンドのテイストではまずできないことが満載。
「昔の007は好きだ。最近のはシリアスすぎる」とセリフにまで出しているし。

しかし、007ものを始め往年のスパイ映画を彷彿させる設定をちりばめておきながら、「これはそういう映画じゃない」と言ってあっさりとこちらの期待を裏切る展開もしばしば。
単に観客を驚かせよう、懐古趣味とは一線を画そうというだけでなく、「007の監督やりたかった」「『ナポレオン・ソロ』のロバート・ヴォーンが本当のお父さんだったら良かった」という、マシュー・ヴォーンのスパイ映画にまつわるちょっとした闇が顔を出したようにも思える。

キングスマンは紳士である。そして英国紳士といえば、一般的に貴族階級(中産階級の上のほうが入ったり入らなかったり)である。そこに労働者階級のエグジーを入れるとなると、まず言葉のアクセントから教えなければならないんじゃないか? 礼儀作法や教養は? と思ってしまうのだが、そういう展開ではない。
というか、これはそういう映画じゃない。

ハリーがエグジー(およびその父親)をリクルートしていたのは、基本的に上流階級のみで構成されていたキングスマンの形態に危機感を覚えていたからだ。
多くのキングスマン候補生たちのエグジーに対する態度を見れば分かる通り、上流階級には下の階級を見下すところが多分にある。政府や国とのしがらみはなくとも、自らの優位性にしがみつきたいがために他の者を蹴落とすようでは、世界を救うことはできない。実際、その優越感がキングスマンにとんでもない事態を招くところでもあった。

ちなみに英国上流階級については、「親の資産と名前を傘に贅沢かつ甘やかされて育っているので、中身は大バカ野郎である」と、モンティ・パイソンに何度もバカにされている側面もある。(特に『第127回上流階級アホレース』コントに顕著である)

だから、ハリーはエグジーに紳士らしいスーツを与え、基本的なマナーはするが、言葉を矯正しようとはしない。候補生たちの教官であるマーリンも、筆記試験を課したり身体能力の強化訓練をさせたりはするが、エグジーその人を変えようとまではしない。
ハリーが語る通り、「Manners Maketh Man.(マナーが紳士を作る。マナーが人を作るとも訳したい)」。強い者には強気で弱い者には優しく、仲間を励まし仲間のためには決して口を割らず、機転に優れたエグジーの振る舞いは、彼自身を良い人間に、また良い紳士に作り上げていたのである。

嫌な上流階級に代表される「自分たちだけ良ければ庶民なんてどうでもいいスノッブな奴ら」への恨みつらみは、あるとき最高の形で昇華されることになる。しかもその瞬間のBGMがクラシックの「威風堂々」
さらに、「自分たちだけが正しくてあとの連中(特に社会的マイノリティ)なんて天罰が下ればいい」と思っている南部のプロテスタント白人まで、ついでのように爽快なほどメッタ殺しにされる。しかも土臭いサザンアメリカンロックたるレイナード・スキナード「フリーバード」がBGM。
趣味が良いとも意地悪ともいえる選曲である。

そうそう、エグジーvsブレード義足の殺し屋ガゼル(ダンサー出身のソフィア・ブテラ。ブルース・リー似で可愛い)の戦いと、並行して起きる世界中のカオスに、80年代ダンスチューンな「Give It Up」を流すセンスも忘れちゃいけない。
さすがマシュー・ヴォーン。『キック・アス』でヒットガールの薙刀殺戮BGMに「Banana Split」(ナッナッナーナーナナッナー♪)を選ぶ男。

2015年10月28日水曜日

マーダードールズ/ウィメン・アンド・チルドレン・ラスト

殺人人形、リアルな血を流す。

MURDORDOLLS
Women And Children Last('10)



そういえば、ホラー映画って監督や脚本家個人の思いが割とダイレクトに表現された作品だったりもしますよね。
その多くは「お前らばっか恋愛だのセックスだのスポーツだの優等生だの青春を謳歌しやがってこの野郎ぉぉぉぉぉ!!!!」って恨み言だけど……。

ジョーイ・ジョーディソンとウェンズデイ13のホラー映画愛好組によるプロジェクト……と言いながらも、前作『ビヨンド・ザ・ヴァリー・オブ・マーダードールズ』はウェンズデイが以前より書き溜めていた曲から作られていたらしく、今回はジョーイとウェンズデイのほぼ2人で作曲・レコーディングしたとのこと(ライナーノーツ参照)。

ウェンズデイのB級ホラーボーカルとノリのいいロックはまぎれもないマーダードールズなのだが、前作とは大きく異なるところがある。歌詞のホラー映画ネタが皆無なのだ。
2人ともあれほどホラー映画大好きなのに! と思うところもあるが、マーダードールズとしての活動再開までの間に溜め込んだパーソナルな心情やフラストレーションを反映させた結果らしい。特にウェンズデイはこの間スーツケースだけで移動生活をしていたという環境が、M5「Nowhere」やM8「My Dark Place Alone」に反映されている。
中でも一番ダイレクトに表現したのは「失うものは何もない/証明するものもない/腐る前に騒音を鳴らせ/俺にはロックンロールだけなんだから」(M11『Rock N Roll Is All I Got』)の詞だろう。もはや叫ぶのは映画愛だけではなく、ドス黒い感情が渦巻いている。

それでも、M2「Chapel Of Blood」やM9「Blood Stained Valentine」、M10「Pieces Of You」には、既存の映画ネタこそはないがホラー風味がうかがえる歌詞。実際、M2など一部のMVは、グラインドハウスホラー映画の予告編を意識して作られているのである。彼らのホラー愛は決して霧散しているわけではないと安心できる。

なお、ダークになったのは歌詞だけではない。曲調も前作のパーティー・ロック感は薄れ、より不吉さが増している。前作が70年代オカルトや80年代スラッシャーの鮮やかすぎる赤い血だとしたら、今作は酸化して赤黒くなるリアルな血だ。

2015年8月の時点で、ウェンズデイはマーダードールズについて「今後の再開はないかもしれない。でも2ndアルバムだって作るとは思ってなかったからね」と語っていた。そりゃウェンズデイもジョーイもプロジェクトを持ってるし、簡単に再結成できるもんじゃないけど……どっかで続いててほしくもあるよ。
だって貴重じゃないかよ、ホラー映画友だちって!(そういう次元の話じゃないことは重々承知の上で)

ホラー風味は少ないが、ウェンズデイの放浪(?)生活が反映されているようにも思える
M5「Nowhere」。

その一方で、本当にグラインドハウスホラーの予告編チックに作られた
M2「Chapel Of Blood」MV。これ以外にもニセ映画予告風Vが結構あります。

2015年10月27日火曜日

ムーンスペル/EXTINCT

絶滅させるなベルベット・ボイス。

MOONSPELL
EXTINCT('15)



実は私、ムーンスペルの曲を安眠導入に使っております。フェルナンド・リベイロ(Vo.)のクリーンボイスは大変に聴き心地が良くて落ち着くのです。
……って言うと割と分かって頂けるのに、「クレイドル・オブ・フィルスも安眠に効きます」って言うと一斉にヘンな顔をされるのは何故ですか。

ちなみにムーンスペルはクレイドルのサポートアクトを務めてたことがあり、その際ステージのクライマックスにクレイドルのメンバーから小麦粉をぶっかけられるというイタズラに遭っていた模様がクレイドルのライヴDVDのドキュメンタリーに収録されていましたよ。

ポルトガル産ゴシック・メタルの11thアルバム。思えば活動履歴が1992年からで23年目に入っているのだから、彼らもベテランの域に達したものだ。
6th『MEMORIAL』以降はヘヴィネス路線が目立っていて、フェルナンドのデスボイスも初期と比べて格段に深みと凄味を増していたのでそれはそれでキマっていた。ただ、本来持っていた「ゴシック」的な耽美性と艶やかさが薄まっていたのは残念だった。

特にそれを担っていたのがフェルナンドのクリーンボイス。別名ベルベット・ボイスと言われるほど、低音で艶やかで色気がある。デスボイスも良いが、フェルナンドの武器はベルベット・ボイスと思う人間にしてみれば、そちらをもっと活かせばいいのにというのが近年の作品を聴いての感想だった。
(だから10th『Alpha Noir』とセットというか対になっていた『Omega White』は、個人的に大変理想的だった)

