2015年2月6日金曜日

ザ・フライ

ハエが二人を分かつまで、愛せると誓いますか?

ザ・フライ('86)
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイヴィス



小学校高学年のころ、体育の創作ダンスに担任の先生が「あいつはいつもうーるさいー ハーエーおーとこー♪」ってテーマ曲を持ってきた(このパートしか覚えてないけど)。ハエが前足を擦る動作を真似た振り付けのダンスだった。
しかし、この映画を知ると「ハエ男ってそんなもんじゃないじゃん!! もっと怖いし気持ち悪いじゃん!!」ってなっちゃうよなぁ。

天才科学者セス・ブランドルは、物体転送装置「テレポッド」を開発していた。無機物の転送実験には成功していたが、生物の転送にはまだ苦戦していた。
あるとき、新しくできた恋人でジャーナリストのヴェロニカの協力で、生物の転送に必要な改良が分かり、ついに動物の転送実験に成功。その直後、ヴェロニカの元恋人への嫉妬心と、酔った勢いで、セスは自身の身体で転送実験に踏み切ってしまう。
転送は一見何事もなく成功したように思われた。しかし、翌日からセスの身体に異常が次々と現れ始める。実は、実験時セスのポッドに1匹のハエが紛れ込んでおり、セスは転送完了の際に遺伝子レベルでハエと融合してしまったのだった。
かくして、セスの肉体は日に日に崩れ、人間ではなくなっていく。

『蠅男の恐怖』('58)のリメイクである本作。ちなみに元の作品は未見。
最近はメンタル面の変容やエグさが目立っているクローネンバーグ監督だが、このころはまだ肉体の変容とそのエグさが前面に出ている。
ハエとの融合プロセスは、最初は甘いものの大量摂取や精力増強、身体能力の向上、吹き出物の増加程度だが、背中の傷跡から昆虫の毛が生え始めたころから怪しくなってくる。爪や歯が退化してポロッと抜けるあたりから「うげっ」となり、皮膚がボロボロになり、口から強酸を吐き出すころにはもう身体はグズグズ。しまいにはその身体さえ崩れ落ち、巨大なハエ人間が誕生する。

自分がグロテスクな何かに変貌しつつあったら、普通なら絶望する。確かにセスも絶望的になり、特に恋人ヴェロニカのことを思うと哀しみもいっそう増した。
しかし、ある程度変化が進むと、自分の肉体はどう変わっていくのかと興味を持ち、取れてしまった人体パーツを収集し、楽しんでさえいる。『シーバース』の寄生された人々然り、『ザ・ブルード 怒りのメタファー』のノーラ然り、『コズモポリス』のエリック然り、クローネンバーグ作品のキャラクターには自身の身体の変容を喜んで受け入れる人が多いように思える。
化学を専攻していたクローネンバーグにとって、変容は恐れるべきものというより、進化としてポジティヴに捉えるものなのだろうか。逆に、変容の哀しみを表す『デッド・ゾーン』のジョニー・スミスという例もあるが。

セスがハエ男に変わっていくプロセスと並んで重点的に描かれているのが、セスとヴェロニカとの関係である。2人の愛情は、率直に言って「ハエ男への変貌」を「難病」に置き換えても成立するものがある。
ただし、邦画・テレビ界で目立った「難病モノ」は、キレイな俳優さんがキレイなまま病気になって、その恋人としてこれまたキレイな俳優さんが彼/彼女にずっと寄り添い続けてキレイな顔のまま死んでいくもの。果たして、皮膚がボロボロで歯や爪がなくてあちこちから粘液を垂らす姿になっても、彼らは愛情を貫けるのだろうか……と穿った観方をしてしまう。

グズグズに崩れていくのを目の当たりにしながらもセスを見放さなかったヴェロニカだが、セスの子を身ごもったことを知ると、ハエの遺伝子を持った生き物を体内に宿していることにさすがに恐怖を覚える。一方、当初は肉体が朽ちていく自分からヴェロニカを引き離そうとしたセスだが、突如ヴェロニカの中絶を拒み、ともに「進化」への道を歩ませようとする。
「すれ違い」「心の距離」とキレイにまとめるにはあまりにもグロテスクでダイナミックすぎる展開を経て、最終的にひとつの意思を示すセスと、それを受け入れるヴェロニカの姿には、おぞましさを突き抜けて妙な感動さえ覚えるから不思議だ。

ところで、本作はタイトルバックが終わってから、ホールでのパーティーの遠景が映り、その直後にインタビューを受けるセス・ブランドル=ジェフ・ゴールドブラムの顔で本編が動き出す。濃ゆい顔立ちで、特にギョロリとした目が目立つジェフの顔のインパクトは、もはやハエと融合する以前の問題。ハワード・ショアの音楽と、このワンショットのつかみという流れから、本作はもう勝利していると感じさせるのだった。

2015年1月25日日曜日

2014年アルバム極私的ベスト5

2014年=喪失・離脱のその先。

その年の新作映画を観る頻度より新作アルバムを買う頻度が少ないので、ベストといっても5位までが限界だというのに、なぜここで大幅に出遅れたアルバムベストを出すのか。
それは、こんなネタでも挟まないと、まがりなりにも映画・ロック地獄と銘打っているのに「ロック」のラベルが一向に増えないからである。まぁ、言ってるそばからマンソンの新譜買ったので、次のロック記事のネタは決まってしまったのだけれども。

ちなみに、映画サントラに関しては2014年映画極私的もろもろベストにベスト5があるので、こちらには入れていません。

1位 SLIPKNOT/.5: The Grey Chapter




#2ポールが亡くなってから初めて作られたアルバム。2013年のOzzfest Japanではポールの喪失を内包しつつの気迫だったが、ここで彼らは前進するためポールの思い出に一つの区切りをつけたように思えた(だからこその "So walk with me" であるように聞こえた)。昨年11月のKNOTFESTのステージを観て一層そう思えたし、バンドの状態が良好そうなのを観て、彼らにまた何度でも戻ってきてほしいとも思った。

↓リフのおどろおどろしさがたまらない「The Devil In I」。
MVには少しながらグロテスクなところもあるのでまったくダメな方は注意。


2位 TRIPTYKON/Melana Chasmata




『Eparistera Daimones』同様、長年熟成させた呪いの蓋を満を持して開封したかのようなドゥーム/ブラック。もちろんトム・G・ウォリアー(Vo.)の「う゛っ!!」も聴ける。ただし幕開けとなる1曲目は、Celtic Frost時代を彷彿させるスラッシュメタル風味。前作には19分25秒にわたる呪詛「The Prolonging」があったが、今回も12分25秒の「Black Snow」という知らない人にとっては嫌がらせのようなナンバーが。
本作のアートワークを手掛けたH.R.ギーガーは、2014年5月に死去。同じスイス出身のトムとは友人でもあり、Celtic Frostのころからアートワークを手掛けていて、トムのギターもギーガーモデル。これが最後のコラボレーションとなってしまった。

↓冒頭から7分の暗黒を。「Tree Of Suffocating Souls」


3位 WHITE EMPRESS/Rise Of The Empress




ディスクユニオンなどでたまたまかかっていた曲が気に入ってしまうことを一目惚れならぬ「一聴惚れ」と勝手に呼んでいるのだが、これがまさにそれ。デス声と女性のクリーンボイスとのツインボーカルだと思っていたら、どちらも同じ女性のボーカリスト(メアリー・ズィマー)だった。元Cradle Of Filthのポール・アレンダー(G)が携わるシンフォニックメタルとのことだが、Cradleよりも装飾が控えめになり、その分君臨する女帝(=ボーカル)が音楽を輝かせている。

↓猛々しい雪の女帝がおります。「Darkness Encroaching」


4位 MAYHEM/Esoteric Warfare




2014年1月の来日公演で重鎮ぶりを容赦なく見せてくれたので、「そろそろスタジオアルバムのほうでもカリスマ健在をガシガシアピールしていただきたい」などと言っていたら、本当にガツンガツンと猛アピールしてくださった。サウンドプロダクションが微妙に怪しいのは相変わらずだし意図的なところも多いのだろうが、それでもドラムがモコモコだった前作『Ordo Ad Chao』よりは向上しているほう。戦争によるカオスという世界観は『Grand Declaration Of War』にも通ずるものがあるが、まさか「宇宙実験」だの「催眠電波」だのうっすらSF風味も漂わせてくるとは……。


