2013年2月12日火曜日

極私的ボンドガールベスト

華より毒気(華プラス毒気なら尚よろし)。

ヴィランついでに結局ボンドガールもベスト10をつくってしまったわけですが……総選挙で得票率の高かった正統美女(『ロシアより愛をこめて』のタチアナ、『サンダーボール作戦』のドミノ、『カジノ・ロワイヤル』のヴェスパーなど)や、せっかくのボンドガール日本代表(『007は2度死ぬ』のキッシー鈴木とアキ)が入らないという結果になってしまった。
それというのも、ボンドガールの好みの傾向に「強い」「毒(または劇薬)」があるからで……。

1位 ゼニア・オナトップ(ファムケ・ヤンセン)『007/ゴールデンアイ
"Then you are on a top"(次は君が上になって)をもじった名前といい、研究所員を撃ちまくりながらエクスタシーの溜め息を漏らす殺人愛好癖ぶりといい、必殺太ももチョークスリーパーといい、エロさもキャラクターの濃さもずば抜けている。
私が基本的に毒のあるボンドガールしか受け付けなくなってしまったのは、初見にして一番インパクトの強いボンドガールがこのお方だったせいです。

2位 メイ・デイ(グレイス・ジョーンズ)『007/美しき獲物たち』
角刈りに派手コスチュームに怪力。ボンド「ガール」とはいうものの、その魅力は性別・年齢を超越している。わずかなカットながら、「全身これ凶器」というオーラが漂うTバック姿は畏怖もの。退場際は歴代ボンドガールきっての勇姿だった。

3位 エレクトラ・キング(ソフィー・マルソー)『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』
守られる側だし、頼りにならないし、マイペースなお嬢様……と、当初こそ好みじゃないお飾り形ボンドガールだったが、それ以降どんどん自分好みの方向に。ある意味オナトップの別バージョンかもしれない。「締め付け好き」だし。

4位 ジンクス/ジアシンタ・ジョンソン(ハル・ベリー)『007/ダイ・アナザー・デイ』
断崖絶壁から華麗なる逃走とか、レーザー光線でピンチとか、中ボスとの剣術バトルとか、危機的状況でも減らず口とか、いつもならボンドが持っていく美味しいポイントの大半をこの人が持って行ったため、最後の登板だったピアボン(ピアース・ブロスナンのボンドの意)が霞んでました。

5位 パメラ・ブーヴィエ(キャリー・ローウェル)『007/消されたライセンス』
ドレスになろうと、裾を取っ払って脚が見えようと、たくましさのほうが勝る。「君はここまででいいから」と厄介払いされても、しぶとくついて行っては一度も脚を引っ張ることなく役に立つ頼れる相棒。しいていうなら、終盤ほかのボンドガールと親密になりそうなダルボン(ティモシー・ダルトンのボンドの意)を見て、突然泣き出してしまうところが弱みだったが、好感度は落ちず。

6位 トレーシー/テレサ・ディ・ヴィンチェンゾ(ダイアナ・リグ)『女王陛下の007』
やたらに助けを求めることもなく、むしろ思いがけず助けられようともレゼボン(ジョージ・レーゼンビーのボンドの意)を突き放す。脅威のドライビングテクニックとスキーテクニック、ブロフェルドを口先であしらい、手下をコテンパンにするガッツと機転もあり。それまでのボンドにとっては新しいタイプの女性で、お付き合いの本気度も高かったのだろう。それだけに……。

7位 ナオミ(キャロライン・マンロー)『007/私を愛したスパイ』
ビキニにシースルーガウンで「秘書です」って登場は完璧なのだが……惜しい。せめてピアボンのころに登場していれば、過度なエロ系殺し屋としてもう少し活躍できただろうに。

8位 オクトパシー(モード・アダムス)『007/オクトパシー』
女サーカス団とみせかけた女怪盗団のボスということよりも、お父さんからつけられた「タコちゃん」的あだ名を堂々と受け入れた挙句、怪盗としての通り名にしていっそうカッコよくしてしまうセンスと度胸がスゴい。モード・アダムスは『黄金銃を持つ男』のアンドレアよりも断然こっちが素敵。彼女が率いる美女軍団もセクシーで強く、ラストの殴り込みシーンがある意味最骨頂の見せ場。

9位 M(ジュディ・デンチ)『007 スカイフォール
ダニボン(ダニエル・クレイグのボンドの意)とスコットランドに潜伏するシーンを見たら、再会したシルヴァと同じく「そんなに小さかったか?」と言いたくなった。要らんことしたり人選ミスったりロクなことしないオカン上司と思ってましたが、思えばそんな小さくて頼りない身体で諜報活動を取り仕切ってくれてるんですよね。

10位 ウェイ・リン(ミシェル・ヨー)『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』
長い脚で敵をバタバタ蹴倒す格闘シーンが圧巻。確証はないがきっとボンドと対戦したら勝つ。いっそ勢いでピアボンも蹴飛ばしてしまうとか、逆に敵に捕まっちゃったピアボンを彼女が助けるって展開にすればよかったのに。

番外

3代目マニーペニー(サマンサ・ボンド)『007/ゴールデンアイ』~『007/ダイ・アナザーデイ』
マニーペニーといえば、ボンドと同僚以上恋人未満なやり取りを楽しむ初代のロイス・マクスウェルが一番人気だが、個人的にはサマンサ・ボンドの辛らつでちょい冷たいマニーペニー(そしてそれでも折れないピアボン)が一番好み。ちなみに4代目マニーペニーの今後も楽しみにしている。

海から上がってきた瞬間のハニー・ライダー(ウルスラ・アンドレス)『007/ドクター・ノオ』
まだボンドガールが大々的に活躍する展開にはならない作品だが、やっぱり登場時のこの瞬間だけは別格のオーラが。あと、後のチャイナドレス姿よりは白ビキニのほうが断然カッコいい。彼女の登場スタイルは『ダイ・アナザー・デイ』でハル・ベリーも真似(オマージュか)したし、『カジノ・ロワイヤル』ではダニエル・クレイグも海パンでリゾートの海から……ってこっちは嬉しくないか。

機関銃婆ちゃん(?)『007/ゴールドフィンガー』
美女軍団を率いるプッシー・ガロアよりも、金色に塗られたジル・マスターソンよりも、なぜいるのか分からないこの婆ちゃんのほうがインパクト大だった。


中にはボンド「ガール」っていうかボンド「グラニー」じゃないかってのも混ざってますが、ご了承ください……。

極私的ボンドヴィランベスト

全員悪人(アウトレイジしてないけど)。

007映画誕生50周年だった2012年には、20世紀FOXや映画秘宝でボンドガール総選挙が行われたもの。それはそれで面白かったし、投票したケースもあった。

しかし、007映画を観たいと思う動機の比重がボンド<ボンドガール<<<ヴィランという自分にとって、ボンドガールはあるのにボンドヴィランの総選挙がないのはいかがなものか(米ロサンゼルス・タイムズでは『歴代悪役ベスト10』があったらしいが)と思い、勝手に作ってみた次第。投票者が一人しかいないので、結局総選挙じゃなくなってるが。


