2014年8月14日木曜日

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記

人間って本当にスバラシイ……ほどにダメダメ。

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記('90)
監督:トム・サヴィーニ
出演:パトリシア・トールマン、トニー・トッド



「奴らが来るぞ、バーバラ……」
オリジナル『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でもおなじみ、妹を怖がらせてからかう兄ジョニーの名セリフが幕開け。と同時に、「このオリジナルの数十倍存在感がネバっこいジョニーは何者だ?」という引っかかりが、私の新たなB級ホラー街道への幕開けになった。
そう、これが私とビル・モーズリィとのファースト・コンタクトだったのだ。本作に会わなかったら、チョップトップ(『悪魔のいけにえ2』)との出会いも、コーンバグズとの出会いも、オーティス(『マーダー・ライド・ショー』『デビルズ・リジェクト』)との出会いもなかったってわけですよ。今回、退場早かったけど。

死者がよみがえって人間を襲いはじめ、なんとか逃げのびた男女が一軒家に籠城するも、仲間割れを起こして事態はますます悪化……というベースは変わらない。
ただ、時代が変わって特殊メイクの技術も向上し、さらにその道ではレジェンド級の師匠トム・サヴィーニ先生がメガホンを取っているためか、ゾンビのおどろおどろしさはもちろん倍増。形ばかり着せられたスーツ(実は葬儀用)がずるずる脱げてY字の解剖傷が見えるゾンビ、車に撥ねられ下半身が折れ曲がっていながらなお動こうとするゾンビなど、「生ける屍」の「屍」の度合いが強まった。

ホラー映画のリメイクに際して、「グロけりゃいいってもんでもないだろう」という苦言はよく出てくるが、このグロ演出にはアナログ感が満載だし、ゾンビはノロノロしてるし、何より、『ゾンビ』の特殊メイクを手掛けた当人であるサヴィーニ先生の息がかかっているので、そんなに苦言は多くなさそうだ。

最大の違いはヒロインのキャラクター。
オリジナルではほぼ放心状態で、ヒロインと呼べるか疑わしいほど何一つ役に立たなかったバーバラ。本作では、ゾンビの襲撃に遭った当初こそは放心状態だったが、いざ人が集って臨戦態勢になると、スカートからハンティング用のパンツに履き替え、ライフルを構えて一気に女戦士へと変身。
ゾンビを見ながら「なんてノロいの。歩いてでも追い越せるわ」と強気の発言が出るほど。しかも、この強気が口だけじゃなくて、戦力・適応力ともに生存者たちの中でも飛びぬけて優秀なのだった。

思えばオリジナル作から22年。その間『ハロウィン』のローリー、『エイリアン』のリプリー、『エルム街の悪夢』のナンシーと、ホラーヒロインが急激に強さを身に着けていった。オリジナルの続きに当たる『ゾンビ』でも、フランが妊娠中ながら生き残るために健闘を見せていた。
強いヒロインの台頭という時代性が、今回のバーバラにも如実に表れてきたようである。

時代が変わってバーバラが強くなったのに対し、主要な男性陣はオリジナルの時代とあまり変わっていない。それどころか、各キャラクターのエゴが強くなり、ヤな奴はよりヤな奴になっていてタチが悪い。特に、トム・トウルズ演じる新規ハリー・クーパーの自己中ガンコ親父ぶりは、あっぱれなほどイラッとくる。
一方、誠実な黒人青年ベンは、初登場時手に火かき棒を持っていたせいで一瞬キャンディマンに見えてしまったトニー・トッド。気品ある物腰で冷静なので、ハリーよりはるかに頼りがいがあるように見えるのだが、観るほどに実は事態を悪化させていたのは彼の方なのだということが分かってくる。自分だけ助かろうなんてエゴがなく、みんなを助けようとしていた姿勢がよく分かるゆえに、ますますもって皮肉である。

しまいには、最初から全員が協力していればもっと事態はマシだったかもしれないという、さらなる皮肉と空しさがオリジナルより明確に提示されている。これを見ると、人間に対するあきらめが加速しそうだし、「力を合わせて頑張ろう!」みたいなスローガンがつくづく信じられなくなるよ。

本作で、ヒロインのキャラクターに次ぐ大幅な改変は結末だ。「本当に怖いのはゾンビだけか?」というスタンスではあるし、救いようのなさも漂うものの、描き方はオリジナルとはまた異なる。
あの状況下・あの経験のあとでは、たとえ冷静さを保っていられても、善人や正義の味方ではいられないのだろう。

2014年8月13日水曜日

マイティ・ソー ダーク・ワールド

兄弟ともに伸び盛り。

マイティ・ソー ダーク・ワールド('14)
監督:アラン・テイラー
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン



久々に会った人に、外見じゃなく中身について「お前も変わったなぁ」「成長したなぁ」って言われる経験、考えてみたけどほとんど覚えがありません。むしろ「相変わらずだなぁ」「昔から変わらないなぁ」ばっかり言われている。しかも、相手が言う「昔」って、小学生か中学生時代のことだもんなぁ。

『アベンジャーズ』から1年。アスガルドに帰還したソーは、9つの世界の騒乱を収め、父オーディンから王位継承を望まれるまでに至った。しかし、かつて地球で出会い、いつか戻ると約束していた科学者ジェーンのことが忘れられずにいた。
そのころ、ジェーンはロンドンで重力異常の調査中、封印されていたダークエルフの武器「エーテル」に接触し、その力を体内に宿してしまう。エーテルの封印が解けると同時に、ダークエルフたちは長年の眠りから目覚め、ジェーンを追跡しはじめた。ジェーンの危機を知ったソーは、再び地球、および新たな戦いへと向かう。

前作『マイティ・ソー』ではニューメキシコの片田舎、『アベンジャーズではニューヨークが余波の被害に遭った神様兄弟ゲンカ。今回おもに迷惑を被るのはロンドンだが(ついでに、破壊の原因はロキじゃなくてマレキスだし)、星の並びで重力異常が起きているせいでバトルしながらユグドラシルの世界を飛び回る羽目になるので、コンパクトなようでいて舞台は広い。

そんなバトルの合間に、「ソーの周りで勝手に雨宿り」「コート掛けの新しい使い方」「はじめてのロンドンチューブ」など、観客をクスッとさせる小粒スパイスの笑いが挟まれている。
このあたりのお笑いを担っているのは、前作から密かに人気票を集めているダーシーやセルウィグ博士らジェーンの研究仲間たち。ダーシーは可愛さ、セルウィグはなぜか加速した変人ぶりとそれぞれキャラクターの魅力も活き、それでいてただのお笑い要因ではなくきちんと活躍している点も嬉しい。(浅野忠信の扱いは別として)
個人的には好みだけど、笑える人を選ぶようなセンスだと思ったら、アラン・テイラーってかつて『パルーカヴィル』を監督した人なんですね。道理で好きなはずだ。

