2013年4月26日金曜日

プッシャー トリロジー

売るも地獄、買うも地獄、クズとクスリの物語。

プッシャー('97)
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:キム・ボドゥニア、マッツ・ミケルセン

プッシャー2('04)
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:マッツ・ミケルセン、リーフ・シルベスター・ペーターゼン

プッシャー3('05)
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:ズラッコ・ブリッチ、アイヤス・アガク



青少年への薬物教育にあたって、観賞後ドン凹み映画と名高い『レクイエム・フォー・ドリーム』と、本三部作の観賞を勧めるのはどうでしょうか。ドラッグを売るっていうのは、こういう世界に足つっこむってことですよという意味で。
どのみちセックス&バイオレンスの描写でアウトでしょうが。


プッシャー


コペンハーゲンの麻薬密売人(=プッシャー)フランクは、相棒のトニーとともに麻薬王ミロの下で金を稼ぐ日々。あるとき、大口のヘロイン取引の話を持ちかけられたフランクは、ミロに借金をする形で大量のヘロインを仕入れた。
ところが、取引の現場に警察の手入れが入り、フランクは逃走中についヘロインを池にぶちまけてしまう。ミロへの借金だけが残ったフランクは金策に走るが、すべてがうまくいかないまま、返済のリミットが刻々と迫ってくる。

前述の『レクイエム…』は、麻薬を売りも買いもしているが基本的に使う側の転落劇で、こちらは一応ときどき使うものの基本的には売る側の転落劇。
麻薬売買における借金とは、すなわちハードコア闇金。代償はデカいのである。

大量ヘロインの損失分とこれまでの借金を補うべく、主人公は金を貸している知り合いのもとに取り立てに行ったり、アムステルダムからヘロインを仕入れてさばこうとする。が、当の金を貸した相手がどうしようもないジャンキーだったり、上物のヘロインを仕入れたはずが思いっきり偽物をつかまされたり、最悪なまでの空回りぶり。
にもかかわらず、大して愛してもいない女のもとでダラダラ過ごしたり、これまたダラダラチマチマと期限を延ばしてもらおうとしたりと、非常に見ていてイラッとさせられる。極限まで追い詰められているはずの主人公に微塵も同情できない。むしろ、主人公周辺で同情できる人物は、せいぜいヴィク(一応フランクの彼女。でもフランクはただの売春婦としか見ていない)ぐらいしかいない。三部作通していえることだが、基本的に登場人物はクズばかりなのだ。

フランクはツイてないわけでも、巻き込まれ型主人公というわけでもない。どこでどう間違ってこんな目に……と嘆いたところで、ほとんどは自分勝手で気まますぎるプッシャーの暮らしが招いたことだ。そもそも、プッシャーという仕事をやってること自体が大間違いともいえる。
果たして、最後の最後まであらゆるものを失い続けたフランクは、自身の命だけはキープできたのだろうか。それとも、それすらキープできない大バカ野郎だったのだろうか。

ちなみに、本作にはイギリス版リメイクがある。フランク役リチャード・コイルの表情のせいか、オービタルの曲のせいか、そちらのほうが焦燥感があって主人公にギリギリ同情の余地が感じられる。逆に、相棒トニーが童貞臭漂うガキなのはちといただけない。トニーのダメ人間ぶりは、いい歳した大人だからこそ際立つのだ。

 

プッシャー2


刑期を終えた元プッシャーのトニー。今度こそカタギになると決意したものの、出所早々転落の道が。
かつての女友達シャーロットが生んだ子どもが自分の子とされ、養育費を請求される。いつの間にか母親が他界していたことを知る。プッシャーの友人カートの麻薬取引の場に同伴した際、トニーのミスでカートがヘロインをトイレに流す失態を犯し、責任を追及される。しかも、カートが取引のために多額の金を借りていた相手とは、ギャングでもあるトニーの父。借金返済のかわりに、父はトニーに元妻の暗殺を命じる。

前作でフランクの相棒をつとめるも、裏切りがバレてバットでボコボコにされたトニーが主人公に。
前作の時点から、こいつもどうしようもないクズ人間ということは知れているのだが、それを踏まえてもトニーが辿る血煙街道はあまりにも切ない。出所後初めて念願の売春宿に行くも、長い刑務所生活が祟ったのかインポ状態で売春婦に笑われる様から、いきなり切ない。親からも友人からも「クズ」「最低」と罵られ、邪険に扱われっぱなし。
マシになろうとしているのにますますもってダメになっていく彼の悲劇は、本三部作のコピー「なんでなんだっ!! もう耐えられねぇっ!」がもっともふさわしいエピソードではないかと。

だが、トニーをバカにする連中も、少なからず殺しや暴力に手を染めていたり、クスリ漬けの日々だったりするクズには違いない。特に、ドラッグとタバコの煙が立ち上る中に赤ちゃんをほったらかして、ドラッグやってばかりのシャーロットへの苛立ちはひとしお。同じ裏社会のクズでも、トニーはちょっとブチ切れ気質なだけの底の浅いクズなのだ。

そんなトニーが最後にとった、父とシャーロットへの反逆の行動。暴力と後味の悪さばかりが残り、先に希望は見えない。しかし、もはやそうするしかなかったのだという切なさだけは、何よりもひしひしと伝わってくるのである。

余談だが、トニーを演じるマッツ・ミケルセンは、前作・今作とスキンヘッド。常日頃からマッツの顔面骨格の素晴らしさをTwitterで語っているのだが、この2作で頭蓋骨自体がパーフェクトな形なのだと判明した。

貼らずにはいられなかったキング・オブ・頭蓋骨。




プッシャー3


麻薬王ミロは、溺愛する娘の誕生日パーティーの支度と、借金返済のためのヘロイン入手に追われていた。しかし、何かの手違いなのか、届いたのは1万個のエクスタシー。エクスタシーには詳しくないものの、早急に現金が必要なミロは、部下のムハマドにエクスタシーを売ってくるよう命じる。
しかし、ムハマドはそのまま帰らず、連絡もとれない。パーティーでは娘に文句ばかり言われ、取引相手の若いギャングからはナメきった扱い。ストレスで追い詰められていくミロは、絶とうとしていたドラッグに再び手を出し、ついには怒りを爆発させる。