1位 マックス・ゾリン(クリストファー・ウォーケン)『007/美しき獲物たち』
金髪版のガブリエル様(『ゴッド・アーミー』参照)。
生体実験でつくられた天才という設定も納得の端整な顔と冷徹さと浮世離れ感だが、笑顔は妙に可愛い。ぶっちゃけ引退間際のロジャボン(ロジャー・ムーアのボンドの意)よりもシャープでカッコよく、最強クラスボンドガールのメイ・デイと並んでも絵になる。頭脳派系ボスながら、椅子にふんぞり返ってばかりじゃなく、殺しの最前線にまで出てくるアウトドア系なのも観ていて楽しい。

2位 レナード(ロバート・カーライル)『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』
外では狂犬テロリスト、でも好きなあの人の前では子犬。
ロバート・カーライルの持ち味が両方楽しめる。最大の特徴「延髄に残った銃弾のせいで感覚がない」設定は、痛みを感じない怪物ではなく、愛する人を感じ取ることもできない哀しい男として活きている。ということは、最後のバトルでのピアボン(ピアース・ブロスナンのボンドの意)の一言は、痛みを感じないはずの彼に一番の激痛をもたらしたに違いない。それはヒドいよボンドさん(悪いのはレナードですが)。

3位 ジョーズ(リチャード・キール)『007/私を愛したスパイ』『007/ムーンレイカー』
自慢の鋼鉄歯でいろいろありえないものを食いちぎり、サメにも勝てる100%力技勝負。
そのくせ彼女ができたら速攻彼女第一主義になる単純さも好感高。でかい図体ながら、登場まで狭いところに隠れて待っていることが多いので、実は結構マジメで忍耐強いと思われる。

4位 ラウル・シルヴァ(ハビエル・バルデム)『007 スカイフォール
世界一濃ゆくて哀しいマザコン。
「我々は生き残った2匹のネズミ」って言ったけど、正確にはカピバラ系(おもに横顔が)。それにしても、たった1人への復讐というすんごく個人的な動機に、よく仲間がついてきてくれたもんだ。やっぱりアレですか、バルデムさんのモテパワーですか。

5位 ダリオ(ベニチオ・デル・トロ)『007/消されたライセンス』
ボスのサンチェスよりも手下のこちらで。粘着質な笑顔でボンドガールのキャリー・ローウェルをドン引きさせ、ダルボン(ティモシー・ダルトンのボンドの意)に本当にケガさせてしまった、のちのオスカー俳優デル・トロ伝説の始まり。

6位 アレック・トレヴェルヤン(ショーン・ビーン)『007/ゴールデンアイ
悪事のスケールはデカいが手始めにやることは銀行強盗と変わりないとピアボンにツッコミを入れられ、ボスなのに殺し屋クラスのゼニア・オナトップに存在感で負け、退場も卑怯でイヤな奴クラスのボリス(アラン・カミング)にインパクト負けしてたから。
つまるところ、ショーン・ビーンだから。

7位 ル・シッフル(マッツ・ミケルセン)『007/カジノ・ロワイヤル』
顔(の骨格)。
悪役スケールは小さいが、顔の骨格は良い。あの骨格に目の傷と血の涙は似合う。話題の拷問シーンも、ダニボン(ダニエル・クレイグのボンドの意)の腹筋ボコボコ体格より、切羽詰まって汗だくなル・シッフルの顔面骨格が良い。
つまるところ、マッツ・ミケルセンだから。

8位 オッドジョブ(ハロルド坂田)『007/ゴールドフィンガー』
体力勝負系殺し屋ながら、ベースはニコニコしたおっさんというギャップがチャームポイント。終盤、金庫内に閉じ込められたのに焦りも悪あがきもせず、真っ直ぐコネボン(ショーン・コネリーのボンドの意)との一騎打ちに向かう姿が、純然たる戦士。

9位 フランシスコ・スカラマンガ(クリストファー・リー)『黄金銃を持つ男』
「うわー、本物のボンドだ!!」「会っちゃったー! ボンドに会っちゃったー!!」「ボンド君見て見て! うちの設備スゴいでしょ!!」と、憧れのスターを前にした嬉しさ全開オーラが、黄金銃を持つ凄腕の殺し屋という設定を超えました。ちなみに、クリストファー・リーだけに、就寝体勢はドラキュラ。

10位 エルンスト・スタブロ・ブロフェルド(ドナルド・プレザンス)『007は二度死ぬ』
以前のシリーズから顔を見せないスペクター首領として登場。初顔見せがプレザンス。その後のシリーズではテリー・サバラスとチャールズ・グレイが演じているが、傷のある顔とスキンヘッドと割に背が低いところが妙に愛嬌のあるプレザンス推しで。膝上の白猫ちゃんも居心地よさそうだし。

番外

チャン(トシロー・スガ)『007/ムーンレイカー』
名前はチャンだが日本の着物や作務衣を着用。おかっぱ頭とヒゲが基本スタイル。竹刀と剣道防具が戦闘装備。グランドピアノに突っ込んで退場。徹頭徹尾清々しいほど意味不明だった。

エミール・L・ロック(マイケル・ゴタード)『007/ユア・アイズ・オンリー』
際立った癖や特色があるわけでもなく、ボンドや身内の暗殺を請け負い、証拠隠滅と敵の殲滅を兼ねてアジトを爆破する、普通に非道な殺し屋キャラ(『普通に非道』って基準も変だが)。しかし、とにかくマイケル・ゴタードという役者の顔がやたらめったら印象に残る。そういう意味では退場が惜しかった。

カマル・カーン(ルイ・ジュールダン)『007/オクトパシー』
「フランス訛りがいい」という表現はたいていボンドガールに使われる褒め言葉ですが、あえて私はこのおっちゃんに使いますよ。

一応このブログ、「映画選びの参考にご利用いただければ幸い」ってトップに書いてあるんですが、この記事はもっとも参考にならない映画選び基準かもしれない……。

2013年1月20日日曜日

ベルフラワー

見せてやろう、ボンクラの真の力を。

ベルフラワー('11)
監督:エヴァン・グローデル
出演:エヴァン・グローデル、ジェシー・ワイズマン



ここ数ヵ月、ブログ上でもTwitter上でも口頭でも使用頻度が格段に増えた表現「ボンクラ」。
「オタク」というほど世間に浸透した感もなく、「おバカ」というほどチャーミングでもなく、かといって「変態」というほど危険性はなくむしろ基本的に人畜無害で、そのくせムダなエネルギーは余りまくっているとでもいうような。
ただ、そのボンクラエネルギーでもって、イイ映画(良作、アホ作両方込み)を作ってしまうようなスゴいボンクラも中にはいる。

