2012年2月29日水曜日

ジューダス・プリースト@Zepp Tokyo

これで終わるって本当ですか?

JUDAS PRIEST
2012.02.16. Zepp Tokyo

「エピタフ(=墓碑)」ってツアー名だけど、あくまでジューダス・プリーストは今回を最後にワールド・ツアーをやめるだけ。だから今後もアルバム出すだろうし、フェスなら出演してくれるだろう。
ただ、単独ツアー終わりということは、セットもセットリストもフル・スケールのプリーストは、これで見おさめということになる。
そのせいだろうか。ステージを覆う「EPITAPH」の黒幕にライトが当たった瞬間、もともと高いファンのボルテージがさらに沸いたのは。幕が落ちてプリーストが出現した瞬間にいたっては、フロアの熱気は一気に沸点に達していた。

幕開けに、2010年に30周年を迎えた『British Steel』から「Rapid Fire」「Metal Gods」。おそらく長年のファンもニヤリとするだろうし、新規ファンも名盤のトップの飾る曲に「おぉ!!」と湧き立つ流れだ。最後の単独ツアーだからといって、単なるグレイテスト・ヒッツ的なセットリストにはしないらしい。早くもシャウトとシンガロングで、オーディエンスがさらに沸く。
グレイテスト・ヒッツな選曲は避けつつ、ロブ・ハルフォード(Vo.)脱退時を除くプリーストの全アルバムから、もれなく名曲を披露してくれる。ときどき、バックスクリーンに映し出されるアルバムジャケットを見ながら、ロブが直々に解説を入れてくれることも。
たとえば、名盤『Painkiller』の「Night Crawler」なんかは、なかなかセットリストでお目にかかれない。ジョーン・バエズのカヴァー「Diamonds And Rust」は、アコースティック・バージョンで繊細に歌いあげたのち、一転して激しくメタルバージョンになるという、二重に美味しい構造。逆に、「もっとメジャーなあの曲が聴きたかったのに!」なんて文句も多々あるけど、そこはもう贅沢な悩みってことで。
一番のサプライズは、「今でもいいリフがある」とのことで、まずライヴでやることのなかったデビューアルバム『Rocka Rolla』から、「Never Satisfied」が演奏されたことだろう。まだハードロックから新たな方向性模索中といったころの曲だが、メタルゴッドの座に登りつめた今のアレンジで聴くと、また違ったカッコよさに出会えるものだ。

残念ながら、このツアーを前にK.K.ダウニング(G)が脱退してしまい、グレン・ティプトン(G)との伝説のツインギターは聴けなかった。
K.K.に代わってギターを務めたのは、31歳のリッチー・フォークナー。1人若手が混ざっていて、変に浮かないだろうかという不安もあったが、これが予想以上にバンドに溶けこんでいる。長年とはいわないまでも、そこそこプリーストでキャリアを積んできたかのように思える。ロブもお気に入りらしく、ときどきリッチーの頭のうしろから指つきだして、密かにツノを作って遊んでおりました。
ツアープログラムでも、「きっとみんな彼が気に入るはず」と豪語されていたリッチー。人懐っこい笑顔で積極的にオーディエンスを煽る姿を、嫌いになれってほうが難しい。

ところで、ロブ・ハルフォードは、ラウドパーク'10にHALFORDとして来日していた。声が衰えたとは少しも思えなかったが、ショボショボした細い目や、ぼてぼて腹でステージを闊歩する姿に、「おじいちゃん大丈夫ですかーーーっ!!?」とハラハラした記憶がある。(隣のカップルが『普通のおっさんやん!!』と唖然としていたことも覚えている)
それから2年。重量感たっぷりの鋲付きレザーコートを羽織って、ステージをのっしのっしと歩くロブを見たときには、「やっぱりしんどさはカバーしきれないのか……」と、かつてのハラハラ感が復活しそうになった。
しかし、キレこそないものの、ロブは終始ステージを動き回り、オーディエンスにシンガロングを要求してみせる。シルバーや黒のジャケット、黄金のローブなど、衣装替えも多い。さらに、ステージが進むにつれて、ロブの目がどんどん活き活きしてくる。2年前は不安要素だった動きの鈍さが、次第に王者の余裕に見えてくるのは、やはりメタルゴッドの風格の成せる業か。
そして、鉄板のハイトーン・シャウトは、音域が苦しくなることもなく、ここぞというときにキメてくれるので、否が応にも盛り上がる。ロブがメタルゴッドであることをもっとも痛感させられるのは、やはりこういう瞬間である。

本編終了2曲前、「Breaking The Law」のリフを発端に、プリースト最強といっても過言ではない流れに突入。
本編ラスト「Painkiller」では割れんばかりのコーラス(というより叫び)が巻き起こり、アンコール1回目の「The Hellion」~「Electric Eye」では自然とみんなが歌詞部分のみならずギターフレーズも歌い、「Hell Bent For Leather」のバイク登場に熱狂。
アンコール2回目の「You've Got Another Thing Coming」もシンガロングで揺れ、ロブもステージ後方の高いところに登ってご満悦。(そのあと、スムーズに降りられなかったのはご愛敬)
最終的にステージを締めくくったのは、アンコール3回目の「Living After Midnight」。
正直、すべてが熱く、すべてがクライマックスになりうる。と同時に、どこもクライマックスにしてほしくない、いつまででも続けてほしいステージだった。それでもやってくる終わりの瞬間は、プリーストの5人全員が手をとって深々とお辞儀してみせるという、絵に描いたような「有終の美」だった。
前述したように、これでジューダス・プリーストが完全に終わるわけではない。そう分かってはいても、フルスケールのツアーの終わりに、一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった。