(『パルーカヴィル』:ヴィンセント・ギャロやウィリアム・フォーサイスがはじめての現金輸送車強盗に挑むも、憎めないアホのおっさんたちゆえいろいろ困ったことになる話。小粒ながら独特なユーモアの良作)

体力勝負系で根は素直というキャラで通ってきたソーだが、彼女ができたせいかグレた弟を止めに走り続けてきたせいか、ここへきて急に大人になった。
つい3年前まで「王になるぞやったー! 戴冠式の邪魔もされたことだし氷の巨人なんかぶっ飛ばせ!!」なノリだったというのに、今やジェーンのことを思い王位継承を躊躇するように。アスガルドの危機かという状況下では、現役王オーディンよりも冷静で優れた判断力を発揮していた。

しかも、今までしてやられっぱなしだったロキ対処法についても、徐々に手口を学習しつつある。わずかながら、ソーがロキを出し抜くという逆転現象にまで持ち込めていた。
大人になったぶん豪快さが減ってきている点はちょっと残念であるが、天然ぶりはどうしてもまだ残っているようなので、これからも適度にボケつつ頑張っていただきたいところである。

急激に成長を遂げた兄に対し、前作と『アベンジャーズ』から一貫して真意がどこにあるのか分からないロキ。唯一真意が明確に映るところといえば、ソーが牢を訪れたときの荒れた室内か。
映画の活劇モードが強まる中、もっとも前作のシェイクスピア劇要素を担う人物という点でもブレない。『アベンジャーズ』で「あれほど悲惨な(そして笑える)目に遭ってなお反省してるのかしてないのかわからない」と記述したが、王子から一介の囚人になっても、ソーと共闘することになっても、まったく反省の色がないことが判明しました(ある一点を除いては)。

しかし、何だかんだでソーやジェーンを助けていることもありつつ、実はヴィランとしてステップアップしていることも判明してくる。本心が分からず動機がミニマルゆえ「ヴィランとしてもグレーゾーン」と以前表したが、そのベースはちゃんとキープしつつ、成長するところは成長している模様。ソーも成長したことだし、そりゃ負けちゃいられないよね。人気はもしかしたら勝ってるかもね。

兄貴はヒーローとして、弟はヴィランとして着実に歩み始めたアスガルド。
というわけで、今回一番頼りにならないダメ親父ぶりを露呈してしまったオーディン、貴方も今後いろいろ頑張れ!!

2014年8月8日金曜日

GODZILLA (2014)

怪獣王×タメ・キメ・ミエの掌握=無敵。

GODZILLA('14)
監督:ギャレス・エドワーズ
出演:アーロン・テイラー・ジョンソン、渡辺謙



「ハリウッド版ゴジラって昔映画化されてなかったっけ?」
「アレの続編やるの?」
「いや、アレ関係ないっすから! なかったことになってるから! 黒歴史だし。っていうかイグアナだし
まさか公開前にエメゴジ('98年のエメリッヒ版ゴジラの意)釈明にあたることになろうとは思わんかったさ。これが映画オタクと世間のズレの一環なのだろうか。

1999年、フィリピンの炭鉱崩落跡の調査に呼ばれた芹沢博士らは、巨大生物の化石とそれに寄生した巨大な卵のようなものを発見する。
同年、日本のジャンジラ市(ジャパン+ゴジラで命名?)で謎の振動と電磁波が発生し、原子力発電所が倒壊。原子炉の調査に当たっていたブロディ夫妻の妻サンドラが亡くなる。
2014年、ブロディ夫妻の息子フォードは、軍の任務を終えてサンフランシスコの家族のもとに戻るが、父ジョーが立ち入り禁止区域のジャンジラ原発跡地に侵入し逮捕されたとの連絡を受け、父の身柄を引き取りに急きょ日本へ向かう。ジョーは、原発事故の背後で隠ぺいされた「何か」を探ろうとしていた。

……といったストーリーを置いといて取り急ぎ言わせてほしい。
ゴジラがマジでゴジラだった!!!!

ギャレス監督はオリジナルのゴジラのファンだと聞いていて、きちんと愛情もってつくってくれるんだったら大丈夫だろうと思っていたら、いやはやそんな大丈夫とか安心といったレベルではありませんでした。全幅の信頼を置きたいレベルでした。下手すると、ゴジラ好きではあるけどものすごいファンってほどではないくらいの日本人観客(私とかな)が忘れかけていた事実を、ギャレス監督が蘇らせてくれたのではとも思う。

それは、ゴジラは生物すべての頂点に君臨する「神」であり、ヒーロー視するものでも倒して「やったーー!!」と思うものでもなく、畏怖の対象であるということである。そこに重きを置いたからこそ、実は大々的に映っているカットは少ないにも関わらず、地響きや咆哮1つですべてを持って行ってしまう存在だったのではないだろうか。
さらには、ゴジラにとって人類なぞ敵でもなく守る存在でもなく、まったく何とも思っちゃいないということである。チャイナタウンの戦いでフォードと一瞬目が合うも、意志の疎通を感じさせるわけでもなく瞬く間に煙の中へ消えてしまうゴジラ。あれこそ神との対面である。

しかし、神だ畏怖だという一方、皮膚のタプつき具合や動き方から漂う着ぐるみ感を見ると、何とも嬉しくなってしまうのもまた事実。『パシフィック・リム』のときもそうだったけど、たとえCG製でも着ぐるみっぽさのある怪獣はなぜか愛着が高まるのですよ。
これで日本はアンディ・サーキス(ゴジラのモーションキャプチャー担当。まさかゴジラの現場にこの人がいようとは……)にすっかり頭が上がらなくなってしまったかもしれない。あ、一方タプつきのないムートーも、あれはあれで特撮で動かせそうなデザインが良かったですよ。

ただでさえ最強で、監督が畏怖の念を念頭に置いて作り上げ、そのくせ愛着すら湧くゴジラなのに、今回のゴジラはさらに強力な武器を持ってきた。出現までの「タメ」、現れた瞬間の「ミエ」を切るかのようなショット、そしてここぞというときの「キメ」である。
キメの最たるものはもちろんあの咆哮。それ以上のことはぜひ一度その目で確認してほしい(願わくばスクリーンで)。この瞬間ばかりは畏怖とはまた別の高揚感がやってくる。
まさかここまで魅せ場を分かってらっしゃるゴジラとは思っていませんでしたよ。一緒に観に行った母がゴジラのタメ・キメ・ミエおよび去り際を「時代劇のサムライ」と形容してましたが、確かにそんな感じでしたよ。

ゴジラにとって取るに足らない存在だからなのか、ゴジラよりはるかに長く映っているにも関わらず、人間たちのドラマはゴジラの存在よりも薄め。離れ離れになってしまったフォード一家も、殲滅作戦に乗り出すアメリカ軍も、まるでゴジラとムートーの背景である。うっかりすると「いいよもう人間は! それよりゴジラだ! ムートーだ!」とさえ思えてくるほど。

極めつけは渡辺謙演じる芹沢博士。ゴジラやムートーの生態を研究しているはずなのに、研究者らしい活動をしているところはあまり見当たらず、怪獣について何らかの対処策を練っているわけでもなく、ただゴジラの強さを信じるのみ。
そしてゴジラをこの目で見たくて仕方ない。すでに多くの方がご指摘している通り、単なるゴジラ大好きおじさんである。ただ、追跡の最前線にいながら危険にさらされることもなくゴジラやムートーを見られるというのは、ある意味大変に理想的なポジション。つまり、ゴジラファンにとって夢の役割?