で、本作の監督/主演のエヴァン・グローデル。この人も話を聞く限りボンクラには違いないんだけど、これが「イイ映画」なのかというと非常に微妙なところで。

『マッドマックス2』の世紀末的世界観と悪役ヒューマンガスに憧れ、定職にも就かず火炎放射器と改造車「メデューサ」の製造にはげむウッドローとエイデン。
ある日ウッドローはバーでミリーという女性に会い、熱烈な恋に落ちるが、ミリーの浮気で破局。失意を引きずったままのウッドローは、ミリーへの恨みと世界の破滅への思いとが錯綜し、現実と妄想が入り乱れ始める。


注:ある程度伏せてはいますが、以下の文には若干ネタバレにあたる記述があります。


「ベルフラワー」は、エヴァンが実際にお住まいのロサンゼルスの小さな街にある通りの名前。
メデューサ作りから失恋から現実と妄想のカオスぶりまで、ぶっちゃけストーリーはエヴァン自身の実録。
さらに、ミリーを演じたジェシー・ワイズマンは、実際にエヴァンと付き合っていた挙句二股かけて関係を終わらせた張本人。

つまり、エヴァンは自分の失恋体験をほぼそのまんま映像化しちゃったのである。
世紀末だ世界の破滅だといってるが、ベルフラワーを中心にウッドローの周辺(心の中含む)だけでほとんど収まってしまう話。
メデューサと火炎放射器(ついでに、自分の思うような粗い映像の撮れるカメラ)をガチで製造してしまったボンクラパワーはある意味スゴいが、その後の虚実入り乱れた展開までガチで再現するのは、カタルシスが生まれるというわけでもないし、失恋体験を消化しきれてないのではという気もする。
ある人をどん底まで追い込んだ体験が他人に響くかというと、必ずしもそうとは限らないしな。

ところが、これが響いちゃったのである。対象はもちろん、少なからずウッドローに似たボンクラたち。そのうえ、カタルシスが生まれないはずの終盤に涙さえ生まれることもあった。
映画を作るなどのクリエイティヴィティを除けば、ボンクラの真の実力とは、「なんにもできないこと」なのである。いくらデカいことを言っても、想像力(あるいは創造力)がたくましくても、重要な局面でそれを活かすことはなかなかできない。
たとえ世紀末に憧れても、火炎放射器やメデューサを作る力があっても、ヒューマンガスになんかなれっこない。手下のザコキャラになれるかすら怪しい。それがボンクラのステータスなのである。
カオスの果てになんにも生まれない終盤の様相は、そのことを観客のボンクラ魂に痛いほどガツンと思い知らせた。

だから、ラストにエイデンがウッドローに長々と語る「お前はヒューマンガス様になるんだ」というくだりは、叶いっこない夢をツラツラ言ってるだけの、一見空っぽの話にすぎない。
しかし、すべてにドン詰まってしまったボンクラにとっては、この上なくピュアでまっすぐな救いの手であり、友情の証なのだ。

2013年1月15日火曜日

ミューズ@さいたまスーパーアリーナ

膨張に飽きたら別の次元を作ればいいじゃない。

MUSE
2013.01.11. さいたまスーパーアリーナ

セットリスト
1.The 2nd Law: Unsustainable
2.Supremacy
3.Map Of The Problematique
4.Panic Station
5.Resistance
6.Supermassive Black Hole
7.Animals
8.Knights Of Cydonia
9.Explorers
10.Exogenesis: Part 3 (Redemption)
11.Time Is Running Out
12.Liquid State
13.Madness
14.Follow Me
15.Undisclosed Desire
16.Plug In Baby
17.Stockholm Syndrome
‐ Encore1 ‐
18.The 2nd Law: Isorated System
19.Uprising
‐ Encore2 ‐
20.Starlight
21.Survival


クラシックもジャズもポップもメタルもブラックホールのように吸収し、世界から宇宙にまで広がり続ける。それがミューズの音楽だった。

そんなに巨大になってどこに行くんだろうと思っていたら、昨年発表の6th『The 2nd Law』では、4thと5thまではかろうじて保っていた「ギター・ロック」という基盤から逸脱し、サンプリングやダブステップを多用した音楽性。今まででもっとも「ミューズらしくない」音でありながら、常に進化し続けて遂に新しい次元へ飛び立ってしまった「きわめてミューズらしい」作品となっていた。

そんな最新作と、クイーンのごとき過剰の美学が詰まった今までの曲とが融合した、しかもフルスケールのライヴときたら、絶対スゴいに違いない! ……と思っていたら案の定、というか想像を軽く飛び越えて、とんでもないことになっていた。


どえらい行列のグッズ販売とクローク待ちのおかげでサポート・アクトには間に合わなかったものの、本番には何とか滑り込み。「Exogenesis: Part3(Redemption)」のパラパラアニメーションで突如ミューズと縁深くなった鉄拳さんの出現が、開幕直前のちょっとしたジャブ的サプライズだった。

幕開けは前評判通り、「Unsustainable」のセッションから「Supremacy」のドラマティックなベース&ドラムライン。ミューズらしからぬ最新作の音から入ったのに、もうミューズ以外の何物でもない劇的展開が始まっている。

真っ赤だったりラメ入りだったりと、ここ最近はきらびやかなマシュー(Vo./G)の衣装だが、今回はシンプルな黒のライダースジャケット。銀の全身タイツだったりガチャピンの着ぐるみだったりと、ここ最近はお笑いコスチュームだったドム(Ds.)も、シンプルな白のタンクトップ。クリス(B)がシンプルな服なのは……まぁいつものことなので。
そういえば、マシューの日本語MCは相変わらず早口で、ヒアリングが大変だったよ。

衣装の奇抜さに取って代わったのは、ステージエフェクトの奇抜さだった。「Panic Station」で、ステージ上空から逆さピラミッドが出現。1つ1つのブロックがディスプレイになっていて、ブロック1つ1つにエイリアンが出現。メンバーのクローズアップも映し出される。
「Animals」では、財界から世の中を牛耳るCEOを皮肉ったストーリー調の映像が流れる。しかも、ときどきピラミッド型から組み変わる。さすが、前回ツアーで会場にUFOを飛ばしたミューズ。エフェクトは可能な限り使いぬく。レーザーもたくさん飛んだしね。

今までライヴの幕開けかラストを飾っていた「Knights Of Cydonia」が、本編8曲目という中途半端なポジションに投げられていたのが、個人的には嬉しい。アンセムとされてきた曲をあっさり特別扱いしなくなる冒険精神は大好きなもので。
また、演奏されなかった公演もあったので、果たして今回来るかどうか分からなかった「Explorers」にも感激。ここから、日本で特別に演奏された「Exogenesis」(ピラミッドに鉄拳のパラパラアニメーション付き)の流れで、2013年ライヴ初泣きとなった。