プリーストの面々が去ったあと、場内に流れたのは、クイーンの「We Are The Champions」。うっかりすると寒々しくなりそうな選曲だが、威厳も神々しさも溢れんばかりのステージのクロージングにはぴったりのように思えた。
この日の夜は雪で、ましてや海の近いお台場は寒さもひとしお。しかし、プリーストのパワーとオーディエンスの熱狂をもってすれば、雪もたちどころに蒸発したのでは……なんて錯覚すら覚えさせてくれた。

開演直前のステージ↓

終演直後↓

2012年2月15日水曜日

ゴッド・アーミー/悪の天使

極道の天使たち。

ゴッド・アーミー/悪の天使('94)
監督:グレゴリー・ワイデン
出演:クリストファー・ウォーケン、イライアス・コティアス



映画における天使の「おっさん率」は意外と高い。
『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツ然り、『マイケル』のジョン・トラボルタ然り、『シティ・オブ・エンジェル』のニコラス・ケイジ然り。誰もが宗教画やファンタジーのイラストに出てくるような美形じゃないし、頭の輪っかも羽根もない奴もいる。
よしんばおっさんでなかったとしても、『ドグマ』のベン・アフレック&マット・デイモンのロキ&バーソロミューを見ると、天使だからって慈悲深いとも限らなかったりする。
ましてやこいつらなんぞ……ねぇ。

聖職者を辞めて刑事になったトーマスが担当することになった事件。現場で発見された遺体は、眼球も視神経もなく、骨や血液の成分は胎児とほぼ同じで、両性具有という奇妙なもの。また、所持品の中には存在しないはずの『ヨハネの黙示録第23章』が記された聖書があり、その聖書の中では天国で天使たちによる戦争が起きることが告げられていた。
戦争を起こしたのは、死の天使ガブリエル。地上に降りたガブリエルは、この世で最も邪悪な魂を求めて、アリゾナ州の町チムニー・ロックへと向かっていた。

一部聖書ネタが用いられているので、そこそこキリスト教の知識がないとよく分からない部分がある。なおかつ「信仰とは?」を問うテーマがあるので、仏教徒という名の無神論者が多い日本では、今一つ納得できない思想もある。
そういった宗教観の違いを差し引いても、多少こじつけっぽく思える展開がいくらかある。ついでに、低予算なので、あまり凝ったエフェクトが使えず味気ないように思えるシーンもある。そもそも、天国での戦争という割には、ロケーションが人間界の田舎町ほぼ一角というあたり、スケールが小さい。
重箱の隅どころか、真ん中らへんをつついてもアラがこぼれそうなこの映画だが、コアな映画ファンからはカルト的人気を博していたりする。
オタクの心臓をぐしゃっと掴んだキモは、羽根も輪っかも慈悲もなく、ロングコートや黒スーツに身を包み、人間(喋るサル)を都合よく利用しまくる、限りなくマフィアに近い天使たちなのである。

邦題の「悪の天使」とは、神の寵愛が人間に向いていることに嫉妬して、戦争を起こしたガブリエルのことなんでしょうが……率直に言って、天使たちみんながみんな、登場した瞬間から要注意人物オーラを出しっ放し。
特に、ガブリエルの僕ウジエルは、ごつい顔面&ガタイで、『仁義なき戦い』のテーマが似合ってしまいそうなぐらい非・カタギなオーラの天使……というよりむしろおっさん。しかも、登場からほどなくして心臓の掴み出し合いバトルを始める、完璧ヤクザのおっさん。
ガブリエルの企みを阻止しようと孤軍奮闘する、まだ良い人っぽいシモンですら、実はその行動のほとんどが人間たちに迷惑をかけっぱなしである。演じるエリック・ストルツは、『パルプ・フィクション』出演時と大して変わらないスタイルだが、『パルプ…』のだらしないドラッグ・ディーラーとは別人の聖性があるのが不思議だ。

極めつけはガブリエル。爬虫類系の不気味さと、シャープなカッコ良さと(特に横顔)、ズレたユーモア感覚と、一挙一動の優雅さ&スタイリッシュさで、浮世離れ感と威厳とオレ様ぶりをものにしている。ウジエルの遺体に背面投げキスで火をつけたり、トーマスにしか見えないように密かにウィンクしてみせるなど、下手をすれば寒いカッコつけになりかねないシーンも、不思議と様になる。
もともとは美男子なのだが、年をとって顔に影ができるにつれて怖さを増しているクリストファー・ウォーケン。このころちょうどいい感じに、キレイと不気味の境界線上にいたようだ。

なお、天使たちは座るとき、椅子の背のてっぺんや看板のてっぺんなど、不安定な場所にしゃがんでいる(通称・天使座り)。その姿は木にとまった鳥のようで、マフィアもどきたちの背に黒い翼が生えているように思える、シュールな魅力のひとときである。

ちなみに、天使ときたら悪魔もきます。というか、堕天使ルシファーが。後半に登場して美味しい場面をかっさらっていくばかりの奴なのだが、なまじヴィゴ・モーテンセンなだけにやたら妖しくカッコいい。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作のアラゴルン役でファン層を広げたことだし、このルシファーになら喜んで魂売っちゃう人もいるかもなぁ。

2012年2月7日火曜日

SUCK(サック)

人間やめますか、ロックやめますか??