そこへ本作である。時折デスボイスも入れつつ、ベースはクリーンボイス。クリーンボイスの曲はおとなしめ、あるいはバラード色が濃くなる傾向にあったが、今回はややヘヴィネスが主張している傾向。3rd『Sin/Pecado』以来の中近東風メロディやストリングスの導入も見られる。
ここ最近物足りないポイントであった耽美性と艶がぐっと増したが、デスボイス全開のヘヴィ路線が好みというファンには、あまりありがたくないかもしれない。良く言えばバランスが良く、悪く言えば折衷案か。
彼らの音楽が本来持っているダークな美しさや、詩人でもあるフェルナンドの詞の魅力を引き出すには、なかなかに良い手法だったように思えるのだが。

面白いのは、彼らが「ゴシック」を意識した作品づくりをした結果、ゴシックの重鎮といわれるシスターズ・オブ・マーシーに近い曲が多々見受けられるようになったことだ。
ボーカルにドスを増したエルドリッチおじさんがこのアルバムを聴いたらどう思うのだろうか。

リードシングルとなったM2「Extinct」。
アルバムの中ではフェルナンドのデスボイス中心版です。

こちらがベルベット・ボイスを堪能できるM4「Domina」。
シスターズっぽさを感じさせる曲でもある。

2015年10月25日日曜日

マーダードールズ/ビヨンド・ザ・ヴァリー・オブ・マーダードールズ

可愛い殺人人形の血しぶきパーティー。

MURDERDOLLS
Beyond The Valley Of Murderdolls('03)




ハロウィンが近いと、この人のヴォーカルが聴きたくなるんですよね!
……って言ってるの、いまだに周りに自分しかいないんだけど。

スリップノットのドラマー、ジョーイ・ジョーディソンがギターを担当し、ウェンズデイ13がB級ホラーの申し子とでも言うべき禍々しくも可愛いボーカルを聞かせてくれる。(ギタリストには当時スタティックXのトリップ・アイゼンもいたが、後々事件があってバンドどころか音楽シーンからもフェードアウトしてしまった……)

「ジョーイのサイド・プロジェクト」という位置づけもされているが、確かにスリップノットではできない音楽性を解放しているとはいえ、アーティストが両バンド同じくらい心血注いでいるのなら「サイド」扱いは失礼ではないか……とも思う。
「こんだけホラー大好きアピールしてる人の作品をサイドとは何ですかサイドとは!! こっちだって立派な本家っすよ!!」というホラーファンの勝手な同志意識が突っ走った結果でもあるのだが。

ちなみに、ライヴでのバンド形態はジャケ写の通り5人だが、アルバムではジョーイがドラムも担当していたとのこと。そしてファンならジョーイのドラム技術の凄まじさは知っての通り。
そのため、時間がなくて写真判定ぐらいでオーディションをパスしてしまったライヴドラマーが、「音ペナペナじゃないですか……」と反感を買うという災難もあったそうな。

マーダードールズの発祥は、ジョーイとウェンズデイがスリップノット以前に組んでいたリジェクツというバンド。だが本作の音楽性の大元になったのは、リジェクツ活動停止後にウェンズデイが活動していたバンド、フランケンシュタイン・ドラッグ・クイーンズ・フロム・プラネット13。
その名の通りゴテゴテしたホラー色溢れる歌詞と音楽性をマーダードールズも継承し、「彼女はティーンエイジのゾンビ」(M6『She Was A Teenage Zombie』)、
「俺は宇宙からやってきた墓泥棒U.S.A.!」(M8『Graverobbing U.S.A.』)、
「ミス・アメリカをぶっ殺せ!」(M13『Kill Miss America』)
と、ホラーファンに目配せしつつも、怖さはどこかに置いて楽しさと可愛らしさを押し出した曲を聴かせてくれる。ウェンズデイのソロアルバム『トランシルヴァニア90210』でも同じように言及したけど、鮮やかすぎる血しぶきのように毒々しくも明るい、キャッチーなロックンロールである。

『エクソシスト』のリーガンに夢中なM4「Love At First Fright」、タイトルからあからさまに『ゾンビ』な「Dawn Of The Dead」など、B級に留まらないホラー愛も覗かせる。
先述の「Graverobbing U.S.A.」といいM3「Dead In Hollywood」の歌詞といい、エド・ウッド映画へのオマージュも隠さない。そういえば、アルバムタイトルは巨乳大好きラス・メイヤーの『ワイルド・パーティー』の原題パロディか。
マイ映画生活がホラーやカルトに傾倒していくほどに、ウェンズデイとジョーイが友だちじゃないことを勝手に悔やんでいるよ。

ちなみに、国内盤のブックレット解説いわく、ジョーイは『悪魔のいけにえ』のほう、ウェンズデイは『悪魔のいけにえ2』のほうが好きらしい。ってことはウェンズデイのほうがより友だちになれそうなのかなぁ(一方的推測)。

歌詞に登場するホラーアイコンの名がいくつ分かるかがホラー入門者バロメータな
M3『Dead In Hollywood』。MVにはマンソン師匠も出てますよ!
もちろんウェンズデイのB級ホラー声も堪能してほしい。

2015年10月13日火曜日

マッドマックス怒りのデス・ロード絶叫上映@新文芸坐

何てラブリーでシャイニーでクロームな日だ!!!

マッドマックス 怒りのデス・ロード 絶叫上映
'15.10.11. 池袋新文芸坐 池袋ヴァルハラ坐


上映中に客が歓声をあげたりセリフを真似したりしてもいいスクリーンってないものかな……と、「ガヤスクリーンに関する思いのたけ」にぶちまけていた2012年12月の自分に、「来年(2013年)からの『パシフィック・リム』や2015年の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』じゃ好きなだけ叫んでいい絶叫上映があるぞ!」って言ったら信じるだろうかね? 年のスパンが短いしさすがに信じてくれるんじゃないかね?

ちなみに2013年のパシフィック・リム池袋絶叫ナイトのレポはこちら
同年の立川爆音絶叫上映レポはこちら

ファンの方製作、マッドマックス神話絵巻。

ファン層は『パシフィック・リム』と重なるところが多そうなので、当然今回もコスプレのお客さんは多いだろう。とはいえ装備が面倒そうだし、そんなに凝った人もいないかもな……と思っていたら、当日ロビーは想像以上ハイクオリティコスプレで埋まっていた。最低でもきちんと白黒ペイントしたウォーボーイズ&ガールズもいたし……恐るべし、ファンの底力。
なお、途中ロビーが混雑してきたので、整理番号61番以降は階段でヴァルハラのゲートオープン待ちとなった。一応それまでに収められた写真を以下に。

5人の妻たちよりトーストとケイパブル。完成度高。

ウォーボーイズいろいろ。スキンヘッドはお得感あり。
私も白パーカ使えば良かったな……と思ったら私のはフードがなかった。

ガスタウンから棒飛び隊がチェーンソー持ってきましたよ。

作中では見られない幻の共演その1。イワオニ族とフュリオサとウォーボーイズ。

作中では見られない幻の共演その2&3。
マックス(輸血袋Ver.)&ヴァルキリーとヴァルキリーvs棒飛び隊。
 

フュリオーサ!! フュリオーサ!!(ラストの人々の雰囲気で)

もはや我らがアイドルと化したイモータン・ジョー。とうとう親衛隊が現れました。

ウォーボーイズ&ガールズの士気を高めに、コーマドゥーフウォリアーがギターを弾きにきた!!

ようやく番号を呼ばれて英雄の館=シアター内に入ると、主催者さんチームから「絶叫上映マニュアル」を受け取る。空席を探している間に、早くも一部ウォーボーイズ&ガールズがV8コールで盛り上がっていた。コスプレ撮影の段階から今日はアツくなると思ってたけど、ここまでくるとは……!!