何気に三部作唯一の皆勤賞であるミロが主人公に。
ボスとして若いプッシャーを追い詰めてきたミロを追い詰めたのは、新たに台頭してきた東欧の若手ギャングだった。どの世界にもある世代交代のときではあるが、麻薬取引の世界のそれは一際シビア。一度借りをつくってしまった人間は、年長だろうとボス格だろうと堕ちるしかない。

しかし、それ以上にシビアなのは、ミロが愛する娘もまた彼を精神的に追い詰める存在であるということだ。パーティーの準備に花が欲しい風船が欲しいと土壇場で注文をつけ、パパが急きょ取り寄せてくれたフライ料理を粗末にするワガママぶり。しかも、その性格を補えるほどには可愛くないし(失礼)。
でも、彼女がこんなふうに育ってしまったのは、完全にミロの自業自得である。

若い連中にコケにされるミロの屈辱は終盤まで続くが、ミロがとうとう爆発してからの展開は、思いがけず三部作中最大のゴアシーンへと向かう。そこでミロ以上の活躍をみせるのが、1作目で彼の用心棒だったラドヴァン(念願のケバブレストランを経営中)。
昔とった杵柄……というかナイフとノコギリでもって手際よく、しかしエグく死体を始末する様相は、グロテスクながら一抹の清々した感が漂う。やっぱり、こればっかりは経験がものをいう技術なんですね。

それにしても、ミロはセルビア系だし、若いギャングたちにもラトヴィアやポーランド系が多いし、コペンハーゲンは東欧系ギャングが多いのか?

2013年4月15日月曜日

映画索引

あ行

アイアン・スカイ
アイアン・フィスト
悪の法則
悪魔のいけにえ
悪魔のいけにえ2
アダム・チャップリン/テーター・シティ 爆・殺・都・市
アベンジャーズ
アメリカン・バーガー
イット・フォローズ
イノセント・ガーデン
インビジブル
インブレッド
宇宙人ポール
ウルヴァリン:SAMURAI
ABC・オブ・デス
ABC・オブ・デス2
エクスペンダブルズ2
エド・ウッド
エルム街の悪夢
エルム街の悪夢3 惨劇の館
エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃

か行

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
カンパニー・メン
キャビン
キャンディマン
96時間/96時間 リベンジ
桐島、部活やめるってよ
キングスマン
毛皮のヴィーナス
劇場版 ビーバス&バットヘッド DO AMERICA
ゴーストライター
GODZIlLLA (2014)
ゴッド・アーミー 悪の天使

さ行

最強のふたり
ザ・コンヴェント/ゾンビキング/処刑山 デッド・スノウ
SUCK(サック)
ザ・フライ
ジャッジ・ドレッド
死霊のしたたり
スキンウォーカー・プロジェクト
スクール・オブ・ロック
スペル
セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ
戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE 01~劇場版・序章
ゾンゲリア
ゾンビ・ストリッパーズ

た行

ダーク・シャドウ
タイタンの戦い
007/ゴールデンアイ
007 スカイフォール
チェンジリング
デビルズ・メタル
トータル・リコール(1990)
飛びだす 悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲
トレマーズ

 

な行

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記
ナイトメア・ビフォア・クリスマス
2000人の狂人(マニアック2000)
2001人の狂宴
ノーカントリー
ノック・ノック

は行

π〈パイ〉
ハイ・フィデリティ
パイレーツ・ロック
パシフィック・リム
ハロウィン(1978)
ハロウィン(2008)
ハロウィンⅡ(2010)
羊たちの沈黙
ピラニア3D
武器人間/ヒトラー最終兵器
プッシャー トリロジー
ブレイカウェイ
フレディvsジェイソン
ヘイトフル・エイト
ベルフラワー
ヘル・レイザー
ヘンゼル&グレーテル
ホラー・シネマ・パラダイス

ま行

マーダー・ライド・ショー
マイティ・ソー
マイティ・ソー ダーク・ワールド
マチェーテ
マッド・ナース
マッドマックス 怒りのデス・ロード
マニアック(2013)
ミラクル・ニール!
ムカデ人間
ムカデ人間2
ムカデ人間3
モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル

 

や行


ら行

レッド・ドラゴン
ロッキー・ホラー・ショー
ロックンロール・ハイスクール

 

わ行

英数字

2013年4月7日日曜日

スペル

お年寄りには親切に(だって後が怖いから)。

スペル('09)
監督:サム・ライミ
出演:アリソン・ローマン、ジャスティン・ロング



小学校のとき流行った怪談話に、「ムラサキババア」とか「三時ババア」とかバアさんの幽霊話がよくあった。バアさんの幽霊ならおとなしめに、しかしコワく攻めてくるのかと思いきや、これが意外と噛みついてきたり猛ダッシュしたり根性(?)で異次元に引きずり込もうとしてきたりと、アグレッシブなオバケだったりするのが厄介。
オバケものに関しては、年とって丸くなるどころか、執念深さが年齢に比例するんじゃないか疑惑が。

銀行の融資係のクリスティンは、出世がかかったプレッシャーから、一人の老婆のローン延長願いを断ってしまう。その途端、老婆は態度を一変させてクリスティンにつかみかかり、果ては終業後の駐車場で待ち伏せ襲撃し、謎の呪文を唱えて去っていった。
以来、彼女の周辺には謎の影が見えたり、見えない誰かに殴られたりと、不気味な現象が起き始める。3日後には地獄へ引きずり込まれるという呪いを解く術はあるのか……。

大学教授の彼氏に釣り合う彼女になりたい、そのために昇進したい、ライバルに負けたくない、という誰でも抱きそうなささやかな欲求から不親切な行動に出たばかりにしっぺ返しを喰う……という教訓話的な面もなくはない。
しかし、3日間のアルティメット嫌がらせの果てに地獄行きとまでヘヴィなしっぺ返し、神様だってやらないだろう。……いや、やるかも(ギリシア神話や北欧神話ネタの映画を鑑みながら)。

一応、老婆の呪いの背後にはラミアという悪魔がついているのだが、正直悪魔よりもバアさんのほうが怖い。生きてるときからしても、駐車場待ち伏せ攻撃の際、義眼にホチキスアタックや口にドライバーアタックなどの反撃を受けても、文字通り噛みついてくる。死体になっても、謎の緑色の液体を吐きかけてくる。
霊体みたいなのになったらさらに悪ノリして、横に寝てる彼氏と入れ替わるわ、蛆虫を吐き散らすわ、上腕までずっぽーーっと口に突っ込んでくるわ……生死を問わず心臓に悪くタチも悪く気色も悪い。都市伝説に出てくるバアさん幽霊の頂点に立たせたいレベルだ。