なお、少なからず核や戦争や人類の傲慢を背負うゴジラものに、アメリカ人にヒロシマのことを少しでも訴える瞬間があり、今この時代に日本の原発事故に言及するという点が、人間ドラマとは少々ズレるもののもっともドラマが活きた瞬間ではないだろうか。

デビュー作でモンスターをほとんど見せずしてモンスター映画を撮ったギャレス監督だけに、ゴジラを最低限の登場シーンで最高神にしてみせた手腕にはどこまでも賞賛を贈りたくて仕方ない。ただし、欲をいえばその最低限に削られた怪獣決戦をもっと観ていたかったところ。
となると気になるのが、早々と制作が決まった続編。どうやらキングギドラとモスラとラドンが登場して四つ巴の戦いになるらしい。さすがに4体も出現するとバトルシーンも増えるだろうし、今回のフラストレーションが解消されることになるかもしれない……!!!

2014年3月23日日曜日

アダム・チャップリン/テーター・シティ 爆・殺・都・市

なぜ破壊する? そこに人体があるから!!

アダム・チャップリン('13)
監督:エマニュエル・デ・サンティ
出演:エマニュエル・デ・サンティ、ヴァレリア・サンニノ


テーター・シティ 爆・殺・都・市('13)
監督:ジュリオ・デ・サンティ
出演:モニカ・ムニョス、リカルド・ヴァレンティーニ





Q:あなたがこの映画を通して、もっとも伝えたかったことは何ですか?

エマニュエル「ケンシロウになりたい!!!」
ジュリオ「人体破壊最高!!!」
エマニュエル「あーずるい、オレも人体破壊最高!!!」
ジュリオ「グチャドロも最高!!!」

このインタビューは200%架空ですが、あながちウソでもない気がします。

アダム・チャップリン


悪魔と契約し最強の肉体と殺人拳を手に入れた男、アダム・チャップリン。右肩になんか崩れた赤ん坊っぽい悪魔(仮)が憑いてるけど気にするな。愛する妻を無惨に焼き殺した街のボス、デニーを追い、アダムはすべてを血祭りに上げる……!!

……そんなストーリーはあって無いようなもので。
会話シーンはダラダラしているし、警官が下水路を進むシーンなど不要に長いところも多い。アダム追跡のためにデニーに強制的に雇われた通り魔マイクなんか、中ボス的立ち位置かと思いきや、活躍もなく退場させられていた。
だが!! そんなダラダラモヤモヤはアダムが血の海で流してしまえばいい!! 肉体と一緒にメタメタに破壊してしまえばいい!! アータタタタタタタタタタタタ…………!!!!!!!!!

……という雄叫びはさすがにないものの、超高速で繰り出される拳のラッシュは、どう見ても『北斗の拳』。雄叫びを脳内再生せずにはいられない。ただ、秘孔を突かれて死んだことにも気づかない本家北斗の拳に対し、犠牲者はほぼ肉片と化していようとギリギリ生きてたりする本作。「お前はもう死んでいる」じゃなくて「お前……まだ死んでないの……!?」である。

しかもこの北斗神拳(仮)、デニー一味ら敵に対してのみならず、そこらの警官やチンピラに対しても炸裂している。情報を聞き出すために相手を痛めつけるアウトローは珍しくないが、人体半壊~全壊まではセガールだってやらないだろう。
まぁ、映画本編を作るより早く合成血糊を開発するぐらいバイオレンスに気合いが入ってるので、倫理的にはアウトでもどんどんやってくれと応援せざるを得ない。

『北斗の拳』や日本の格闘ゲームを愛するあまり、ケンシロウになりたくなって肉体改造までしまったエマニュエル・デ・サンティ。監督・主演のみならず、脚本、音楽、撮影監督まで手がけているので、本作のエンドクレジットはエマニュエルの名前だらけ。黙っていればイケメンなのに、何とも残念な男だ。
つまり、ボンクラスピリット仲間として、勝手な友だち意識を持ちたくなる奴だ!! イケメン指数全敗だけど!!

テーター・シティ 爆・殺・都・市


テーター・シティは異常な都市だ。オーソリティーと呼ばれる組織が統治するこの街には、犯罪者の思考にのみ影響する特殊電波、ジード・システムが流れ、電波をキャッチした犯罪者は自らの身体を破壊する。そしてバイカーズと呼ばれる特殊警察が後始末にあたり、回収された死体は食肉に加工されハンバーガーとして提供されている。
しかし、電波が効かないどころか、叫び声で周囲の人間を凶暴なミュータントに変えてしまう殺人鬼・トレバーが出現し……。

……そんなストーリーはあって無いようなもので。
ときどき挟まれるオーソリティーのプロパガンダや人肉バーガーCMが話の流れを妨げている感も……と敢えての苦言を呈そうとしたら、そもそも「話の流れ」ってものが大してなかった。ジード・システムもバイカーズも、例の独自開発の合成血糊をふんだんに使って人体破壊ショーをやりたいがために考えた設定だな、とツッコまずにはいられない。実際、血がブシャブシャだの頭がボカーーンだのサービス過剰なまでのバイオレンスシーンがこまめに入った状態で突っ走る話なので、ダレた気はしない。
山が多すぎて、クライマックスまでのカタルシスに欠けるのが難点だが。

ミュータント殺人鬼のトレバー役は、エマニュエルの弟にして本作監督のジュリオ・デ・サンティ。正直、一応のヒロインであるバイカーズのレイザーは巨乳要員がメインのお仕事だし、他のバイカーズはほとんど顔を出さないので、見せ場の多くを持って行ってるのはこのトレバー君である。
自身のお顔をフォトショップ(エンドクレジットに名前出てたからたぶんそうなのかと……)加工して不気味なギョロ目になっているジュリオだが、素はエマニュエル兄貴に劣らぬイケメン。ちなみに『アダム・チャップリン』にも出演していて、兄貴にボコられて悲惨なことになってました。個人的には、似ていると思ったので「荒川良々系イケメン」としてプッシュしてるのですが……どうでしょうか?