いよいよ上映時間というころ、ステージに現れたのはウォーボーイズに、イモータン・ジェーン(女性の方だったもので)に、マックスと同じ口枷と鎖で繋がれた文芸坐職員さん。「イモータン・ジョー様に脅されて絶叫上映をやることになりました」と前置きしつつ、注意事項を説明。

しかしだんだん舞台上の誰よりもヒートアップする文芸坐さん。「皆様の盛り上がり次第では! 今日はジョー様が勝つかもしれません!!」と観客を煽り、ステージからクラッカーをばら撒き、果ては映写室に向かって「デカい音で頼むぜ!!!」(そして手を振る映写担当さん)
……この過酷(仮)な世界では、誰もが正気ではいられない。


なお、本日は鳴り物持ち込み可ということで、大多数の観客がクラッカー持参。最初のマックスの登場はもちろんのこと、それ以前のワーナーのロゴやジョージ・ミラーの名が出るあたりでも鳴らしまくり、以降発砲や爆発や信号弾に合わせてクラッカーが鳴る。おかげで場内には常に火薬の匂いがたちこめる。何ともマッドマックスにピッタリな空気になったものだ。

以下、ウォーボーイズ&ガールズの絶叫&リアクションの数々を記憶の限り。

  • 冒頭よりマックスに「早く逃げて!」あるいは双頭ヤモリに「逃げて!」「そっちに行くな!」
  • ウォーボーイズに捕まったマックスが髪の毛を切られると「切ってくれてありがとう!」
  • 脱走マックスを捕まえようとしたウォーボーイの転落に最初の「Witnessed!」。以降ウォーボーイズが散っていくたびに「Witnessed!」スクリーンを指す。
  • 「ウィーアーウォーボーイズ!!!」「ウォーボーイズ!!!」念願のコール&レスポンス。
  • 「ジョー! ジョー! ジョー! イモータン・ジョー!」「V8!! V8!!」毎回映画観ながらこっそりやっていたコール&V8サインを、堂々と叫び掲げられる爽快感ときたら。
  • シタデルの水解放でみんな手を掲げたりペットボトルを掲げたり。
  • シタデルのウォーパブスが太鼓を叩くと、太鼓持ち込み組がドンドコ。
  • 母乳の味見をするリクタスに「おいしい?」
  • ウォー・タンクの異変に気付いたジョーが走り出すと「急いで!」
  • ドゥーフワゴンが走り出すと、客席でも太鼓が鳴り、コーマドゥーフウォリアーがギターを(弾く動きを)始めます。
  • バイクが走り出すと客席からパフパフ音が鳴り響くので、余計暴走族感が増します。
  • 「イモーーターーーン!!! イモータン・ジョーーーーー!!!」「I am awaited in Valhallaaaaaa!!!!」(ハンドル掲げる)思う存分叫んでV8できる爽快感ときたら。
  • 応援要請の信号弾にクラッカー。
  • 「Aw what a day......what a lovely day!!!!」「I live, I die, I live again!!!」思う存分叫べる爽快感ときたら。
  • 砂まみれで復活するマックスに「きなこもち!!」
  • 以降誰かが気絶や眠りから目覚めると「おはようございます!!」の声が。
  • 鎖を外そうとニュークスの手首を引っ張ったり噛みついたりするマックスに「可愛いーー!!!」
  • 水浴びをする妻たちに「ヒュー♪」と変なテンションが上がる。
  • ペットボトル持参組は、マックスと同じタイミングで水を飲む。
  • フュリオサや妻たちへの意思疎通に言葉が少ないマックスに「喋れよ!!」
  • ヤスリのようなもので口枷を外そうとするマックスの真似をして後頭部をコスコスする観客(タンバリンのシャカシャカ音付き)。というか作中のマックスのジェスチャーはだいたい真似されているよ。
  • マックスがウォー・タンク内の武器を没収するたびに「よいしょ!」って言ってる人いましたね。
  • マッドマックスファンはダグちゃんのおかげで「Schlanger!!」というスラングを覚えました。
  • マックスに腹パンで気絶させられても妻たちに放り出されてもひた走るニュークスに「頑張れー!!」と声援が。
  • 人喰い男爵はもちろんアレですね。登場するたびに「乳首!!!」
  • 本日のコスプレ勢にいらっしゃったイワオニ族、岩の門のくだりでは立ち上がって歓声をあびてました。
  • 進んで銃の再装填をしてくれるトーストちゃん、「イケメン!!!」と褒められてました。
  • 次に何が起きるか分かっているはずなのに、スプレンディッドに悲鳴の声が……
  • ジョー軍のバイクに駆け寄るフラジールちゃんに「戻っちゃダメ!!」「止めろ!」
  • やはり指摘がありましたね。オーガニック・メカニックに「ヨダレ!!!」
  • ピースメーカーへの射撃をマックスからフュリオサに交代したとき「お願いしまーーす!!!」
  • お礼として頬にキスすることを覚えたニュークスに「ヒュー♪」
  • 「我こそは正義の天秤!! 死の合唱の指揮者だ!!」「ガンフィーバー!!!」何気に一瞬でみんなをMADに染めさせた武器将軍。
  • まさか、ニュークスが虫を食べた瞬間にクラッカーが鳴るとは……
  • ヴァルキリーの真似をしてみんなハイトーンボイスで吼える。
  • V8やWitnessポーズもやるなら、もちろん鉄馬の女たちの哀悼の仕草もやらなきゃ。
  • さすがにフュリオサと鉄馬の女たちとの再会、フュリオサの慟哭、夜の砂漠の静かなひと時にはみんな静まったなぁ。
  • 一世一代のプレゼン後、マックスの握手待ちの手を真似する観客。ただし手を強く組んでくれるフュリオサの役は自分自身の左手でやるしかなかった。
  • 宙吊り爆睡のドゥーフウォリアーに「起きろ――!!」
  • ウォー・タンクを発見する棒飛び隊の見張り役に「よく気づいた!」
  • ファイナルカーチェイス&バトルはクラッカーの使いどころ満載で困る。残弾を気にしながらの密かなる戦い。
  • スリットと一緒に「ヴァルハラァァァァ!!!!」
  • 最後に「おばあ!!!」と呼ばれた鉄馬の女、いつ見ても「こんな最期を迎えられたらな……」と思う表情です。
  • 「リクターーース!!!!」
  • ケイパブルちゃんはフュリオサへ優しく呼びかけますが、我々は少々暑苦しく呼びかけます。
  • 「フュリオサ!」「フュリオサ!」「Let them up!! Let them up!!」……そして大団円へ。
  • あれほど評判の悪かった日本独自エンディング曲の「Out Of Control」が、ハンドクラップとヘッドバンギング、「ヘイ! ヘイ!」というレスポンスや「ナーーナーーナーーナーー♪」コーラスで盛り上がり、ドゥーフウォリアーもギター弾き真似をし、まるでライブの様相で迎えられるとは!! MAN WITH A MISSIONとZebrahead好き、そしてロックファンとして嬉しい瞬間だった。『ロッキー・ホラー・ショー』と同じく、やっぱり観客が自主的に楽しむことが大事なんだね。

この絶叫上映を実施できたのが新文芸坐でラッキーだった。音響システムが良く、低音が足元からビリビリ響いてくれるからだ。個人的には立川よりは近いし。新文芸坐さんに絶叫上映主催の皆さん、本当にありがとうございました。V8!! V8!! 

今のところ、絶叫上映は訓練された映画オタクが主体のイベントである。こうしたイベントの存在を少しでも世間に受け入れてもらえるために我々ができることといったら、確かに内輪で盛り上がる雰囲気ではあるけれども決して内向的になりすぎないこと、マナーはきちんと守る姿勢をキープすることなのだろうか。
だから「絶叫上映とか行ったことないしコスプレする気もないし映画そんなに何回も観てないし……」という方を、「大丈夫!! 最低限のマナーを守れば基本自由だから!」と自信を持って招き入れられるようになるのが理想だよ。


コスプレもハイレベルだが小道具も凝ってる人いたなぁ!
私なんかエアハンドルだぞ。

そ……その発想はなかった!!

2015年10月5日月曜日

ムカデ人間3

監獄ムカデでみんな(ムカデダンスを)踊ろうぜ。

ムカデ人間3('14)
監督:トム・シックス
出演:ディーター・ラーザー、ローレンス・ハーヴェイ

 

1の静かなる変態ワールドが気に入った人の中には、2の嫌悪とグロの極致を受け付けない人もいただろう。逆に1を物足りなく思えた人は、2のダイレクトな残酷描写が気に入っただろう。
だが、1と2どちらも好き、あるいはどちらかは好きというムカデファンでも、本作には辟易してしまうかもしれない。このシリーズは、前作でファンになったであろう観客をいとも簡単に切り捨てる。まったく仕方のない奴だよ、トム・シックスは! どうしてくれるんだよ。映画館でこんなに腹筋に響いて喉の奥がゴボゴボいうほど笑えたのはたぶん初めてだよ!! 
ああ、結局3作目にして最もハマったよ!! 監督の術中に!!