SUCK(サック)('09)
監督:ロブ・ステファニューク
出演:ロブ・ステファニューク、ジェシカ・パレ



ロックとヴァンパイアはなかなか相性がいい。ヴァンパイアをテーマにした曲があったり、バンドがヴァンパイアっぽい出で立ちだったり、自らヴァンパイアを名乗ってたり……。
じゃあもういっそ、ヴァンパイアのロックバンド作っちゃえば? カッコいいし。
……と言いたいところだが、これはこれでトラブルがあったり、ときにダメダメだったりするらしい。

売れないインディーバンド、ザ・ウィナーズ。カナダ~アメリカをまたぐツアーを前に、マネージャーから見放される。紅一点のベーシスト、ジェニファーも、ライヴに来ていた怪しい男と消えてしまった……と思いきや、翌日戻ってきた。
しかし、雰囲気がゴス&妖艶に一変している。実は、前日にジェニファーと消えた男はヴァンパイアで、彼女は噛まれてヴァンパイアに変身していたのだった。
その日以来、ジェニファーの魅力でザ・ウィナーズの人気は徐々に上昇。血を吸わないとフラフラになってしまったり、血を吸ったら吸ったで死体を始末しなければならなかったりといった問題もつきまとうが、やっと開けた成功への道に、自分もヴァンパイアになりたいと思いだすバンドメンバーたち。「このままでいいのか」と悩むリーダー、ジョーイ。
その一方で、ヴァンパイアハンターのヴァン・ヘルシングが彼らを着々と追いつめていた。

一応ヴァンパイアものの形態をとっているが、元祖『ドラキュラ』やアメコミの『ブレイド』と違い、ヴァンパイアの設定はかなり大雑把である。そのためか、ストーリーのご都合主義展開も多いので、ここを笑ってすごせるか見過ごせないかが、楽しめる/楽しめないのポイント。
どちらかというと、この映画のメインはヴァンパイアよりもロックである。音楽チョイスがいいのはもちろん、有名なジャケ写になぞらえたショットあり、某レジェンド級のロケーション(仮)あり、何よりレジェンド級のロックスターの出演あり! 
謎のバーテンダーを演じるアリス・クーパーは、ほとんどステージのキャラと変わらない怪しさ&不気味さ。
レコーディング・エンジニアのイギー・ポップは、破滅型人生だった過去のせいか、忠告にいちいち深みがある。
DJロッキン・ロジャー役のヘンリー・ロリンズも、役作り不要ではと思うほどのオレ様ぶり。
モグワイまで、日頃の音楽性とはズレたヘヴィ・ロック系ボーカリストに。
カメオ出演なんてちょっとしたものではなく、皆さんしっかり出しゃばっているのが嬉しいところ。

なお、ロックスターじゃないけれど、ロック魂に触れる映画『時計じかけのオレンジ』主演だったマルコム・マクダウェルがヴァン・ヘルシングを演じているのにも注目。しかも、回想シーンに登場する若き日のヴァン・ヘルシングは、『時計じかけ』のアレックス君ほぼそのまま。ついでに、彼のフルネームが「エディ・ヴァン・ヘルシング」ってあたり、分かる人はニヤリとするだろう。

限りなく素顔であれ、ド派手なメイクやコスチュームを纏うのであれ、ロックスターは「普通の人とは違う何か」である。等身大の視点&自然体でロックを鳴らすアーティストですら、フロアもしくはスタジアムいっぱいのオーディエンスを沸かせるパワーを持っている。
ただ、ロックスターの領域に踏み込むためにタダの人間を脱却するとなると、失うものも多い。だからイギー・ポップは、手遅れにならないうちに引き返すよう、ジョーイに忠告する。
ロックスターになれる奴は、ここで何かを失うリスクを恐れず、高みに突き進んでしまう一握りのバカ(褒め言葉)なのかもしれない。

2012年1月29日日曜日

空飛ぶモンティ・パイソン 第2シリーズ第5話



とあるスナック・バーからの中継
今回は、いつもオープニングで「それでは、お話変わって」を告げるアナウンサーが、なぜか庶民臭漂いまくるスナック・バーで司会進行を行う形式。もちろん、この裏にはパイソンズのちょっとした企みというか、風刺があるわけですが。

恐怖のブラックメイル
ブラックメイル=脅迫。すなわち、提示された金額を振り込まないと、愛人の名前とかヤバい写真とかバラしますよ。家庭も地位も失いますよ。……という主旨の極悪TV番組。司会を務めるのは、もちろん「ザ・いい人」マイケル・ペイリン。
ちなみに、このスケッチで初登場した「裸のオルガン奏者」。このときはテリーGが演じているが、第3シリーズからは全裸キャラがお得意のテリーJにお役目交代している。