最新作で初めてメインボーカルが2曲収録されたクリスだが、彼のボーカル曲は公演によって「Save Me」だったり「Liquid State」だったりと変わるらしい。今回は後者。当初は前者のほうがいいかなぁと思っていたのだが、よりロック色の濃い「Liquid State」でも大正解のようで。
しかし、せっかくメインを張ったのに、MCらしいMCもなくすぐに引っ込んでしまうんだねクリスは。インタビューではそうでもないのに、ステージ上では一番のシャイに見えてしまう。(本当のところはマシューも相当シャイなようだが)

レンズがディスプレイになった特殊サングラス着用のマシューもちょっとマッドな「Madness」を経て、「Follow Me」~「Undisclosed Desire」のパートが、ミューズのもっとも斬新な側面だったかもしれない。なにしろ、今までお気に入りのおもちゃのようにギターを手放さなかったマシューが、初めてギターなしで(もちろんピアノもなしで)マイク片手に歌ったのだから。しかも、「Undisclosed…」では、アリーナ通路に降りていって、オーディエンスと握手して回っていた。

そんなマシューを目にしたクリスが思わず笑顔になっていた。実際のところ、クリスにはアルコール中毒の克服をマシュー&ドムに支えてもらっていたというエピソードがあったのだが、それを踏まえてもアリーナをひた走るマシューを見るクリスの笑顔は、やんちゃ小僧を暖かく見守るパパに見える。

今回のツアーでは、ファンからの人気曲「Stockholm Syndrome」「New Born」のうちどちらを演奏するか、ルーレットで決めるという演出がある。上の逆ピラミッドからボールが落ち、ステージ底辺を囲むスクリーンのルーレット台に止まるのである。個人的には、どっちの曲も好きなので、どっちが当たっても嬉しいし残念でもある。この日は「Stockholm…」だった。
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの「Freedom」をジャムセッションする中(ミューズはよくセッションにレイジの曲を使う)、3人を覆い隠すようにして逆ピラミッドが正ピラミッドに組み変わりながらステージ上に降り立ち、本編が終了した。

「Isorated System」を経て、「Uprising」のベースラインで再び会場は沸く。マシューとクリスは左右の花道にすぐ現れたが、ドムのドラムセットは完全にピラミッドの後ろに隠れてしまっている。その代わりなのか、ピラミッドにはドムが空手でスーツの男たちをなぎ倒す『キル・ビル』チックな映像が流れていた。
ようやくピラミッドが持ち上がったとき、ドムの格好が映像に映っていたユマ・サーマンもどきの赤ツナギになっていたことが判明。アンコールでのお着替えは、ガチャピン着ぐるみ着てきた前回ツアーのノリと変わっていないような。

2度目のアンコールは「Starlight」でハンド・クラップが続き、最後はロンドンオリンピックのメインテーマ「Survival」。マシューの雄叫びに、熱いはずのアリーナが一瞬寒くなるほどのスモークが巻き上がり、ラストの歌詞「Yes, I'm gonna win」を体現するような幕切れとなった。ミューズのライヴ、とりわけラストに「劇的」という表現はつきものだが、見る度に劇的の度合いが跳ね上がっているようだ。

過剰なほどのスケールとドラマでもって膨張を続けた音楽世界から、新しい音でもって別の次元を作り出す。そんなあまりにもバカでかい「新たな一歩」を、壮大なステージで成し遂げる。下手するとただ大仰なだけのステージだが、終わってみればすべて必然。

荒削りもカッコよさのうちになるロック界において、ミューズは今もっとも荒削りから遠く、「洗練」「完璧」という言葉にふさわしい。
それでいて、というより、それだからこそカッコいいロック・アーティストなのだ。

クリスが来た! とカメラを向けるも、体感距離とレンズ距離にはかくも違いが……
ステージ上空に出現する噂のピラミッド。


そして怒涛のレーザー祭り。 

2013年1月6日日曜日

マリリン・マンソン/ボーン・ヴィラン

退廃は無理なくゆるやかに。

MARILYN MANSON
Born Villain ('12)




「昔ほど尖ってない」「昔ほどヘヴィじゃない」「昔ほど細くない」
最後のはほとんど関係ないし失礼だろうとは思うが、今のマンソンに対してはだいたいそんな感じの批評が出ている。約10年来のファン精神を持ってしても、そのへんは否定しがたい。

ただ、それでも2012年3月の来日公演のときと同様、「何はともあれ最高なんだ!!!」とむやみやたらに暑苦しく主張するスピリットは捨てきれず。
理由は、「俺は生まれながらの悪人だ 被害者のフリなんてするな」(M12『Born Villain』)と、堂々と悪役であり続けるアーティストはやはり魅力的だから。
また、「薬物に溺れた悪魔も 四角い輪を頭につけた天使も 俺たちと一緒に歩いていない 俺は誰とも一緒じゃない」(M1『Hey, Cruel World.』)と、どこにも属さない唯一無二だから。
……と、何だかんだそれらしい理由づけを並べても、結局のところ「人生の師匠だから」とこれ以上ないくらい個人的な動機があるから。

本作は'09年の7th『ハイ・エンド・オブ・ロウ』の路線に近く、ミドルテンポが主体。疾走ナンバーといえるのはM11「Murderers Are Getting Prettier Every Day」ぐらいだが、サウンドがバイオレントというほどではない。このあたり、全体的にやや単調に聞こえるかもしれない。
その代わり、『ハイ・エンド…』に顕著だった荒削り感はぐっと少なくなっている。マンソンの音楽に「ダーク」「退廃的」といった形容詞は付き物だが、本作は前作よりもより洗練された方向に向かっている。シェイクスピアやボードレール『悪の華』の引用など、文学色が濃い。

またマンソン自身、本作に言及する際、バウハウスやデヴィッド・ボウイのデカダンス志向を引き合いに出していた。現在のマンソンは、破滅でも破壊でも、悪ガキやホラーハウス風味でも、セルフパロディでもなく、ゆるやかな退廃に向かっているようだ。

マンソンにはカッコよく散ってほしい、破滅的なまま幕を閉じてほしいと思っているのなら、この路線はやはりヌルいように映るだろう。
しかし、音楽性だけでなく思想にも惚れ込んだ立場としては、発するべきステイトメントがある限り、「反省することは何もない」(M2『No Reflection』)と宣言できる限り、たとえ満開の時季を過ぎたとしてもマンソンにはアメリカの悪の華であってほしいところだ。