アメリカ、ジョージ・ブッシュ刑務所。所長のビル・ボスは悩みの種とストレスを抱えて今日もブチ切れていた。この刑務所は暴動発生率、職員の離職率、出所者の再犯率、さらにボスによる囚人虐待のせいで医療費も全米一。このままでは州知事にクビを言い渡されてしまう。
ヒステリーが激しくなるボスに、会計士のドワイト・バトラーが提案した。『ムカデ人間』と『ムカデ人間2』を参考に、「受刑者総ムカデ人間化計画」を立ち上げるのだ! これなら暴動も起きず、職員もケガせず、食費もカットできる、最高の懲罰になる。さらにドワイトはトム・シックス監督を呼び、「ムカデ人間は医学的に100%正しい」との意見を得る。
ただでさえアタマのタガが外れっぱなしなのに切羽詰まっているボスは、遂に囚人500人をつなげる一大手術にゴーサインを出した……!!

主役俳優コンビに、カツローこと北村昭博、セブリング先生ことビル・ハッチェンス、何気にシリーズ皆勤賞のピーター・ブランケンシュタイン、さらには監督まで本人役で出演。オールスタームカデ祭りだ!! ……と思いきや、見せ場の大半はディーター・ラーザーの過剰なブチ切れ独壇場という予想外の展開。
しかもコレ、1のようにマジメにやってるがゆえに笑えるのではなく、完全に笑いを狙いにいったコメディになっている。ボスという名の所長にバトラーという名の執事役って、ヴィランという名の悪役(エクスペンダブルズ2)以来のギャグネーミングだなぁ。

当初より出オチ感の高かったムカデ人間も、今回は500人つなぐという規模のこともあって、シリーズNo.1の出オチ扱い。観た瞬間「本当に本気でやりやがった……」とは思うが、国内・海外問わずポスターでビジュアルを公開してしまっているから、衝撃度は控えめだろう。
その代わりといっては何だが、1同様結合部はバンドで隠されているものの、手術で口とケツが結び付けられる決定的瞬間はしっかり収められているのだ! それを観て何%の人が喜ぶのかは置いといて。

まぁ、ある意味もっとヒドいのは、ボスがさらなる懲罰として作った××××人間。手術が大がかりかつ残酷な割に、ほとんど引きの画でしか映してもらえないうえ、本当のところ俳優さんたちがどういう姿勢でいるのか観客にバレバレなんだもの。それでさっさと次行っちゃうんだもの。これぞ出オチの極みにして(役者的に)懲罰の極み。
ちなみに、この手術を観ていた本人役のトム・シックス監督、ボスの横暴ぶりに「これはマズいよ!」とコメントし、盛大にゲ○まで吐いていたが……
お前がすべての主犯格のクセして何常人ぶってるんだよ(笑)!!! 

1の冷ややかな色彩の世界=ハイター博士、2の暗く湿っぽいモノクロ世界=マーティン、とくれば、本作の喧騒と暴力にまみれた灼熱の世界はビル・ボスだ! 
1作目ではクールな知的変態だったディーター・ラーザーが、キレる、吼える、虐待する、セクハラする、そしてまたキレるという、暑苦しくやかましいバカ暴君に嬉々として変貌を遂げている。

ハイター博士やマーティンもなかなかにアタマのネジがぶっ飛んだ方々だが、2人もビル・ボスにはドン引きしそう。父親の釈放をネタに秘書のデイジー(ポルノ女優ブリー・オルソン。彼女の幻の場外武勇伝については北村昭博氏のコラムやインタビューを読んでいただきたい)を性欲処理に利用し、精力剤としてアフリカ産干しクリトリスを食し、キレてはその辺で銃を乱射する。逆らう囚人たちに対しては、腕を折るわ、熱湯攻めにするわ、麻酔なし去勢手術を施すわで、挙句取ったタマをフライにして食ってしまう。
しかし彼の実態は、囚人からの報復を悪夢に見るほど恐れている、声のデカい小心者なのである。

もはやハイター博士に輪をかけて可愛げも同情の余地もない男のはずなのだが……それでも不思議とディーターは可愛らしくて仕方ない!!!! 過剰演技で見せる暴走劇もさることながら、机の下に隠れたり、ショットガンをお守りのように抱きしめたり、我先に逃げたりする小心者ぶりまで可愛い。完成したムカデ人間を前に踊りながら歩き出す姿も可愛い。
最低の人間を魅力的に映すためには、演者自身の多大なる魅力がキモ……とは重ね重ね言っているが、ディーターのチャームは思いのほか強大だった。

しかも、今度のディーターは笑いの暴走列車である。ニタニタ顔やらふくれっ面やら絶頂顔やらの顔芸、ブチ切れ芸、ヤバい事態から逃げようとするリアクション芸まで、運悪くドツボにハマってしまった人間には「もう勘弁してくれ!!」と言いたくなるほどお笑いトラップのたたみかけである。
まさに「絶対に笑ってはいけないジョージ・ブッシュ刑務所」。自分は何回ケツバットを喰らうことになるのやら。そういえば、「オレのリーダーシップは原子爆弾だ! 100メガトン級だ!」とわめくボスの背後で、ブリー・オルソンが不自然な前傾体勢になってましたが、アレたぶん本気で笑っちゃってましたよね……?



その点、ドワイトは冷静なほうだし、礼儀正しいし、デイジーに乱暴な扱いをしないし、ボスに歯止めをかけようとしてるし、まだマトモだよな。デイジーもドワイトの近くにいたほうがマシなんじゃないかな……って、見事にダマされてましたよ!!

ボスが戯画化された暴君なら、ドワイトは妙にリアリティのあるサイコである。声高にヤバいことをわめく暴力装置であからさまに危険人物のボスに対し、ドワイトは接しやすくノーマルな会話が可能。ボスの暴走に対するツッコミ役でもある。

ついでにいえば、物言わずとも全身から孤独と狂気を発していたマーティンに対し、今回のローレンスはお喋りで愛嬌たっぷりの姿を見せてくれる。だから、うっかりするとボスの異常性を測るための基準として置かれた「普通の人」に映ってしまう。


しかし、そもそも非人道の極みたる受刑者ムカデ化計画の発案者はドワイトである。「あんなくだらんB級映画を!」と取り合いもしなかったボスを、監督呼び寄せてまで説得したのもドワイト。デイジーにだって密かに好意を寄せているのに、彼女がダッチワイフ以下の扱いを受けていてもボスを止めようとはしていない。囚人虐待にストップをかけるのだって、理由は「また医療費がかさむから」である。

ドワイトは確かにボスを恐れているが、崇拝してもいるので、基本的にボスのやることなすことを否定してくれないのだ。

明らかな狂人の影にいて、一見普通の人の態度をとっているが、その実一般的な倫理観が抜け落ちている。幼児性とそれゆえの残酷さを持つマーティンと対比してみると、また興味深い。

以下、ネタバレ記述あり





三部作中最も笑いの要素が強い作品ではあるが、救いのなさも前2作に劣らない。

搾取される側の人間は最後まで搾取され続け、救いの手も差し伸べられない。国歌響き渡り星条旗がはためく下では、全裸の狂人が勝利の雄叫びを上げ続けるのだ。

これがアメリカだ。これが世界の不条理だ。ありがとうトム・シックス。
ありがとうムカデ!!!