5位 WITHIN TEMPTATION/Hydra




『The Silent Force』『The Heart Of Everything』でシンフォニック・メタルを極めて以降、『The Unforgiving』でアメコミのようなコンセプトに乗り出したり、本作のように多彩なゲストを迎えたりと変化し続ける。もちろん賛否はあるだろうが、こういう風に一度様式美を作っておきながら凝り固まらないところは個人的に好きだ。中でも一番意外だったのは、ヒップホップ人脈からXzibitを迎えた「And We Run」。

ベタながら元Nightwishのターヤとのデュエットは最高に美しい。
↓「Paradise (What About Us?)」


どういうわけか、2014年のベスト3位内のアルバムアーティストは、メンバーを失ったり友人を失ったり、それまでのバンドを離れたりと、喪失や離脱を経験したばかりの方々になった。ベストには入らなかったが、昨年はMy Chemical Romance解散後のジェラルド・ウェイのソロアルバムもあった。
もっとも、彼らはすでに前進を始めている。どんな道を歩んでいくのか、まだまだ観ていきたい。

2015年1月18日日曜日

武器人間/ヒトラー最終兵器

東部戦線異状大あり。

ナチスとソビエトがトンデモな泥試合……いや血みどろ試合をくり広げてるのは、『Dead Snow 2 : Red vs. Dead』(処刑山2)だけじゃなかったらしい。いや、たぶん探せばまだ出てくるだろうけど、今回はとりあえずこのあたりで勘弁しといてもらえませんか。長時間一人で観てるとある意味で疲労困憊するから。

武器人間('13)

監督:リチャード・ラーフォースト
出演:カレル・ローデン、ジョシュア・ザッセ



第二次世界大戦下、ナチスドイツとソビエトの攻防が続く東部戦線。味方からのSOS信号を受信したソ連の特殊部隊は、発信元と思われる教会に辿り着いた。しかし、発見したのは死体の山と、謎の地下施設と、おぞましいクリーチャーの数々。そこでは、フランケンシュタイン博士の末裔が、人体と機械とを融合させた改造人間を製造していたのだった。

ソ連の特殊部隊に同行した戦争プロパガンダ映画撮影班のフィルムに残されていた映像……という設定のはずだが、フィルム映像ノイズなしスゲェクリア! ナチスもソビエトもノー母国語で英語ペラペラ! このあたりで時代背景だの軍事知識だの細かい話はぶん投げるよう心がけよう。

POVものにおいて最後までカメラを回し続ける奴は、報道義務にあふれすぎているかウザいばかりというパターンが多い。本作のカメラマン=ディミトリは、実は切羽詰まった背景があるとはいえ、POV主人公トップクラスのクズ男。クズがどうにもまとまりのない部隊を映し、彼らがモメたりブチ切れたりで、最終的にご対面するのはマッドサイエンティストで、さらにその後……と、敵にも味方にもロクな人間がいない。

その点、邦題になった武器人間たちは、みんな任務(=殺戮)に忠実で、作り主に忠誠心があって非常にエラい。口にドリル、手がハサミ、頭がプロペラだったりアイアンメイデンだったりと重量感たっぷりで、洗練されているとはいえないがオタク心に刺さるデザイン。『アイアン・スカイ』もそうだが、黒々とした重金属はなぜかナチスと相性がいいし、オタク心にもフィットするのである。造形美よりインパクト重視で作られているので、生体パーツのツギハギが多少どころじゃなく粗いのはご愛嬌だ。

しかし、明らかに殺傷用に作られていながら、ギリギリまで近づいているはずのディミトリに大した傷も負わせられていないのは、やはりみんな頭が重くて視界不良なんじゃないですかね。「武器人間」としては致命的なんじゃないですかね。
ケーブル一本切られたら停止しちゃうプロペラマン、大丈夫ですかね。
殺傷用じゃなくて助手として作られてるオッペンハイマーさんやエヴァちゃんやポッドマン(別名ハンス君)のほうが使える子なんじゃないですかね。
特に、博士の後をよちよちついて回るハンス君の愛らしさときたら! まぁ、そういう欠陥がまた可愛い奴らなんだけどね。
言うまでもないけど、ここは脳ミソや内臓のモロ出しに耐えられる人に限る価値観だからね。

ちなみに、フランケンシュタイン博士を演じたカレル・ローデンは、『ヘルボーイ』でラスプーチンを演じていた、ナチスとソ連を渡り歩く怪人俳優。今回も常人では理解できない新世界への道を開くべく、新人類の誕生に熱を注いでいる。「ちょっと共産主義が多いな……」「また作るさ!」の名言には、天才の思考力半端ねぇなと脱帽したものです。


ヒトラー最終兵器('13)

監督:キアラン・パーカー
出演:ブライアン・ラーキン、イヴァン・カマラス




第二次世界大戦下、ナチスドイツとソビエトの攻防が続く東部戦線。極秘の地下研究施設へ向かうナチスの一隊を殲滅させたソ連の特殊部隊は、逆に奇襲に遭って捕まり、研究施設へと送られてしまう。そこでは、ナチス開発・最強のバイオソルジャーが製造されていたのだった。

ソ連の特殊部隊に同行した撮影班のフィルムに残されていた映像……という設定はないから画面がノイズなしスゲェクリアでも問題なし! だけどやっぱりナチスもソビエトもノー母国語で英語ペラペラ! やっぱりある程度細かい話はぶん投げるよう心がけよう。

日本版ではバイオソルジャーと銘打たれたナチスの改造兵士だが、皮膚のボロボロ具合やツギハギ具合からして、要は限りなくゾンビソルジャー。ただ、並みのゾンビに比べると結構なパワーファイターである。一応、脳ミソも並みのゾンビよりはありそうだが、上からの殺人命令以外のコミュニケーションは困難で、ほぼ猟犬扱い。実際、鎖でつながれて4足歩行してるのもいるし。処刑山ゾンビたちや上記の武器人間と比べると、愛嬌やキャラ立ちはないが、兵士としては格段に使える奴らである。

研究施設から脱出しナチスの計画を阻止するため、捕らわれたソ連特殊部隊員はこのバイオソルジャーとの苦戦を強いられる……はずだった。しかし、改造人間でもなければ特殊な血清を打ったわけでもない特殊部隊隊長・ドロコフさんが、地味な佇まいながら実は最強のおじさんだったのだ!! 
ナチスに捕まって早々、部下がバイオソルジャーに殺されたのを目の当たりにしたドロコフさんは、なぜかタンクトップ1枚になり「かかってこいやぁぁぁ!!!」(超訳)とそいつらを立て続けに素手でブチ殺し、さながらえげつないダイ・ハード。
その無双ぶりに「こいつは実験に使えそうだなぁ」と別室に閉じ込められるも、素手で手錠をぶっちぎりドアをぶち破る、シュワルツェネッガーのごとき怪力。
力任せなだけでなく、ナチ軍服をお借りし、敵の背後から忍び寄ってはナイフで仕留めていくメタルギアソリッド戦法も大活躍。
そしてしまいには、銃撃の雨と爆薬でもって敵を殲滅するエクスペンダブルズ戦法へ……! 
ゾンビだらけのエグい戦いになるのかと思いきや、実はまさかのオヤジ無双映画。しかも、ナチスの一部隊やバイオソルジャー複数体よりもデキる奴。もう邦題を『スターリン最終兵器』に改めてもいいんじゃないですかね!?