そんなバアさんが所持者のせいか、バアさんのハンカチもやたらアグレッシブ。クリスティンの車のフロントガラスにベタンと貼りついたり、これまた口の中にずっぽーーっと入りたがったりもする。ちなみにそのハンカチ、バアさんのド汚い入れ歯が上にポイと置かれてたシロモノ。
教訓がどうこう、悪魔がどうこうというより、とにもかくにも「バアさんの逆恨み超怖ぇぇ」印象が先をひた走る一本である。

先ほどから、口から何か吐き出す、口に何かがずっぽり入るなど、薄ら気持ち悪いネタが続く本作。
サム・ライミは昔やってたようなB級ホラーを作るにあたって、映画会社サイドからいろいろ言われたんじゃなかろうか。「レーティングの問題あるから、血しぶきドバーーとか内臓ドローーとか手足バッサーーとかダメね」とか。虫もどきやゲロもどきだったら、「だって血しぶきも内臓も出してないし手足も飛んでないっすよ」って言い訳ができそうだ。流血もあることはあるけど、支店長に向かってヒロインがダイナミック鼻血を噴射するシーンぐらいだし。

それにしても、アリソン・ローマンほどの可愛らしい人が、よく鼻血ブー/鼻からハエ侵入/口からハエリターン/ゲロまみれ/泥まみれと半端ないヨゴレをやってくれたものだなぁ。

2013年4月5日金曜日

2000人の狂人(マニアック2000)

ヒーーーハーーー!! (ブラマヨ小杉に非ず)

2000人の狂人(マニアック2000)('64)
監督:ハーシェル・ゴードン・ルイス
出演:コニー・メイソン、トーマス・ウッド



一度DVD発売された際、タイトルが「マニアック2000」になっているのは、きっとオトナの事情です。そのわりに再発盤ではもとのタイトルに戻ってたりするので、オトナの事情は大して意味がなかったようです。


本作のオープニングから流れる、ルイス監督作のカントリーソング「The South Is Gonna Rise Again」(音声のみ)。牧歌的なメロディながら、歌ってることはちょい怖い。『インブレッド』の「Ee by gumソング」はこれが元ネタに違いない。
「ヒーーーハーーー!!」といえば一般的にブラックマヨネーズの小杉ですが、この映画を観て以来、私にとってはルイス監督でありプレザントヴァレーの皆様です。

地図に載っていないアメリカ南部の村、プレザントヴァレーに迷い込んだ3組の北部出身カップル。彼らは村人から歓待を受け、これから行われる百年祭の特別ゲストとして滞在を勧められる。
しかし実は、プレザントヴァレーは南北戦争で村人全員が北軍に虐殺されたいわくつきの村。村人たちは百年前の北部人への恨みを果たさんとしていたのだ。かくして、祝賀ムードと陽気なカントリーソングの中、カップルたちは次々と血祭りにあげられていく。

「南北戦争の虐殺の復讐」なんておどろおどろしい背景のわりには、舞台は抜けるような青空で、カントリーソングが流れるカラリとした雰囲気で、村人の皆さんみんな笑顔で陽気でハイテンション。そんな状況下で旅行者たちを惨殺するところが不気味という見方もあるが。
といっても、スプラッターシーンは死に様のムゴさに反して描写はあっさり。斧で腕部分をばっさりいかれただけであっけなく死んでいたり、馬による四肢裂きと思った次の瞬間には犠牲者がマネキンに……もといバラバラ死体になっていたりする。「えっ? それもう死んでるの? それでいいの??」という微妙な空気を残すところは、『インブレッド』に受け継がれているようだ。純粋にゴアゴアな描写を求めるとスカかもしれない。
なお、ルイス監督は「初めてスクリーンで内臓を出しちゃった人」だが、本作には内臓の出るシーンはない。

『2000人の狂人』と言いつつ、出てくる村人は30人足らずといったところもツッコミどころか。ただそこは客寄せのためにちょっと……いや相当多めに盛ってみた監督さんのガッツということで。
あと「残りの1970人(仮)はみんなの心の中にいるんだよ!」という泥沼ポジティブ意見も考えてみました。

以下、ネタバレを含みます。



実はプレザントヴァレーは実はとっくに消滅した村であり、村人の皆さんは南北戦争時に殺された人々の亡霊である。
晴天の下に出てきて、あんなに血色よくて陽性気質な亡霊も珍しい。消えるときも消えるときで「じゃまた100年後に一仕事すんべか」とアッサリ。
そういう意味じゃ、スプラッターの始祖という点より、こちらの亡霊描写のほうがレア度が高いかもしれない。

ちなみに、私個人はこの映画をシアターN渋谷のハーシェル・ゴードン・ルイス映画祭にて観賞。犠牲者が出るたびに場内が温かい苦笑に満ち溢れるという、貴重にして素敵な時間を過ごしました。
『血の祝祭日』観賞の際には、終了後に映画秘宝Devilpressの皆様のトークショーも拝聴し、手造り&素人感溢れるルイス監督の映画製作エピソードを楽しんだものです。
そういう意味でも、ルイス監督とその作品、シアターN、Devilpressの皆様と、全員に感謝したいところです。

2013年3月11日月曜日

キャビン

すべてのホラーには理由(と愛)がある。

キャビン('12)
監督:ドリュー・ゴダード
出演:クリステン・コノリー、クリス・ヘムズワース



実は一足お先に、去年観賞していたこの映画。何か書こうものならうっかりネタバレしかねないが、ネタバレ部分こそが面白さの真髄、さてどう語ればいいものかと悩んでいるうちに……
日本版ポスターとチラシとオフィシャルサイトと予告編がそのへんを思いっきりバラしていて愕然としましたよ。

5人の若者が週末を過ごしに山小屋へ行く。スポーツ得意なイケメン、その金髪の彼女、マジメな秀才くん、マジメでピュアな女の子、マリファナ吸ってばかりのボケキャラ兄ちゃんと、その筋では定番のメンバー……ということにだいたいなっている。