2015年9月29日火曜日

ムカデ人間2

無邪気な悪魔におもちゃが12人。

ムカデ人間2('12)
監督:トム・シックス
出演:ローレンス・ハーヴェイ、アシュリン・イェニー



映画に影響を受けて何かやらかしたことは数知れず。
『リーサル・ウエポン』のメル・ギブソンのシャツの着こなしを(可能な限り)真似したり、『ザ・プロデューサー』カメオ出演のベニチオ・デル・トロの歩き方を真似したり、『ショコラ』のホットチョコレートにチリペッパーを入れる飲み方を自己流さじ加減で試した結果喉をやられたり。
それを「若気の至り」で片づけられればいいのだが、ここ数年は『ワールズ・エンド』を観てビールハシゴ飲みをしたり(そしてつまみのフリッターに食あたりしてリバース)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を観てラジカセ引っ張り出して「マイ最強Mixテープ」を作ってしまったりと、成長してますますやらかしの度合が大きくなっちゃっているのが問題。

……まぁさすがにムカデは……いやもしやる気が出たらスクラップブックぐらいはつ・く・っ・て・み・た・い気もしますし、破かれたらスゲェ怒る気もしますよ。

ロンドンの地下駐車場で警備員の仕事をしている男・マーティン。かつて父親からは性的虐待を受け、一緒に暮らしている母親からは「居なければよかった」ように扱われ、精神科医からは下心を持って見られ、駐車場利用客からもバカにされ続けている。
そんなマーティンが愛してやまないのが『ムカデ人間』。DVDを繰り返し観るだけでなく、母に嫌がられながらもムカデを飼い、スクラップブックも作る入れ込みよう。その愛着は「自分もムカデ人間を作ってみたい」と思うほどに膨れ上がっていた。
マーティンは野望の実現にむけ、駐車場の客や近所の男ら12人を次々と貸倉庫に拉致監禁。さらに、『ムカデ人間』にジェニー役で出演していたアシュリン・イェニーまで、自らのムカデの先頭に配すべく監禁。医学知識も技術も道具もなく、大工道具のみを手に、マーティンは遂にムカデ人間製作に乗り出した……!!

「地獄絵図」「不快度MAX」とはこのことだ!(以下その手の話が続くので注意)

「口とケツをくっつける」「前の人のウ○コが次の人の口へ」という『ムカデ人間』では直接描かなかった生理的嫌悪描写。あるいは、膝の靭帯を切り歯を抜くという、比較的マイルドに見せるだけに終わらせていた手術プロセス。
今回監督は、そうしたエグいパートをこれでもかというほど直接的に見せ、生理的嫌悪も痛覚も手加減なしの方向へ舵を切った。

医者じゃないから当然麻酔なし、必要とあらばバールで殴って気絶させる。ハンマーやらナイフやらで人体損壊してムカデにしようとしたものの、どうにもならずショックや失血で死んでしまう被害者も出てくる。結局、やけになって接着はホチキスとダクトテープでバチバチベリベリ。
現代医療に当たり前に存在する、麻酔や縫合の技術がいかにありがたいかが嫌というほど分かる。前回、その医療技術をフル活用して暴走しちゃった医者がいたけどね! 

それからマーティンよ、麻酔は持ってないのに下剤は持っているのな。だからウ○コのプロセスもどうにもならなくなったらとりあえず下剤に頼るのな。だからそちらの意味でも地獄絵図が展開してしまうのな……!!

そもそも、ムカデ素材の誘拐も、とりあえず拳銃で脚のどこかを撃つ→逃げられなくなったところをバールでガーンと気絶!! という痛さ全開のプロセス。半死半生で調達するわけだが、下手したらその時点で素材が死ぬぞ。そんなん見たらハイター博士も気絶するぞ。違う意味で。

青と白を基調にした冷ややかな色調だった前作に対し、今作はモノクロ。しかもロンドンは常に雨模様なので、暗さと湿っぽさが格段に上がる。
前作の色調がハイター博士を表しているなら、今作の陰鬱なモノクロの世界は、誰からも愛されず己の殻にこもってムカデを愛する男、マーティンのことである。

ただし、この映画はすべてがモノクロというわけではない。たった1つだけ、着色されているものがある。それを観てしまったら……思わずにはいられない。「監督は鬼か!?」(ちなみに、トム・シックス監督は変態的な世界を描くが、彼なりの計算があってのことだしそこに狂気は見えないので、変態とは思っていない)

前作がハイター博士なら、本作はマーティンの独壇場。ローレンス・ハーヴェイの強烈すぎるビジュアル一発で、「こいつ何者だ!?」と観客の好奇心をわしづかみにしてしまう。
チビ・デブ・ハゲの三拍子、しかも腹の肉が下半身にまで垂れているので、パンツを穿いているのかいないのか判別つかないほど。汗っかきで常に目がギョロギョロ。何よりも、作中で一言も意味のある言葉を発さない。意思表示はすべて表情と行動と、「エハハハ」「ウェェェェ」「ブーーー」という言葉になっていない言葉。
それでもこちらには彼が何を言わんとしているのかおおむね伝わるのだが、逆にマーティンに周りの人間の言葉を伝えきることはできない。どれだけ必死に「ムカデ人間はフィクションだ! できるわけがない!」と訴えても、彼には通じない。ハイター博士とはまたちがったディスコミュニケーションの恐ろしさである。

マーティンにとって『ムカデ人間』は限りなくリアルで、愛すべきもので、ハイター博士はヒーローである。何かとウ○コを漏らす、思うようにいかなくて泣きじゃくると、まるで子どものようなメンタリティのマーティンが、博士の真似事をして大惨事を招くのは、子どもがヒーローごっこをしてうっかり物を壊したり大ケガをすることに通じているのではないだろうか。
だからなのかね。今までの地獄絵図と、これからの地獄絵図を顧みても、ひとまずムカデ人間を完成させて血みどろのまま小躍りしてはしゃぐマーティンを観ると、「うんうん、良かったね!」と思ってしまうのは……。


以下、ネタバレ記述あり




ところで、マーティンの乱雑な犯行はどうして誰にもバレないのか、なぜこうも都合よく進むのか、と思っていたら……

最後の最後にムカデ人間製作はマーティンの夢/妄想であったことが判明する。

夢オチかよ、と拍子抜けするところもあれば、あれが現実じゃなくて良かった! と安堵するところもあり。
そしてこれが、誰からも愛されず理解もされない大きな子どもの、世の中に対するささやかな反逆(頭の中のことだからね。現実ならささやかどころじゃない)だったと思うと、これほどまでの地獄ですら、どこか哀愁を帯びてくるのだった。

2015年9月26日土曜日

ムカデ人間

博士とムカデのセオリー。

ムカデ人間('11)
監督:トム・シックス
出演:ディーター・ラーザー、北村昭博




中学のころ、クラスの男子/女子が全員足を結んで前の人の肩を持って縦に並んで走る運動会競技「ムカデ競争」。私はそれのちょうど真ん中あたりで走ってたのだが、練習ランニング中うっかり転んだ。すると後続の人がつられて転ぶので膝下に圧がかかり、また先頭の人が異変に気付くまで1~2秒のタイムラグが生じる。そのため、ただの擦り傷がズル剥け傷に発展。
だが擦り傷よりもイタイのは、「チームワークを乱しやがって」という空気であった。

……そんなイタイ話を思い出したのは、ハイター博士の「真ん中はきついぞ」という一言があったからですよ!!

シャム双生児の分離手術で数々の成功を収めてきたヨーゼフ・ハイター博士には、密かな夢があった。人間を分離するのはもう飽きた。今度は人間をつなげるのだ。それも、口と肛門をつなげて消化器官を一体化し、前の人間が食したものを排泄と同時に後続の人間が食すシステム。題して「ムカデ人間」だ! 
タイヤのパンクで助けを求めてきたアメリカ人観光客リンジーとジェニー、よく怒鳴るが英語もドイツ語も通じない日本人ヤクザのカツローを捕獲した博士は、いよいよ夢の実現に向けて一歩を踏み出す……!!