そして、エンドクレジットのスペシャルサンクスに連なる、北野武、三池崇史、ジョン・カーペンター、ポール・ヴァーホーヴェン、そして「すべてのカプコンゲームスタッフ」の名前。こいつを見ちゃうと、なんだかんだでまた勝手な友だち意識が湧き上がってしまいますよ。


この2作を輩出している制作会社がネクロストーム。デ・サンティ兄弟の弟ジュリオ君が社長を務めている。
昔のVHS映画風の悪趣味・低俗・チープ愛に溢れたスプラッターがウリで、このあとも『ホテル・インフェルノ』、PCゲーム『デス・カーゴ』を発表。アニメーション『アリスのネクロランド』もリリースを控えているし、『アダム・チャップリン2』『テーター・シティ2』の制作も予定されている。
作品としては苦言を呈したいところもたくさんあるが、バイオレンスのやんちゃ度合とインスピレーション元への誠意を見れば、キライになれるわけがない(個人差あり)。
執拗に移されるグチャドロな死体すら、「一生けんめい作ったんだよ! 見て見て!」という小学生の図工メンタリティに溢れているようで、微笑ましさすら感じる(もっと個人差あり)。

ダメ出しすることもあるけれど、私はネクロストームが大好きです。これからも頑張れ、デ・サンティ兄弟!!!

2014年3月2日日曜日

ヘンゼル&グレーテル

魔女が来た! いつものようにぶん殴れ!!

ヘンゼル&グレーテル('13)
監督:トミー・ウィルコラ
出演:ジェレミー・レナー、ジェマ・アータートン




「いや、そりゃ確かにあいつバカだよ。
アイディア一発で突っ走って、細かいことあまり考えてない奴だよ。
でもって、相手が何であれしまいには肉弾戦になっちゃうような奴だよ。
だけどさ、そこが憎めなくて面白いんだって!!」
ダメ人間の友人を擁護してるような内容ですが、トミー・ウィルコラ監督の話です。

グリム童話で有名なあのヘンゼルとグレーテルは、成長して魔女ハンターになっていた!

というネタでひた走るアクション。幼少期にお菓子の家の魔女に沢山食べさせられたヘンゼルが糖尿病だったり、兄妹の出自に秘密があったりもするが、その設定は大して活かされてない。
じゃあ、何が見どころなのかというと、魔女vs兄妹の肉弾戦。一応、ヘンゼルとグレーテルは銃だのボウガンだのと飛び道具を持っているし、魔女だって当然魔法を使うが、そういった特殊バトルはあまり長続きせず、何をしても最後には掴み合い&殴り合い&ぶん投げ合いのフルボッコ合戦に至る。もはや、普通の人間と戦うのとあまり変わらない。

思えば、ウィルコラ監督の前作『処刑山 デッド・スノウ』でも、雪山に現れたナチスゾンビ(パッケージ表記は『ゾムビ』)は、一般的なゾンビの喰らいつき攻撃&物量作戦ではなく、ぶん殴ったり陣形組んで突撃したりとストレートな物理攻撃型。それはおかしいだろ! アホか! とツッコミいれつつ、もはや妙な清々しさまで覚えさせてくれるバカバカしさだった。
これはもう、ウィルコラ監督のカラーだと割り切って(あきらめて?)、このノリに心を委ねるのがベストな観賞方法かと。

ちなみに、グレーテルを演じるジェマ・アータートンは『007/慰めの報酬』で、大魔女ミュリエルを演じるファムケ・ヤンセンは『007/ゴールデンアイ』で、それぞれボンドガールを務めた関係。つまりヒロインと悪役とでボンドガール経験者対決と相成ったわけだが、やはりゼニア・オナトップの貫録勝ち感は否めませんね。

また、ホラーファンとしては、心優しきトロール・エドワードのモーション・キャプチャーが、リメイク版ジェイソンことデレク・ミアーズというのも嬉しいポイント。
ホラーのみならず、映画界で胡散臭い奴・怪しい奴・信用できない奴といえばこの男! なピーター・ストーメアも顔を出してます。

しかし、まさか一番ネタになったのが、未公開映像のジェレミー・レナーの「そして殺す」カットになろうとは。下手をすると、ジェレミーの名を一番広めたのは、『アベンジャーズ』のホークアイよりもこちらかもしれない。いや、それより何より、『アベンジャーズ』や『ハート・ロッカー』でジェレミーの知名度も上がっていただろうに、なぜに本作をDVDスルーにした……?

皆さん、この人↓の名前は「そして殺す」おじさんじゃありませんよ。
ジェレミー・レナーですよ。


そういえば、前述の『処刑山 デッド・スノウ』の続編『Dead Snow 2 : Red vs Dead』の予告編が公開されましたね。殴る! えぐる! ぶっ刺す! いつもより余計に臓物出しております!! と、お得意の肉弾戦満載でしたね。
しかも、猪突猛進&喧嘩上等なナチスゾムビさんたちにソビエトゾムビさんたちも加わった! ノルウェーじゃゾムビは墓場じゃなくても運動会するんですね。ハイレベルな血みどろバカ作品が期待できますね。だから求む!!  日本劇場公開!! 

未体験ゾーンの映画たち2014に寄せて

スクリーン上の出会いに意義がある。

未体験ゾーンの映画たち2014
ヒューマントラストシネマ渋谷 2014.01.18.~2014.03.07.


何はともあれ、まず、こうした作品の数々との出会いを作ってくれた、この企画に感謝します。ありがとうございます。

それにしても、映画を劇場公開するというのは、かくも難しいことか。ベネディクト・カンバーバッチ、マシュー・マコノヒーといった今人気の俳優や、ポール・ヴァーホーヴェン、ヴィンチェンゾ・ナタリといった通受けする監督の名前をもってしても、作品がDVDスルーの危機に追いやられるとは。

確かに、ここで上映されている映画は、小粒の良作かボンクラ系の、いわばミニシアター系である。うまくいけばロングランになるかもしれないが、『アメリ』や『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の成功が予測不能だったように、何が当たりになるか分からない。俳優や監督のネームバリューすら成功の当てにならないだろう。ましてや、これまでそうした作品を上映してきたミニシアターが、次々閉館しているご時世である。簡単に公開しますというのも、映画館にとって厳しいだろう。

そんなご時世だからこそ、なおさらこの企画はありがたい。
私個人の感覚だが、DVDでレンタル/購入した映画や、専門チャンネルから録画した映画は、どれほど気になっている一本であろうと、観賞を先伸ばしにしがちになる。下手をするとそのまましばらく存在を忘れている。良作だろうとボンクラだろうと、せっかくの作品が未体験のままに終わってしまう可能性があるのだ

劇場公開には期限がある。その分、終わる前に観に行く意欲が沸く。ついでに、上映作品がボンクラ系であるなら、同じスクリーンにいる観客の皆さんが、勝手ながら友だちに思えてくる。
作品の体験だけじゃなく、作品を上映する空間も体験させてくれる。そんなゾーンが今後も継続してくれること、増えてくれることを、心より祈っています。

ちなみに……

未体験ゾーンの映画たち2014極私的ベスト

1位 ポール・ヴァーホーヴェン トリック
悪人と言い切れない程度にヤな奴だらけの、まさかのヴァーホーヴェン流ホームコメディ。

2位 チェインド
殺人鬼と、殺人鬼に飼い育てられた少年との、あまりにも奇妙な疑似親子関係。ジェニファー・リンチは間違いなくお父さん(デヴィッド・リンチ)の変態性を受け継いでいる。ただしお父さんの『ツイン・ピークス』や『イレイサーヘッド』ほど浮世離れしてはいないから、地に足のついた変態ね。