2012年12月30日日曜日

2012年映画極私的ベスト10

2012年=アメコミからトムトム年。

せっかく今年は去年より遥か多い30本近くの劇場公開作(リバイバル含む)を観に行ってるので、思い切ってマイベストを作ってみようかと。というか、単にやたらベスト10とかベスト5を作ってしまうロブ・ゴードン(『ハイ・フィデリティ』)気質がどうしても拭えなかったってだけの話なのですが……。


1位 アイアン・スカイ

「ナチスが月から攻めてきた!」のアイディア一本勝負感、ファンからのカンパで作られたというエピソード、出てきた瞬間特に意味なくガッツポーズしたくなる鋼鉄の要塞と、ボンクラ万歳スピリット集大成。そのくせスコアはライバッハという貴重で豪勢な仕様。



2位 アベンジャーズ

娯楽大作とオタクスピリットとキャラクター立たせの奇跡的融合。脚本作『キャビン・イン・ザ・ウッズ』といい、ジョス・ウェドンは今トップクラスに信頼できる監督


3位 最強のふたり

大枠は王道人間ドラマなのだが、中身はちょいちょい絶妙にヒネってあるので、お涙頂戴嫌いに親切設計。ひねくれ者同士だからこそ成り立つブラックユーモアの応酬も軽妙。



4位 悪の教典

今までで一番伊藤英明が魅力的に見えた一本。クラス皆殺しシーンでは、散弾銃で死ぬ恐怖と痛々しさと同時に妙なカタルシスさえ湧いてしまう。脇を固める教師陣のヤな奴ぶりや、劇中歌「Die Moritat」「マック・ザ・ナイフ」の使い方も素敵。


 

5位 桐島、部活やめるってよ

高校時代、校内ヒエラルキーの上位にいた人にも下位にいた人にも、それぞれの痛さを呼び起こしてくれる。そして、「ゾンビは愛、ゾンビは友情、ゾンビはリアリティ」の表明。「ロメロくらい観ろよ!!」は今年一番の名言。



6位 007 スカイフォール

ダニエル・ボンド史上最高の主題歌と最高の悪役と最高のボンドガール。最後の項目には多数異論があるとは思いますが、私にとってはこの方が暫定ベスト。思わぬ原点回帰のその後が気になる。



7位 アタック・ザ・ブロック

エイリアン襲来を88分で、しかも団地の範囲内であんなにも魅力的&盛りだくさんに描けるとは。ユーモアで押し切るかと思いきや、意外と死人が出るシビアさもいい意味で期待を裏切った。


8位 エクスペンダブルズ2

正しい筋肉ゴリ押し漢祭り。俳優陣の代表作ネタを盛り込む思い切りの良さが好感持てる。そしてチャック・ノリスがあらゆる意味で最強



9位 ロボット

心を持ったロボットの悲恋物語が、歌と踊りと超絶増殖&合体技でこんなにもスゴいことになる。あまりの出来事に、うっかり笑うのを忘れて感動してしまったよ。



10位 ダークナイト・ライジング

「もうちょっとエピソードのまとめようが……」「ベインはあれでいいのか?(これについてはいいと思うんですが)」などツッコミの余地はあるものの、ハードルがガンガン上がっていった3部作の着地点を見事にキメたことを思うと、ああだこうだ言うのも野暮な気も。



次点はベルフラワー『ぱいかじ南海作戦』で。今回は順位の差が本当に微妙なところなので、ギリギリまで何度も修正することに。
なお、『キャビン・イン・ザ・ウッズ』は今年観賞したのですが、日本公開は来年ということで、来年のランキング(あればの話ですが)に反映させます。今からすでに2013年映画ベスト10暫定1位です。



また、極私的2012年の顔は、『アベンジャーズ』のロキことトム・ヒドルストンと、『ダークナイト・ライジング』のベインことトム・ハーディでした。奇しくも2人ともアメコミ映画でブレイクしたトムさん。
トムヒはインタビューでにじみ出る育ちの良さとユーモアとモノマネ上手、トムハは『ロックンローラ』のハンサム・ボブと同一人物とは思えない化けっぷりと目だけの感情表現でファンを増やしたようで。
これは過去作(トムヒの『ミッドナイト・イン・パリ』、トムハの『ブロンソン』)も観たくなるし、次回作(『Thor 2 : The Dark World』と『マッドマックス フューリーロード』)も楽しみってもので。

ちなみに、『ロック・オブ・エイジズ』のトム・クルーズは今年のトムに換算しませんよ。あの人はほぼ毎年のように「どうも、スターです!!」ってスマイルで登場してくれるから。

2012年12月29日土曜日

007 スカイフォール

ダニエル・ボンドはレザレクションするのか。

007 スカイフォール('12)
監督:サム・メンデス
出演:ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム



一度狙った標的は、何に阻まれようと追いかける。
壁があってもぶち壊したり飛び越えたりしてやってくる。
屋根に登っても飛び上がってくる。
車で振り切ろうとしても走って追いついてくる。
列車に飛び乗ったら列車に飛びついてくる。
実は一回心臓停止してるけど復活してる(『カジノ・ロワイヤル』より)。
もはやシュワルツェネッガーを超えるアイル・ビー・バック男。その分、従来のボンドにあったスマートさや余裕や遊び心が少ないという不評もあるが、それがダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドである。

なお、私個人はダニエル・ボンド肯定派。「ボンド=ドヤ顔でいろんなものを破壊しまくり、なおかつモテる人」という程度の認識から、「ドヤ顔」が消えたぐらいのものなので……。
ちなみに、リアルタイムボンドはピアース・ブロスナンでした。

潜入捜査中の諜報部員たちのリストを奪還する任務の最中、ボンドは仲間に誤射され、遥か下の川に転落。Mはリストを奪われた責任を問われ、さらに同じころ、MI6本部が爆破される事件が発生する。
窮地に立たされるMの前に現れたのは、死亡したとみなされていたボンドだった。

『カジノ・ロワイヤル』で007になったばかりのボンドを描くことから始まったダニエル・ボンド。当初歓迎されなかった金髪といい、ジェームズ・ボンドというキャラクターを再構築して、今までとは違うボンドを改めてつくるのか……
と思ったら、『カジノ・ロワイアル』では『女王陛下の007』、『慰めの報酬』では『消されたライセンス』と、ちょいちょい過去の作品への目配せをしている。そして今回は、『ゴールドフィンガー』に目配せしつつ、原点回帰まで果たしていた(具体的にどこがかはネタバレになるので伏せますが)。

原点に戻ったといえば、ロケーション。今回も敵を追って、イスタンブールにはじまり、上海、マカオと飛び回るボンドだが、目玉になるのはロンドンとスコットランドの平原。つまりボンドのホームグラウンド。
地下鉄チェイスが、田舎銃撃戦が、いちいち魅力的なので、久々に思わず舞台となった場所に行きたくなる映画となった。