道中、さびれたガソリンスタンドに寄ると、店主は怪しげな頑固じいさん。「あの山小屋には行っちゃならん」的なことを言われるが、もちろん行っちゃう。

昼は湖でキャッキャ、夜は飲み会でキャッキャする若者たち。と、そこでなぜか突然地下室に通じる床ドアが開く。入ってみると、中には古いオルゴールやらフィルムやら箱やら、あからさまに怪しいアイテムがたくさん。その中から日記帳を手に取り、謎の言葉を読み上げると、外でゾンビが復活。彼らは1人ずつ血祭りに……。

なぜ今ごろメジャー映画シーンでこんなベタベタなスラッシャー・ホラーなのか。
なぜこの手のホラーにはお約束の展開が必要なのか。
そして、ちょいちょい出てきて若者たちの様子をチェックしているスーツのおっちゃんたちは一体何なのか……。

日本では「マルチ・レイヤー・スリラー」と、分かるような分からないような宣伝をされていたが、本作が熱烈なホラー愛に基づいてつくられていることは明確である。
もちろん、残酷描写にそこそこ耐性があるならホラー好きでない人にも観てほしいという思いはあるのだが、ホラー好きだからこそ楽しめる側面のほうがデカいと言わざるをえない。
上記あらすじのホラー映画鉄板のストーリーを書くのだって、鉄板のシチュエーションや小道具を持ち込むのだって、それなりにホラー映画を観まくっているからこそできることなのだ。(『死霊のはらわた』を観たことがある人なら、舞台となる山小屋の造りにニヤリとしたくなるだろう)

ちなみに、Jホラーへのオマージュもあったりする。微妙に間違っているところもあるけど、愛は受け止めてあげていただきたい……。

とにかくネタバレ厳禁なので、面白いところに触れられないのが歯がゆくてしかたない。とりあえず、ラストは「祭り」というか「アッセンブル」というか「エクスペンダブルズ」的な……とだけは伝えたい。このラストにこそ一番ホラー愛がぎっしり詰まって、詰まって詰まって詰まりすぎてダムが決壊している。
「そこから先は――賭けてもいい。絶対に読めない」なんて日本の宣伝文句に賭けるよりは、ダムの決壊ぶりを大船に乗って血の海で揺られまくった気分でハイになって楽しんでいただいたほうがいいように思える。

96時間/96時間 リベンジ

ライバルはセガールです(たぶん)。

96時間('08)
監督:ピエール・モレル
出演:リーアム・ニーソン、マギー・グレイス

96時間 リベンジ('12)
監督:オリヴィエ・メガトン
出演:リーアム・ニーソン、マギー・グレイス



「最強のオヤジ」スティーヴン・セガールの専売特許を脅かす「無敵のオヤジ」が、まさか還暦に達してからのこのお方になろうとは……。

96時間

パリを拠点にする人身売買組織。今日も世間知らずでバカっぽいアメリカ人ツーリストの女の子に目をつけ、たやすく誘拐。あとは顧客に売りに出すだけのはずだった。しかしここで思わぬ大誤算が! 誘拐した娘の父親が、最強の元秘密工作員、リーアム・ニーソンだったのだ……!! 

(訳:元秘密工作員のブライアン・ミルズは、臨時雇いの仕事をしながら、ときどき別れた妻レノーアと17歳の娘キムに会うという引退生活を過ごしていた。あるとき、キムが友人とパリへ旅行に行くという。娘を溺愛するブライアンは反対するが、娘との仲に亀裂を入れたくないがために渋々承諾。しかし、パリ到着からまもなく、キムは人身売買の組織員に誘拐されてしまう。被害者の救出が可能なのは、誘拐から96時間以内。ブライアンは、時間内にキムを探し出すことができるのか……)

「娘のためならエッフェル塔も壊す」……と言っても幸いエッフェル塔は無事なのだが、関係者はほとんど無事じゃない。誘拐に関わった人間がバンバン撃たれて首ボキボキ折られるのはまぁ想定内としても、犯人グループの1人の両脚に電極ぶっ刺して拷問&感電死、パリ市警の汚職警官の奥さん(何も知らない)にまで銃で傷を負わせるともなれば、容赦がないにもほどがある。

もしこれがセガールだったら、「しょうがないよ、セガールだもの!!」という免罪符(という名のあきらめ)で乗り切るのだろうが、そこはリーアム・ニーソン。娘に会えてニコニコが止まらなかったり、海外旅行行きたい言われて当惑していた子煩悩パパから、我が子の危機を知った瞬間必殺仕事人の顔に変貌を遂げる。それでいて、変貌前だろうと後だろうと、すべては愛する家族のためと一貫している。それゆえ、たとえ情け無用の殺人マシーン化していようとも、優しさと意志の強さを持った頼れる父親というイメージからブレがないのである。

もちろん、ツッコミどころは上記のように山とあるのだが、リーアムのスゴみの前では「いえ、何でもありません!!」と敬礼付きで口を閉じたくなってしまうものが。

96時間 リベンジ

(娘との通話にて)「いいか、父さんと母さんはまもなく誘拐される! そして奴らはお前のところにも向かっている! だが母さんもお前も父さんが守る!!」
……以上すべて有言実行。それがリーアム・ニーソン・クオリティ。

(訳:イスタンブールで警護の仕事を終えたブライアンのもとに、前作の事件から急速に距離が縮まったレノーアとキムが遊びにきてくれた。ひさびさに家族水入らずで過ごせるかと思いきや、前作で人身売買組織員の息子を殺されたアルバニア人グループが復讐にやってきて、今度はブライアンとレノーアが誘拐される。ブライアンは再び、元秘密工作員のスキルを駆使して、妻と娘を守るべく戦いはじめる。)

少ない手がかりからパリで娘を探し出すという脅威のトラッキング能力を持つブライアン。それは自分が誘拐される側であっても変わらない。
乗せられた車が曲がる方向や時間、移動中の物音を逐一頭に入れたり、犯人グループに発見されずに助かった娘の力を借りたりで、自分の居場所を特定してしまう。それ以前にオープニングで、元妻宅でキムに彼氏がいるという衝撃の事実(当社比)を知らされたブライアンが、次に彼氏宅のシーンになるともう玄関前に立っているという、間違ったトラッキング能力の使い方を披露している。