問題棚上げ委員会
問題があればとりあえずうやむやにするというこの委員会は、今日に至るまで、世界各国の政界・財界で継続されているようです。残念ながら。日本語吹き替え版では「頼まれたことは渋々やる会」になっているが、会の趣旨は原文とおおむね変わらない。
ついでに、カメラに取られたらヤバいという委員会の弱点も、現在に通ずるものがある。
で、外を包囲しているカメラの目を逃れて逃げようと、なぜか映画『大脱走』に通ずる展開に。

大脱走
しかし、映画のようにいかないのが、ギリアニメーションの世界。コラージュ写真と化した委員会メンバー(テリーG以外のパイソンズメンバー)は、人体から配管から名画の中から、あまりにもシュールな世界へ飛ばされ続けるハメになる。


エビサラダ有限会社
……というタイトルだが、エビもサラダも関係ないスケッチ。本人にはまったく過失がないのに、そこに居るだけで何かが壊れたり誰かが死んだりする、災厄を呼ぶ男(エリック)の一幕。
吹き替え版だと、広川さんのおどおどヘナヘナした喋りも堪能できる。決め手は最後の一言「ごめんしてね」。

掠奪された七人の花嫁
実際に、こういうタイトルのミュージカル映画があります。明るいコメディタッチの娯楽作といったところで。しかし、花嫁だけでも7人いるのに、キャストは総勢……。

お肉屋さんにて
暴言と丁寧語を交互に使い分ける肉屋(エリック)。解体など体力仕事が多い=ほぼ労働者階級の仕事=言葉づかいも下品というのが肉屋のイメージらしい。実際、口の悪い肉屋ってのは珍しくないようだが。
もちろん、笑顔で割とていねいな感じの肉屋だっている。エプロン血まみれのまま接客してるかもしれないけど(個人的経験に基づく)。

ある偉大なボクサーの物語
ジョン演じるボクサー、ケン・クリーンエアシステム(=空気清浄機)の密着ドキュメント。彼の日々の鍛錬……というか、いかに彼がアホかをお届けします。
日本ではボクサーが天然(悪くいえばボケ)キャラとしてバラエティ番組で重宝されているが、1970年のイギリスでもそういう印象はあまり変わらないらしい。

溶け込めなかったアナウンサーによるエンディング
そもそも、アナウンサーに無理のある形態で司会をやらせて、しかも最終的に「出来がよくなかったし、もう僕の出番はないかも」と泣きごとを言わせたのは、パイソンズが自分たちのに従来のコメディー番組のような司会進行は不要と知らしめるためだったらしい。ごていねいに、「本当は身体をはったギャグのほうが得意なんだ」と、司会者役の言い訳まで考えられている。
吹き替え版にして、この泣きごとを納谷さんバージョンで聞くのもアリ。

マチェーテ

徹頭徹尾トレホ、トレホ、トレホ!

マチェーテ('10)
監督:ロバート・ロドリゲス
出演:ダニー・トレホ、スティーヴン・セガール



その名はダニー・トレホ。
……と聞いてもピンとこないし、顔を見ても分からない方は一般の方。
顔を見て「あっ、あの映画で見たことが……」と気づいた方は、そこそこ映画ファン。
「知ってますよ、ロドリゲス映画の常連でしょ」などと知識を披露できる方は、上級映画ファン。
名を聞いただけで、または顔を見ただけで「うぉぉぉぉぉぉ!!!」ってなる方は、映画バカとか映画オタクとかいう肩書きに誇りすら持っている……んじゃないかと思います。ちなみに私はココです。

で、本作は最後の「うぉぉぉぉぉぉ!!!」の人のためだけにあるんじゃないかと思います。
そもそも、クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲス(トレホのいとこ)が共謀したB級映画2本立て企画『グラインドハウス』で、嘘の映画予告編として作られたのが『マチェーテ』。それがうっかり(?)本物の映画になってしまったのである。

麻薬王の罠にかかり、妻子を殺され自らも傷を負ったメキシコ連邦捜査官、通称マチェーテ。現在は不法移民として、テキサスで日雇い労働をしている。あるとき、彼のもとに、移民弾圧派のマクラフリン上院議員の暗殺依頼が舞い込む。その背後では、別の企みが動いていた。

とりあえず、下の画像をご覧ください。これがダニー・トレホです。



ご覧の通り、「非・カタギ」「顔面凶器」を絵に描いて3D加工したような出で立ち。しかも、青年時代は本当に麻薬・窃盗で刑務所に出入りし、その間にボクシングのライセンスを取得していたという、ある意味「ホンモノ」。それゆえというか当然というか、数々の映画でおもに悪役として脇を固めてきた。というわけで、今回の主役起用は「まさか!」の領域である。
しかも、強面で暴れまくるのは想像の範囲内だが……「連絡ぐらいしてよ」というサルタナ捜査官(ジェシカ・アルバ)に、なぜか片言で「マチェーテ、メールしない」。と言いつつ敵に宣戦布告のメールを携帯で送るときには、「マチェーテ、やればできる」。このときの携帯文字入力も、PC入力も、小岩のようなゴツゴツの指でキーをドスドス叩きながらの作業。
あのトレホに「可愛い」なんて形容詞を使う日が来ようとは、もう「まさかまさか!!」の領域。ただし、「ハートを射抜く」なんてソフトな可愛さではなく、「心臓をグチャリズブリと抉る」ハードな魅力であるあたり、やっぱりトレホだ。