3位 アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー
タイトルそのままど直球。でもコーマン先生は「セクシーなチアリーダーが巨大化」と聞いてお客が観たがるものを掌握してらっしゃるので、出オチには終わりません。

4位 MUD
5位 ザ・ドア 交差する世界
6位 ミスティック・アイズ
7位 テーター・シティ 爆・殺・都・市
8位 スキンウォーカー・プロジェクト
9位 ハウンター
10位 アダム・チャップリン

最後に、唯一未体験ゾーンを飛び出し、バウスシアター(残念ながら今年5月末に閉館……)で公開が決定した『MUD』に、おめでとうを言わせてください。上位3作を占めた私の好みはボンクラと変態ですが、最も普遍的に優れた作品はこれだと思います。

映画本編だけでなく、スタッフさんの作品レコメンドにも秀作の数々が見受けられました。
こちら↓は『最強ゾンビ・ハンター』のレコメンド。

こちら↓は『フィンランド式残酷ショッピング・ツアー』の。
「食人は文化だ」……

2014年1月20日月曜日

メイヘム@代官山UNIT

(代官)山の魔王の宮殿(ライヴハウス)にて。

MAYHEM Special 30th Anniversary Japan Tour
2014.01.16. 代官山UNIT

セットリスト:
1.  Silvester Unfang
2.  Pagan Fears
3.  Buried By Time And Dust
4.  Deathcrush
5.  Ancient Skin
6.  My Death
7.  A Time To Die
8.  Illuminate Eliminate
9.  Symbols Of Bloodsword
10.  Freezing Moon
11.  Carnage
12.  De Mysteriis Dom Sathanas
13.  Pure Fucking Armageddon


ファンならだいたい知ってる、「ユーロニモス殺害事件」だの「デッド自殺事件」だのメイヘムの過去の事件や、90年代初期のノルウェー・ブラックメタルにまつわるサタニズムや事件のあれこれ。
2010年に彼らが来日する際、「こういうバンドなんですよー」と相手をビビらせたい半分でその話をしてまわってたところ、「もう次に誰が死んでるか分からないんだから、観にいってきなよ!」と逆にヘンな形でレコメンドされました。
そんなアホ歴史を振り返ると、とりあえずノルウェーの方角に頭下げといたほうがいいのかな、自分。

2010年のクラブクアトロに比べると狭めの会場になり、そこそこ前方を陣取ったので、幸運にも結構な近距離でメイヘムを見られることとなった。
まずはゲストのDefiled。メイヘムとは親交があるらしい。自然と首の縦揺れが増してくる心地いいデスメタル(……矛盾?)だったが、みんな本番にそなえて動きをセーブしているので、フロアではそこまで激しいアクションは見受けられず。そんな中、真ん中で5人ぐらいがモッシュピットつくったりダイブ&キャッチをくりかえしているのが微笑ましかった。Twitterを読んだ限りでは、「気になっていたバンドなので生で聴けてよかった」「カッコよかった」等、好意的でしたよ。

きちっと定刻通りに始まったDefiledのステージ終了から、オーディエンスを待たせること47分。そういえば前回来日時も、ゲストのステージが終わってから相当待った覚えが。ともあれ、ロウソクに火ともす演出なんかも入りながら、もったいつけにつけまくってメイヘム登場!!

ちなみにこちら↓のロウソクは和ロウソクらしいぞ!


1stの中ではもっともスラッシュなノリの「Pagan Fears」のイントロが轟くやいなや、一斉に前方へ猛攻するオーディエンス。
突進した先には、白塗り血糊塗りメイクでイッちゃってるアッティラ(Vo.)大魔王の顔面が待ってるのだが、それすらファンには嬉しい限り。頭蓋骨模型を片時も手放さず、両手を怪しく動かす仕草は相変わらずだ。2010年の来日時に比べると、若干ふっくらしてて、テンポアップした際のノリノリ度が上がっているように見えた。
逆にネクロブッチャー(B)は、2010年に見たときに比べて少しマッチョになっていたような。だから一人だけ上半身裸になってたのだろうか……?

前回遠すぎてまったく姿が見えなかったヘルハマー(Ds.)は、ぐっと近くにきたからよく見えるかと思ったが、座る位置が低いうえ要塞のようなドラムセットに隠れがちで、結局あまり姿が見えなかった。ステージの間、ずっとアッティラとネクロブッチャーに気を取られすぎていたせいもあるのだが。それでも、伝説の豪速ブラストビートを腹に響く距離&音響で体感できた嬉しさが勝るというもの。
最後に前に出てきたときには、涼しい顔してドラムスティックをプレゼントしていたし、超人健在である。

「Deathcrush」のリフが鳴り響くと、オーディエンスの跳びはねる率が上昇。まだスラッシュメタル影響下の色濃い『Deathcrush』EP収録曲は、自然とオーディエンスが暴れる度合いが高まってくる。
このとき、小規模ながらもモッシュピットができたりクラウドサーフィンがあったことに、後に「ブラックメタルにモッシュやダイブなんて……」と苦言を呈するツイートが多々見受けられた。いわく、ブラックメタルはライヴでモッシュやダイブをするものではないとのこと。
実際モッシュを禁止するブラックメタルバンドもあり、メイヘムもごく初期に「No Mosh」を掲げていたことがあるが、現在メイヘムからモッシュ禁止令が出ているという話は聞いていない。
個々のファンの間で価値観の齟齬が発生するのは、問題とはいえ致し方ないのだろうか。(ちなみに私は、モッシュやダイブをする人ではないけど、モッシュやダイブの発生自体は構わない派です)

ただ、クラウドサーフィンしてステージに辿りついたファンが、アッティラに押されてみんなの頭上へ送り出され、それをネクロブッチャーが笑いながら見ていたことを思うと、本気の笑いであれ呆れ笑いであれ、バンドにしてみればモッシュもダイブもまだ「笑って済まされる話」なのではないかと。

疾走曲もイイが、「My Death」や「Illuminate Eliminate」の静かな狂気もやはり浸り心地がいい。特に、「My Death」終盤ギターソロの妖しさは絶品。1stの名曲「Freezing Moon」に至っては、ボルテージアップとリフの妖しさの相乗効果に加え、ボーカルの邪悪さも加わって、凍りつくと同時に燃え上がってました。
ラストのブラストが始まるポイントで、アッティラが「イチ、ニ、サン、シ!!」って煽ってきたのはちょっと意外な気もしたが、この日のノリの良さを思うと何となく納得。4年前の大阪公演でも、「オオキニ!!」って言ってたらしいし。