ダニエル・ボンドの前2作で難だったのは、悪役が小粒なこと。演じてる俳優さんは好きなのだが。
確かに、株操作でテロリストに資金を還元、途上国の資源を押さえるなど、やっている悪事はかなり現実的。しかし、どぎつい資金取り立てに「金は返すから!」と怯えるル・シッフルや、終盤の直接対決であまりの体格差に「ボンドが小動物虐めてる!」感が出てしまったドミニク・グリーンは、インドア系なせいか肉弾戦で勝てそうにない。
頭脳を活かして追い詰める展開も期待したけど、そこまでには至らなかった。

そこへいくと、ハビエル・バルデム演じるシルヴァは、目下対ダニエル・ボンド最高の悪役である。存在感も体格もずっしりなので、ボンドがいくらぶん殴っても大丈夫そうだし(実際はそんなに肉弾戦はなかったが)。
予想から微妙に外れたところを突いてくるひねくれた策略家ぶりも、見ていて次はどうくるか楽しみになる。何より、『ノーカントリー』でも証明された、面積もパーツも大きくてしかも濃口の顔面力は最強である。
粘着質で気色悪い雰囲気を漂わせるのもお手の物。特に意味なくゲイ的アプローチするシーン然り(フィルモグラフィー上で異性にも同性にもモテモテなバルデムなので、もう男女とかどうでもよくなってる気もするのだが)。

ただ、実は一番不気味なのは、「んー?」「あぁ」といった間投詞のイントネーションや、一瞬ドラッグクイーン歩きになるといった細かい言い回しや仕草。そして、どこか壊れていながら、愛憎入り乱れた哀しさも漂う。
ごんぶとの存在感と繊細な感情でインパクト勝ちしかねないという意味でも、ボンドの最高レベル好敵手である。

できる限りリアルな悪人に、できる限りリアルな肉弾戦で、問答無用で美女にモテまくるわけでもオモチャ感覚スレスレなスパイガジェットを操るわけでもない、「人間的ジェームズ・ボンド」がウリのダニエル・ボンド。原点に戻ったのちにどう転ぶのか。

希望としては、せっかくQ(ベン・ウィショーの飄々ぶりが良)が登場したことだし、少しだけ荒唐無稽なガジェットを手にして、ターミネーターな活躍で敵をどこまでも追っかけていってほしいのだが。
それに、せっかくいい着地点だったので、このメンバーでもう1本は作ってほしい。ダニエル・ボンド1作目から言及されてきた、組織クォンタムの中枢に入ってみてはどうだろうか。

2012年12月17日月曜日

シアターN渋谷閉館に寄せて

求む、映画小屋の後継者。

2012年12月2日。シアターN渋谷、閉館。



7年間の歴史のうち、私がシアターNにお世話になった期間は本当に短い。
それでも、閉館は残念で仕方ないし、心底「本当にありがとう」と言いたくて仕方ない。

シアターNについて言及される際、しばしば目にする表現が「小屋」である。
場内はロビーの窓が大きくて明るいし、スクリーンもトイレも清潔で、一見「小屋」という単語のイメージからは遠い。しいていうなら、トイレの個室がなぜか若干ななめということ、また客層の男性比率が若干多いせいか、しばしばスクリーン内に独特の空気(中にいると腕毛が濃くなりそうな気がする薄ら汗臭いやつ。ピエール瀧さんが言うところの『男ミスト』)が漂っていることが、「小屋臭」のするゆえんだろうか。

ただ、シアターNを一番小屋たらしめるものというと、やはりそれは上映ラインナップだ。ホラーはもちろん、ロック映画(多くがレイトショー上映で観に行けなかったのが無念)、リバイバル上映、表現のキツさから上映が危ぶまれていた社会派……デカい稼ぎ口ではないが、映画オタク層には見たくてたまらない人々が確実にいたであろう作品の数々。
上映中作品がこんなにみっちりコアな映画館、そうそう見当たるもんじゃない。残念ながら。

コレとか↓
最後までこんな感じ↓


そうなると気になるのが、都内でどこの劇場がこの「小屋スピリット」を継ぐのかということ。
ミニシアターは存在するが、興行収入やフィルム→デジタルへの媒体移行に伴って、徐々に数と規模を減らしつつある。『アメリ』『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』など、小粒作品のロングラン上映を生み出してきたシネマライズが、規模を縮小してしまったのも記憶に新しい。

とはいえ、シアターNは普通のミニシアターではない。名画座ともちょっと違う。普通の劇場なら上映禁止ものの問題作や、ホラーとロックというファン層がコアなジャンルをピックアップする、男気と「痒いところに手が届く」感がある。
ホラーに関しては、ときにボンクラすぎてフォローしきれないものにも出くわすが、もうそれすら「しょうがねぇなぁ」で済んでしまう気の抜けた空気がある。それと同じとまでは言わなくとも、近いスピリットの映画館……と思って考えると、やっぱりなかなか思い当たらない。

自分の狭い行動範囲でいうと、『最強のふたり』のような小粒良作を発掘しつつ、『アイアン・スカイ』『ゾンビ革命』のようなボンクラ魂炸裂映画にも手が届く新宿武蔵野館(たぶん、12月22日会館予定の武蔵野館系列ミニシアター、シネマカリテも)が、近いといえば近いのだろうか。ただし、ホラーとロック色は薄いし、そんなにこっぴどいボンクラもあまり見かけないので、まだ優等生の部類のように思える。
そういうジャンル専門の映画館をつくるのが難しいのなら、せめてそれ専門のスクリーンぐらい設けておいてくれないだろうか。特にシネコンさん、2週間の興行収入という短期間高収入ばかり見てないで、小規模スクリーンの1つでも譲っていただきたいものですよ。

ちなみに、私のシアターNのトップクラスの思い出は、どうしても最近の話になってしまうのだが、『モンスター・トーナメント』&『カジノ・ゾンビ』、『インブレッド』&『血の祝祭日』(ハーシェル・ゴードン・ルイス映画祭)で4分の1日ほどをシアターNにて血みどろネタで過ごしたことである……。
こんな面白割引も少ないもの。迷彩服割引ぐらいは実践すべきだったかも……。

2012年12月13日木曜日

インビジブル

肉体脱いだら、モラルも脱げた。

インビジブル('00)
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
出演:ケヴィン・ベーコン、エリザベス・シュー



①人間とは、血と臓物の詰まった肉袋である。
②人間とは、セックスとバイオレンスと嫌がらせが好きな肉袋である。

……といったところが、ポール・ヴァーホーヴェンの見解らしい。あれこれマジメに考えたら「いや、そればかりじゃないよ!」と反論したくなるところもあるだろうが、ヴァーホーヴェン級にばっちりとそこんところを描かれたのでは、「そうっすよね!!」と大いに納得したくなってしまう。
あ、それを世間一般では「タチが悪い」というのか。