意外な主役とは逆に、敵の大ボスはスティーヴン・セガール、ヒロインはジェシカ・アルバ、悪辣だけどヘタレな上院議員はロバート・デ・ニーロ。日頃トレホに引き立ててもらっている主役級の皆さまが、今回はトレホを引き立てる脇役に回っている。
ずいぶん贅沢なキャスティングの一方、ロドリゲス映画の常連チーチ・マリンや、『スパイキッズ』の子役から成長を遂げたダリル・サバラ、『ゾンビ』の特殊メイク立役者トム・サヴィーニの姿があるなど、オタクをニヤリとさせることも忘れないのがロドリゲス流。

グラインドハウスの延長線上だけあって、あるいはマチェーテなんて名前だけあって、初っ端から鉈でバッサバッサと人が殺される。首は飛ぶ、手首も飛ぶ、血なんてもう飛び放題。
しかし、あまりにも「ありえねーー!!」な死に様に、逆に笑うしかない。スプラッターが徹底的にダメならおすすめはしかねるものの、「グロだけどアホ」が基本だ。
グロときたら、エロも入るのがお約束。オールヌードあり、トップレスあり、最終的にはコスプレ銃撃戦。もちろん、特に意味はない。とりあえず目の保養。

そうそう、マチェーテは女性に大変モテる。「何で!!??」というツッコミはあるだろうが、トレホのキャリアを考えれば、それぐらいの役得はあってもいいんじゃないだろうか。刑務所暮らししたり、年間何本もの映画・ドラマに主演したり、非行青少年のカウンセリングもしたりと波乱&多忙の人生。それが御歳66(公開当時)にして、主役を張り、トップレスのリンジー・ローハンを抱き、ジェシカ・アルバとキスできるとは……本当に人生って分からんもんです。

ところで、エンドクレジット直前、『殺しのマチェーテ』&『続・殺しのマチェーテ』という次回予告が入っている。
これもフェイク予告? どうせなら本当に続編作ってよ! というファンの声が届いたのか、それとも最初から作るつもりだったのか、これまた本当に続編と続々編が作られることになった。
が、昨年夏から「3作目は宇宙が舞台」とか、楽しみなような不安なようなお話が漏れている。嘘から始まった『マチェーテ』シリーズから、どれだけ真が出ることやら。

2012年1月27日金曜日

モンティ・パイソンのスパマロット@赤坂ACTシアター

聖杯は、みんなの心の中にある! 的な何か。

モンティ・パイソンのスパマロット featuring SPAM
2012.01.15. 赤坂ACTシアター
出演:ユースケ・サンタマリア、池田成志、彩吹真央

英国のバカミュージカルは、いかにして日本のバカミュージカルに変化したか。

実際に舞台を観て気づいたんですが、聖杯探しという一応の本筋は意外とちゃんと残っていたんですね。ブロードウェイ版のサウンドトラック聴いただけじゃ気づかなかったけど。
脱線はしすぎずに、それでいてオリジナルの『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』好きには嬉しい、映画のあのシーンやこのシーンを盛り込んである。TVシリーズ『空飛ぶモンティ・パイソン』ネタも盛り込んである。さらには、オリジナルでパイソンズがやっていた「1人複数役」制度もあり。
元ネタに詳しいパイソニアンも、特に何も知らない方々も楽しめるように作ってあるあたりに、エリック・アイドルの商売上手がうかがえる。モンティ・パイソンにおけるエリックの持ちキャラの名言を借りて言うならば、「このぉ、ちょんちょん!!」である。

大筋は当然本家『スパマロット』と同じだが、ギャグなどの小ネタに関しては、ミュージカルを制作する国のスタイルに委ねられているらしい。
一番分かりやすいところでは、「ブロードウェイじゃユダヤ人がいないと成功できない」と歌う「You Won't Succeed On Broadway」という曲が、「日本じゃ韓流アイドルじゃないと成功できない」がテーマの「コリアンスター」になり、筋肉アピール系の男性アイドルが出てきたり、女性アイドルが少女時代やKARAもどきのダンスを踊っていたりする。
また、第二幕に入ってから出番がない湖の貴婦人の歌「私の出番は?」(原曲『Whatever Happened To My Part?』)の歌詞には、演じる彩吹真央のバックグラウンドを取り入れて「この中で一番歌うまいのに」「宝塚をナメないで」のフレーズが。
しかし、一番「日本のバカ」に貢献していたのは、時事ネタ・劇場を提供してるTBSおちょくりネタ・最底辺レベルのダジャレを含む、役者さんのしゃべくり(アドリブもあったのだろうか?)だろう。