それにしても、アッティラのドスの効いた(?)デスボイスの迫力は相変わらず。その気になれば人間の1人や2人呪い殺せそうなぐらい。クリーンボイスで歌うパートも、良い具合に気色悪い。私が勝手に「大魔王」という肩書をつける所以です。
欲をいえば、終盤の唸り声があまりにも人外魔境な「Anti」がまた聞きたかった。せっかくアッティラが正式ボーカルとして迎えられて制作したアルバムだというのに、『Ordo Ad Chao』からの選曲が「Illuminate…」しかなかったのはなぜだろう。

「Carnage」で再び熱い空気を呼び起こしたのち、「De Mystriis Dom Sathanas」で再び冷ややかな空気を吹き込み、最後は鉄板の「Pure Fucking Armageddon」。この曲がくるとライヴも終わりなのだということは、近年のセットリストを見ていれば分かる。
それでもなお「メイヘム! メイヘム!」とコールは続き、オーディエンスはなかなかフロアをあとにしなかった。そりゃもっと見ていたかったさ。

結成から30年、バンド史に積み重なった痛ましい事件を経て、今もなおブラックメタルの重鎮であることを、すでによくよく知ってはいるけどさらに上書きする形で実感させてくれたメイヘム。そろそろ、ライヴだけじゃなくて、スタジオアルバムのほうでもカリスマ健在をガシガシアピールしていただきたいところなのですが……どうなんでしょうか、アッティラ大魔王?

大魔王の威厳と呪詛オーラは、手ブレに阻まれましたが……


 またここに戻ってきてくれよ。出来ればアルバム引っ下げて。


2013年12月31日火曜日

2013年映画極私的ベスト10

2013年=イイやつには「悪」がつく年。

いかんせん今年は新作だけでも80本近く劇場観賞したので、ベスト10本に絞るのに苦心。それ以上に、絞り込んだあとの順位のつけ方でも苦心。2012年ベストでも、順位のつけ方に困ってましたが。
で、その結果、新作ベストにもリバイバルベストにも、タイトルに「悪」がつく作品がやたらランクインすることに……。ちなみに、ベストには入れられなかったけど、『悪いやつら』も実に素晴らしいほど特濃暴力&ゲスだらけ韓流映画です。


1位 パシフィック・リム

そりゃ劇場に20回観に行っちゃうほど(うち2回は爆音/絶叫上映)ドハマりした映画だけど、これが1位でいいものなのか……と結構迷ってました。
しかし、2012年には「月面ナチスが来たぜうぉぉぉぉぉ!!!」な『アイアン・スカイ』がボンクラパワーで1位になったので、「KAIJUと巨大ロボが戦うぜうぉぉぉぉ!!!」な本作が1位でもいいか、ということで決定。




2位 悪の法則

コーマック・マッカーシーの描く世界はいつでも誰にでも容赦ない。それでも惹きつけられずにはいられない。
彼女とフェラーリとの「婦人科的すぎてセクシーじゃない」セックスシーンにビビりつつ、彼女から離れられないバルデムさんみたいなもんですか?



3位 マニアック

劇場公開時の残酷シーンにボカシ問題という課題はあったものの、思わず泣けてくるほど切ないラストという、この手の映画には意外な展開が大いにプラス。



4位 キャビン

ホラー映画愛してます! ホラー映画のお約束愛してます! だからホラー映画のアレとかコレがアベンジャーズ・アッセンブル! 最凶無敵のその先へ!! ……というラブレター。


5位 アイアン・フィスト

信念を貫くことの大切さを教えてくれる映画。「カンフーが好きだ!! ヒップホップが好きだ!! 『北斗の拳』が好きだ!! だから全部オレの映画デビュー作にぶち込むのが筋ってもんじゃあぁぁぁ!!!!」っていう。



6位 地獄でなぜ悪い

映画撮ったことはないけど、映画大好きな人間としては、映画1本にここまで命をかける意気込みが欲しいなぁって思ってしまいますよ。



7位 凶悪

山田孝之のみならず観客まで魅了するピエール瀧&リリー・フランキーが凶悪。正義を追及しているはずがどんどん業が深くなっていく山田孝之の顔が凶悪。思いがけなく池脇千鶴が凶悪。これを観ているお前は凶悪じゃないといえるのか? と尋ねてくるこの映画が凶悪。



8位 フィルス

『ビトレイヤー』では膝の古傷に溜まった膿を出し続ける日々、『トランス』では実は性癖がアレな男だったジェームズ・マカヴォイの2013年ヨゴレ集大成



9位 イノセント・ガーデン

「足首から先がエロい」というタランティーノ的感性を理解できる作品。
もとい、細やかな音や色彩や仕草から、美しさと危うさとエロティシズムがにじみ出る作品。



10位 飛びだす 悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲

あの伝説の作品が3Dで甦る! 己のルーツをたどり、失われた家族の絆を取り戻す、2013年一番の感動巨編――!! ……何か間違ってますか?

次点には『ジャンゴ 繋がれざる者』『塀の中のジュリアス・シーザー』『ラストスタンド』『悪いやつら』『コズモポリス』など……と、鑑賞映画が多いと次点もたくさんつけたくなってしまい、もうベスト30ぐらいまでおよんでしまいそうな。
そこは自重しましたが、自重しきれなかったリバイバル映画ベストだけは挙げさせてください。



2013年極私的ベストリバイバル映画


1位 悪魔のいけにえ2(in 吉祥寺バウスシアター/爆音映画祭)
2位 グラインドハウスU.S.A.版(in 新橋文化劇場)
3位 悪魔の毒々モンスター(in 新宿武蔵野館)
4位 ロックンロール・ハイスクール(in オーディトリウム渋谷/コーマン・スクール)
5位 スキャナーズ(in 新宿武蔵野館/デヴィッド・クローネンバーグ/受胎)
6位 カリフォルニア・ドールズ(in オーディトリウム渋谷)
7位 プッシャー トリロジー(in オーディトリウム渋谷)
8位 キャリー(1976年版)(in 新橋文化劇場)
9位 ダークナイト(IMAX版)(in ユナイテッド・シネマとしまえん)
10位 怪物の花嫁(in 新橋文化劇場)

劇場名もプラスしたのは、リバイバル作を観る劇場も大切な場合があるから。例えば、2位の『グランドハウス』や10位『怪物の花嫁』なんか、キレイなシネコンより、高架下の電車ガタゴト音&ワンカップ酒とオニギリの臭い漂う名画坐で観るほうが雰囲気を味わえるってもんです。



2013年は、極私的「いつか本物を近くで見てみたいよ」(ニュート談)が叶った年でもありました。

5月には、ハリウッド・コレクターズ・コンベンションNo.2で、『エルム街の悪夢』のフレディ・クルーガーことロバート・イングランドにご対面。近くで見るどころか、サイン&ツーショット写真獲得。欲をいえば、ハリコンNo.3で処刑人兄弟も近くで見たかったなぁ。