なお、『ヒトラー最終兵器』の原題は『Outpost Ⅲ:Rise Of The Spetsnaz』。これ以前に『ゾンビ・ソルジャー』(Outpost)『アウトポスト BLACK SUN』(Outpost: Black Sun)という2作があって、本作はその前日譚という位置づけのよう。ソ連との戦いは終わっても、ナチスのバイオソルジャーはご健在だったのか。


ということで、現時点ではナチスとソビエトのトンデモ戦線ものはいったんお休みしてもよさそうな気がしている。しかし、トンデモ系ナチスものに関していえば、まだ観たい気がしてしまう。『ゲシュタポナチ死霊軍団 カリブゾンビ』とか……。
それもこれもすべてこいつが悪いんだよ! 『Dead Snow 2 : Red vs. Dead』が面白すぎるからだよ!!

2015年1月1日木曜日

新宿ミラノ座閉館に寄せて

映画バカ人格の生みの親。

2014.12.31.新宿ミラノ座、閉館。


私の初劇場観賞洋画は『ネバーエンディングストーリー3』('94)だった。
しかし、本格的に映画にのめりこむには、1998年初頭にミラノ座で『フィフス・エレメント』(公開は1997年末)を観るまで待たねばならなかった。
そこから『メン・イン・ブラック』でまだ宇宙人を取り締まる側だったトミー・リー・ジョーンズと出会い、『フェイス/オフ』でニコラス・ケイジを人生初スクリーンヒーローとし(裏地の赤いロングコートと横跳び二丁拳銃はいまだに憧れ)、『ジャッキー・ブラウン』でタランティーノとタラが愛したブラックミュージックを教えられた。
このミラノ座4連続コンボによって、私は10年以上にわたり映画バカ街道を邁進することになったのだった。

余談だが、いまだに覚えているのが『フェイス/オフ』公開時に場内にフェイス/オフフレームが使えるプリクラが置いてあったこと。もともとプリクラなぞ自主的に撮ることもないし「何だあれ?」とちょっと気になっただけだったが、観終わるころにはいろいろな意味ですっかりハマっていたので、完全にプリクラ撮りたいモードになっていた。が、すでにその日の最終上映だったため、プリクラはもう営業停止していたのだった。
その次にミラノ座に来るころにはプリクラは撤去されていたので、もはや撮影の機会は永久に失われた。どうでもいいことだが、これは本当にいまだ引きずる後悔である。一体どんなフレームがあったのだろうか……。

↓人生を(どちらかというとボンクラなほうに)変えた作品たち。↓

4つのスクリーンを抱え、巨大なスクリーンに相応しい大作から思いがけないB級、上映劇場が希少となりつつあるセガール映画まで上映してくれたミラノ座。
特に大作を観るときに嬉しかったのは、座席のゆったり具合である。ブロック最前列ならずとも悠々と脚を伸ばせる余裕のあるインターバル。シネコンに多い詰まり気味の座席とは大違い。よく上映前に「前の座席を蹴らないように」ってアナウンスが出るけど、これだったら体勢を変えたときにうっかり蹴飛ばす心配もないでしょう! もともと脚の長さもないけど。また、舞台挨拶用なのかスクリーン前にもだいぶ余裕があるので、かなり前方で観ても首が痛くならない。
それに、これだけ劇場が広いと、シネコンとちがって場内で誰かがコンビニ飯かスナックをガサガサやってても気にならないんだよなぁ。

↓最大でこの規模だもんな(ミラノ1)。
一番小さいミラノ3でもゆったりしてるんだよ。

そんなミラノ座が最後に実施してくれた『新宿ミラノ座より愛をこめて ~LAST SHOW~』。かつてこの劇場で大ヒットした映画ラインナップのリバイバル上映である。
観たい作品は数あれど、時間に限りがあるため、実際観られたのは『男たちの挽歌』『マトリックス』の2本だけ。
それでも、兄貴を助けに二丁マシンガンで戻ってくるチョウ・ユンファ、キアヌ・リーブスのブレット・タイム、そしてエージェント・スミスには感動させられっぱなしだった。特にキアヌのブレット・タイムでは、このシーンに熱くなる人たちが多かったせいか、客席の空気が変わったように思えたよ。そして上映後には(『マトリックス』では上映前にカーテンが開いたときから)惜しみない拍手が送られた。

ちなみに、上映前には支配人さんからご挨拶と作品解説があった。『マトリックス』については、「試写会を行った当時、若手社員はハマったが年配社員は首をかしげ、当たらないと踏んでいた。現実の大ヒットを受け、若手は内心ガッツポーズをした」との裏話が。また「キアヌ・リーブスの高速弾避けは、当時多くの人が真似しました」とのエピソードも。確かにいたなぁ。学校でマトリックスごっこやろうとした結果、腰を押さえて「痛てててて……」ってなってる奴らが。……いや、私じゃありませんよ。私はエージェント・スミスの口調を真似しようとしてた(そして挫折した)だけです。

ちなみに『マトリックス リローデッド』はエージェント・スミスが増える映画です。
『マトリックス レボリューションズ』はエージェント・スミスがもっと増える映画です。

今回はのびのびと映画を観られる劇場がなくなってしまうだけじゃなく、映画バカたる私の造物主となった劇場がなくなってしまったのだな。
ミラノ座さん、長年お世話になりました。どこまでもありがとう。




2014年12月31日水曜日

2014年映画極私的ベスト10

2014年=ダメな奴らが世界を救ったり救わなかったり。


今年はベスト1だけあっさり決まり、2位以下を決めるのに苦労したところ。ギリギリまで『ベイマックス』や『バッド・マイロ!』と楽しみにしていた作品が公開されたからなぁ。結局ベスト10からは漏れさせてしまったのだけれども。


1位 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

ヒーローでもない犯罪者のうえ、コミック界での知名度も低く、監督もまさかのトロマ出身という、マーベル史上最もどう転ぶか分からない一本。それなのに海外映画サイトから好評価。こうして上がっていった期待値ハードルを軽々飛び越える快作。そしてサントラ!! 
「宇宙よ、これがヒーローか」なんて言うな。宇宙よ、これこそヒーローだ!!!



2位 ワールズ・エンド

宇宙人の侵略や世界の危機を前にビール飲みます。という笑いだけにとどまらず、思いのほかダメ人間のシビアな現実を突きつけてくる。
「バカをやるのは人間の基本的権利だ!!」「(オレには)それ以外何もない!!」など、それ自分の言いたいことですと割り込みたい名言あり。



3位 ゴーン・ガール

妻の失踪と第一容疑者に浮上する夫というサスペンスも早々に、「異常? いいえ、普遍的なのです」という戦慄の着地点へ。



4位 ポール・ヴァーホーヴェン トリック

変態監督が描くヤな奴だらけのホームコメディは、ドロドロするはずの人間関係がサラリと流され、痛快な結末を迎える。



5位 ニンフォマニアックVol.1&2

ラース・フォン・トリアー流ラブコメ(と解釈)。全てをいい意味で台無しにするオチに「オレの映画がそんなに後味いいと思ったかバーカバーカ」とでもいうような底意地の悪さがうかがえる。
でもここまできてやらかさないはずがないよね! それでこそトリアーだよね!



6位 ホドロフスキーのDUNE

制作できなかった映画のドキュメンタリーというより、ホドロフスキーの未完のクエストの物語
その物語は、『DUNE』で宇宙船のデザインをしていたクリス・フォスが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の宇宙船デザインを手掛けていたと知ったとき、いっそう熱さを増した。



7位 GODZILLA

怪獣王、復活! しかも人間なぞ端にも棒にもかけぬ神として! ギャレス・エドワーズ監督ありがとうと思う反面、この復活劇を日本ができなかった残念さも。




8位 キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー

現在のアメリカが最も描きにくいヒーローを普遍的な正義の味方として描いた前作をさらに発展させ、かつての親友との戦い、新しい相棒との軽妙なやり取り、ポリティカル・サスペンスを交えた重厚な娯楽大作に。今年のマーベルはスゴい。



9位 ザ・レイド GOKUDO

もちろんベースボールバットマンやハンマーガールやキラーマスターの残虐アクションが存分に観られるディレクターズカット版で。三部作になる予定ってことは、日本の極道組の活躍は次回にってことだろうか。イコ・ウワイスは主役だから当然続投として、ヤヤン・ルヒアンはマッドドッグ、プラコソに続いて三部作にそれぞれ別人として皆勤賞で出てくれないかな。