シェイクスピア劇風のグレアム・チャップマンや、ティム"フランク"・カリーに比べると、ユースケさんのアーサー王は威厳もないしカリスマもないし軽いし、史上トップクラスにユルい。トップって確証は全然ないけど。
この人のユルさは結構日本版『スパマロット』にハマると思っていたが、振り返ってみると、ハマるどころかこのミュージカルの中核だった。ヘタレアーサー王の周りを、全編ツッコミ担当の従者パッツィやら、やたらアクの強い円卓の騎士やら、もっとアクの強いサブキャラやらが歌い踊ることで、妙なお笑い化学反応が成立していた。

アクの強さで例に挙げると、グループ魂ファンとしてはつい「港カヲルさん」といいたくなる皆川猿時さん。ベディヴィア卿ほか3役を演じている。「ほか3役のほうが大変そう」とパンフレットのインタビューで語っていたが、実際あるシーンで、付けヒゲが落ちカツラがズレるほどの激しいツッコミ(半ばボケ?)応酬を魅せてくれた。
が、そんな皆川さんをも上回ったのが、ランスロット卿ほか3役の池田成志さん。「ニッの騎士」の延々続く一人芝居といい、宙に浮く「吉田さん」といい、比喩が微妙すぎて伝わりにくい悪口で罵倒するフランス人衛兵といい、ひとたびキャラにスポットがあたると、もうこの人の独壇場。観客ばかりか、うっかりすると同じステージに立っている演者さんたちも笑ってしまうほど。それまでノーマークの役者さんだっただけに、大いなる不意打ちをくらいましたよ。

ここまでくるとすっかり英国色が薄れてしまった気がするけど、この平たい顔で(しかもそれをカバーするほどのメイクもなく)ブリテン人で居続けるのもちょっと無理があるので、これぐらいジャパンナイズされててもいいですよね、エリック?


2012年1月13日金曜日

モンティ・パイソンズ・スパマロット(サウンドトラック)

相変わらず、聖杯はどこへ消えた

JOHN DU PREZ & ERIC IDLE
Monty Python's SPAMALOT Original Broadway Cast Recording



ただでさえやりたい放題で、人々をナメくさった『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』を再構築してミュージカル化。
普通の人ならあまりやりたい仕事じゃなさそうだし、たとえやる気があったとしてもパイソニア(=モンティ・パイソンのファン)からボロクソに怒られる覚悟が必要。
ただ、仕掛けた張本人が、ほかならぬパイソンズのエリック・アイドルだとしたら話は別だよ。

お話の基本は、さすがに元ネタの『ホーリー・グレイル』と大差ない。
イギリスのアーサー王が、神の命を受けて、円卓の騎士たちとともに聖杯探しの旅にでるも、聖杯とあまり関係ない出来事がいろいろ降りかかってそのうち収束。

とはいえ、映画そのままのエンディングじゃあまりにもアレなので、それなりのハッピーエンドになっている。
ただし、そのハッピーエンドと聖杯の関係性は……何かお話が都合よくすげ変わっちゃってない!? とツッコミたいところだけど、あいにくそれもネタのうちです。

すべての作詞担当はエリック。パイソンズでは言葉遊びと音楽面で才能を発揮してきただけあって、軽妙にして小ネタ満載。作曲はジョン・ドゥ・プレと共同で、明るさも切なさもゴージャス感もひっくるめた、「いかにもミュージカルっぽい音楽」という贅沢なネタ扱い。
そんな中に、エリックの代表作「Always Look On The Bright Side Of Life」がちゃっかり紛れていたりして。テリー・ギリアムが「エリックは商売上手だからね(笑)」とコメントするのも分かる。

そして、エリックは1人でもパイソンズ。ミュージカルをつくるからには、ミュージカル(特にブロードウェイ)もきっちりコケにしている。

「ミュージカルといえばこんな感じの劇的な曲あるよね」という「The Song Goes Like This」。
「ピンチのときにはインターミッション(途中休憩)挟んどけば、第二幕でだいたい収まってるよ」で終わる「Run Away!」
「ブロードウェイじゃユダヤ人がいなけりゃ成功できないのさ」という演劇界内輪ネタの「You Won't Succeed On Broadway」。
第二幕に入ってから出番がない湖の女神が「私の役はどうなってんの? プロデューサーに騙された!」と文句つける「Whatever Happened To My Part?」……などなど。

これだけミュージカルをバカにしておいて、なぜトニー賞3部門を受賞できたのかは、演劇界永遠の謎……かもしれない。

ちなみに、このサウンドトラックはオリジナルのブロードウェイ・キャストで収録。
ファンには嬉しいことに、アーサー王役は『ロッキー・ホラー・ショー』のフランクことティム・カリー!!! 
だいぶお歳を召されたとはいえ、カッコいいボーカルはご健在だ。

また、ランスロット卿役のハンク・アザリア。アメリカ版『GODZILLA』で、ゴジラ(仮)に踏まれても運よく生きてるカメラマンの人……と言って果たして分かるだろうか。濃い目の顔面だけでなく、ボーカルも脇に置いておくとおいしい俳優である。