もはや96時間というタイムリミットは関係ないし、そもそもタイムリミットがない普通の追跡劇。愛する家族のためとはいえ必要以上に相手を痛めつけるブライアンのやりすぎ感も控えめ。サスペンスとバイオレンスが前作より落ちる分、アクションに期待したいところだったのだが、それすらカメラがガチャガチャブレてキメ画に欠けるという難点が。

ただそれでも、自分の居場所特定のためにイスタンブールのど真ん中でキムに手りゅう弾を投げさせたり、まだ無免許のキムに逃走車両を運転させ「左に切れ!!」「突っ込め!!」「いいから加速しろ!!!」と地獄のカーチェイス教習所が始まるなど、ある程度はパパの暴走劇を堪能できる。いざとなったら我が娘でも使えというのが今回の教訓だろうか。たぶん違うだろうけど。
とはいえ、ある意味本当のパパの戦いは、娘に正式に彼氏を紹介されたところから始まるのだろう。


実は背後に「リュック・ベッソン製作」ってのが控えているこのシリーズ。
主人公が男なら「愛する者を命に代えても守り抜く」、女なら「愛する者を殺された復讐に燃える」って設定が大好きらしいベッソンなので(そう考えると『レオン』はベッソンにとって二重に美味しかったのかなと)、前者に相当する本作もそれなりにご満悦だったのではないかと。

また続編が作られるとしてもおかしくはないのだが、そうなると次に誘拐されるのは娘の彼氏だろうか。で、「誤解するな。お前のためじゃない。お前を愛している娘のためだ!」とか言ってリーアムパパが助けにいくとか。パート1ではただ世間知らずで不用心で観客をイラっとさせるばかりだった娘キムも、パート2ではできる限りパパの力になろうと努力するというめざましい成長を遂げていたので、今度は奥さんのレノーアに成長していただきたいところだ。何せ彼女はファムケ・ヤンセン=ゼニア・オナトップですし。

それと、タイトルは「リベンジ」のあとどうするんだろう。「アルティメット」か? 「フォーエバー」か? 「惨劇の館」か? 「リジェネレーション」か? 「怒りの○○」か? まさか「ダークサイド・ムーン」か?

(加筆:「レクイエム」に落ち着いた。でもそんなことよりファムケ・ヤンセンを活躍させないまま退場させたことのほうが問題だぞ)

勝手にエクスペンダブルズ2

もしもロバート・ロドリゲスがエクスペンダブルズを作ったら。

実は、思いつきの「ガイ・リッチー版エクスペンダブルズ」を書いたとき、ついでにもう1つ頭に浮かんできてしまったのがこのバージョン。
エクスペンダブルズというよりは、ただのロドリゲス祭りになってしまったが。あと、男祭りなのに女も結構いるけど、ロドリゲス界ではそのほうが活き活きするので……
なお、今回ストーリーはちょっとドン詰まったので割愛しました。何せどの方向でいっても『デスペラード』か『レジェンド・オブ・メキシコ』か『マチェーテ』と同じ流れになってしまったもので。誰か何か面白いネタがあったら教えていただきたいところです。

勝手にキャスティング


アントニオ・バンデラス
エクスペンダブルズのリーダー。普段の姿はバーのマリアッチ。ギターケースにたくさんの銃器を仕込んで……と思ったら、ギターそのものがマシンガンにカスタマイズされている。もちろん自前の大型二丁拳銃も携帯している。
(『デスペラード』『レジェンド・オブ・メキシコ』のマリアッチからシリアスを抜いてしまったような男)

フレディ・ロドリゲス
普段はバーの清掃係。身軽なうえ、モップでもグラスでもフォークでも、そこいらにあるもの何でも武器にできる。バンデラスにとっては頼れる右腕だが、若手で女性人気票が集まりつつあるという点で危機感を覚えさせる奴でもある。

スティーヴ・ブシェミ
何でお前がエクスペンダブルズにいる? と誰もがツッコミ入れたくなる、戦闘能力ほぼ皆無のもやしっ子。普段はバーの経理係であり、エクスペンダブルズの経理と武器調達人でもある。特技はお喋りと逃げ足の速さ。おかげでいつもうまいこと生き残れる。

ミシェル・ロドリゲス
エクスペンダブルズの紅一点(ということにしてください)。バーの調理担当兼ウェイトレス。フロアのトラブルは彼女がすべて力技込みで抑えこんでいる。ショットガンやマシンガンなど大型武器を扱うほか、ボクシングの腕も。
(外見は『マチェーテ』のタコス屋台の姉さんぐらいの可愛らしさで)

カルロス・ガラルド
バンデラスと一緒にマリアッチをやっている。バンデラスと同じく二丁拳銃と、こちらはギターケースのフタ部分にに閃光弾や催涙弾や電流ショック弾など変則型手りゅう弾を搭載。「元祖ギターケース武器庫はオレ」が口癖。
(そもそもマリアッチ三部作の一作目『エル・マリアッチ』の主人公はこの人でしたから)

ダニー・トレホ
大型から小型までナイフなら何でも扱える。普段はバーのドア前用心棒。金目当てに悪党側に寝返った……と思ったら、それは策略のうちで最初から最後まで味方であり、そのことを知っているのはバンデラスだけだった……という展開が観たい。
(マシェッティ、マチェーテ、ククイ、クッチーロと、ロドリゲスには刃物の名前をよくもらうトレホさん。このパターンを踏襲するとしたら、自分はもうフランス語の『クトゥー』かドイツ語の『メッサー』しか思いつきません)

チーチ・マリン
バーテンダー。エクスペンダブルズを日頃従業員として雇っていたり、店にたむろさせていたりする。もちろんカウンターの下には二丁ショットガン。高アルコールの酒と布とライターで火炎攻撃も。

サルマ・ハエック
エクスペンダブルズが集うバーの実質的オーナー。バンデラスの元カノらしい。元カレがギターケースなら、こちらは本の中にナイフや小型銃やときに手りゅう弾を隠し持っている。エクスペンダブルズへの仕事はたいてい彼女を通して依頼される。

ダリル・サバラ
バーで清掃係というか雑用係で働く青年。昔バンデラスに助けられたことがあり、それ以来彼に懐くかたちでエクスペンダブルズに居座る。バンデラスのギターマシンガンを作ったほか、皆さんにお役立ちガジェットを制作・提供してくれる。