10位 X-MEN フューチャー&パスト

「スーパーマンやりたいから帰るね!」というファイナル・デシジョンにより現場をとっ散らかしたまま抜けていったブライアン・シンガーが、11年越しの壮大な後始末を見事に成し遂げた。「シンガー監督で大丈夫か?」とか思っててすみませんでした。



「犯罪者が世界を救う」「酔っ払いが世界じゃなくて自分を救う」「スゴい夫婦が世界に通じる」ベスト3。
以下、ヤな奴、色情狂、怪獣、マフィア&ヤクザと齢を重ねるごとにランキングの中身が大人げなくなっていくなぁ。
次点は『プリズナーズ』『300 帝国の進撃』『ヘラクレス』『ベイマックス』『オンリー・ゴッド』(以下キリなし)。

ちなみに新作ベスト以外のランキングではこんなところも……。



2014年リバイバル映画ベスト10


1位 デス・プルーフ(in 新橋文化劇場)
2位 ブルース・ブラザーズ(in 吉祥寺バウスシアター/爆音映画祭)
3位 ファントム・オブ・パラダイス(in 吉祥寺バウスシアター/爆音映画祭)
4位 タクシードライバー(in 新橋文化劇場)
5位 へんげ(in キネカ大森/ホラー秘宝まつり)
6位 マトリックス(in 新宿ミラノ座/新宿ミラノ座より愛をこめて ~LAST SHOW~)
7位 ゾンビ ダリオ・アルジェント監修版(in 新橋文化劇場)
8位 ゴジラ(1954年版)(in TOHOシネマズ シャンテ)
9位 男たちの挽歌(in 新宿ミラノ座/新宿ミラノ座より愛をこめて ~LAST SHOW~)
10位 2GUNS(in 新橋文化劇場)



2014年未公開映画ベスト5

1位 Dead Snow 2 : Red vs.Dead
2位 The Devil's Carnival
3位 The Strange Colour Of Your Body's Tears
4位 Pain & Gain(ペイン&ゲイン 史上最悪の一攫千金)
5位 Hotel Inferno(ヒットマン:ザ・バトルフィールド)


新橋文化劇場、吉祥寺バウスシアターと、リバイバル上映や変わった上映企画をやってくれる劇場が次々閉館してしまったのが残念な年でもあった。新宿ミラノ座も閉館してしまったし。それにまさか『ペイン&ゲイン』までDVDスルーになってしまうとはなぁ。
No More閉館。No More未公開。

2014年映画極私的もろもろベスト

映画にはそんな観方もある。たぶん


昨年実施分をご一読いただければわかると思うが、これは若干ズレた目線のベスト映画選出である。しかし、昨年の「ベスト空回り」「ベスト声に出して読みたい映画タイトル」みたいに、一際ヘンなものが出来なかったなぁという反省もある……しなくてもいい反省かもしれないが。




2014年映画ベストガール

  1. アルテミシア(エヴァ・グリーン)(300 帝国の進撃)
  2. マザー・ロシア(オルガ・カーカリナ)(キック・アス ジャスティス・フォーエバー)
  3. ハンマーガール(ジュリー・エステル)(ザ・レイド GOKUDO)
  4. ゾーイ(アマンダ・エイドリアン)(サベージ・キラー)
  5. エイミー(ロザムンド・パイク)(ゴーン・ガール)

極私的ボンドガールベストのときと同様、華だけじゃなくて毒気のある人、つまり強くて怖い人が好きなのが自分の傾向。ただ「強くて怖い」って括りだとエイミーは上4名とはちょっと別格。ゾーイちゃんは確かに強くて怖いけど、このメンバーの中では一番善良。
しかし、2位のマザー・ロシアは『007/美しき獲物たち』のグレース・ジョーンズ同様「ガール」という概念を超えた魅力がありますね。





2014年映画ベストガイ

  1. チャン(ヴィタヤ・パンスリンガム)(オンリー・ゴッド)
  2. プラコソ(ヤヤン・ルヒアン)(ザ・レイド GOKUDO)
  3. デ・サンティ兄弟(ネクロストーム)
  4. ゴジラGODZILLA
  5. 渡辺謙(GODZILLA/トランスフォーマー ロストエイジ)
一方ベストガイは、フィジカルな強さよりもアクの強さで、両方兼ね備えていれば尚良し……つまりベストガールの「華プラス毒気なら尚良し」と同じようなものか。
というわけで上位2位をアジアの最強おじさんたちが占め、イタリアで人体破壊工場を経営するボンクラ兄弟、ハリウッドから甦った怪獣王、そして今年のジャンル映画の顔日本代表が追随。






2014年映画ベストカップル

  1. ソフィー&レジ(モーガン・ブラザーズ)
  2. エイミー&ニック(ゴーン・ガール)
  3. ベル&野獣(美女と野獣)
1位のカップルは最後の「逆さまの恋」が謎のハートウォーミングな後味を残しました。逆さまつながりでいうと、個人的にはサム・ライミ版『スパイダーマン』のスパイダーマン&MJを超えました。当てにはしないでください。





2014年映画ベスト名言


  1. 「バカをやるのは人間の基本的権利だ!!」(ワールズ・エンド)
  2. 「男の子は男の子だな」(大脱出)
  3. 「天気予報しか見てねぇよ」(エクスペンダブルズ3)
  4. 「We call him …… ゴジラ!」(GODZILLA)
  5. 「アイアムグルート」
次点「オレとお前のダンスバトルだ」ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

実生活でも言えるものなら言ってみたい上2位に、大作映画のキメ台詞となった下2位(ダンスバトルはスーパーヴィランを前にした何とも素晴らしいとっさの行動でした)。
3位は、この一言がドルフ・ラングレンの偏差値バカを集約していたので。





2014年映画ベスト迷言

  1. 「ヨーデレイヒー♪」&「畜生! なんて太ももだ!」(アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー)
  2. 「道路にサメがあふれてるのよ!」(シャークネード)
  3. 「ネイバーフッド」(沈黙の処刑軍団)
1位はいずれもトリート・ウィリアムズなので、今年の総合迷言賞はこのお方です。さすが『ザ・グリード』で名言「お次は何だ?」を生み出した人。
2位は最高にバカげた状況を最高に深刻に伝えた一言。
3位はヴィング・レイムス率いるギャングが使っていた絶妙にカッコ悪い符丁。





2014年映画ベストソング

  1. Money Chant(ウルフ・オブ・ウォールストリート)
  2. Fuhre Mich(ニンフォマニアックVol. 1)
  3. Caged (サベージ・キラー)
  4. Batman Song(LEGO(R)ムービー)
  5. Let It Go(アナと雪の女王)
一般的なちゃんとした音楽を差し置いて、マコノヒーの「ん~んっ♪(ドンドン)ん~んっ♪(ドンドン)」が最強だったという大番狂わせ。
2位は私がラムシュタイン好きだからという上げ底もある。今年は『ポール・ヴァーホーヴェン トリック』といい、ヨーロッパ代表変態監督がラムシュタインを使ってくれたから嬉しいものだ。
あと、5位はあくまで原語版で。吹替じゃ意味合いが微妙に違うから。






2014年ベストサントラ

  1. ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
  2. ワールズ・エンド
  3. GODZILLA
  4. ゴーン・ガール
  5. ザ・レイド GOKUDO
オリジナルスコアの良さよりも、既出曲の使い方の面白さで評価してしまうのが私の傾向。そんな中、4位と5位にじわじわ浸透するトレント・レズナーの影響力……。





2014年映画ベストファイト

  1. ザ・レイド GOKUDO
  2. キック・アス ジャスティス・フォーエバー(マザー・ロシア)
  3. ワールズ・エンド(ニック・フロスト)
  4. マチェーテ・キルズ(マルコ・サロール)
  5. キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー
  6. アダム・チャップリン
  7. サベージ・キラー(アマンダ・エイドリアン)
シラット最強。でもマザー・ロシアの警官10人殺しも最強。







2014年映画ベスト食欲増進飯/飲み物

  1. 白ワイン(ポール・ヴァーホーヴェン トリック)
  2. おこわ(キョンシー)
  3. インドネシアの刑務所飯(ザ・レイド GOKUDO)