2012年1月9日月曜日

宇宙人ポール

おっさんたち(+宇宙人)のスタンド・バイ・ミー。

宙人ポール('11)
監督:グレッグ・モットーラ
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト



もし、あなたが宇宙人に神秘とロマンを求めているなら、この出会いは無かったことにしましょう。
何だっていいさ! なスタンスなら、細かいこと(いっそ宇宙の謎クラスの大きなことも)スルーして意気投合しましょう。
ビールとピスタチオかマーブルチョコ(午前中ならコーヒーとベーグルでも可)があると、なお盛り上がると思います。

コミコンとUFOスポット巡り目的で、アメリカにやってきたイギリス人SFオタクのクライヴとグレアム。2人はネバダ州のエリア51付近を走行中に、暴走車の事故に遭遇する。その車を運転していたのは、ポールと名乗る本物の宇宙人だった……。

ポールは大きな頭に小柄な身体の典型的リトル・グレイ型エイリアン。透明化や蘇生などの特殊能力あり。
1947年に地球に来て以来、60年間アメリカ政府に身柄を拘束されていた。研究対象として用済みになり、解剖にまわされそうになっていたところを脱走。故郷の惑星へ帰るべく、現在謎の組織から逃走中。
アメリカ生活が長いせいか、どっちかというとジャンクな食べ物好き、タバコもハッパもたしなむ。口を開けばスラングとジョーク(下ネタ含む)満載、そしてとってもフランクでポジティヴ思考。短パンとビーサンとバックパックがファッション。
チャームポイントは茶目っ気たっぷりのくるくる変わる表情。特に、ちょっとハードボイルド気取った皮肉な微笑みかた。
SFオタクとしては「何か思ってた『未知との遭遇』と違う……」と違和感を覚えつつも、クライヴとグレアムはポールを故郷へ帰すべく、逃亡劇に協力する。

旅の仲間は、オタク×2、宇宙人に加えて、元敬虔なクリスチャンのおねえさんというカオティックな組み合わせだが、突き詰めて考えれば、話の流れは『スタンド・バイ・ミー』のようなもの。冒険を通じて、改めて仲間たちと向き合ったり、新たに絆を深めたりしながら、少し成長する。
ただし、クライヴとグレアムはだいたい成長しきったおっさん。清々しさも初々しさもない。この旅で人生が何か変わったんだけど、大して変わってないような気もする。
それでも、成り行きだろうと昔からだろうと、一緒にバカ騒ぎができる仲間を思う気持ちだけは、世代(と惑星)を超えてピュアであり続けるのだった。

ちなみに、映画の中で同じくらいピュアなのがSF/映画オタク魂。
コミコンの場面をはじめ、往年の名作映画のオマージュや小ネタが映画の隅から隅までぎっしり。
ピンときたら、ニヤリとするなり、心の中でガッツポーズするなりしてやってください。

2011年12月31日土曜日

レディー・ガガ/ボーン・ディス・ウェイ

2011年のヒト。
LADY GAGA
Born This Way ('11)



今さら言うまでもないが、2011年の代表格アーティストはこの方だろう。
チャリティ活動にしろ、来日にしろ、ファッションにしろ、音楽関連の受賞にしろ……とにかく有言実行のお方だ。しかも、期待値を遥かに上回る実行力だった。
とりわけ、この2ndアルバムに関しては、1st&ミニアルバムの成功をもろともしない完成度を達成してきた。

「人種や性がどうであれ自分を愛しなさい」(M2『Born This Way』より)なんて、今さら言われるまでもないメッセージのはず。
ただ、このメッセージをガガが発することが、重要なポイントだったように思える。
異形の姿でメインストリームど真ん中に堂々と立ち、批判もファンの多大な期待も堂々と受け止めるガガが、最高にキャッチーな音楽とMVでもってぶち上げたステイトメントだから、今さら感も説教臭さもなかったのではないだろうか。

「この運命のもとに生まれてきた」というタフなメッセージや、個人的な恋愛経験とキリスト教観を股にかけるアート(M4『Judas』)を提示するだけあって、全体的に1st『The Fame』よりもボーカルが逞しくなっている。正直、曲のバリエーションの幅は1stよりも狭いのだが、リズム感の良さとさらに洗練されたPVなどのアートワークのおかげだろうか、アルバム全体のインパクトは強かった。
ガガ様ご愛好の「キティちゃんのリボンヘア」的可愛らしさよりも、衝撃の「生肉ビキニ」の危険さと妙なカッコ良さに近いかもしれない。

唯一気がかりなのは、この成功によって、ガガの「次」へのプレッシャーがさらに重くなったこと。もちろん、聡いお方なので、次なる壁のこともとっくにお分かりになっているとは思う。
引き続き、「栄光の果て」で輝いていてほしいところだ。

ペイン/You Only Live Twice

偏屈(?)男、大いに遊ぶ。

PAIN
You Only Live Twice('11年)



ペインを実質ワンマンで動かしているのは、ピーター・テクレンというスウェーデンのアーティスト。
ピーターの写真を初めて見たのは、ペインの5thアルバム『Psalms Of Extinction』のジャケット写真だった。