ローズ・マッゴーワン
エクスペンダブルズの助っ人。一見ミニスカートの似合う美脚CIAエージェント。しかし実は右脚が偽足でしかもガトリングガン仕様になっている、伝説の女戦士。
(『プラネット・テラー』のチェリーの別バージョンみたいな)

シルヴェスター・スタローン
テキサスの最強麻薬捜査官……だがその実態は1組織と手を組んで麻薬利益を我がものにする悪徳警官。権力という意味でも筋力という意味でも、その剛腕に逆らえる者はいない。

ブルース・ウィリス
巨大麻薬カルテルのボス。邪魔な他組織をスタローンに一掃してもらい、見返りに売上を献上する間柄。組織が拡大していく過程で何度も死にそうな目に遭っているが、なかなか死なずにここまで生きているので、不死身との噂も。
(真性エクスペンダブルズのお二方に敵として登場してもらえたらと思って。一応それぞれロドリゲス映画に悪役として出演経験があるわけだし。もちろんスタローンはキッズ相手の1人6役などではなくガチの肉弾戦!! 彼らにガチで挑むのは大変危険なので、エクスペンダブルズはチーム戦でいくことをオススメします)

エレクトラ&エリース・アヴェラン
ロドリゲス映画おなじみの美女双子。カルテルに雇われている、抜群のチームプレーを誇る殺し屋。

クエンティン・タランティーノ
カメオ出演1。バーの常連客。序盤あたりにブシェミとくだらないダベリを続けていて(このくだりがムダに長い)、バーテンにそろそろ閉店だと追い出される。

ジョニー・デップ
カメオ出演2。麻薬カルテルの一員のチンピラだが、もうやってられないとばかりにCIAに情報を流したところ、察知したボスの仕向けにより双子美人殺し屋に消される。


さて、そろそろ脱線はおいといて、注文した本家『エクスペンダブルズ2』プレミアム・エディションでも拝みたいところです。

2013年3月4日月曜日

ブレイカウェイ

同じダメなら、素敵なダメになろうぜ。

ブレイカウェイ('00)
監督:アナス・トーマス・イェンセン
出演:ソーレン・ビルマーク、マッツ・ミケルセン




騙されるなよ!!
上のジャケットだとなんかいろいろ破壊するアクションみたいに見えるだろ!?
器物破損は車だけだぞ!!! しかもただのエンジンオーバーヒートで!!
キャッチコピーの「クサった人生、ぶち壊せ!」にも騙されるなよ!!
おっさん(もしくはおっさん一歩手前)たちが見苦しくも哀愁漂わせながら、コツコツと人生切り開こうとしてるだけだ!! 

40を迎えてもうだつのあがらない下っ端ギャングのトーキッド。ボスのエスキモーに借金を返すため、落ち着きがあるがヤク中のピーター、キレやすいガンマニアのアーニー、いつも何か食べている気弱なステファンら仲間とともに、地味な仕事をやらされる日々。
転機は誕生日の夜、ボスの命令で外交官の家に押し込みに入ったときに訪れた。回収を命じられたケースの中には大金が入っていたのだった。これは人生をやり直すチャンスだと、トーキッドたちはその金を持ち逃げし、新天地(希望はバルセロナ)へと向かうことに。
しかし、押し込みの際にピーターが負傷し、車がオーバーヒートし、国境近くの山の中で足止めを食らうことに。仕方なく廃屋で寝泊りしていると、今度は地元の猟師に見つかり、トーキッドは相手に話を合わせて「ここを買い取ってレストランを開く」と嘘をつく。これが、思わぬもう一つの転機となるのだった。

上記あらすじのとおり、おっさんたちは人生切り開くためにやたらめったら大破壊はしない。
文句言ったりキレたり泣き言言ったりしながら、地道に軌道修正しているだけ(アーニーの人生軌道修正だけはある筋の人たちに怒られそうだけど)。おまけに、文句もブチ切れも泣き言も、傍から見たら笑われるレベル。
ただし、4人それぞれが道を踏み外すきっかけとなった過去には、それなりの痛みや悲しみがある。そんな彼らの姿がかえって妙に愛おしくなってしまうという人間ドラマが、本当の本筋である。

ギャングとはいえ端くれだし、付き合いの長い者同士なので、揉めてもさほどオオゴトにはならない。この手のおっさんによくあるチャイルディッシュな側面も、何となく読んだ物語や詩に思いを馳せてしまったり、寒いのに全裸で湖に飛び込んでしまったりと、実におかしくも可愛らしい。
かといって、思い切ってカタギになろうとしたところで、才能があるわけでもなし、実のところ最後の最後まで「ダメ」からは完全に脱却しきれていない。
ただ、頑張って微笑ましいダメになった4人は、ただのやさぐれたダメ時代よりもいっそう魅力的に見えるだろう。

なお、本筋に関わる女性キャラに、トーキッドの元カノ・テレーズとステファンの彼女・ハンナがいる。
テレーズがトーキッドたちをつき放しつつも優しく見守っているのに対し、ハンナは一見明るいがその実かなり無神経で、4人と観客をイラつかせる役回り。おっさんたちの絆や人生軌道修正が温かく見えたのは、対照的な彼女らの存在のおかげでもあった。
ちなみに、テレーズを演じてたイーベン・ヤイレって、『ハイ・フィディリティ』のジョン・キューザックの元カノでもありましたね。もしや、ダメ男のミューズ?

ちなみに、ダメ男4人衆のうち、ガンマニアのアーニーを演じているのは、のちのル・シッフルことマッツ・ミケルセン。ことごとく「顔面骨格がチャームポイント」と推しているのだが、このときはなでつけショートヘアに口髭にタンクトップと、骨格が霞むくらい謎のスタイル。
アーニーの少年時代を演じていた子役がびっくりするほど端正で一番可愛かっただけに、それが『スクリーム』のスキート・ウーリッチくずれに成長すると思うと、アーニーのやさぐれ感ひとしおである。
でも、個人的には顔はスキートよりマッツのほうが勝ちだし、タンクトップ姿もかのジョン・マクレーンに匹敵させたいぐらいの威力です! ……と、ファンとして一応フォローしておきますよ。