1位のおかげで今年は白ワインを大量消費しました。
刑務所の飯というとだいたいマズそうなんだけど、3位のは粗末なトレイに乗ってるわりには何か美味そうに見えた。特にあのラマが手で食ってた揚げ物っぽいものが気になる。

逆に、2014年映画ワースト食欲減退飯第1位は、問答無用でプロテインバー(スノーピアサー)。観終わったあと羊羹食べたくなくなるぐらい。






2014年映画夢のガジェット

  1. 初代ソニーウォークマン(ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー)
  2. タイタス(イントゥ・ザ・ストーム)
  3. サマンサ(her/世界でひとつの彼女)

初代ウォークマンは実在するから手に入れられなくはないんだろうけど、e-Bayでもバカ高かったので「夢」なのかなぁ。
ちなみに、男性の声のOSならマイケル・アイアンサイドがいいなぁと思ったのだが、そうなると「このメールを削除するか5秒以内に決断しろ!」「所定時間内に目的地に着きたければ走れ!」という具合に片時も安らげない気がする。その場合タイトルは『him/世界でひとつの鬼軍曹』で。



2014年映画ある意味衝撃のエンディング

  1. Gメンのテーマで横並び歩き(西遊記 はじまりのはじまり)
  2. 全員集合ほのぼの(仮)エンド(スガラムルディの魔女)
  3. 切ない別れ(サベージ・キラー)
ごく一般的な意味での「衝撃の結末」は入れてあげません。






2014年映画励みになるベスト

  1. 心が折れそうなスタローンを励ます松岡シュワ造(大脱出)
  2. 冒険に踏み出すには空想の力も必要なのだ (LIFE!)
  3. そこまでやるか中国広告タイアップ(トランスフォーマー ロストエイジ) 
3位だけは「あーそれやっちゃっていいんだー」という別次元の励みです。



2014年それだったら死んでもいいなと思っちゃったベスト

  1. アルテミシア様の首ハネ(300 帝国の進撃)
  2. マザー・ロシアの投げ技(キック・アス ジャスティス・フォーエバー)
  3. ゴジラ襲来(GODZILLA)
……映画が勘違いさせてくれる瞬間って素敵ですね(言い訳)。

2014年12月26日金曜日

Dead Snow 2 : Red vs. Dead(処刑山2)

血沸きモツ踊る大運動会。

Dead Snow 2 : Red vs. Dead('14)
監督:トミー・ウィルコラ
出演:ヴェガール・ホール、オルヤン・ガムスト


  1. 走れる
  2. 陣形つくって歩行&ダッシュができる
  3. 軍人としての上下関係が健在
  4. アイコンタクトや首振りで意思疎通が可能
  5. 武器や軍装備などのツールを扱える
  6. 人肉にそんなにがっつかない
  7. ごく一部は喋れる(声を出して笑えるのは全員共通らしい)

処刑山 デッド・スノウ』から続く本シリーズのゾンビの特徴。基本的に「走るなゾンビ!」派の私ですが、ここまでロメロ的ゾンビルールから逸脱するともはや清々しいもんですよ。
でもこれ、見た目がゾンビなだけの最強軍人だよね?

前作のラストからの続き。片腕を切断しながらも唯一生き残った医学生マルティンは、ナチスゾンビのボス、ヘルツォーク大佐の追撃を車で振り切って何とか逃げのびた。しかし、搬送された病院で、振り切った拍子にもげて車内に転がっていた大佐の腕を間違って移植されてしまう。
その腕により、怪力および死者をゾンビとして甦らせるパワーを手に入れたマルティンは、アメリカからやってきたゾンビ・スクワッド(という名のオタクトリオ)と、復活させたソビエトゾンビ軍団を仲間とし、戦車隊を率いて下山・進撃するアインザッツ部隊の前に立ちはだかる。

舞台が雪山から街まで広がっただけあってスケール拡大。しかし決して助長にならず、「今回は怒涛の展開」と監督が豪語していただけあってストーリーがテンポよく進行。
つまり、進行の邪魔になりそうな奴は子どもであろうとサクサク死に、アインザッツ部隊は周辺の村人を老若男女関係なくザクザク殺して先に進み、一か八かの作戦は大変都合よく成功する。この際、道徳と論理は雪山に埋めてくるべきだろう。

トミー・ウィルコラ監督といえば、前作『処刑山』や『ヘンゼル&グレーテル』をご覧になれば分かるように、相手が魔女だろうとゾンビだろうと肉弾戦で決着つけるのが大好きなことで密かに有名(つまり一般的には無名)。その傾向は今回も健在どころか、今まで一番肉弾戦がアツいんじゃないだろうか。
何せクライマックスはナチスゾンビ対ソビエトゾンビの大乱闘。黒い血が飛び散り内臓が盛大にはみ出る殺し合いのはずだが、バトルフィールドがせいぜい街の広場規模なうえ、両者が十分に睨み合ってから「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」と突撃するので、完全に運動会のノリ。ちゃんと両チーム大将の一騎打ちもあるし。

だいたいナチスゾンビの皆さん、せっかく戦争博物館から第二次大戦期の武器を持ち出したのに、飛び道具といえば戦車ぐらいで、あとは軍用ナイフで刺殺か、ハンマーとかブラックジャック的なもので撲殺第一。実は装備にピストルもあったのにガン無視で刺すor殴る。本当にもうウィルコラ監督は好きだなぁ、直接的な物理攻撃が。

そうそう、もう1つウィルコラ監督が好きなものといえば、腸をふんだんに使った独特すぎるギャグ。前作でも断崖絶壁でゾンビの腸につかまってクリフハンガーやってたけど、今回はさらにいろいろ斬新な腸の使い方が拝めて、前作以上に勉強になります(個人差あり)。おすすめは「給油」です。

ホラーもシリーズものになると、メインを張る殺人鬼/クリーチャーがだんだん良くも悪くも個性的になっていくのが常。本シリーズのヘルツォーク大佐もまた然り。
前作は「よみがえれ!!」の一言のみだったセリフが、流暢に喋るわけではないものの格段に増量。部隊の上官であり司令塔というポジションながら、自ら最前線で人をぶん殴りに行くためアクションも増量。このあたりは前述した監督の好みが大いに影響しているからだろうが、おかげでクライマックスのキッチンファイトや戦車上ファイトなど楽しい場面が目白押しとなった。そしてまさかの冒頭から天然疑惑の浮上。部下はもっと天然だから、日ごろの活動には問題ないのかもしれないけど。

喋るホラーアイコンはチャームポイントがブラックユーモアというケースが多いのだが(『エルム街の悪夢』『チャイルド・プレイ』参照)、大佐はユーモアとは縁薄そうだからなぁ。ちなみに、大佐を演じるオルヤン・ガムストは本業がブラックメタルのボーカリストだそうで、これでもメタルヘッドの端くれたる自分には嬉しいところですよ。

大佐以外でも、前作に比べ格段に精悍になったマルティン、何一つ役に立ってない警察、大佐より流暢に喋るナチドクターゾンビ、ムダにコスチュームがカッコいい戦車隊ゾンビ、ソビエトゾンビの滅法強いリーダー・スタバリン中尉(リメイクジェイソンことデレク・ミアーズ!)、ポンコツかと思いきや意外と出来る人だったゾンビ・スクワッド、巻き込まれちゃったオネエ系のグレン君(実は前作の犠牲者ロイと同一役者。監督の友人にしてバンド仲間)、そしてマルティンたちの味方についた不憫な少年ゾンビと、実にイイキャラクターたちが顔をそろえています。

そういえば、前作は予告編&ソフト発売時に表記がゾンビではなく「ゾムビ」になっていたのだが、本作もゾムビ表記になるのか? 「ゾムビスクワッド」ってちょっと語感がふわっとしちゃうんだけど。

2014年12月24日水曜日

マイ最強ミックスVol.1

あなたの最強ミックスVol.1は?