7月には、爆音映画祭の『悪魔のいけにえ2』リバイバルで、『飛びだす 悪魔のいけにえ』PRのためチェーンソーをぶん回しにきたレザーフェイス君に遭遇。こちらも近くで見るのみならず、どさくさに紛れてツーショット写真を撮ってもらうに至った。

そして9月以降はイェーガーとKAIJU!! といっても、DC&ワーナーフェスには行けなかったので、ないふへっど君と記念撮影はしていない。リバイバル上映のたびに前方列で『パシフィック・リム』を観賞し続けたってだけなのだが、一応「本物を近くで見た」体験にカウントしておきたいところ。一度は最前列で観賞したわけだし。
あのときばかりは一部始終を最前列で観たいジグソウ(『ソウ』シリーズ)の気持ちが分かったよ。

2013年映画極私的もろもろベスト

どうでもいいと思うか、ニヤリとするか、それが問題だ。

「映画にまつわる雑惑」ラベルでは、かなり変な視点から映画を楽しんでいたりもすることだし、こんな見方/楽しみ方もありますよという参考までに。参考にならない確率のほうが高そうだが。

2013年ベストオープニング


  1. パシフィック・リム
  2. マニアック
  3. 2GUNS

イェーガーを起動しKAIJUと戦い陸地に辿りつくまで、標的のあとをつけて殺人に至るまでと一連のキモを描いて心を掴んだ1位と2位。3位は主人公コンビのキャラを説明する軽妙なやりとりがツボだった。



2013年ベストタイトルバック


  1. アイアン・フィスト
  2. 飛びだす 悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲
  3. ジャンゴ 繋がれざる者

2位は、伝説の1作目の名場面を3Dで観られたという上げ底があるので、だいぶズルいですが。



2013年ベスト映画音楽


  1. パシフィック・リム
  2. ロード・オブ・セイラム
  3. フィルス
  4. オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
  5. コズモポリス
  6. 地獄でなぜ悪い
  7. マンボーグ

ラミン・ジャヴァディとクリント・マンセルは信用できる音楽担当。昔のゲーム音楽みたいなチープさが良かったので、急遽『マンボーグ』も入れました。『地獄でなぜ悪い』は、ほとんど「全力歯ぎしりレッツゴー♪」効力。
 
 


2013年映画ベスト名言


  1. 「世界は滅亡しようとしている。どこで死にたい? ここか、イェーガーの中か!?」(パシフィック・リム)
  2. 「婦人科的すぎてセクシーじゃない」悪の法則
  3. 「オレはお前に救ってほしかったのに」(コズモポリス)
  4. 「オレに助言する資格はない。だが、お前が間違ったときには、反面教師にしろ」(フィルス)
  5. 「芸術を知ってから、この監獄は牢獄になった」(塀の中のジュリアス・シーザー)
  6. 「逃げたら殺す。完成しなかったら殺す。上手く出来なきゃお前を殺す」(地獄でなぜ悪い)
  7. 「あっ、コレ先生関係なかったわ(笑)」(凶悪)



2013年映画ベスト迷言


  1. 「Welcome to hell ...」(G.I.ジョー バック2リベンジ)
  2. 「天皇陛下! It's standing!!」ABC・オブ・デス『Zetsumetsu』)
  3. 「2000万やるからあっち向いてろ!」(ラストスタンド)
  4. 「あんたを好きになりかけてたのに!」(REDリターンズ)

というわけで、2013年総合映画迷言賞はイ・ビョンホンです。



2013年声に出して読みたい映画タイトル


  1. チキン・オブ・ザ・デッド 悪魔の毒々バリューセット
  2. 飛びだす 悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲
  3. バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所
  4. オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ

3位のタイトルはちゃんと間違えずに言えた試しがありません。




2013年ベストホラーヒロイン


  1. ヘザー(アレクサンドラ・ダダリオ)(飛びだす 悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲)
  2. エリン(シャーリー・ビンソン)(サプライズ)
  3. キャリー・ホワイト(クロエ・グレース・モレッツ)(キャリー)

度胸とスキルのみならず、芸術センスもまさにソーヤー一家の血筋なヘザーちゃん。サバイバーキャンプパワーで驚異の状況適応力と判断力を身に着けたエリンちゃん。血まみれや超能力を差し置いて、女優パワーが突き抜けたキャリーちゃん……いやむしろクロエちゃん。




2013年ベストゲス野郎


  1. ラド(ベニチオ・デル・トロ)(野蛮なやつら SAVAGES)
  2. ブルース・ロバートソン(ジェームズ・マカヴォイ)(フィルス)
  3. チェ・イクヒョン(チェ・ミンシク)(悪いやつら)

真のゲスたる者、仁義など捨てるべし。真のゲスたる者、器を小さく持つべし。真のゲスたる者、みみっちくあれ。真のゲスたる者、唾か小便を引っかけられる経験はすべし。




2013年映画ベスト空回り君


  1. キッド・ブルー(LOOPER)
  2. ストームシャドー(G.I.ジョー バック2リベンジ)
  3. コルテス(ラストスタンド)

目標間近でシュワのバックドロップに沈められたコルテスも、いつもの癖で脱いじゃったばかりに火傷→せっかくの空中戦シーンで袋詰め空輸に終わったストームシャドーも、たいへんよく空回りました。
しかし、やること為すことすべてがキレイに裏目に出てしまうキッド・ブルー君こそ、2013年に、ひいては映画史上に君臨する空回り王といえましょう。なんかもう他人とは思えないし。



2013年映画に学ぶ間違った教訓


  1. 宇宙に行くならジョージ・クルーニー必携(ゼロ・グラビティ)
  2. メモリーはラッセル・クロウで残せ(マン・オブ・スティール)
  3. 殺人鬼対策はサバイバーキャンプで学べ(サプライズ)



2013年ベスト夢のガジェット


  1. イェーガー(パシフィック・リム)
  2. ゼン・イーのXブレード(アイアン・フィスト)
  3. ファイアフライのホタル爆弾&バイク爆弾(G.I.ジョー バック2リベンジ)


技術者の皆様、どうかこれらのガジェットを実用化してください。破壊と血しぶき以外の使い道が分かりませんが。あ、でもKAIJUが襲来してきたらイェーガーの出番ですよ。

2013年12月25日水曜日

悪の法則

シガーがいなくても、そこは血と暴力の国。

悪の法則('13)
監督:リドリー・スコット
出演:マイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルス




①きっかけは、ほんの出来心で少しばかり道を踏み外したこと。
②結果として、コントロールできない脅威に呑みこまれる。
③それまでの価値観も経験も理念も、もはや何の役にも立たない。
④コントロールできない脅威は、大して関係のない人間にすら容赦ない。
⑤取り残されることは、時として殺されるのと同じくらいむごい仕打ちになる。
⑥観客すら、不条理な世界に取り残されたまま幕を閉じる。
⑦テキサス~メキシコの間に、崩壊しゆく世界の縮図を描く。

コーマック・マッカーシーは作品比較されたくないかもしれないが、本作と『ノーカントリー』にはざっとこんな共通項がある。『血と暴力の国』は『ノーカントリー』の原作本のタイトルだが、本作にも当てはめられそうだ。