2013年3月3日日曜日

スクール・オブ・ロック

初心者さんいらっしゃい。

スクール・オブ・ロック('04)
監督:リチャード・リンクレイター
出演:ジャック・ブラック、ジョーン・キューザック



「コロンブスが率いた船は?」
「ニーニャ号」「ピンタ号」「サンタマリア号」
このQ&Aにニヤリとした人とは、ぜひ友達になりたいものだ。

ロックバンドをクビになり、仕事にも就いていないダメ男が、当面の家賃のために、教師であるルームメイトの名を騙って小学校の教員となり、生徒たちにロック・スピリットを教え込む。
一見、ロック版金八先生だが、人間ドラマが極力省かれているあたりが本家金八先生との大きな違い。もし、家族との諍いや、生徒同士の仲違いなどの山場があれば、ちょっとしたドラマとしては成立するが、本当にこの映画自体ちょっとしたドラマで終わってしまっただろう。

客観的にみれば、一連の出来事は、基本的に主人公の自己満足になることばかりだし、勝手に授業プログラムを変えられた生徒たちの人生を実はダメにしたかもしれないし、学校や保護者にはただただ迷惑をかけっぱなしで収束してしまった。
しかし、そういう細かいことを隅っこにぶん投げて、気が付けばよく分からない高揚感に包まれてエンディングを迎えているあたり、華やかで骨太でパワー型のハードロックみたいな映画である。

ジャック・ブラック(通称JB)先生の授業は、「ロックの本質とは体制への反抗であり、大物(The Man)を怒らせること」等々、初心者に優しいロック講座。
「ロックの本質」は、おそらくある程度のロックファンでもとっさには答えにくいし、延々議論ができそうなテーマなので、中上級者も見ておいて損はないはず。冒頭に挙げたQ&Aのような、中上級者に嬉しい小ネタもあることだし。同時に、どれほど反抗してもロックは負けるのだというシビアな世界も、サラリとではあるが見せている。

JB自身、熱心なロックファンだし、テネイシャスDというバンド(基本下ネタ曲)で活動していたりもするぐらいなので、説得力はある。とはいえ、JB先生の模範解答は「初心者のためのロック足がかり」の域。
また、教材として示すロックも、AC/DCやディープ・パープルやザ・フーなどレジェンド級のバンド中心。もちろん、そうしたバンドはロック好きなら避けて通れない(むしろ通れと言いたい)道なのだが、どうせなら生徒の年代のコンテンポラリーなロックについても説けばいいのにという気もする。JBのオールドスクール好きがにじみ出た結果なのかもしれないけど。

ここで語られる「ロックとは何か」は、あくまでJBが敷いてくれた基礎部分。一口にロックといっても、オールドスクールやらグランジやらメタルやら数多くのサブジャンルが存在するように、そこから先、ロックに何を見出していくかは生徒たち(作中の生徒さんも観客も含めて)それぞれが考えたほうがいい。
そもそもロックって、そこにJB先生がいる場合を除いては、体制の側である学校で勉強するもんじゃないんだから。

桐島、部活やめるってよ

『桐島、部活やめるってよ』は書きにくいってよ。

桐島、部活やめるってよ('12)
監督:吉田大八
出演:神木隆之介、橋本愛




何で書きにくいかというと、パッケージにある通り「他人事じゃない」から。
映画について語るつもりが、自分の高校時代と照らしあわせて「あったわこういうパターン……」「いたよこういう奴……」と思わずにはいられないのである。
しかも、懐かしさとか思い出とかキレイな表現じゃなく、今も生々しく残る当時の感覚を容赦なくグサグサ刺してくるのだ。

バレー部のキャプテンの桐島が、ある金曜日に突然部活を辞めた。スポーツができて頭もよくて可愛い彼女もいる、校内ヒエラルキーの頂点たる桐島の不在で、周辺の人間関係には緊張感が漂いはじめ、直接的には桐島と関係のない生徒にも影響がおよぶ。
やがて彼らと、桐島とは何の接点も影響もないグループとが、火曜日に思わぬ形で関わっていく。

5日間だけ、高校だけ、ほとんど生徒たちだけで展開される、たったそれだけの話が、生徒同士のやり取りと、それによってあぶり出されるそれぞれのキャラクターでもって動く。特に、桐島が部活を辞めた問題の金曜日は、同じ一日が異なる目線でくり返され、主だった生徒たちの人間関係と性格を浮き彫りにしていく。
タイトルにもなっている桐島は、存在することはするのだが、映画の中には姿を現さない。短い間だが屋上にいた男子生徒が桐島ではないかとされているが、クレジットには「屋上の男子」と表記されているだけで、確証はない。

桐島に近いところにいる生徒たちは、桐島の姿や連絡を求めて必死になる。桐島は少なからず、彼らの世界(=高校生活)の中心または拠り所だからだ。
逆に、桐島から遠い生徒たちにとっては、桐島がいようといまいと世界は変わらない。
ただどちらに属するにしても、「結果を出さなきゃいけない」「仲間に合わせないといけない」「見下されている(ように思える)」など、そこが生きにくい世界であることは、誰にとっても同じなのだ。

アメリカのスクールカースト(ジョックス、ナードといった身分づけ)ほど明確ではないにしても、日本の高校にもうっすらとヒエラルキーは存在する。
「文化部より運動部のほうがエラい」
「同じ文化系でも吹奏楽部のほうがなんかエラい」
「必死で部活やってるよりは帰宅部のほうがカッコいい気がする」など。
何度も描かれる金曜日から浮かんでくるその様相は、あまりにも生々しく、高校時代どの階層に所属していた人間にも平等に痛さがよみがえってきそうだ。

その痛さがもっともキツイのは、ヒエラルキー下層の前田と、桐島の親友で校内ヒエラルキー上層の宏樹とのラストのやり取りと、宏樹と野球部キャプテンの最後のやり取りである。2つの会話を通して、物語は観客に残酷な現実と問いをつきつけたまま、フェードアウトしてしまうのだ。

この作品を好きになった大多数の人が感情移入するのは、神木隆之介演ずる映画部の前田と、同じく映画部で親友の武文だろう。
ルックスがカッコいいわけでもなく、スポーツはダメで、部活動は文化系においても最下層レベル(部室の場所が物語っている)。
いじめられてるわけではないが、女子に軽くバカにされてたり、いわゆる「イケてる」男子陣からの対応がちょっと雑ということは肌で感じている。
正面切っては言い返せないので、文句があるときは陰で言う(武文の『オレが監督なら絶対あいつらキャスティングしない』が、ちまっこいけど精一杯でスバラシイ)。
たぶん、自分も含めて大多数の『桐島』ファンの高校時代はこんな感じだったのかなと。