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』において重要アイテムとなった、スターロード所有の「最強ミックスVol.1」。それに触発されてサントラを購入するのみならず、もしも自分だったら最強ミックスにどの曲をセレクトするか……と考えた人、居ますよね? むしろ居てほしいなぁ!!
自分ですか? もちろん作りましたとも!!! ちゃんとカセットテープで!!! そもそも自分、何でもベストをつくりたがったり他人にマイベスト聞かせて玉砕してるロブ・ゴードン気質の人ですし!!!(『ハイ・フィデリティ』参照)

↓コレな。


……と、いざ作ってみて改めて気づくのは、マイベストは作り手の過去(多くは中学~高校時代)を如実に反映するということ。自分の場合、'90年代後半~'00年代の映画の影響が思いっきりあらわれている。特に『ジャッキー・ブラウン』のサントラ収録曲の割合が一番多くなってしまった。
ちなみに、持っている曲すべての中からベストを作るのは至難の業なので、「昔、実際にカセットテープにダビングして聴いていた曲」に絞って選んだものである。

1.BOBBY WOMACK/Across 110th Street

いきなり『ジャッキー・ブラウン』のタイトルバックにしてサントラの1曲目に。そもそも『ジャッキー・ブラウン』は私にタランティーノを教えた映画であり、『フィフス・エレメント』→『MIB』→『フェイス/オ
フ』という流れで映画沼にハマるダメ押しの一本であり、初めて買った映画サントラでもあった。だからこのサントラに対する思い入れは一際大きいのですよ。

2.JAMIROQUAI/Canned Heat

中学時代の英語の授業でやったスピーチ。みんなが将来の夢や家族や友達について語る中、テーマにジャミロクワイを選んでしまった私は「しまったー……そういうマジメなやつか……」と思いつつ、今さら変更もできないしそのまま挑んだ。案の定クラスから一斉にキョトン顔が返ってきた(なお、微妙なスピーチテーマを選びクラスからキョトン顔をもらう癖は10年経っても治らなかった)。スベったと思いながら席に戻ると、後ろに座っていた女子Iさんが話しかけてきた。「ジャミロクワイ知ってるんだ?」彼女は中学校において希少な洋楽ロック友達となった。思わぬ怪我の功名だった。
そして後に、この曲が『ナポレオン・ダイナマイト』の名場面で使われたとき、感慨深さはいっそう強くなったのだった。

3.RAGE AGAINST THE MACHINE/Bombtrack

レイジを教えてくれたのは『マトリックス』のサントラだった。そして初めて聴いたレイジのアルバムから "Fuck you I won't do what you tell me" (Killing In The Name)という反逆メッセージを学習した。でもそこにたどり着くまえに、この1曲目にぶっ飛ばされたのだった。

4.BROTHERS JOHNSON/Strawberry Letter #23

再び『ジャッキー・ブラウン』のサントラより。サミュエル・L・ジャクソンがクリス・タッカーを言いくるめて車のトランクに入らせ、その後あっさり射殺するシーン。トランクに人を詰め込んで車走らせるときにはこの曲だな! とか思っていたけど、そんな状況ないしその前に免許取ってないし。

5.ALANIS MORISSETTE/Uninvited

『シティ・オブ・エンジェル』サントラより。ニコラス・ケイジが天使という映画設定もなかなかエキセントリックだが(でも死ぬ間際に見るのがニコさんでも大いに有りですよ私は)、優しいようで不穏なアラニスの曲もエキセントリックだった。のちに聴いた『Jagged Little Pill』はもっとトンでた。

6.LINKIN PARK/Pushing Me Away

先述した初めての洋楽ロック友達Iさんとは、互いにおすすめのアルバムを貸し借りしたことがある。N SYNCやWestlifeを聴かせてもらったけど、一番好みにハマったのはリンキンの『Hybrid Theory』だった。私からIさんには『Rage Against The Machine』を勧めが、もうご自宅にあったようで……自分出遅れたなぁ。ちなみに、2006年のサマーソニックで、この曲をピアノバージョンでチェスターが歌い上げたのも良い思い出。

7.THE ROLLING STONES/Time Is On My Side

人生で初めて聴いたストーンズが「Paint It Black」でも「(I Can't Get No)Satisfaction」でもなくコレになったのは、デンゼル・ワシントン主演の『悪魔を憐れむ歌』があったから。ストーンズへの取っ掛かりができたことには意義があるとは思うが映画自体は以下略。

8.BJORK/Hyperballad

ビョークに出会ったのは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』だが、ビョークの歌声一発で問答無用で泣けるんだから(しかもサントラにはトム・ヨークの声までついてくる)、あの映画は私の中では一大反則映画である。その後改めて『POST』で映画の偏見なくビョークの歌声を聴いたが、問答無用で泣けた。以来、ビョークの称号は「歌姫」を遥かに通り越した「女神」である。

9.GOO GOO DOLLS/Iris

これも『シティ・オブ・エンジェル』サントラより。「世界には僕を見てほしくない/理解してるとは思えないから」という曲に惚れ込んだのに、数年前から世界規模に自己を発信しているからインターネットって恐ろしい。

10.THE DELFONICS/Didn't I (Blow Your Mind This Time)

再び『ジャッキー・ブラウン』のサントラから。ジャッキーと共犯関係にありわずかに恋心もあるマックスが、ジャッキーに勧められたテープを買ってずっとカーステレオで聴いているのがこの曲。大人になったらデルフォニックスのテープをかけながら車を走らせようと思っていたのだが、現在免許は以下略。

11.APOCALYPTICA/Hope Vol.2

初の出会いは『ヴィドック』のエンディング。アンプにつないでたせいか、背後で鳴ってるリフがチェロの音だとは最初気づかなかった。のちにメタリカのカヴァーもやってるチェロメタルバンドだと知り、CDやライヴDVDも買い集めたけど、いまだライヴで本物を観れていないのが残念で仕方ない。

12.MARILYN MANSON/Rock Is Dead

『マトリックス』で出会い、マトリックス本編以上の衝撃を与えられ、この最強ミックスの中で最も人生に多大な影響を与えた曲。初めてMVを観たときには「何じゃこいつはーーーー!!!!!????」とのけぞったというのに、まさかロック界において人生の師匠となろうとは。ちなみに、映画界の人生の師匠は『ロッキー・ホラー・ショー』のフランク。つまり、我が人生の師匠はいずれも網タイツとガーター着用の野郎なのである。

13.RANDY CRAWFORD/Street Life

『ジャッキー・ブラウン』サントラから4曲目。いざ一世一代の賭けに出るジャッキーが颯爽と歩くシーンで使われる。この曲でカッコよく歩ける大人になれたらいいなぁと思いつつ現実は以下略。

14.LYNYRD SKYNYRD/Sweet Home Alabama

『コン・エアー』の挿入曲にしてエンドクレジット曲。ニコラス・ケイジ目当てで借りた本作だが、ジョン・キューザック、ジョン・マルコヴィッチ、スティーヴ・ブシェーミ、ヴィング・レイムス、コルム・ミーニーそして忘れちゃいけないダニー・トレホと、のちの映画人生でお世話になるクセメン大全となったのだった。


ところで、『ガーディアンズ…』の各音楽が流れるシーンで、自分だったらどの曲を使ってみたいだろうか。例えば、ノーウェアに向かうときには「Time Is On My Side」(時間はオレの味方さ)なんて余裕で構えるのもいいなぁと思うし、決戦に向かうときにはやっぱりマンソンでモチベーション高めたいし、「オレとお前のダンスバトル」ではジャミロクワイで踊りたい。ガモーラに聴かせるなら……グー・グー・ドールズかデルフォニックスか迷う。看守に「それはオレの曲だ!!」って言いたいのは…………どうしよう。どれもオレの曲主張したい。

ここまで書いちゃうと、思い入れと自分史の入りまくった他の誰かのマイ最強ミックスVol.1を知りたくなるなぁ。

2014年12月15日月曜日

KNOTFEST JAPAN 2014

デビルズ・カーニバル、日本上陸。

KNOTFEST JAPAN 2014
2014.11.16 幕張メッセ

スリップノットの#6クラウンことショーン・クラハンの初出演作『The Devil's Carnival』('13、日本未公開)。今回のポップで毒々しいスリップノットのステージは、この映画を思い出させるものだった。もっと言えば、この入口からして悪魔のカーニバルを想起させるものだったなぁ。


↓オズフェスト来年開催ってマジっすか!?