問題のお写真はこちら↓

目つきの鋭い三白眼、きっちりとオールバックにした髪型、不機嫌そうに結ばれた口……
この写真から受けたピーターの印象は、「偏屈な賢人」だった。
しかし、ひとたびペインの曲を聴けば、偏屈どころか誰よりも柔軟な感覚の持ち主であることが分かる。

ピーター・テクレンは、もともとヒポクリシーでデスメタルをやっている。ペインではそれとは打って変わって、シンセサイザーを多用したキャッチーなロックンロールだ。ヒポクリシーの範囲ではできないことを思う存分やるプロジェクトとも考えられる。
近年は、シンセよりもギターが前に出たフィジカルなサウンドという印象だったが、このアルバムは久々に冷やかなシンセの音に覆われ、全体的にサイバー色が強くなっている。
それと同時に、スラッシュメタル、ロックンロール、ダンスビートなど、さまざまな音楽のテイストが取り込まれている。この引き出しの多さが、ピーターの柔軟性の表れといえる。
特に異色なのがM5「Dirty Woman」。リフはヘヴィな北欧ロックといった雰囲気だが、ボーカルがAC/DCのブライアン・ジョンソンを彷彿させる、渋い酒焼け風の声になっている。デスボイスもクリーンボイスもカッコ良く操るピーターだが、この手のボーカルには、ヒポクリシーでもペインでも今までお目にかかったことがない。
こうした音楽性の自由さがペインの魅力であり、ピーターがペインを続ける醍醐味なのかもしれない。

2011年12月29日木曜日

モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル

聖杯? そんなものもあったっけ。

モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル('74年)
監督:テリー・ギリアム&テリー・ジョーンズ
出演:グレアム・チャップマン、ジョン・クリーズ、テリー・ギリアム、エリック・アイドル、テリー・ジョーンズ、マイケル・ペイリン




私がこの映画に出会ったのは、ヨーロッパのとある安いシネコンだった。
ついでにいえば、モンティ・パイソンとの出会いでもあった。

それはいまだかつてないほどの衝撃だった。
映画が終わったときには、スタンディングオベーションしたいほど感動していた。
「何て徹底的に色んな人をナメくさった映画なんだ!!!」と。

神の命を受けたイギリスの王アーサーは、従者と円卓の騎士たちとともに、聖杯探しの冒険に出る……
という話のはずなのだが、アーサー王も騎士たちも聖杯探求とは関係のないエピソードにばかり巻きこまれるので、話の本筋を見失いつつある。しまいには、「……そこで終わり!?」と責任者(誰だか知らないが)のもとに押しかけたくなるほど、唐突で強引な結末を迎える。
もちろんその間、元ネタとなったアーサー王伝説、ひいては英国人をバカにしきったギャグ満載。TVシリーズ『空飛ぶモンティ・パイソン』同様、農民から貴族様までコケにする。2011年現在も何かと揉めているご近所、フランスだってボロクソな描かれよう。
さらには、映画の始まりの始まり(本編が始まる前ですよ!)から終わりの終わり(フィルム/ディスクが止まるまでですよ!)まで、観ている人を徹頭徹尾バカにした小ネタを盛りに盛っている。

人によってはあまりにシュールすぎてついていけないかもしれないし、観客をナメた演出にイラっとするかもしれない。
逆に、このユーモアについていける人は、『空飛ぶモンティ・パイソン』や『ライフ・オブ・ブライアン』も観て、晴れてパイソニアンデビューできる……はず。

TVシリーズで各自さまざまなキャラクターを演じてきたパイソンズだが、この約1時間半の映画の中だけでも、1人が複数の役を受け持っている。
一番役の少ないグレアム・チャップマンでも、メインのアーサー王を含め3役。最多はマイケル・ペイリンの1人10役。テリーGとテリーJは、監督業も兼任している。
パイソンズを知っていれば、どのキャラクターが誰かはぱっと見て分かるが、中には「えっ、こいつって○○だったの!?」ってぐらい化けている場合もある。ある程度パイソンズに通じてきたら、改めてよーく見てみるのもまた楽しみである。

そんなメチャクチャ加減だが、実は時代考証はちゃんと考えられているらしい。(一部、意図的に時代考証がおかしくなっているところはあるが)
というのも、監督を務めたテリーJは、歴史学専攻であり、特に中世イギリスについては研究本も出しているほどの専門家。当時の衣装や生活状況などのディテールには割とうるさかったらしい。
これで全員ちゃんとした馬に乗っていれば……ねぇ。でも、結果的にはそれが笑いに効いたんだし、おかげで冒頭のアーサー王衝撃の登場シーンが生まれたんだから、むしろ良かった。

ちなみに、TVシリーズと同じ声優陣による日本語吹き替えも、相変わらず軽妙で聴きごたえあり。広川太一郎さんの「ちょんちょん」も聞けるし、アーサー王(グレアム・チャップマン)は山田康雄さんのおかげで、ときどき威厳が抜け落ちて世にも情けなくなる。
ただし、音楽の使用権利関係などで、吹き替え音声がない箇所があるのでご注意を。

あ、もしハマったら、この映画を基にしたミュージカル『スパマロット』もご覧になってはいかがでしょうか?
それが無理なら、お茶碗など活用して、「ココナツ乗馬法」の習得でも……。