「月からナチスが来た!」(アイアン・スカイ)みたいなアイディア一発勝負映画にはよく出くわすが、「人間の口と肛門つないでムカデ人間!」ほどくだらなくて下ネタな一発ネタは珍しい。しかもその一発勝負に勝っちゃってるんだから、世の中何が起きるか分からない。

よりにもよって口とケツがつながってるとか、要するに前の人のウ○コを自動的に飲まなきゃならないとか、生理的嫌悪要素は満載なのだが、意外にも直接的描写は避けられている。それどころか冷ややかな照明と色彩で、大変品のある変態ワールドになっているのだ。ハイター博士が冷ややかで気品ある変態であることに起因しているのかもしれないが。

ここまで悲惨な目に遭っていながら、もっと悲惨なことにはっきり言ってムカデ人間自体は、ほぼ出オチ扱いである。
ただ、唯一喋ることができる先頭のカツローと博士との言語/思考のディスコミュニケーションは、限りなくブラックなコメディパートとして、博士とムカデの(不)愉快な日常ストーリーを牽引してくれる。北村昭博さんが監督にアイディアを出してくれたおかげで、海外映画の中で日本人が聞いていて違和感ゼロで生きた日本語になっているし、「火事場のクソ力じゃあぁぁぁ!!!」「あっ……う、ウ○コ……」と日本人のほうがニュアンスを笑えそうなセリフも多々あり。

そうそう、一応古典ホラー的な教訓めいたところもある。「知らない場所で近道をしてはいけない」とか「タイヤ交換は覚えておくべし」とか「基本的に野グ○はいかんよ」とか。
しかしそうは言っても、この場合リンジーとジェニーが取るべき最良手段は、「あの車越しに絡んできたエロ親父を殴り倒して車を強奪する」だったんじゃないかと思ってしまうんだけどね。

そして何より、本作の中心にいるハイター博士。『武器人間』のフランケンシュタイン博士や、『死霊のしたたり』のハーバート・ウェストらホラー映画界のマッドサイエンティストの仲間入りを果たしたわけだが、ハイター博士はその中でもトップクラスに可愛いのである!! (※個人の価値観に基づく)

最初に作ったムカデ犬の在りし日の写真を見ながら涙ぐむ姿の登場シーンに始まり、絶妙にざっくりしたイラストで犠牲者の皆さんに「ムカデ人間手術プロセス」を得意気にプレゼンする姿、ムカデ人間が思うように動いてくれなくてヒステリー起こす姿、脚にプロテクター付けて「噛みついてみろ!」と挑発する大人げない姿、訪ねてきた刑事に対して挙動不審すぎて色々ごまかしきれてない姿に、いちいち愛嬌があって憎めない。
いかにも緻密な計画を持っていそうなのに、ムカデ素材の捕獲作業や、ムカデ人間の栄養補給、刑事のあしらい方はなぜか穴だらけというツッコミどころすら、「ちょっと(いやかなり)抜けてるところが可愛い」に転じてしまう。

なぜそう思ってしまうのかと考えると、やはりディーター・ラーザー自身のチャームが原因なのだろうか。また、ユーモアのさじ加減が快・不快ギリギリのバランスを保っているからかもしれない(ギリギリどころかアウトだという人も多いだろうが)。
後にチェックしてみたところ、当時御年70歳。ロバート・イングランドやランス・ヘンリクセンに近い齢で、一見彼らより遥かにギスギスした風貌ながら、彼らに勝るとも劣らぬ可愛らしさを放出するとは……知性とユーモアの力は絶大だなぁ。

中でもハイライトは、とうとう念願のムカデ人間完成時。写真を撮りまくり、鏡を差し出して絶対に見たくないであろう己の変わり果てた姿を見せつけ、絶望のあまり泣き出す3人をよそに一人鏡にキスして歓喜の涙を流している。ムカデ人間の絶望を忘れて、「うんうん、良かったね! 良かったね博士!」と力いっぱい博士に肩入れしてしまう。
思えば、世界を変える級の野望があるわけでもなく、人間嫌いゆえに共犯者がいるわけでもない孤軍奮闘生活の成果がようやく出たんだもの、そりゃ泣いちゃうよな。

まぁ、博士に肩入れする決定的なきっかけになったのは、一人脱走したリンジーに「マトモじゃないわ、変態よ!」と言われて「ああ私は変態だ!!」と堂々断言した瞬間なのだが。こういう正々堂々とした態度は見習いたいものですね………………いやきっと勘違いでしょうけどね。

2015年9月15日火曜日

ABC・オブ・デス2

今年もよく死んだ!!

ABC・オブ・デス2('14)
監督:エヴァン・カッツ、ジュリアン・バラット他
出演:



「死」をテーマにした5分以内26の短編……という名目ながら、その実それぞれの監督たちの趣味の悪さ(転じて良さ)および変態度が世界中のホラーファンに測られるという意味でも、えげつなく恐ろしい企画。

今年は全体的に趣味が良く変態度は控えめ……と映ってしまうのは、前回の『ABC・オブ・デス』にウ○コとかゲ○ネタが多く、しかも我らが日本勢に井口昇(このまま世界が終わるなら憧れの女教師のおならで窒息したい美少女)と西村喜廣(人類絶滅はアメリカの○○○と日本の×××から始まるのだ)というスーパー変態がいたからか。また、「『ABC・オブ・デス』の企画に悩む監督自身」というメタネタも、前回「Q」と「W」でダブリが生じてしまったせいか今回は見受けられない。

以下、前回同様タイトルが極私的お気に入り、タイトルが極私的まずまずの1本である。

A=Amateur(アマチュア)

仕事の依頼が舞い込んできた殺し屋。潜入と殺害のシミュレーションは完璧。あとは実行に移すのみ。ところが彼は……。
物理的にも精神的にも痛々しい殺し屋さんの失態が、不器用人間には身につまされるだけにいっそうイタく映る。それだけにあのバカみたいなラストが痛快ですらある。今回もツカミの一本は優秀だった。

B=Badger(アナグマ)

地域の環境汚染により死滅してしまったアナグマについてのドキュメンタリーを撮るクルーとイヤミな動物学者。だがどうやらアナグマは死滅したのではなかったらしく……。モンティ・パイソンを彷彿とさせるチープなブラックコメディ。

C=Capital Punishment(死刑)

少女殺害の容疑者と、彼の死刑を求める村民たち。無実を訴える容疑者は警察の手に委ねられる……のではなく、村民たちの手によって断頭されることに。
中学の社会の授業で、「ギロチン以前は斧で首を落としていたが、死刑執行人の手際が悪いと一撃で死ねず大変なことになった」と習ったものだが、本エピソードがまさにそれ。何より悲惨なのは、彼は本来「容疑者」止まりにすぎなかったこと。ということは、その因果が向かう先は……

D=Deloused(駆除)

謎の集団に殺された男は、踏みつぶされた虫の力を借りて甦り、復讐を果たして虫に借りを返すが……。『ヘルレイザー』meetsクローネンバーグ(虫が尻から捕食したり意思を伝えたりするし)のような、粘着質で肉々しくてエグいクレイアニメ。

E=Equilibrium(平衡)

流れ着いた無人島で気ままに暮らしている男2人。ある日、自分たちと同じく漂着した美女を助け、一緒に暮らし始める。しかし、男2人に女1人は釣り合いがとれず……。
重要なのはバランスだって『テキサス・チェーンソー・ビギニング』のホイト叔父さんも言ってましたよね。どちらをとるかは人によるだろうけど。
ちなみに監督は『ゾンビ革命 フアン・オブ・ザ・デッド』のアレハンドロ・ブルゲス。アホなほど能天気な音楽もイイ。

F=Falling(落下)

イスラエルの女兵士がパラシュート落下したのはパレスチナ。そこへ少年兵が通りかかり、彼女にライフルを向ける。この顛末の痛々しさと虚しさは、監督がイスラエル出身ゆえか。

G=Grandad(祖父)

口の悪いジイさんとアタマ悪そうな孫のいがみ合いと殺人。おめでとうジム・ホスキング監督。今回の「ABC・オブ・ド変態」枠は君だ。何だあのジジイは。

H=Head Games(駆け引き)

男女の駆け引きを、文字通りアタマの戦いとしてシュールな線画で描く。しかしこれこそ「D」みたいなグロテスクアニメで作ってほしかったな。

I=Invincible(無敵)

財産目当てにあらゆる手を使って母親を殺害しようと試みる兄弟たち。だが、この老婆は訳あって何をやっても死なないのだ! 最強(最凶)ババアってフィクションで観ている分には痛快だなぁ! 
ちなみに監督はシンガポール出身。アジアンホラーも勢いづいているのである。 

J=Jesus(ジーザス)

ゲイの息子を無理やり「矯正」させようとする狂信的な父親と神父。すると息子の両手と頭に聖痕が現れ、さらに……。
ゲイは罪で、ゲイ殺しは罪に問わんのか! と、散々培われてきたキリスト教原理主義に対するイライラがまたしても募ります。

K=Knell(凶兆)

マンションの自室でペディキュアを塗っていた女性は、隣のマンションの上空に黒い球形の影が漂っているのを目撃する。ほどなくして、マンションの住民たちは殺し合いを始める。そして異変は彼女の住まいにも押し寄せてくる。
何かが迫ってきているのだが何だか分からない不安感、ペディキュアの赤黒、経血の赤黒、謎の影の赤黒が入り混じるおぞましさと美しさ。繊細なラインの上に立つ一本だった。

L=Legacy(遺物)

ウビニランドなるどこぞの未開の地。王妃の計略で生贄に捧げられそうになった王子は、死刑執行人の計らいで命を助けられる。だが王子の怒りにより、ウビニには怪物が現れ、人々を襲いだした。
この怪物が着ぐるみ(厳密にはあまりくるんでない)丸出しで何か可愛いのだよ!