順風満帆な人生を送る、カウンセラーと呼ばれる弁護士。エル・パソに高級な住居を構え、アムステルダムで高価なダイヤを買い、恋人ローラにプロポーズしたばかりだった。ただ、少しばかり欲を出して、実業家の友人ライナーとその恋人マルキナとともに、メキシコの麻薬カルテル絡みのビジネスに手を染めていた。ビジネスに関わる裏社会のブローカー・ウェストリーからは、カルテルの恐ろしさを警告されたものの、カウンセラーはさほど理解できていなかった。
やがて、カルテルの運び屋の青年が惨殺され、運んでいた荷物が持ち去られた事件により、ビジネスに綻びが生じる。その綻びは瞬く間に脅威と化し、カウンセラーと周囲の人間たちを呑みこんでいく。

本作の原題は『The Counselor』。主人公の職業(弁護士)であり、周りからの呼び名。ベタな話だが、巻き込まれた名無しの主人公は、自分を含めた誰にだって置き換えられる。

『ノーカントリー』では、アントン・シガーという人間1人が、生と死の不条理を体現していた。本作には、不特定多数の悪党が出てくるが、彼ら1人1人はシガーのように強く印象に残る人間ではない。
例えば、あるシーンでバイクの高さをスッとメジャーで測ってスッと去って行く1人の男のように、淡々と自分の作業をこなしては退場していくだけ。ただ、その淡々とした作業からもたらされる結果は、恐ろしくむごい。裏切った(とみなされた)人間に対する報復すら、淡々とした作業にすぎない。

彼らには「言い分を聞く」なんて概念は存在しない。裏切りの関係者とおぼしき人間が実際無関係だろうと片足つっこんでいようと関係ない。1人1人は強力ではないが、彼らがひとたび動き出したら、止める術はないのである。
明確な1人ではなく、集団としての「コントロールできない脅威」が描かれているわけだが、正直悪党たちの動きの全体図はよく見えないまま。したがって、強いていうなら、コントロールできない脅威をもっとも具現化しているのは、映画史上屈指の嫌な処刑器具「ボリート」かもしれない。

ところで、直接的にはストーリーと関係ないのだが、本作で強烈な印象を残すエピソードが、ライナーがカウンセラーに語る「マルキナがフェラーリとセックスした話」。魅惑的と思われたものがグロテスクに転じるのを目の当たりにし、恐怖すら覚えながら、それでも離れがたいというライナー。相
手を脅かしつつも魅了し絡め取ることは、コントロール不能な脅威とはまたちがったベクトルで厄介な悪なのかもしれない。下手すると、絡め取られているのは観客のほうだったりもするし。

「誰が悪の法則を操るのか?」という予告や惹句が謎解きサスペンスのような雰囲気を醸し出しているが、本作はどう見ても犯人探しのミステリではない。むしろ、コーマック・マッカーシーが描く残酷な世界を、誰が生き残れるのかがキモなのかもしれない。
それは、世の中の残酷なルールを知っていて、自分はそのルールを操る側ではなく、ルールの一部なのだということも知っている人間だ。

2013年12月9日月曜日

アイアン・フィスト

RZAはオタクの秘孔を突いた!! 
「お前はもうハマっている」

アイアン・フィスト('13)
監督:RZA
出演:RZA、ラッセル・クロウ



権力はセックスとバイオレンスでつかむもの(本作のルーシー・リュー談)だとしたら、オタクの心は好きなものに対するジャングルより深い愛情と、鉄が打てるほど高温の情熱でつかむものなんでしょうかね。

中国はジャングル・ヴィレッジにて、ギャングたちの抗争に巻き込まれて両腕を切り落とされた鍛冶屋(ブラックスミス)が、鉄の拳を装着し、復讐の戦いに臨む!! 
血しぶきと手足が飛ぶ残虐カンフーバトルにヒップホップ!! 踊るチャイナガールにヒップホップ!! 
主演オレ!! 脚本オレ!! 監督もオレ!! 音楽もちろんオレ!!! キャストにはオレの憧れのスターたち!!! 

……と、RZAは映画界本格デビューにあたって、オタクの夢のシナリオをすべて実現してくれた。夢のサポートをしてくれたのが、クェンティン・タランティーノとイーライ・ロスっていうのがまた嬉しい。
ハードな鍛冶屋の仕事やってて、鋼鉄の拳を持って戦うわりにはそんなに筋肉ついてるように見えないRZAだが、そこは「実はオレにはかくかくしかじかで壮絶な過去が……」という取ってつけたような(そしてリュック・ベッソンが好きそうな)設定でカバー。そう言われれば、RZAの目って一度死んで悟りを開いたような目ですよね。錯覚かもしれないけど。

ちなみに、私自身はカンフー映画に詳しいほうではないのだが、それでも本作に詰まった敬意と愛情はビシビシ伝わる。熱意をもって取り組めばジャンルを超えてファンが集うということは、今年の夏『パシフィック・リム』も証明してくれたところです。

タイトルにもなっている鉄の拳が活躍するのはだいぶ後半になってからだが、装着してからはまぁ期待通りの破壊劇を見せてくれる。また、鉄の拳が登場する前から、各キャラクターが持っているガジェットの数々が観ていて楽しい。
例えば、ラッセル・クロウ演じる謎のイギリス人ジャック・ナイフが持っている、ナイフと拳銃の合体拳銃。銃とナイフが一緒になってれば強いんじゃね? というチャイルディッシュな発想の具現化のよう。いざ使ってみると結果はわりとムゴイが、その一方で下ネタとしても有効だったりするので相殺扱いでいいだろうか?
ルーシー・リューのトゲトゲ扇は、実は『ジェヴォーダンの獣』のモニカ・ベルッチと被ってしまっているのだが、こちらのほうがより豪快な使い方。
豪快といえば、何の説明もなく肉体が自由自在に鋼鉄化するブラス・ボディ。WWE出身のデヴィッド・バウティスタってだけでも勝ち目ないのに、金属になっちゃったらもう反則技の極み。
中盤に登場する双飛(ジェミニ)の組み合わせブレードもイイが、それ以上に男女が組体操技みたいな構えで戦うのがアツいポイント。女性のほうはホットパンツだし。

中でも一押しは、ゼン・イーのXブレード鎧。全身に大小さまざまの刀が仕込まれているのだが、どうやって収納しているのか、どういう仕組みで刃が出てくるのかまったく分からない。マジメに考えたらそんな鎧作れるはずがない。
しかし可能なのだ! オタクスピリットがあれば! 刀なんていくらでも鎧に収納できるし、刃だって気合いで出せるのだ!!

自分が大好きなカルチャー(カンフー映画と北斗の拳)に、自分が担ってきたカルチャー(ヒップホップ)をごた混ぜた必殺技で、オタクの秘孔を突いてトドメを刺す。最強の拳っていうのは、RZAの手腕のことかもしれない。