会場到着からほどなくして、肩慣らしというには贅沢にしてヘヴィすぎるアモン・アマース。ヨハン(Vo.)の首にはミョルニル(=ムジョルニア)のシンボルが下げられ、水分補給にはペットボトルの代わりに角笛が使われ、北欧神話のバックドロップが背景を飾る。個人的に久しく遠ざかっていたヴァイキングメタルの世界に戻ってきたことを実感させるステージである。
さらに、フォークソングルーツのメロディと北欧神話ベースの詩から成る勇壮なメタルに、約10ヵ月ぶりのヘッドバンギングで全身を任せれば、ますますメタルの世界に帰ってきた感が増す。特に「Guardians Of Asgard」には幸せな気分になれた。それだけに、もっと聴いていたくもあったのだが。
かくして、アモン・アマースという海賊船で、上々の船出で自分のKNOTFESTは始まったのだった。

さて、KNOTFESTというからには、主催はスリップノット。その記念すべきフェス日本上陸を記念、さらに主催者の歴史を振り返るイベントとして、場内(メッセ2階)にスリップノット・ミュージアムが設営された。こちらも毒々しいカーニバルをモチーフにしたデザインながら、紅白テントに運動会とか地域のバザーとか福引会場を連想しちゃったのはここだけの話だ。


歴代ツナギ。洗濯物に非ず。↓



『アイオワ』期のセットリストだ!↓

 連れがいたらここに乗っかって写真撮ってもらいたかったよ。↓




ミュージアムと飯(牛肉フォー)のあとにイン・フレイムス。先のアモン・アマース同様スウェーデン出身だが、こちらは2000年代隆盛のヘヴィ・ロック/メタルコア系サウンドなので、実は当初北欧じゃなくてアメリカと思ってたことも。
比較的メロディック系の曲が多かったものの、やはり北欧メタルに多いヴァイキング/フォークメタルとも、メロパワとも一線を画す音だった。思い切りのタテノリではないものの、オーディエンスもフェス中盤にしてなかなか激しい盛り上がりだったように映った。

一時休憩をはさんでトリヴィアム。ここが本日一番正統メタル色の濃いステージだったんじゃなかろうか。オーディエンスのジャンプ率も上昇してきていた。硬質なギターサウンドからも、マット・キイチ・ヒーフィー(ルーツは山口県だったんですね)の誠実なMCからも、真っ直ぐさの感じられる実に気持ちのいいメタルだった。

オムライスをかき込んで、最後の水分補給をしてから、MAN WITH A MISSION途中観戦。オオカミたちのステージは、ダークカーニバルのヘヴィな見世物小屋といったところか。ちょっと他に比べてヨコノリ感の高い音ながら、オーディエンスがぴょんぴょん跳ねてノッてきているステージの光景は壮観。スリップノットのシドのDJ飛び入り参戦もありました。

それにしても、体力と水分の消費が半端じゃないメタルフェスにおいて、ライヴエリア内に水すら持ち込めない状況は本当にどうかと思いますよ。
来場者の体調管理に関わる問題だし、来年のオズフェストこそどうにかしてもらえませんかね?

ここから本気出しました。↓

自分にとってはいよいよここから本番。2011年のサマソニ以来のKORNである。
やっぱり新譜(実はまだ買ってなかった)の曲からスタートかなと思っていたら、何も知らなければ意味不明なガナリでしかないであろう「Twist」でジョナサンが登場。まさかのセレクトにオーディエンスの熱さもひとしおとなった。ボルテージの高さと、湯気がたちはじめるほどの温度と両方の意味で。そしてその熱気は「Right Now」のシャウトで一気に起爆剤となるのだった。

おどろおどろしく重苦しく、それでいて時に「Falling Away From Me」「Good God」のように哀しさも滲ませるトラウマサウンドは当たり前のごとく健在で、それどころか風格を増しているように感じられる。
そんなKORNの始まりにして頂点たる「Blind」でステージは締めくくられたのだが、ジョナサンとともにオーディエンスが発した "Are you ready?" の雄叫びは、「これからの新しいステップについて来れるか!?」「すべて受け止めるぞ! 準備はいいか!?」という互いの覚悟のぶつけ合いにも見えていたよ。

危うくKORNのステージで燃え尽きてしまうところだったが、真打ちはこれからである。去年のオズフェスト・ジャパン同様、直前までステージを覆っていた幕が落ちると、今まで観てきたどのスリップノットのセットよりも、最も毒々しく大仰な装飾が目に飛び込んできた。巨大な悪魔の顔、その下に広がる出入り口、出入り口に続く階段、そのすべてをきらびやか且つ禍々しく飾るネオン。「ダークカーニバル」と銘打たれたKNOTFESTの真骨頂たるステージである。
#2ポールを亡くし、#1ジョーイもバンドを去ってしまった中、前進を決めたスリップノット。「XIX」で響いた "So walk with me" のオーディエンス大合唱は、そんなバンドについていくと決めたファンの思いとシンクロするものが。そんな思いに浸っている暇もなく、「Sarcastrophe」以降は本フェス最大級の熱気爆発。ステージ両脇のクリスとショーンのドラムセットも、いつになく回転と上下運動が激しく、バンドの気合いの表れのようだった。

しかし、「The Devil In I」のおどろおどろしさや「Custer」の "Cut/cut/cut me up and fuck/fuck/fuck me up" のように新しいアンセムを手に入れたときをさておいて、バンドが新しいフェーズに突入したことを最も実感した瞬間は「Dead Memories」だった。オズフェストのときはポールの喪失を強く感じさせる曲だったのに、今回そのときに#6ショーンのドラムセットに#0シドがよじ登り、ドラムの上に寝そべったり2人でロリポップを交互に食べていたりと、ステージ端で思わぬお遊びが繰り広げられていた。
でも決して余韻をぶち壊すものではなく、バンドの状態が良好だと伝えられているようで、暴れながらも和める様相であった。

パーカッションが高く上がってるの、お分かりいただけるでしょうか。



「Spit It Out」のスワレ→トベ(今回は普通にJump Da Fuck Up!! って言ってましたが)などもはや勝手知ったるイベント状態で、コリィが何か言い出す前から一部エリアではオーディエンスがしゃがみ始める。アンコール後の「(sic)」「People=Shit」「Surfacing」は前回と同じ流れながら、もう皆暴発せずにはいられず、サークルピットも出現する勢い。
KORNにしてもスリップノットにしても、本来なら「ベテランの域に達した」と言ってもいいキャリアだし、実際風格が備わっている。しかし、両者ともそんな落ち着きのある表現では到底測れないほど、勢いが止まらない。このエネルギッシュさと、登場した瞬間空気がそれまでと変わる威厳とを表すとしたら、もう「神がかっている」としか言いようがない。

#8コリィはステージの最初から最後まで、オーディエンスに深々と頭を下げ続け、「アリガトウ」と言い続けていた。日本初のKNOTFEST成功の感謝/誠意のお辞儀ではあったが、我々こそコリィの誠意に、スリップノットに、そしてすべてのKNOTFEST出演バンドにどこまでも感謝しなければならない。ダークカーニバルの日本席巻、楽しみに待っておりますよ。


2014年11月12日水曜日

スキンウォーカー・プロジェクト

「どうも! 超常現象です!!」

スキンウォーカー・プロジェクト('13)
監督:デヴィン・マッギン
出演:ジョン・グライス、カイル・デイヴィス


しばらく前、久々にTVで恐怖映像特集を見たら、思いの外幽霊らしきものが堂々と映っていたため、かえって「合成臭くね?」と冷めてしまった。
その一方で、『パラノーマル・アクティビティ』を観たときには、ドアが動いたり照明が揺れたりした程度の怪奇現象初期段階に「さっさと衝撃映像出せや!! 夫婦の内輪揉めとかいいから!!」となぜか急かしていたことも。
つまり、怪奇現象モノはホンモノ触れ込みなら出し惜しみが、フィクションなら(POVやファウンド・フッテージだとしても)堂々たる露出がいいってことですね。あくまで自分の個人仕様としては……