天才科学者のセバスチャン・ケインは、生物の透明化と復元という、国家の機密プロジェクトを担っていた。動物を用いての透明化と復元には成功したものの、より大きな名誉を追うセバスチャンは復元成功の事実を伏せ、自ら実験台となり人間の透明化と復元を試みる。
結果、透明化には成功し、セバスチャンは透明人間の状態を楽しむが、復元は動物実験と違い失敗に。しかも、研究チームの同僚たちによる復元化研究は遅々として進まない。元に戻ることができないセバスチャンは苛立ちを募らせ、ついには透明であることを悪用し犯罪に走り、憎悪を同僚たちに向ける。

透明人間といっても、すんなり身体が透き通ってくれるわけではない。薬を投与した血管から、皮膚、筋肉、臓器、骨格と順番に消える。もちろん、動物による復元実験のときには、血管から骨、臓器、筋肉、皮膚と逆に現れ、ゴリラの姿に。
しかも、透明化にしろ復元化にしろ、人間にしろ動物にしろ、実験台の上でのた打ち回りながら姿を変えていくのだから、エグさ倍増。さすがヴァーホヴェン、一筋縄じゃいかない。

もちろん本当にエグいのは、透明になってからのセバスチャンの暴走劇だ。同僚女子へのセクハラに始まり、実験体の動物を殺し、不法侵入し放題、果てに向かいのアパートの女性に暴行、邪魔な人間は殺害……世界征服的な大それた陰謀を張り巡らすわけでもなく、半径数メートル以内の悪事で落ち着いてしまっているあたりが、妙に生々しい。人間から血と臓物と肉袋を取ったら、エロと暴力と意地悪しか残らないということか。
セバスチャンのセリフを借りるなら、「見えない人間はモラルも透明になる」である。

かといって、肉袋をかぶっていればまだいいというわけでもない。研究チームの面々は、正直セバスチャンなしには大した成果は上げられず、またいざというとき役に立たないどころか、「それやっちゃったら死ぬだろ!」というダメな方向へ突っ走りがち。あまりのまどろっこしさにイラつかされることもしばしば。

そうなると、やっていることはゲス以外の何物でもない悪人のほうが、ダメな善人より魅力的に見えてしまうから不思議。悪人のほうが自信があって、堂々としていて(透明だもんね)、手際がいいからだろうか。あ、それを世間一般では「タチが悪い」というのか。

ところで、ケヴィン・ベーコンというと、一部の映画ファンの間では「脱ぎたがり」で知られている。『13日の金曜日』でセックス→殺されるのくだりでずっと全裸だったのをはじめ、『エコーズ』の上半身裸で全力穴掘り、『ワイルドシングス』の意味なしシャワー登場など。フィルモグラフィー通して脱ぐのが多いわけではないのに、いちいちインパクトが強いんでしょうね。
で、もちろん今回は透明人間なので、皮膚や肉まで脱ぎ捨て、しまいにはモラルも脱ぎ捨てる、ケヴィンのフィルモグラフィー史上でこれ以上はないほど全裸(これ以上あっても困るが)。本当に脱ぎたがり傾向にあるのなら、かなり満足がいく域なのでは。

透明化する直前、実験台の前で、近くにいるのが女性研究員2人(うち1人元カノ)にも関わらず全開になり、「歴史的な実験だ、目をそらすな」と言うシーンがある。
マジメに深読みすると、ヴァーホーヴェン監督が人間のエグさを観客に突きつける前触れともとれるが……フマジメに深読みすると、ケヴィン・ベーコンの地じゃないだろうかと思えてしまうのだった。
……最後に何を語っているのだろう。

2012年12月7日金曜日

タイタンの戦い

「まぁ、神様だから」……で済むかボケェェェ!!! (by人間)

タイタンの戦い('10)
監督:ルイ・レテリエ
出演:サム・ワーシントン、リーアム・ニーソン



マイティ・ソー』でも触れたが、神話の世界の神様のおもな仕事は、人間に迷惑をかけること。家庭内不和とか痴話ゲンカとか、人間界では「自分とこでやれ! よそに迷惑をかけるな!!」と怒られること必至レベルのネタで。オーディンのしつけ不足と家族会議不足のせいで、兄貴は勘当され弟はグレはじめ結局兄弟大ゲンカに至り、そのとばっちりで勝手に故郷をバトルフィールドにされた人間はたまったもんじゃない。
しかしそれすら、こいつらに比べれば遥かにマシだったようで。

神々と人類が共存していた古代。神々は人間の信仰と愛を糧に永遠の命を得ていたが、やがて人間は神の傲慢に耐えかねて反旗を翻す。一方神々の王ゼウスも、報復として、兄である冥界の王ハデスを人間のもとへ送り込んだ。
そのハデスに家族を殺された漁師の息子、ペルセウス。彼は人間として育てられたが、実はゼウスと人間の女性との間に生まれた半神半人(デミゴッド)だった。家族の復讐のため、人間たちを守るために、ペルセウスはハデスと魔物クラーケンに戦いを挑む。

本作は、レイ・ハリーハウゼンによる1981年の特撮映画を、技術で迫力を盛りに盛りつけたリメイク作品とのこと(ちなみに自分はオリジナル未見)。
この手の映画でありがちな話だが、技術に労力を費やしたぶん、ストーリーはあっさり気味。打倒ハデス→手がかりゲット→進む→戦闘→アイテムゲット→さらに先へ進む……というRPGなノリが目立つ。本来はストーリーの中核にいて、ペルセウスとのロマンスがあるはずのアンドロメダも、隅に追いやられている。大して面識のないお姫様よりは、そばでちょくちょく助けてくれる守護半人(?)に心が……っていうほうが自然な流れだからか。
あと、鍛錬してもいないペルセウスがアルゴスの兵士よりも強いのは、「デミゴッドだから」ってことでいいのかな?

そう、作中一番あいまいなのが、ペルセウスの立ち位置。
デミゴッドながら「人間として戦う」と明言したはいいが、そこに固執するあまり死にかけたり味方を失ったりで、本当にヤバくなったところでようやく神の力(およびアイテム)を受け入れるという、どっちつかず状態。対戦相手は神とか怪物なんだから、もっと早い段階で受け入れろよと言いたくもなる。
人間としての誇りや強さの表れなら、どれだけ部下を失ってもペルセウスについてきた隊長・ドラコの存在(と、演じるマッツ・ミケルセンの漢っぷり)だけでも十分なので。

まぁ、神様襲来! 怪物襲来! 手に汗握るバトル!! 劇場によっては3D!!! というド迫力の絵面をみていると、制作する側の「オレはこれがやりたいんじゃぁぁぁ!!」精神は、どっちかというとこちらに費やされているようで。だったら、その大作映画の蓑を借りたボンクラスピリット、高値で買わないことにはねぇ。