M=Masticate(かみつき魔)

今回の一般公募枠。完全にイッちゃった目で走ってくるパンイチのおっさんが、通行人に噛みついて射殺されるまでをスローモーションで描く。このネタを完全なものにしているのは、最後の最後にオマケ程度に挟まれる「34分前の出来事」ってのがオカシイ。

N=Nexus(連鎖)

ハロウィンの日に起きたあまりにも不幸な惨劇。あと少し早ければ、あのときこうでなければ……という仮定はいくらでもできるが、どう考えても99%はタクシー運転手が悪い。
ところでこの監督ラリー・フェッセンデンはホラーにちょこちょこ顔を出す俳優でもある。彼が第一犠牲者を演じた『サプライズ』の殺人鬼が被っているヒツジマスクが出てくるのはそのせい?

O=Ochlocracy(Mob Rule)(愚民政治)

日本代表の1人、『へんげ』の大畑創監督。ゾンビの自我を戻すワクチンが開発されたなら、ゾンビハザードピーク時にゾンビを殺しまくった人間は殺人罪に問われるのだろうか? という深いような実はそんなことはないような裁判劇。どう見てもアタマ悪そうなゾンビ裁判官やゾンビ弁護士、証人も首だけだったりして、バカバカしくて救いようがなくておかしい。
ところで、2015年現在の国会答弁と照らし合わせて考えてみると、何か一気に笑えないムードになるね。

P=P-P-P-P-SCARY! (ピ ピ PS 怖い!)

残念ながら、今年のワースト枠。吃音のある脱走囚人3人組が遭遇する不条理な恐怖……といったところだが、デヴィッド・リンチを意識して思いっきりスベっているようだ。
なお、囚人の一人ポピーがPで始まる単語でなくとも「P-P-P-P」と詰まってしまう癖があるからこのタイトルになったのではと踏んでいるが、それにしたって設定活かされてないし、タイトルとのつながりも薄いからなぁ。
唯一収獲といえば、あの謎のおっさんが笑うとリーランド・パーマーことレイ・ワイズに似てるってこと。

Q=Questionnaire(アンケート)

路上でアンケート(というよりかなり頭をひねるクイズ)に答えている男。果たしてこの調査の目的は……と言いつつアンケートの様子と同時進行で、調査の結果何が起こるかも描いているのだが。オチとしてはちと弱いので、むしろこのオチの後が観たい。

R=Roulette(ルーレット)

死のルーレットといえばロシアン・ルーレット。当然たった1つの弾に当たった人が終わりだが、5つのハズレを引いて生き延びた人が幸運とは限らないことだってある。
何が興味深いって、監督メルヴィン・クレンがドイツ人であり、このシチュエーションがナチスから隠れるユダヤ人を彷彿させること。

S=Split(破局)

電話で話す夫婦。そのとき妻のもとに侵入者が……。死による夫婦の別離(Split)と、もう一つの夫婦の破局(Split)、そしてデ・パルマの系譜ともいえる画面の分割(Split)という鮮やかなトリプルミーニング。
そういえば、前作の「N=Nuptial」でも嫉妬に狂った人間の恐ろしさが描かれてましたね。あれはブラックな笑いだったけど。

T=Torture Porn(残虐ポルノ)

新人女優を下心満載で品定めするつもりのポルノスタッフたちが血の惨劇に。
もしこれが無名の監督の作品だったら「まあまあ面白いじゃん」ぐらいの評価だっただろうが、『アメリカン・メアリー』(原題。邦題の『アメリカン・ドクターX』とジャケデザインには納得いかん)で華麗なる人体改造と冷ややかな空気を見せてくれたソスカ姉妹の作品となると……どうしても「思ったよりおとなしい」という感想になってしまうなぁ。
ちなみにエンドクレジット後、最近悪趣味ホラー界に彗星のごとく現れた、強烈なルックスで勝利を収めたあのお方が出演してたりします。しかも、自身の出演作T着用で。

U=Utopia(ユートピア)

ブランドの広告のようにスタイリッシュで、美男美女だらけの世界。そこではブサイクはどうなるかというと……。『CUBE』のヴィンチェンゾ・ナタリらしい不条理ワールドだが、こうなると抹消され続けてきたブサイクの逆襲劇が観たくて仕方なくなってしまう。

V=Vacation(バカンス)

悪友とのバカンス先(タイ?)で、本国の彼女とSkype通話をする男。実は昨晩、売春婦の母娘と酒・ドラッグ・セックスとホラー映画死亡フラグ三種の神器を楽しんでいたのだった。バカ騒ぎが彼女にバレて一波乱かと思いきや、もっと悲惨な事態がすぐそこに待ち受けていた……。
スラッシャーミュージカル『絶叫のオペラ座へようこそ』のジェローム・セイブルが監督だが、歌も極彩色もなしで手堅いPOVもの。Skypeも立派な低予算映画手法となったものだ。

W=Wish(願い)

カシオ王子と魔王ゾーブが戦うファンタジーワールド「ゾーブ」のフィギュアで遊びながら、「王子を助けに行きたいな」と口にした少年2人は、「ゾーブ」の世界に吸い込まれてしまう。そこで2人が目にしたのは、ゾーブ軍による虐殺と拷問。しかも、ヒーロー側のキャラクターとて、彼らを助けてくれるわけではないのだった。
「アストロン6」のスティーヴン・コスタンスキ監督だけあって、手作り感溢れるチープ&グロテスクな世界は、まさに『マンボーグ』の系譜。ゾーブの城の拷問人には「T」のソスカ姉妹、捕まった兵士の中にはブランドン・クローネンバーグもいるぞ!

X=Xylophone(木琴)

レコードをかける祖母の横で、木琴を叩き続ける幼い少女。祖母は木琴の騒音に我慢ならなかったのか、孫の若さと可愛らしさに嫉妬したのか。そして、帰宅した両親が目にしたものは……。
去年の「X=XXL」に続き、またも「X」枠をフランスが獲得。これまた去年に続き、悪趣味でむごくて後味悪い結末にもかかわらず、ほんのスパイス程度に添えられた皮肉によって、洗練された良質の恐怖に昇華されている。恐るべしフレンチホラー、恐るべしチーム・屋敷女(ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督とベアトリス・ダル)。

Y=Youth(若さ)

これも日本代表・梅沢壮一監督作。だらしなく、自分に無関心な母と義父のもとで育ち、自らを傷つけてきた女子高生が、遂に反旗を翻す瞬間。
この作品に関しては突き進む先が「死」ではなく「生」。生きていくため、憎悪のきっかけになった思い出を使って、イヤな母と義父を頭の中で殺していく。先の「W」とはまた一味ちがった、チープ&グロテスクなジャパンの特撮です。

Z=Zygote(受精卵)

出産間近の身重の妻を置いて、遠出してしまう夫。自分が戻るまで子を産むなとの言いつけ通り、妻は産道を閉じる薬=木の根をかじって帰りを待っていた。それから13年。夫はまだ戻らず、妻はまだ子を産まず、子どもは母の胎内で大きく育っていた……。
何と言っても、終盤のゴキボキグシャッペッという、クローネンバーグかクライヴ・バーカーかというぐらいのトランスフォーム(いや厳密にはフォームは変わってない)が見どころです。そしてインモラルに突っ走りそうなオチ。


今年は半分以上が割と気に入ってる枠となったが、他の人の意見・感想を見てみると、私が好む「A」や「O」はイマイチだったり、まあまあかなぐらいに思っていた「K」が一番好評だったり。どれを好むかによって、観客の映画の趣味や変態度もだいたい分かってしまう、やはり恐ろしいシステムだなぁ。

前述の通り、比較的趣味のいい死に様(?)だった死のABC第2弾。反動で今度の『ABC・オブ・デス3』は変態だらけになってたりするかもしれないが、それはそれで恐ろしくも楽しみである。
あと、監督に名前が挙がっていながら結局出なかった、園子温やアレックス・デ・ラ・イグレシアにも是非参加していただきたいなぁ。

↓「Y」で梅沢監督が使った特撮道具、キネカ大森に展示されてました。
どうやって使われてるか気になったら観てほしいよ。

2015年9月14日月曜日

マリリン・マンソン@サマーソニック2015

大人な師匠の大人げないステージ。

SUMMER SONIC 2015
2015.8.15.QVCマリンフィールド&幕張メッセ

セットリスト
1. Deep Six
2. Disposable Teens
3. mOBSCENE
4. No Reflection
5. Third Day Of A Seven Day Binge
6. Sweet Dreams
7. Angel With The Scabbed Wings
8. Personal Jesus
9. The Dope Show
10. Rock Is Dead
11. Antichrist Superstar
12. The Beautiful People

一つ言い訳すると、サマーソニック中心で書くかマンソン中心で書くか迷って、結果手をつけるまで1ヵ月かかりました。とはいえ、レポート1ヵ月遅れ癖はマッドマックスコンベンションも同じなので、通用しない言い訳ですが。

4年ぶりに帰ってきたぞ!