2010年、ユタ州スキンウォーカーの農場で、子どもが両親の目の前で忽然と姿を消す事件が起きた。翌年に民間調査団体MDE社がリサーチに向かうと、そこでは謎の光、謎の超音波、家の外を徘徊する巨大生物、同じ時間にキッチンを走り抜ける子どもの姿など、あらゆる超常現象が起きていた。

定点カメラ、手持ちカメラが捉えた超常現象といえば前述『パラノーマル・アクティビティ』だが、あちらの怪奇現象がドアの揺らぎに始まり小出しにやってくるのに対し、こちらは初っぱなから出し惜しみなし。調査班がやってきた初日の夜から、「どうも!」の挨拶代わりにドギャァァァンと轟く超音波&コウモリの大量死。毎日のように何かが堂々と写りこむカメラ。実に豪快である。

異常な状況下に限られた人間がいるからには、調査班と農場主との対立や調査員同士の仲間割れなど揉め事も発生する。
しかし、ちょっとでも人間たちにドラマが傾きそうになると、すかさず消えた子どもの姿が! 納屋から周囲が明るくなるほどの発光が! 超常現象のクセして(?)「主役はこっちだーー!!!」と言わんばかりの自己主張の強さである。

ここまで隠れる気ゼロの怪異だと、『パラノーマル……』に衝撃映像を急かす身としては、いっそ清々しさまで感じる。「いやぁよくやってくれたよ! ありがとう!」ってバシンと肩を叩きたい気分である。超常現象の肩を叩けるのか、そもそも超常現象に肩はあるのかは置いといて。

このオレオレ怪異のおかげで話はさっさと進んで行くのだが、そこが賛否分かれるところだろう。謎はバラまくだけバラまかれて何も解決していないし、説明らしい説明もつかない。人間たちのキャラクターもドラマも薄いまま。もっといえば、超常現象もの/POVものとして取り立てて目新しいものでもない。邦題に「プロジェクト」とついているけど、計画も何もない。
もはやこれは、謎解きもドラマも隅に追いやり、現象そのものだけにスポットライトを当てた、超常現象=アイドル映画なのかもしれない……。

2014年11月10日月曜日

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

コミックと現実、「お前誰?」から始まるヒーロー誕生譚。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー('14)
監督:ジェームズ・ガン
出演:クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ



MDを使い始めたのは高校に入ってからだったので、携帯音楽媒体はカセットウォークマン(1982年製造・SONYの黒)に頼りきりだった中学時代。お気に入りの曲を持ち歩きたいときはカセットにダビングして、とうとう一番のお気に入りを集約したテープが「Best of Best」と書かれたケースに収まったのだった。
あれから15年。まさか、あのときのマイ最強ミックステープを破棄したことを、この映画に猛烈に後悔させられることになろうとは……!!!!

幼いころに地球から宇宙へと誘拐され、今やトレジャーハンターとなったピーター・クイル(自称スター・ロード)。廃墟の星モラグから謎のオーブを回収したことを皮切りに、突如賞金首になり、騒動の末に刑務所行きになり、脱獄して銀河の果てまで向かう羽目に。しかも、実はオーブには銀河の命運を左右するほどのパワーが秘められていたがために、惑星の存亡をかけた戦いにまで発展してしまう。この危機にピーターは、暗殺者のガモーラ、賞金稼ぎのロケットとグルート、復讐鬼のドラックスを仲間とし、銀河を守る戦いに挑むことに……。

出自も性格もバラバラな寄せ集めチームが一致団結して悪と戦う……というヒーローストーリーを、王道を踏まえつつ「分かってらっしゃる!」とオタクを熱くさせることにはもはや定評のあるマーベル。
寄せ集めチームが一致団結というあたりでは『アベンジャーズ』と同じだが、アベンジャーズは我が強いとはいえもともと兵士だったり社長だったり神だったりスーパーエージェントだったりで、今思えばまだ安心感のある皆さん。
そこへいくとガーディアンズのメンバーは、それぞれ腕っぷしは強いものの、凶暴なアライグマ、ド天然な歩く大木、比喩の分からない石頭、そんな彼らを「銀河一のバカ」と切り捨てるお姉さんと、我の強い犯罪者集団で、唯一融通が利くのがピーターぐらい。
しかも初回のヴィランたるロナンとの力の差が開きすぎていて、どうにも安心できない。つまり、「こんな奴らでどうやって敵を倒してくれるんだろう?」と楽しみにさせてくれる。

さらに、ガーディアンズはマーベルの中でもマイナーなキャラクター揃い。冒頭で「スター・ロード」と名乗ったピーターならずとも、大多数には「……誰?」と返されること請け合い。
それをたった1作でアベンジャーズに並ぶキャラの立ったヒーローチームにしてしまう監督の手腕と、マーベルの英断と冒険心に脱帽である。

大多数の観客にしてみれば「お前誰?」なのは、監督のジェームズ・ガンも同じである。映画ファンですら、『悪魔の毒々モンスター』でおなじみのトロマ出身で、ナメクジエイリアン(スリザー)や中年なりきりヒーロー(スーパー!)をつくった人が、どうやってダメ人間揃いのヒーローチームが銀河を守る話を作り上げるのか想像もつかなかった。
しかし、思えばガン監督自身が作った『スーパー!』は、ヒーローと通り魔殺人は紙一重なことを浮き彫りにしつつ、狂人一歩手前のなりきりヒーローはいかにして真のヒーローになるかという道をも浮き彫りにする怪作。ヒーローというものに対して斜に構えているようで、ヒーローたるものの在り方を(思ってたより)マジメに考えている作品である。
そういう意味ではジェームズ・ガンは最も適任といえるし、そんな彼を監督に抜擢したマーベル(のケヴィン・ファイギ)もイイ判断してくれました。

そういえば、そもそもガン監督の師匠(ロイド・カウフマン。刑務所のシーンにカメオ出演してます)が生み出した『悪魔の毒々モンスター』も、ボンクラ主人公が有毒廃液に突っ込んで醜悪なモンスターと化したと思ったら、悪人たちを血祭りに上げ彼女もゲットするというヒーロー誕生譚でしたね。

ちなみに、たまに出てくる宇宙クリーチャーも、『スリザー』には及ばないがちょい気色悪さがあって、そこがまたトロマとジェームズ・ガン作品の匂いがするところ。ピーターの話に出てくる「タコみたいな触手と鋭い歯がある」アスカヴァリア人、ぜひナメクジエイリアンのデザイナーに制作してほしいものだ。

ここまで言っておきながら、実はキャラクターや監督以上にこの映画を特別にしているものは、サウンドトラックである。
ティーザートレーラーが発表されたとき、「ウガ・チャカ」こと "Hooked on a Feelin'"が使われていたあたりから意外なチョイスだったが、それだけにとどまらない60~70年代のロック/ポップス。
ピーターが地球から誘拐されたときに持っていたお母さんの形見のミックステープ収録曲ということなので、ただのBGMではなく本当にその場でソニーウォークマンやミラノ号のステレオから流れているのだ。こうした選曲センスや使い方といえばタランティーノの十八番だが、まさかマーベル映画で目にするとは。
しかも、銀河の果てに向かいながらデヴィッド・ボウイの"Moonage Daydream"、ポンコツチームがいざ強敵に向かって出撃というときにランナウェイズの"Cherry Bomb"など、映画のシーンと音楽の背景および歌詞とを見事なまでにシンクロさせている。

このシンクロが活きる最骨頂はエンディングの2曲なので、ぜひそこは自身の目で見ていただきたい。そこで何か込み上げてきたようなら仲間入りだ。サントラ買っちゃったらやっぱり仲間だ。マイベストのミックステープに対する思い入れまで復活してきて、マイ最強ミックスをカセットテープで編集しちゃったら結構アホだ(それが私だ)。でも、ここまで観てなおカセットテープを笑う奴は容赦しない。たぶん。