それにしても、一連の大災害の原因となった神様兄弟のド外道っぷりときたら。ヒーローたるペルセウスよりも、むしろこちらに注目したくなってしまうほど。
初っ端から、兄ハデスを騙して冥界送りにするあたり、ナレーションで説明されるだけとはいえゼウス十分ヒドい。そりゃハデスも怒って権謀術数巡らすわ。
それに、信仰と愛が永遠の命の糧といいながら、求愛を拒んだ女に呪いをかけるってどんだけワガママですか。「私は人間を愛しているので、反乱主導者のアクリシウス王のみ罰します」(意訳)といったところで、その手段が「嫁を寝取る」という地味にイヤな仕打ち。そりゃ人間もキレますって。
そのくせ、愛人の子であろうと息子には甘く、ちょいちょい剣やら金貨やらしまいには伴侶(この展開にはいろいろ解せないものがあるが)やらのプレゼント攻撃。しかし、息子は貰うものは貰うけど結局お父さんには構ってあげず。正直、このダメ親父(注:神です)ならそうなっても当然のような。

弟が弟なら兄も兄。ゼウスの神像を破壊したアルゴス兵をめった殺しにするのもヒドいが、ついでに無関係だった漁師一家まで殺していくって、アバウトにも程がある。
さらに、ペルセウスが自分の計略の妨げになると知るや、ゼウスの稲妻に焼かれ異形の者と化したカリボス(かつてのアクリシウス王)を差し向ける。「私まだ力蓄えきれてないから。一応パワーあげるから私の代わりに使っといて」(意訳)って、カリボスも隠遁生活だしそこそこ老体だろうに、どんだけ人使いが荒いのか。

一番ダメなことには、ポセイドンやらアポロンやらオリンポス十二神もいながら、誰一人このド外道ブラザーズを止められていないこと。そんな状態だから、他の神様のシーンばっさりカットされちゃうんですよ!! (Blu-ray特典の未公開映像参照)

それぞれ「私はリーアム・ニーソン(還暦迎えてますます凶暴)だ」「私はレイフ・ファインズ(またの名をヴォルデモート)だ」という強力免罪符をお持ちのゼウスとハデス。ある意味ではがっちり信者も押さえているので、目下最強の神様ではないかと。
ある意味対抗馬を挙げるとしたら、洗脳・殺人・破壊行為の数々までやっておきながら、終わってみればヒーローたちに負けず劣らずかそれ以上の人気票を獲得してしまった『アベンジャーズ』のロキ?

2012年12月4日火曜日

「ガヤスクリーン」に関する思いのたけ

ガヤガヤしてもいいじゃない(たまには)。

「上映中はお静かに」は、いつでも映画館の常識とは限らない。
例えば、世界のあちこちでやってる『ロッキー・ホラー・ショー』は、有志の素人役者がスクリーン前でキャラクターになりきったり、コスプレの観客が映画のセリフを真似したりツッコミを入れたりするのが当たり前。ここ日本でも、川崎ハロウィンで毎年のようにパフォーマンスやりたい放題上映会をやっている。

わざわざコスプレしたり演技したりしなくとも、海外の劇場の場合、観客が歓声を上げたり、悪役にブーイングしたり、スクリーンに向かって「サイコー!!!」「何やってんだよバカ!!」などツッコミを入れることがある。そのへんの様相は、『マチェーテ』のDVD/Blu-ray収録の「観客の歓声入りモード」でだいたい分かる。ド派手なアクションがあれば「うぉぉぉ!!!」裸のおねえさんが出てくれば「ひょーーー!!!」って、どシンプルなノリですが。

そういえば、最近はインド映画『ボス その男シヴァージ』でも、歌ったり踊ったり騒いだり食べたりしていい「マサラ上映会」が一部で実施されていた。インドでは上映中に踊るってのもアリなんですね。
あと、『エクスペンダブルズ2』の「バドワイザー立ち飲み試写会」でもワイワイ盛り上がったようで(特にチャック・ノリスの登場に)。その場にいなかったので明言はできないが、立ち飲みみたいな雰囲気だと、気兼ねなくどよめいたりできるような気が。

個人的には、こういうノリには大いに興味がある。というか、大いにやってみたい。
劇場で映画を観て感じられる「ほかの観客との一体感」が、コメディで笑い、感動ポイントで泣けてくるってだけじゃ物足りないときもある。それこそ『アベンジャーズ』や『エクスペンダブルズ』みたいなお祭り映画は、みんなで騒ぎながら観てみると面白いだろう。ヒーローの活躍に歓声上げたり、悪役ひいきなら悪役に喝采送ってみたり。
何だったらホラー映画でも、ツッコミを入れつつ観賞してみると、恐怖を楽しむだけでなく、怖さの背後にあるおかしさやお約束事に気がつくかもしれない。

そこでですね、全国のシネコンさん。あれだけスクリーンがあるなら、上映中観客がにぎやかにしていてもいい「ガヤ専用スクリーン」を設置してくれないでしょうか。ネーミングは、マキシマム・ザ・ホルモンのライヴ企画「マスター・オブ・テリトリー」のガヤエリアから何となく拝借しただけなので、新しく考えていただいて結構ですから。
ガヤスクリーンではもちろん、騒いで観賞するのが当たり前。先に挙げたように、お気に入りキャラの登場やキメのシーンで歓声あげるも良し。どう見ても次の展開へのフラグとしか思えない行動やセリフに大声でツッコミ入れるもよし。セリフをほとんど覚えるほど愛してやまない作品の上映で、延々一人芝居繰り広げるも良し。
まぁ、「つまんねーよ!!」とか、ファンにとって不快なことを叫ぶ輩がいるかもしれない……という危険性もはらんでいるのですが。わざわざそれなりの料金を払って嫌がらせにくるっていうのも、なんだか哀しいなぁ。
ガヤスクリーンでもう1つやってほしいのが、昔の作品のリバイバル上映。上映権がなかったら、ブルーレイかDVD上映でもお願いしたい。名目は「名作映画の温故知新」だけど、はっきり言っちゃえば面白そうな光景が拝めそうだから
『燃えよドラゴン』でみんな奇声を発するとか。
『ロッキー』終盤でみんな一斉に「エイドリアーーーン!!!」って吠えるとか。
ハロウィン(1978年版)』で「ローリー! 後ろ、後ろぉぉぉぉ!!」って叫ぶとか。
『マチェーテ』の上映会だったら、観客にチープな紙製マチェーテ(上映後は団扇にどうぞ)なんか配布してほしいですね。で、決起のシーンとか、トレホの親爺さんのキメポーズシーンで、観客も一緒にペラペラマチェーテを掲げるとかね。
 もちろん、リバイバル上映の鉄板は『ロッキー・ホラー・ショー』!! そして願わくば『ファントム・オブ・パラダイス』との2本立て上映で!!……結局それが一番言いたかったんだけどね。