昼から参戦組ではあったが、夕方くらいまでほとんどの時間は会場めぐりと写真撮影と飯に費やした。フジだろうとサマソニだろうと、夏フェス会場は毎年何がしか変わっていく。そりゃ絶好のフォトスポットはフジには負けるが、いかんせん4年ぶりだし、会場御礼参りの意味もあるんですよ。こっちが勝手に御礼と思ってるだけだとしても。

ちなみに、今回のフェス飯カオマンガイ(タイ料理。蒸し鶏とスープで炊いたお米)ソーキソバ、いずれも美味しくいただきました。とりわけフェス屋台のタイ料理は、なかなかハズレを引かないので嬉しいところです。

↓マリンステージはステージ準備中。日中は完全にフライパンの底だ。
夜になっても蒸し器の底になる程度の差だったけどね。

観覧車まで! マリンフィールド周辺はいつの間にこんなにお祭りになってたんだ……

ちなみに、今年のアイランドステージはアジアンロックフェスである。

屋内も屋内で、知らないうちに豪華になってるような気が……


ウォームアップを兼ねてのステージ観戦は夕方になってからだった。
9㎜ Pallabelum Bulletは2011年のアタリ・ティーンエイジ・ライオットのゲストアクト以来だが、相変わらずパワフル。あのときは「ウォームアップじゃ生ぬるいからバーニングアップで」とテンション高いステージを披露し、それにうっかり燃えすぎるほど全力でついて行ってしまったものだが、すみませんこの日は体力セーブに努めました。
その結果、さほど飛ぶでもなく叫ぶでもなく、グラグラと謎の踊りを踊っていました。

続いて観たジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンは、ブルースとプログレロックの融合。グルーヴがありつつ変則的なリズムが心地よかったので、PAの後ろのあたりで寝そべって背中全体でリズムを受け止めるという贅沢をしてしまった。BGVがハマーホラー風味なのも好感高い。

ソニックステージも知らないうちにきらびやかになってる気が……


そしていよいよマウンテン・ステージのトリたるマリリン・マンソン師匠である。マンソンといえば、フェスといえども開演予定時刻を10分くらい過ぎるのは当たり前……だったはずなのだがその師匠が! 時間通りに! セットを! 始めた!!! それも久しぶりに荘厳かつ不吉なクラシック音楽で登場して!! 手には『Eat Me, Drink Me』ツアー以来おなじみになりつつあるナイフ型マイク!! 
……『The Pale Emperor』を聴いたときも「師匠大人になったなぁ」なんて思っていたが、時間を守るという意味でも大人になったのだなぁ。何か感慨の方向性が間違ってるような気もするけど、いつものことだから。

そんな感慨も早々に、「Deep Six」「Disposable Teens」という最初の2曲で急激にボルテージを上げたオーディエンス(前方)は、もうバケツの水被ったように汗だく。続く「mOBSCENE」にハットをかぶって戻ってくるマンソンにもまた狂喜し、「Be! Obscene!」のコーラスを叫んだ。

それにしても、マンソンのボーカルに張りが戻ってシャウトも絶好調ということの感動たるや。何でそんな普通のボーカリストなら当たり前のことで感動しなければならないのかというと、2012年の来日のときのダラけた歌唱法である。不調なわけではなくワザとやっていた疑惑が高いし、一体アレは何だったのか。
ともあれ、ミュージシャンとしての評価は、前回来日時よりはマシになったにちがいない。

開演10分前ぐらいの緊張感が一番心臓に悪いです師匠。

しかし、時間厳守やボーカル手抜きしないといった点で大人になったからといって、ステージ上のアティチュードまでが大人になったわけではないのがマンソンのマンソンたる所以。
マイクスタンドを蹴倒す。その場でスタッフさんが出てきて直したと思ってもまた倒す。また直しに来たら、今度はアンプを蹴倒す。「Third Day Of A Seven Day Binge」では、トゥイギー・ラミレズ(g)のアタマをタンバリンでリズミカルに叩いている。「Sweet Dreams」では懐かしの竹馬でステージをのし歩く。

もはや『Dead To The World』(汚物を含む問題映像と問題エピソードだらけの『Antichrist Superstar』期のライブ映像。VHSのみ)でしか聴けないと思っていた「Angel With The Scabbed Wings」を聴かせ、オールドファンを感極まらせた……かと思いきや、「Personal Jesus」直前にサングラスをかけて登場するも歌うより前にポイしたり、「The Dope Show」でトゥイギーに白い粉をぶっかけたり(2012年にはオーディエンスにぶっかけていたけど)。
ステージにおいてクソガキであることこそ、オーディエンスが求めるマリリン・マンソン像。トゥイギー以外のメンバーのキャラクター立ちもなくなり、ますますライブはマンソンのワンマンという印象が強まった。

ただ、バンドのコンディションとは別に、マンソンのステージは常にもう一つの懸念が付きまとう。「本人がご機嫌麗しいか否か」である。
結論から言うと、こちらの懸念は現実のものとなってしまっていた。いわく「昨日(ソニックマニア)の奴らよりおとなしいぞ!!」。マンソンのことだからうっかりすると「もうやめた」と帰りかねないのではと考えているだけに、演奏中のボルテージ高さとは裏腹に曲間は肝を冷やす思いが。
我々(少なくとも前方ブロック組)できる限り騒ぎ散らしてたのですが……ダメでしたか、師匠?

ウィリアム・ブレイクのレッド・ドラゴンを引用しつつ聖書を燃やした「Antichrist Superstar」、黒人ホーン・セクションとパーカッションを導入した「The Beautiful People」はさすがに最骨頂……だったはずだが、バンドの皆様相手に「こいつらは英語分からないから」とオーディエンスをイジっていたので、まだご不満だった模様。

そんな師匠は最後にステージから飛び降り、最前列の皆様に突進……したはいいが、いざステージに戻ろうとしたら上がれない事件が発生していた。慌てて押し上げるセキュリティさんに「頑張れよ、オレそんなに重くないだろ?」と言うが、「最近は健康に気を使ってジムに通っているらしい」という雑誌記事を疑う程度にはそういう体型ではあった……。
ごめん師匠。師匠はご機嫌よろしくないまま(おそらくやってもいいかなと思っていたアンコールもすっ飛ばして)帰っちゃったけど、こっちはちょっとオモシロイ気分で帰っちゃったんだ。

ところで、「The Beautiful People」でステージに来たパーカッションの人、マンソンにドラムを蹴倒されて「あ゛ーーーっ!!??」って顔になってましたね。頑張ってください。それが師匠です。
ちなみに前任ドラマーは師匠にドラムセットごとマイクスタンド攻撃をくらって骨折しました。

師匠ぉぉぉぉぉーーー!!!


そういえば、今回『The Pale Emperor』からの選曲は2つだけで、映画スコアに入った「Killing Strangers」「Cupid Carries A Gun」もPVまで作られた「Mephistopheles Of Los Angels」もなし。
どうかどうか、師匠が単独来日して下さらないものか。どうかどうか、この辺の曲もやって下さらないものか。そしたら今回のステージの倍はしゃぎ立てますから!!!

↓是非とも生で聴きたい「Mephistopheles Of Los Angels」MV。