何より共感するのは、2人のゾンビ映画に対する愛情とリアリティ感。映画部顧問は「ゾンビはリアルじゃないだろ」と言うが、前田が話に持ち出そうとした『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』しかり、優れたゾンビ映画は少なからず現実の恐怖や生活習慣を反映している。
だから前田と武文も、渾身のゾンビ映画『生徒会・オブ・ザ・デッド』に、2人にとって半径1mのリアルである「疎外された学校生活」を投影している。さらに、2人に感情移入した人間ならば、すべてが入り乱れた終盤の「こいつらみんな食い殺せ!!」に感動すらおぼえるだろう。

ちなみに……作品と照らしあわさずにはいられない自分の高校生活。
スポーツはダメだし、文化部だし吹奏楽じゃないし、映画部顧問の語る半径1m以内の青春とは無縁だったし、内輪ネタやゴシップで盛り上がる女子グループの目には存在してなかったりしたし(映画の中の前田くんとまさに同じ状況すぎて痛い)、映画は撮ってないけど一番のリアルは映画とロックだったし、まぁ校内上層組じゃなかったなとは思う。
ただ、後に当時の友人が語ったところによると、校内では0.1%ぐらいしかいない万年私服生で(うちの高校には制服着用義務はなかった)、たいがい1人でウロウロしてる自分は「コワい人」だと思われていたという事実が。

恐るべきは、現在に至るまでこの方向性からほとんどブレていないということ。だから余計に、何度『桐島』を観ても痛いところは徹底的に痛いし、ほかの人にとっては笑えるところも笑えないどころか泣けてきてしまうのかもしれない。

そんなわけで、自分はどうしてもすべてを前田くんと武文くん目線から見てしまうので、これをかすみ、宏樹、沙奈、沢島、あるいは竜汰や桐島目線で見た人がいたら、その人は何を思うのかを知りたいところです。

2013年2月28日木曜日

ジャッジ・ドレッド

メガシティ・ワン残酷警察(ゴアポリス)。

ジャッジ・ドレッド('13)
監督:ピート・トラヴィス
出演:カール・アーバン、オリヴィア・サールビー



悩めるヒーローがいてもいい。何かとウジウジして話が面白くないなんて悲劇がなければ。
悩まないヒーローでもいい。能天気とか脳ミソ筋肉とか言われても痛快であれば。
しかし、ジャッジは悩んでちゃいけない。悩んでるヒマはない。即座に逮捕! 即座に判決! 即座に執行! で、だいたいは死刑だ!!

核戦争で荒廃した大陸の中、アメリカ東海岸に残った非・汚染地帯に構築された巨大都市、メガシティ・ワン。一日の犯罪件数17,000件というこの都市では、警察、陪審員、裁判官、刑執行人を兼ねたエリート集団「ジャッジ」が治安取り締まりにあたっていた。その一人であるドレッドは、ジャッジの頂点に立つ男である。
ある日、ドレッドは新人ジャッジにして人の心を読めるミュータントであるカサンドラ・アンダーソンを伴い、殺人事件の現場であるピーチツリー・タワーへと向かう。このタワーは200階建てのスラム街で、最上階に潜む女ギャング、通称ママがすべてを牛耳っていた。
ドレッドとアンダーソンがママの部下を逮捕・連行しようとしたそのとき、ママはビル全体をシャットダウン、全フロアの部下たちにジャッジ2人の抹殺を命じる。75,000人もの敵が迫りくる中、2人は生き残りをかけて最上階を目指す。

メガシティ・ワンという一都市内で活躍するご当地ヒーロー……といえばソフトだが、近年映画化されてきたコミックヒーローの中では『パニッシャー』に並ぶ残虐ファイトヒーロー(1995年のスタローン版『ジャッジ・ドレッド』はアレとして)。
ジャッジのみが持てる銃「ローギバー」を撃てば、悪党どもが頭蓋や腹から血しぶきと肉片を撒き散らして倒れ、火炎弾で火だるまになり、白熱弾で中から焼かれる。
そうでなくとも、逃走中のギャングが一般市民を思いっきり轢き逃げするオープニングに始まり、皮を剥がれた落下死体、巻き添えで次々と死んでいく一般住民など、全編ゴア描写は容赦ない

しかし、ここまでバイオレンスを徹底させたからこそ、密閉空間で孤立無援のまま最上階のボスを倒すというシンプルでゴリ押しのシナリオが、良い具合の緊張感でピリッと締まっていた。
逆に、作品中もっとも美しいシーンは、作中に登場するドラッグ「スローモー」でトリップしている瞬間だったりする。
しかも、劇場ではこの人体破壊とトリップイメージが3Dで迫ってくるのだからタチが悪い。『ピラニア3D』とは近いようで少し違う、悪趣味と中学生スピリットの3Dといえる。

普通にヒーロー映画の文脈で考えると、ジャッジはむしろヒーローに倒される側である。逮捕も処刑もすべて独断で取り仕切っているのだから、限りなく独裁者に近い。
しかし、悪人に対しても新人に対しても自分に対しても厳しく、容赦のなさには容赦のなさでもって立ち向かう、あまりにもストイックなドレッドは、法の番人なのに「アウトロー」という称号が似合う。
そのストイックさの最たる象徴こそ、作中およびパンフレット内ですら決して外されることのないヘルメットと、常にへの字に結ばれた険しい口元だろう(スタローンはさっさとメットを脱いでしまった……)。

一方、新人アンダーソンは、サイキック能力の妨げになるからとヘルメットをつけない。それだけに、相手を撃つことへのとまどいやためらい、一抹の恐れが、どんなにポーカーフェイスでもあらわになる。
そうした足手まとい要素をストーリーが進むごとに自力で振り払い、めざましい成長を遂げていくという、新人系キャラクターの美味しさを目いっぱい、それでいてムダなく持っている。新人系に多いやたら感情的になるきらいがないのも、さっぱりしていて好感がもてる。
将来性のある優秀な人材なのだから、ジャッジ本部は彼女に特注ヘルメットを作ってあげればいいのに。しかしそうすると、彼女の可愛らしさが半分見えなくなってしまうのがもどかしい……と、つい勝手に悩みたくなってしまうのだった。